李白の七言絶句『春夜洛城聞笛』は、押韻・詩形、反語(何人不起…)、「折柳」の故事、旅先で郷愁を呼び起こされる主題が定番の出題ポイントです。書き下し文・現代語訳とあわせて句法をおさえましょう。
本文(傍線①〜⑬)
①誰(た)が家(いへ)の②玉笛(ぎよくてき)ぞ ③暗(あん)に④声(こゑ)を飛(と)ばす
⑤散(さん)じて春風(しゆんぷう)に入(い)りて ⑥洛城(らくじやう)に満(み)つ
⑦此(こ)の夜(よ) ⑧曲中(きよくちゆう) ⑨折柳(せつりう)を⑩聞(き)く
⑪何人(なんぴと)か⑫起(お)こさざらん ⑬故園(こゑん)の情(じやう)
語注 玉笛=玉で飾った美しい笛。笛をほめていう言い方(美称)。 暗に=どこからともなく。吹き手の姿は見えないまま。 声=音。ここでは笛の音。人の声ではない。 飛ばす=(音を)遠くまで響かせる。 散ず=散り広がる。 洛城=洛陽の町。「城」は城壁で囲まれた町のことで、日本語の「お城」ではない。 曲中=(聞こえてくる笛の)曲の中に。 折柳=楽府の曲名「折楊柳(せつやうりう)」。旅立つ人に柳の枝を折って贈る風習にちなむ、別れの曲。 何人=どの人。誰。 故園=ふるさと。故郷。 情=思い。気持ち。 ※白文=「誰家玉笛暗飛声/散入春風満洛城/此夜曲中聞折柳/何人不起故園情」。 ※第一句の「暗に声を飛ばす」(白文「暗飛声」)と第三句の「折柳を聞く」(白文「聞折柳」)は、ふつうの書き下し文どおりに語順を入れかえて示しています。 ※第四句だけは、詩の形が見えるように白文の字の並びに沿って「何人か起こさざらん 故園の情」と示しました。ふつうの書き下し文の語順では「何人か故園の情を起こさざらん」となります。同じ本文の中でやり方が分かれているのはこのためです。お使いの教科書の表記に合わせてください。
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設問
A 語句の意味と読み
- ②「玉笛(ぎよくてき)ぞ」の「玉笛」の読みを現代仮名遣いで書け。また、その意味も書け。
- ③「暗(あん)に」の意味を書け。
- ④「声(こゑ)を飛(と)ばす」の「飛ばす」は、ここではどのような意味か書け。
- ⑤「散(さん)じて春風(しゆんぷう)に入(い)りて」の「散ず」の意味を書け。
- ⑥「洛城(らくじやう)に満(み)つ」の「洛城」とは、どこの町のことか。読みを現代仮名遣いで書き、あわせて答えよ。
- ⑨「折柳(せつりう)」の読みを現代仮名遣いで書け。また、これは何か。
- ⑬「故園(こゑん)の情(じやう)」の「故園」の意味を書け。
B 句法
- ①「誰(た)が家(いへ)の」・②「玉笛(ぎよくてき)ぞ」の文末の「ぞ」はどのような働きをしているか。「誰が家の玉笛ぞ」の意味もあわせて書け。
- ⑨「折柳(せつりう)」・⑩「聞(き)く」は、白文では「聞折柳」の順に書かれている。書き下し文で順序が入れかわるのはなぜか説明せよ。
- ⑪「何人(なんぴと)か」・⑫「起(お)こさざらん」に用いられている句法の名を書け。また、「何人か〜ざらん」の意味も書け。
- ⑪「何人(なんぴと)か」の「か」はどのような働きの語か。呼応している文末の語もあわせて書け。
- ⑫「起(お)こさざらん」の「ざら」は何という語の何形か。文法的に説明せよ。
- ⑪「何人(なんぴと)か」・⑫「起(お)こさざらん」・⑬「故園(こゑん)の情(じやう)」は、この記事では詩の形が見えるように白文の字の並びに沿って示してある。ふつうの書き下し文の語順に直して、第四句を一文で書け。
C 主語・指す内容
- ④「声(こゑ)を飛(と)ばす」の「声」とは、何の音か。
- ⑤「散(さん)じて春風(しゆんぷう)に入(い)りて」・⑥「洛城(らくじやう)に満(み)つ」の主語は何か。
- ⑧「曲中(きよくちゆう)」とは、何が奏でている曲の中か。②の語を用いて答えよ。
- ⑩「聞(き)く」の主語は誰か。
D 口語訳
- ①②③④をふくむ第一句「誰が家の玉笛ぞ 暗に声を飛ばす」を口語訳せよ。
- ⑤⑥をふくむ第二句「散じて春風に入りて 洛城に満つ」を口語訳せよ。
- ⑦⑧⑨⑩をふくむ第三句「此の夜 曲中 折柳を聞く」を口語訳せよ。
- ⑪⑫⑬をふくむ第四句「何人か起こさざらん 故園の情」を口語訳せよ。
E 内容・記述
- ③「暗(あん)に」とあるが、この一語から、笛の吹き手についてどのようなことがわかるか。
- ⑤⑥から、笛の音はどのように広がっていくと描かれているか。四十字以内で書け。
- ⑦「此(こ)の夜(よ)」とあるが、作者はこのときどのような境遇にあったか。題名とあわせて答えよ。
- ⑨「折柳(せつりう)」を聞いたことが、なぜ⑬「故園(こゑん)の情(じやう)」につながるのか。「折柳」の由来にふれて説明せよ。
F 文学史・故事(本文全体をふまえて答える)
- この詩の形式を漢字四字で書け。また、押韻している字を三つすべて書け。
- この詩の作者李白について、生きた王朝の名と、並び称される詩人の名を書け。
- ⑨「折柳(せつりう)」のもとになった、中国で旅立つ人を見送るときの風習を書け。
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解答と解説
▼ 解答・解説を見る
A 語句の意味と読み
問1 読み=ぎょくてき/意味=玉で飾った美しい笛。りっぱな笛。
└ 実際に玉で作った笛というより、笛やその音色をほめていう言い方(美称)
問2 どこからともなく。(吹き手の)姿は見えないまま。※「ひそかに・こっそりと」と訳す教科書もあるので、お使いの教科書の説明に合わせること。
└ ★ここを「暗く」「暗い中で」とだけ訳すと不十分。音は聞こえるのに相手の姿が見えない、という意味あいが大事
問3 (笛の音を)遠くまで響かせる。音を遠くまで届かせる、ということ。
└ ★物を空中に飛ばすのではない。目的語が「声(=音)」なので、「響かせる・届かせる」と訳す
問4 散り広がる。(一つの家から流れ出た笛の音が、あたりに散り広がっていくということ。)
└ ★花が散るのではない。散っていくのは前の句から続く笛の音
問5 読み=らくじょう/洛陽の町。長安と並ぶ唐の大きな都市で、この詩で作者が旅の身を置いている町。
└ ★「城」は城壁で囲まれた町のこと。日本語の「お城(建物)」ではない
問6 読み=せつりゅう/楽府の曲名「折楊柳(せつようりゅう)」のこと。別れを歌った曲。
└ ★柳の枝を折る動作そのものではなく「曲の名前」。ここを外すと第三句がまるごと崩れる
問7 ふるさと。故郷。
└ 「園」は屋敷やその庭のこと。「故園」で、もといた家=ふるさとを表す
B 句法
問8 疑問を表す働き。疑問の語「誰」を受けて文末を「ぞ」で結び、「いったいどこの家の笛(の音)であろうか」と問いかけている。
└ ★同じ詩の中に、第一句の疑問と第四句の反語が両方ある。どちらかを取りちがえやすいので、文末が「ぞ」か「ん」かで見分ける
問9 漢文は「動詞+目的語」の順に並ぶが、日本語は「目的語+動詞」の順に読むため。下の「折柳」を先に読んでから「聞く」に返って読む。レ点は下の一字からすぐ上の一字に返るときに使うが、ここは「柳」から「聞」へ、間に「折」の字をはさんで返るので、レ点では読めず一・二点を用いる(「柳」に一点、「聞」に二点)。
└ 「聞く」の下に、何を聞いたのかが置かれている形。★レ点はすぐ上の一字に返るとき、一・二点は間に字をはさんで(二字以上へだてて)返るときに使う
問10 反語。「何人か〜ざらん」=「どの人が〜しないだろうか、いや、誰もが〜する」。
└ ★文末を「〜ん(む)」で結ぶのが反語の目印。疑問なら答えを求めて終わるが、反語は「いや、〜だ」と言い切って強調する
問11 疑問・反語を表す係助詞。文末の⑫「起こさざらん」の「ん」と呼応し、「何〜ん」の形で反語を表している。
└ ★白文「何人不起故園情」には「か」も「ん」にあたる字もない。反語であることを示すために、訓読するときに補って読んでいる
問12 打消の助動詞「ず」の未然形。下に推量の助動詞「ん(む)」が続くので未然形「ざら」になる。白文の「不」にあたる。
└ 「不起」=「起こさず」。それに「ん」が付いて「起こさざらん」となる
問13 何人(なんぴと)か故園(こゑん)の情(じやう)を起(お)こさざらん。
└ 白文は「何人不起故園情」。「起」の下に目的語の「故園情」が置かれているので、日本語では「故園の情を」を先に読んでから「起こさざらん」へ返って読む
C 主語・指す内容
問14 笛の音。第一句の②「玉笛」の音色。
└ ★漢文の「声」は「音」の意味。人の声とまちがえない
問15 笛の音。第一句の②「玉笛」の音が、そのまま第二句の主語として続いている。
└ ★第二句には主語にあたる語がない。前の句から続く笛の音を補って読む
問16 ②「玉笛」=どこかの家から聞こえてくる笛が奏でている曲の中、ということ。作者はその調べのなかに⑨「折柳」を聞きとっている。
└ 「誰が家の玉笛ぞ」→「曲中 折柳を聞く」とつながる。曲名を答える問いではない
問17 作者(李白)。旅先の洛陽の町で、姿の見えない笛の音に耳をすませている作者自身。
└ 詩の中に「われ」とは書かれていないが、耳をすませているのは作者
D 口語訳
問18 いったいどこの家の笛の音であろうか。(吹き手の姿は見えないまま)どこからともなく、その音を響かせている。
└ 「声」=音、「暗に」=どこからともなく。この二語の訳で差がつく
問19 (笛の音は)散り広がって春の風の中に入りこみ、洛陽の町いっぱいに満ちわたる。
└ 主語は前の句から続く笛の音。訳すときに補う
問20 この夜、その曲の中に、別れの曲『折楊柳』を聞いた。
└ 「折柳」は曲名なので、無理に「柳を折る」と訳さない
問21 誰が故郷を思う気持ちを起こさずにいられようか。いや、誰もがふるさとをなつかしまずにはいられない。
└ ★反語なので「いや、〜」まで書く。ここを疑問のまま訳すと減点される
E 内容・記述
問22 吹き手の姿は見えず、どこの誰が吹いているのかも分からないということ。夜の闇の中を、音だけが流れてきている。
└ だからこそ第一句は「誰が家の…ぞ」という問いかけで始まる
問23 一軒の家から出た笛の音が、春風に乗って散り広がり、洛陽の町全体に満ちわたる。(三十八字)
└ 小さな一つの音が町全体へ、と大きく広がっていく描き方。「春風」が音を運ぶ役をしている
問24 故郷を離れ、旅先である洛陽の町に身を寄せていた。題名「春夜洛城聞笛」から、春の夜に洛陽で笛を聞いたことがわかる。
└ 旅人だからこそ、別れの曲がそのまま望郷の思いに変わる
問25 「折柳(折楊柳)」は、旅立つ人を見送るときに柳の枝を折って贈った風習にちなむ、別れを歌った曲だから。その別れの曲を聞いたことで、故郷や親しい人と別れて旅にある我が身が思い起こされ、望郷の思いがわきおこる。
└ ★「音を聞いた→ふるさとを思った」だけでは足りない。「折柳=別れの曲」という中身を必ず入れる
F 文学史・故事(本文全体をふまえて答える)
問26 七言絶句/声・城・情。一句が七字で全四句だから七言絶句。七言絶句は第一・二・四句の末で韻をふむのが原則で、この詩も第一句末「声」、第二句末「城」、第四句末「情」がそれにあたる(第三句末の「柳」はふんでいない)。
└ ★五言か七言かは一句の字数、絶句か律詩かは句の数(四句か八句か)で決まる
問27 唐(盛唐)の詩人/杜甫と並び称される。
└ 李白は「詩仙」、杜甫は「詩聖」と呼ばれる。字(あざな)は太白
問28 別れにあたって柳の枝を折り、旅立つ人に贈るという風習。(「柳」の音が「留(とどまる)」に通じるからだと説明されることが多い。)
└ この風習から生まれた曲が「折楊柳」。だから「折柳」は別れ・惜別を思わせる語になる
【テスト直前チェック】この三つ
❶「暗に」は「暗い」ではない。③は「どこからともなく・姿が見えないまま」。音は聞こえるのに吹き手が見えない、という意味あいで訳す。
❷第一句は疑問、第四句は反語。①②「誰が家の玉笛ぞ」は問いかけ、⑪⑫「何人か起こさざらん」は「いや、誰もが起こす」。文末が「ぞ」か「ん」かで見分ける。
❸「折柳」は曲の名前。柳を折る動作ではなく、別れの曲『折楊柳』。押韻は「声・城・情」で、第三句末の「柳」はふまない。
現代語訳(全文)
いったいどこの家の笛の音であろうか。(吹き手の姿は見えないまま)どこからともなく、その音を響かせている。
笛の音は散り広がって春の風の中に入りこみ、洛陽の町いっぱいに満ちわたる。
この夜、その曲の中に、別れの曲『折楊柳』を聞いた。
誰が故郷を思う気持ちを起こさずにいられようか。いや、誰もがふるさとをなつかしまずにはいられない。
※この問題は誰でも古典塾のオリジナルです。本文は古典(著作権の対象外)から正確に引用しています。
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