李白(りはく)の「静夜思(せいやし)」は、わずか二十字の中に故郷を恋しく思う気持ちをこめた、漢詩(漢文)の中でもとくに有名な作品です。高校の定期テストでは、五言絶句という形式・押韻(おういん)・対句(ついく)・各句の現代語訳・主題(望郷の念)などが、くり返し問われます。まずは下の本文を読み、設問に答えてみましょう。答え合わせは最後の「解答・解説」でできます。漢詩のきまり(絶句と律詩のちがい、押韻や対句のルール)を先に確認したい人は、漢詩のきまり(絶句・律詩)のやさしい解説も読んでおくと、設問がぐっと解きやすくなります。
本文
※「二…一」「レ」は返り点を表します(「二・一点」「レ点」)。
【書き下し文】
静夜(せいや)の思(おも)ひ 李白
牀前(しやうぜん) 月光(げつくわう)を看(み)る③
疑(うたが)ふらくは是(こ)れ地上(ちじやう)の霜(しも)かと④
頭(かうべ)を挙(あ)げて山月(さんげつ)を望(のぞ)み⑥
頭(かうべ)を低(た)れて故郷(こきやう)を思(おも)ふ⑧
設問
- この詩「静夜思」の形式を、漢字四字で答えなさい。
- 傍線部①「静夜思」とは、どのような意味か。題名の意味を現代語で説明しなさい。
- 傍線部②「牀」の読み(ひらがな)と意味を答えなさい。
- 傍線部③「牀前看二月光一(牀前 月光を看る)」を現代語訳しなさい。
- 傍線部③「看二月光一」の「看」には、返り点として「二・一点」がついている。
- (1) なぜ「看」に「二・一点」がつくのか、漢文の語順(読む順番)に注目して説明しなさい。
- (2) 「看二月光一」を読む順番を、漢字に番号をつける形(例…①②③)で示しなさい。
- 傍線部④「疑レ是地上霜(疑ふらくは是れ地上の霜かと)」について、次の問いに答えなさい。
- (1) 「疑ふらくは~かと」の形に注意して、この句を現代語訳しなさい。
- (2) 作者は、月の光を見て何と見まちがえたのか、本文の言葉を使って答えなさい。
- 傍線部⑤「挙レ頭(頭を挙げて)」と、傍線部⑦「低レ頭(頭を低れて)」は、作者のどのような動作を表しているか。それぞれ現代語でわかりやすく説明しなさい。
- 「望二山月一」の「望」と、「思二故郷一」の「思」は、対句の中で互いに対応している。この二つの動作の移り変わりから、作者の心がどのように動いていったかを説明しなさい。
- 傍線部⑥「挙レ頭望二山月一(頭を挙げて山月を望み)」を現代語訳しなさい。
- 「低レ頭」の「レ点」のはたらきについて、正しく説明したものを次から一つ選び、記号で答えなさい。
- ア すぐ上の一字を、下の字の前に返って読むことを表す。
- イ 二字以上へだてて上の字に返って読むことを表す。
- ウ その字を読まずにとばすことを表す。
- 傍線部⑧「低レ頭思二故郷一(頭を低れて故郷を思ふ)」を現代語訳しなさい。
- 形式の見分け方について、次の問いに答えなさい。
- (1) 一句は何字でできているか、漢数字で答えなさい。
- (2) 全体は何句でできているか、漢数字で答えなさい。
- (3) (1)・(2)から、この詩が「絶句」と「律詩」のどちらにあたるか答えなさい。
- この詩で押韻している字を、本文中からすべて抜き出しなさい(句末の字に注目すること)。
- 押韻について、次の問いに答えなさい。
- (1) 押韻している字は、第何句の末にあるか。「第○句」の形で、あてはまるものをすべて答えなさい。
- (2) 五言絶句の押韻のきまりとして、原則として何句目と何句目の末で韻をふむか答えなさい。
- (3) この詩は、その原則に対して、さらにもう一か所多く韻をふんでいる。その句を「第○句」で答えなさい。
- 第三句と第四句は、組み立てがよく似た対句になっている。次の語と対応している語を、本文中からそれぞれ抜き出しなさい。
- (1)「挙(頭を挙ぐ)」と対応する語
- (2)「望(望む)」と対応する語
- (3)「山月」と対応する語
- この詩の主題(中心となる心情)を、漢字を用いた四字以内の言葉で答えなさい(「○○の念」の形でもよい)。
- この詩は、いつ、どこで、何をしているときの情景をよんだものか。本文全体をふまえて、簡単に説明しなさい。
- 第一句・第二句(前半)と、第三句・第四句(後半)とでは、えがかれている内容に変化がある。どのように移り変わっているか、説明しなさい。
- 【文学史】作者の李白について、次の問いに答えなさい。
- (1) 李白は、後世から何とよばれているか。「詩の○○」の形で、よび名を答えなさい。
- (2) 李白とならび称され、「詩聖(しせい)」とよばれた、同じ時代の詩人はだれか答えなさい。
- (3) 李白や(2)の詩人が活躍した、中国の王朝(時代)の名を答えなさい。
- 【発展】この詩には、いくつかの本文の異同(版による字のちがい)が知られている。
- (1) 第一句「牀前看月光」の「看」を、別の一字に置きかえた有名な形が伝わっている。その一字を答えなさい。
- (2) 第三句「挙頭望山月」の「山」を、別の一字に置きかえた有名な形が伝わっている。その一字を答えなさい。
▼ 解答・解説を見る(まず自分で解いてから)
問1 五言絶句(ごごんぜっく)。
問2 静かな夜に、(故郷を)思うこと(静かな夜のもの思い)。
解説…「静夜」=静かな夜、「思」=思うこと・もの思い。題名がそのまま、この詩の主題(望郷)を表している。
問3 読み…しょう(しゃう)。意味…寝台(しんだい)・ねどこ。ベッド。腰かけ(こしかけ)とする説もある。
解説…「牀(牀)」は寝るための台のこと。作者が夜、寝床のあたりで月光を見ている場面である。
問4 寝床のあたりに(さしこむ)月の光を見る。(ベッドの前に月の光がさしこんでいるのを見る。)
問5 (1) 漢文は原則として上から下へ「牀→前→看→月→光」と読みたいが、「看(みる)」は「月光(を)」という目的語のあとに読む(=下から返って読む)必要がある。「月光」は二字なので、レ点ではなく二字以上をへだてて返る「二・一点」を用いる。そのため「光」に一点、「看」に二点がつく。
(2) 読む順番…牀(1) 前(2) 月(3) 光(4) 看(5) =「牀前 月光を看る」。
(「看二月光一」だけの番号なら、看③・月①・光②となる。)
問6 (1) (その白さに)これは地面におりた霜ではないかと思うほどだ。(うたがうことには、これは地上の霜だろうか、と。)
(2) (地上の)霜。
解説…「疑ふらくは~かと」は「ひょっとして~ではないかと思う」の意。寝床にさしこむ月光のあまりの白さを、地面におりた霜と見まちがえた、ということ。
問7 「挙レ頭」=頭(顔)を上げる動作。 「低レ頭」=頭(顔)を下げる・うなだれる動作。
解説…月を見ようと顔を上げ(挙頭)、やがて故郷を思ってうつむく(低頭)という、二つの正反対の動作が対になっている。
問8 月を「望む(ながめる)」という外の景色への動作から、故郷を「思ふ」という心の中の動作へと移っている。明るい月をながめているうちに、その月が故郷でも見えているはずだと気づき、ふるさとへの思いがこみあげてうつむいてしまった、という心の動き。
解説…「望(外=月へ向かう目)」から「思(内=心の中の故郷へ向かう)」へという対応が、望郷の情がしだいに深まるようすを表している。
問9 頭(顔)を上げて、山の上に出ている月をながめる。(顔を上げて、山ぎわの月を遠くにながめやる。)
問10 ア。
解説…レ点は、すぐ上の一字を、下の字を読んだあとに返って読むことを表す。「低レ頭」は「頭(を)」を先に読み、次に「低(る)」と返って読むので、「頭を低れて」となる。イは「二・一点(一二点)」、ウは置き字などの説明。
問11 頭(顔)を下げて(うなだれて)、故郷のことを思う。
問12 (1) 五字。 (2) 四句。 (3) 絶句。
解説…一句が五字で、全部で四句の詩を「五言絶句」という。八句あれば「律詩」。一句が七字なら「七言(しちごん)」とよぶので、「七言絶句」「七言律詩」と区別する。
問13 光・霜・郷(の三字)。
解説…それぞれ第一句末「光」、第二句末「霜」、第四句末「郷」で、音読みすると「コウ・ソウ・キョウ」となり、響き(韻)がそろっている。
問14 (1) 第一句・第二句・第四句。
(2) 五言絶句では、原則として第二句と第四句の末で韻をふむ。
(3) 第一句。
解説…五言詩では本来、偶数句(第二・第四句)末で押韻するのがきまり。この詩は、それに加えて第一句末「光」でも韻をふんでおり、ふつうより一か所多い。
※高校では「第一・二・四句で押韻」とおさえれば十分です。
問15 (1) 低(頭を低る)。 (2) 思(思ふ)。 (3) 故郷。
解説…第三句「挙レ頭 望二山月一」と第四句「低レ頭 思二故郷一」は、
・挙(あげる)⇔低(さげる・たれる)
・頭⇔頭
・望(ながめる)⇔思(思う)
・山月⇔故郷
というように、語の組み立てと意味がきれいに対応する対句になっている。
問16 望郷(ぼうきょう)の念。(「郷愁(きょうしゅう)」「故郷を思う心」なども可。)
解説…遠く離れた故郷を恋しく思う気持ちが、この詩の中心の主題である。
問17 静かな夜、旅先(ふるさとを離れた地)で、寝床のあたりにさしこむ月の光を見て、ねむれずに故郷を思っている情景。
解説…夜・月・寝床という設定から、ひとり旅の宿などで、月を見ながら故郷をしのんでいる場面だと読み取れる。
問18 前半(第一・二句)は、寝床にさしこむ月光のうつくしい情景(目に見える風景)をえがき、後半(第三・四句)は、その月をながめるうちにわき上がった故郷を思う心情へと移っている。
解説…「景(風景)」から「情(心情)」へと展開する構成になっている。
問19 (1) 詩仙(しせん)。 (2) 杜甫(とほ)。 (3) 唐(とう)。
解説…李白は自由でおおらかな作風から「詩仙」、杜甫はきびしくととのった作風から「詩聖」とよばれ、ともに盛唐(せいとう)を代表する大詩人。
問20 (1) 明(牀前明月光)。 (2) 明(挙頭望明月)。
解説…この詩は版によって本文に異同があり、『唐詩三百首』などでは第一句を「牀前明月光」、第三句を「挙頭望明月」とする。日本の教科書では「看月光/望山月」とする形が広く用いられている。意味の上では「明月光」=明るい月の光、「望明月」=明るい月をながめる、となり、大きな違いはない。
※この問題はオリジナル作成です(教科書・市販問題集の転載ではありません)。本文は中国古典の原文(著作権の対象外)を用いています。版により「明月光/望明月」等の異同があります。


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