古文では主語がしばしば省略されます。補うコツは三つ。第一に敬語で、尊敬語が使われていれば動作主が高貴な人、謙譲語があれば動作の受け手が高貴な人だと分かります。第二に接続助詞で、「て・して」でつながると前後で主語が変わりにくく、「を・に・ば・ど・ども」でつながると主語が変わりやすくなります。第三に場面や文脈から、誰が何をするのが自然かを判断します。次の文章を読み、後の問いに答えよ。
本文
※本文は学習用に作成した文章です。
(場面)ある宮仕えの女房と、その仕える姫君、姫君のもとを訪れた中将との、ある夕暮れのやりとりである。登場人物は、姫君(高貴な姫)、女房(姫君に仕える侍女)、中将(姫君を慕う貴公子)の三人。
女房、夕されば格子を①下ろして、姫君に「中将殿、参り給ふ」と②申しければ、姫君うちおどろきて③起き給ふ。中将、簀子に④のぼり給ひて、「久しく⑤参らざりつる罪、いかで許され給はむ」と⑥のたまふを、姫君恥ぢらひて、御几帳のうちに⑦入り給ひぬ。女房、御文を⑧取りて中将に⑨奉れば、中将うれしと⑩思ひて、やがて⑪開け給ふ。文には、ただ「待つ夜の月」とのみ⑫書かれたり。中将、これを⑬見て、いとあはれに⑭おぼえ給ひて、しばし物も⑮のたまはず。
設問
- 傍線部①「下ろし」の動作の主語は誰か。
- 傍線部①「下ろし」から②「申し」へは接続助詞「て」でつながっている。この「て」は主語の継続・転換のどちらの手がかりになるか、答えよ。
- 傍線部②「申し」の動作の主語は誰か。また、なぜそう判断できるか。
- 主語
- 判断の根拠(敬語の種類にふれて答えよ)
- 傍線部②「申し」から③「起き給ふ」へと主語が変わっている。両者をつなぐ「ば」に着目し、なぜここで主語が変わると判断できるかを説明せよ。
- 傍線部③「起き給ふ」の動作の主語は誰か。また、敬語からどう分かるか説明せよ。
- 主語
- 根拠
- 傍線部③「姫君うちおどろきて起き給ふ」を、主語を明らかにして現代語訳せよ。
- 傍線部④「のぼり給ひ」の動作の主語は誰か。
- 傍線部⑤「参らざり」の動作の主語は誰か。また、この「参る」はどのような敬語か。
- 主語
- 敬語の種類
- 傍線部⑥「のたまふ」の動作の主語は誰か。
- 傍線部⑥「久しく参らざりつる罪、いかで許され給はむ」を現代語訳せよ。
- 傍線部⑦「入り給ひ」の動作の主語は誰か。
- 傍線部⑧「取り」の動作の主語は誰か。
- 傍線部⑧「取り」から⑨「奉れ」への接続にも「て」が用いられている。主語は継続しているか、変わっているか。「て」の性質をふまえて答えよ。
- 傍線部⑨「奉れ」の動作の主語は誰か。また、誰に対する敬意か。
- 主語
- 誰への敬意か
- 傍線部⑩「思ひ」の動作の主語は誰か。
- 傍線部⑪「開け給ふ」の動作の主語は誰か。
- 傍線部⑫「書か」(れたり)の動作の主語(書いた人物)は、本文中の三人のうち誰だと考えられるか。文脈から答えよ。
- 傍線部⑫「待つ夜の月」とのみ書かれたり、を現代語訳せよ。
- 傍線部⑬「見」の動作の主語は誰か。
- 傍線部⑭「おぼえ給ひ」の動作の主語は誰か。
- 傍線部⑮「のたまはず」の動作の主語は誰か。
- 本文中で、接続助詞「ば」「を」によって主語が転換している箇所を、傍線部の番号で二つ指摘せよ。
- この文章全体について、①から⑮までの動作の主語がどのように移り変わっていくか、「敬語」と「接続助詞」を手がかりとして用いながら、百字程度で説明せよ。
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問1 女房。/格子を下ろすのは、仕える側である女房の役目。敬語が用いられていない点も、動作主が女房(高貴でない者)であることと合う。
問2 主語の継続の手がかり。「て」は前後で主語が変わりにくいため、①「下ろし」と②「申し」はいずれも女房の動作だと判断できる。
問3 主語=女房。根拠=「申し」は謙譲語で、動作の受け手(言葉をかけられる相手)が高貴な姫君であることを示す。へりくだって「申し上げる」のは仕える側の女房だから。
問4 「申しければ」の「ば」は主語が変わりやすい接続助詞。女房が「申し上げた」のを受けて、別人である姫君が「お起きになる」と動作主が交替する。敬語も謙譲(女房)から尊敬(姫君)へ変わっており、主語転換を裏づける。
問5 主語=姫君。根拠=「給ふ」は尊敬の補助動詞で、動作主が高貴な人物であることを示す。ここで高貴なのは姫君なので、起きるのは姫君。
問6 (例)姫君ははっと目をお覚ましになって、お起きになる。(主語=姫君)
問7 中将。「のぼり給ひ」の「給ひ」は尊敬語で、高貴な男性である中将を高めている。簀子に上がってくるのは訪問者の中将。
問8 主語=中将。/敬語の種類=謙譲語。「参る」は「(高貴な姫君のもとへ)参上する」意で、訪ねる側の中将がへりくだった表現。「久しく参らなかった罪」と自分の非礼を述べている。
問9 中将。「のたまふ」は「言ふ」の尊敬語で、高貴な中将の発言を高めている。直前の会話文の話し手なので主語は中将。
問10 (例)長い間参上しなかった罪を、どうして(あなたは)お許しくださるだろうか(いや、許してくださるまい)。=久しくお伺いしなかった非礼を、どうかお許しいただきたい、の意。
問11 姫君。「給ひ」は尊敬語。恥じらって几帳の内に入るのは高貴な姫君。
問12 女房。御文を取り次ぐのは仕える側の女房の役目。敬語が付いていない点も動作主が女房であることと合う。
問13 主語は継続している。「て」は主語が変わりにくい接続助詞なので、⑧「取り」も⑨「奉れ」もともに女房の動作。取り次ぎ役の女房が文を取って差し上げた、という一連の動作になる。
問14 主語=女房。/誰への敬意か=中将への敬意。「奉る」は謙譲語で、物を差し上げる相手(受け手)である中将を高めている。文を差し上げるのは取り次ぎ役の女房。
問15 中将。「うれしと思ひ」と感情を抱くのは、文を受け取った中将。直後の「開け給ふ」と主語が一致する。
問16 中将。「給ふ」は尊敬語。文を開くのは受け取った中将。
問17 姫君。文脈から、中将に宛てた返事の文であり、恥じらいながらも思いを月に託して書いたのは姫君だと考えられる。「待つ夜の月」は待つ心を詠んだ女性側の表現として自然。
問18 (例)「(あなたを)待つ夜の月(が美しい/その月を私はながめています)」とだけ書いてあった。=待ちわびる心を月に託した一文。
問19 中将。文を見る(読む)のは、それを開いた中将。
問20 中将。「給ひ」は尊敬語。文を読んでしみじみと感じ入るのは中将。
問21 中将。「のたまはず」は「言ふ」の尊敬語+打消で、高貴な中将がしばらく何も言わずにいる様子。
問22 ②→③(「申しければ」の「ば」で女房から姫君へ)と、⑥→⑦(「のたまふを」の「を」で中将から姫君へ)。この二箇所で主語が転換している。
問23 (例)はじめは仕える女房が格子を下ろし姫君に申し上げる(謙譲語・「て」で継続)。「ば」で主語が姫君に転じ、尊敬語「給ふ」を伴って姫君が起き、中将が登場して発言する。女房が文を取り次ぎ(「て」で継続)、「を」「ば」を境に中将へ主語が移り、中将が文を開いて読み感じ入る。敬語の種類と接続助詞が主語交替の手がかりとなっている。
※この問題は誰でも古典塾オリジナルです。
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