唐の柳宗元(りゅうそうげん)が詠んだ五言絶句「江雪(こうせつ)」は、雪に閉ざされて鳥も人影も絶えた静寂の中、たった一人で釣り糸を垂れる漁翁の姿を描いた名詩です。わずか二十字の中に、極寒の世界と、それに動じない孤高の人物像が鮮やかに切り取られています。政治的に不遇であった柳宗元自身の、世間から隔絶されてもなお屈しない心境が重ねられているとも読まれます。比較のため、王之渙(おうしかん)の五言絶句「登鸛鵲楼(とうかんじゃくろう)」もあわせて扱います。次の漢詩を読み、後の問いに答えよ。
本文
江雪 柳宗元
【白文】
【書き下し文】
千山(せんざん)鳥(とり)飛ぶこと絶(た)え
万径(ばんけい)人蹤(じんしょう)滅(めっ)す
孤舟(こしゅう)蓑笠(さりふ)の翁(おきな)
独(ひと)り釣(つ)る寒江(かんこう)の雪【語注】
・千山…数えきれないほど多くの山々。「千」は具体的な数でなく「非常に多い」意。
・万径…無数の小道。「径(逕)」は細い道。
・人蹤…人の足跡。「蹤」は「踪」とも書く。
・蓑笠…みのとかさ。雨や雪をしのぐ装い。
・翁…老人。ここでは釣りをする漁翁。
・寒江…冷えきった川。登鸛鵲楼 王之渙
【白文】
【書き下し文】
白日(はくじつ)山に依(よ)りて尽(つ)き
黄河(こうが)海に入(い)りて流る
千里(せんり)の目(め)を窮(きは)めんと欲(ほっ)し
更(さら)に上(のぼ)る一層(いっそう)の楼(ろう)【語注】
・白日…輝く太陽。
・依山…山に沿うように。
・窮…きわめ尽くす。
・千里目…はるか遠くまで見渡す視界。
・更…さらに、もう一段。
設問
- 「江雪」の詩の形式を漢字四字で答えよ。また、そう判断できる根拠を「一句の字数」と「句の数」の二点から説明せよ。
- 「江雪」の作者である柳宗元は、何という時代(王朝)の詩人か。漢字一字で答えよ。
- 「江雪」で押韻している字を、原文の中からすべて抜き出せ(三字)。
- 第3で答えた押韻について、五言絶句の押韻の原則(通常どの句末で韻を踏むか)を説明したうえで、「江雪」がその原則と比べてどのような特徴をもつかを述べよ。
- 「江雪」の各句の頭の字を上から順に並べると、ある言葉が読み取れるとも言われる。第一句「千山…」、第二句「万径…」、第三句「孤舟…」、第四句「独釣…」の頭の四字を順に書き出せ。
- 「江雪」と「登鸛鵲楼」は、ともに「五言絶句」という同じ形式の詩である。両詩を比べたとき、描かれている世界の「動き」という観点で、どのような違いがあるか説明せよ。
- 次のうち、「江雪」の鑑賞として最も適切なものを一つ選び、記号で答えよ。
- ア にぎやかな都の春の情景を、明るく華やかに描いた詩。
- イ 雪に閉ざされ生き物の気配が絶えた静寂の中で、孤独に釣りをする人物の姿を通して、孤高で動じない心境を描いた詩。
- ウ 戦乱で荒れ果てた都を嘆き、人々の苦しみを訴えた詩。
- エ 別れを惜しむ友との宴席を、にぎやかに描いた詩。
- 第一句「千山鳥飛絶」を現代語訳せよ。
- 「千山」「万径」について、ここでの「千」「万」はそれぞれ具体的な数を表しているか。表していないとすれば何を表しているか、説明せよ。
- 第一句・第二句(「千山鳥飛絶」と「万径人蹤滅」)は、語の構成や意味の上で互いに対応する関係になっている。
- (1) このような二句の関係を何というか、漢字二字で答えよ。
- (2) 「千山」と「万径」、「絶」と「滅」のように、対応している語句の組をもう一組、原文から抜き出せ。
- 第二句「万径人蹤滅」を現代語訳せよ。
- 「人蹤」とはどのような意味か、答えよ。
- 第三句「孤舟蓑笠翁」を現代語訳せよ。
- 「蓑笠」とは何か。具体的に二つの物を挙げて答えよ。
- 第四句「独釣寒江雪」を現代語訳せよ。
- 「独釣」の「独」は、この詩においてどのような情景・心情を強調しているか説明せよ。
- 補助教材「登鸛鵲楼」の作者王之渙も唐代の詩人である。「登鸛鵲楼」の詩の形式を漢字四字で答えよ。
- 「登鸛鵲楼」の第三・四句「欲窮千里目/更上一層楼」を現代語訳せよ。また、この二句に込められた教訓的な内容(よりよいものを求めるには努力を重ねる必要がある、という趣旨)を簡潔に説明せよ。
- この詩の前半二句(第一・二句)と後半二句(第三・四句)とでは、描かれている対象が大きく異なる。前半と後半はそれぞれ主に何を描いているか、簡潔に説明せよ。
- この詩全体に描かれた情景の特徴を、「静寂」という語を用いて説明せよ。
- 雪と寒さに包まれた世界の中で独り釣りをする漁翁の姿から、作者はどのような人物像・心情を表現しようとしているか。「孤高」という語を用いて説明せよ。
- 柳宗元は、同じ唐代の文章家であるある人物とともに「古文復興(古文運動)」を唱えたことで知られ、二人合わせて「韓柳(かんりゅう)」と呼ばれる。この「もう一人」の人物の名を漢字で答えよ。
▼ 解答・解説を見る
問1 五言絶句/一句が五字(漢字五文字)で、全体が四句から成る詩なので「五言絶句」である。(一句の字数が五字=「五言」、句の数が四句=「絶句」。)
問2 唐/柳宗元(七七三〜八一九)は中国・唐代中期の詩人・文章家である。
問3 絶・滅・雪
問4 五言の詩(五言絶句)では、ふつう偶数句の末字、すなわち第二句末と第四句末で韻を踏む(第一句末は韻を踏まないのが原則)。ところが「江雪」では、第二句末「滅」・第四句末「雪」に加えて第一句末「絶」でも韻を踏んでおり、第一・二・四句の三つの句末すべてで押韻している点が特徴である。(絶・滅・雪はいずれも入声の韻で、響きをそろえている。)
問5 千・万・孤・独(「千万孤独」と読める。=この上ない孤独、と解されることがある。)
問6 「江雪」は、鳥も人も絶え、漁翁が「独り」静止して釣りをするという、動きの乏しい静寂の世界を描く。一方「登鸛鵲楼」は、太陽が山に沈み、黄河が海へと流れ込み、人が楼を上っていくという、雄大な動きやスケールの大きい運動を描いている。前者が「静」、後者が「動」(雄大・躍動)と対照的である。
問7 イ
問8 (第一句)多くの山々には、鳥の飛ぶ姿もすっかり絶えてしまい。
問9 「千」「万」とも、正確な数を表しているのではなく、「数えきれないほど多い」ことを表している(誇張的・概数的な表現)。「千山」は「見渡すかぎりの多くの山々」、「万径」は「無数の小道」の意。
問10 (1) 対句(ついく)。
(2) 「鳥飛」と「人蹤」(鳥の飛ぶ姿/人の足跡)。〔「千山」と「万径」、「絶」と「滅」のほかに、「鳥飛」と「人蹤」が対応している。〕
問11 (第二句)無数の小道からは、人の足跡も消えてなくなってしまった。
問12 人の足跡(人が通った跡)。「蹤」は「踪」とも書き、あしあとの意。
問13 (第三句)ぽつんと浮かぶ一艘の小舟に、蓑(みの)と笠(かさ)を身につけた老人がいて。
問14 蓑(みの)と笠(かさ)。雨や雪を防ぐためにまとう、わら製などの雨具・かぶり物の二つ。
問15 (第四句)雪の降る寒々とした川で、その老人がたった一人、釣り糸を垂れている。
問16 「独」は「ただ一人で」の意で、広大で人気のない雪の世界の中に漁翁がたった一人だけいるという、極限の孤独・静寂を強調している。同時に、その孤独の中でも平然と釣りを続ける人物の超然とした姿を際立たせる。
問17 五言絶句(一句五字・全四句)。
問18 (訳)はるか千里の彼方まで見尽くそうと思って、さらにもう一階分、高い楼に上る。/(教訓)より遠く広い眺め(より高い境地・よりよいもの)を得ようとするなら、一段でも高い所へ上る努力を重ねなければならない、ということ。向上のためには一層の努力が必要だという前向きな教えが込められている。
問19 前半二句(第一・二句)は、鳥も人も絶えた、生き物の気配のない広大な雪景色(背景となる世界全体)を描いている。後半二句(第三・四句)は、その中にぽつんといる蓑笠の老人が独り釣りをする姿(一点の人物)を描いている。=広い遠景から一点の人物へと焦点が絞られていく構成。
問20 鳥の姿も人の足跡も消え、物音ひとつしない雪の世界が広がっており、一面の静寂に包まれた、しんと静まりかえった情景である。その静寂を破るものは何もなく、ただ一人の漁翁の姿だけが置かれている。
問21 鳥も人も絶えた極寒の世界に動じることなく、たった一人で静かに釣りを続ける漁翁の姿に、世間から隔絶されてもなお信念を曲げず超然としている、孤高で気高い人物像(と、それに自らを重ねた作者の心境)が表現されている。
問22 韓愈(かんゆ)。柳宗元とともに唐代古文復興運動の中心となり、二人は「韓柳」と並称される。
※この問題は誰でも古典塾オリジナルです。漢詩は古典(著作権の対象外)から正確に引用しています。


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