再読文字(さいどくもじ)とは?──なぜ「二度読む」のか
漢文の勉強を始めると、まず最初の大きな関門になるのが再読文字(さいどくもじ)です。名前のとおり、一つの漢字を一回の文の中で二度読むという、日本語にはない特別なルールを持った字のことをいいます。「同じ字をなんで二回も読むの?」と最初は戸惑いますが、ルールはとてもシンプルなので、この記事を読めば必ず得点源にできます。
そもそも漢文は、もともと中国語(昔の中国の書き言葉)で書かれた文章を、日本人が日本語の語順・文法で読めるように工夫したものです。その読み方の基本ルールについては、漢文入門 訓読の基本でくわしく解説していますので、返り点や送り仮名があやふやな人は先にそちらを読んでおくと、この記事がぐっと分かりやすくなります。
再読文字が二度読まれるのは、その字が「副詞(ふくし)」の意味と「動詞・助動詞」の意味の両方を一字でかねているからです。たとえば「未」という字には、「まだ」という副詞の意味と、「〜ない(打ち消し)」という助動詞の意味が両方こめられています。そこで漢文では、
- 一度目=返り点を無視して、上から下へそのまま副詞として読む(=「まだ」)
- 二度目=返り点に従って下から返って読み、動詞・助動詞として読む(=「ず」)
というふうに、一字を二回に分けて読むのです。これが再読文字の正体です。
再読文字を読むときの「3つのお約束」
細かい解説に入る前に、すべての再読文字に共通する大事なルールを3つ確認しておきましょう。テストでミスする人は、たいていこの3つのどれかを忘れています。
- 一度目は返り点を無視して読む。レ点や一・二点がついていても、一度目はその字をそのまま副詞として読みます。
- 二度目は返り点に従って返ってくる。下の語を読んでから、もう一度その字に戻ってきて、今度は動詞・助動詞として読みます。
- 書き下し文では、一度目は漢字+カタカナ送り仮名、二度目はすべてひらがなで書く。これは入試で一番ねらわれるポイントです。たとえば「未」なら、一度目「未(いま)ダ」は漢字、二度目「ず」はひらがな、と書き分けます。
3つめの「二度目はひらがな」は、書き下し文の問題で減点される定番ミスです。「未だ…ず」「将に…す」のように、返って読む部分は必ずひらがなにしてください。
再読文字 一覧表(読み・意味・書き下し)
まずは全体像をつかみましょう。高校・大学受験で覚えるべき再読文字は、次の表の7グループ(字としては9字)です。「未・将(且)・当(応)・須・宜・猶(由)・盍」とまとめて覚えるのが定番です。
| 文字 | 読み(一度目 → 二度目) | 意味 | 書き下し(型) |
|---|---|---|---|
| 未 | いまダ → ず | まだ…ない | 未だ…ず |
| 将・且 | まさニ → (せ)ントす | 今にも…しようとする/…するつもりだ | 将に…せんとす |
| 当・応 | まさニ → べシ | 当然…すべきだ(当)/きっと…だろう・…にちがいない(応) | 当に…べし |
| 須 | すべかラク → べシ | ぜひ…する必要がある・…べきだ | 須らく…べし |
| 宜 | よろシク → べシ | …するのがよい | 宜しく…べし |
| 猶・由 | なホ → (の/が)ごとシ | ちょうど…のようだ | 猶ほ…のごとし |
| 盍 | なんゾ → ざル | どうして…しないのか/…したらどうか | 盍ぞ…ざる |
それでは、ここから一字ずつくわしく見ていきましょう。それぞれ〈読み方〉〈意味〉〈書き下し〉〈例文(返り点・書き下し・現代語訳)〉〈テスト頻出ポイント〉〈設問例〉をそろえてあります。
① 未(いまダ … ず)=まだ…ない
読み方:一度目「未(いま)ダ」(副詞)→ 二度目「ず」(打ち消しの助動詞)
意味:まだ…ない/いまだに…していない
書き下しの型:未だ…ず
例文
未ダ 知ラレ 其ノ 名ヲ。(未 だ 其 の 名 を 知 ら ず)
※返り点で示すと「未ダレ知ラ二其ノ名ヲ一。」の形です。
書き下し文:未だ其の名を知らず。
現代語訳:まだその名前を知らない。
テスト頻出ポイント:「未」は「いまだ…ず」で、まだそうなっていない=これから起こる可能性は残っているという打ち消しです。「無(…がない)」や「不(…しない)」とのちがいを問う問題が定番です。「未」は「まだ」のニュアンスを必ず訳に入れましょう。二度目の「ず」はひらがなで書きます。
設問例:「未だ嘗(かつ)て敗(やぶ)れず」を現代語訳しなさい。
解答ヒント:「嘗て」は「これまでに」。「未だ…ず」と組み合わせて「今までに一度も…ない」と訳します。答え:「これまで一度も負けたことがない。」
② 将・且(まさニ … (せ)ントす)=今にも…しようとする
読み方:一度目「将(まさ)ニ」(副詞)→ 二度目「(せ)ントす」(意志・推量)
意味:今にも…しようとする/…するつもりだ/…しそうだ
書き下しの型:将に…せんとす(「且」もまったく同じ読み・意味)
例文
日 将ニ 暮レントす。(返り点:日将ニレ暮レントす。)
書き下し文:日将に暮れんとす。
現代語訳:日が今にも暮れようとしている。
且ニ 死セントす。
書き下し文:且に死せんとす。
現代語訳:今にも死のうとしている。
テスト頻出ポイント:「将」と「且」は読みも意味もまったく同じです。どちらも「まさに…せんとす」と読み、「今にも…しそうだ」という近い未来を表します。同じ「まさに」でも、次の「当・応」とは二度目の読みが違う(こちらは「す」、当・応は「べし」)点が最大のひっかけです。書き下しでは「…せんとす」とひらがなにします。
設問例:傍線部「将に行かんとす」の意味として最も適当なものを選べ。(ア 行くべきだ イ 今にも行こうとする ウ 行ってはならない)
解答ヒント:「将に…す」は近い未来=「今にも…しようとする」。正解はイ。アは「当・応」(…べし)の意味なので不可。
③ 当・応(まさニ … べシ)=当然…すべきだ/きっと…だろう
読み方:一度目「当(まさ)ニ」(副詞)→ 二度目「べシ」(当然・推量の助動詞)
意味:(当)当然…すべきだ/…するのが当たり前だ /(応)きっと…だろう・…にちがいない
書き下しの型:当に…べし/応に…べし
例文
当ニ 勉メ 学ブべシ。
書き下し文:当に勉め学ぶべし。
現代語訳:当然、努力して学ぶべきだ。
応ニ 知ルべシ 故 郷 ノ 事ヲ。
書き下し文:応に故郷の事を知るべし。
現代語訳:きっと故郷のことを知っているだろう。
テスト頻出ポイント:「当」と「応」はどちらも「まさに…べし」と読みますが、訳のニュアンスが違うのがねらい目です。当=当然…すべきだ(義務・当然)、応=きっと…だろう(推量)と覚えましょう。文脈で「すべきだ」と「だろう」のどちらが合うかを判断させる問題が頻出です。二度目は「べし」とひらがな。
設問例:「応に雨降るべし」を現代語訳しなさい。
解答ヒント:「応」は推量なので「べし」を「だろう・にちがいない」と訳します。答え:「きっと雨が降るだろう。」
④ 須(すべかラク … べシ)=ぜひ…する必要がある
読み方:一度目「須(すべか)ラク」(副詞)→ 二度目「べシ」(当然の助動詞)
意味:ぜひ…する必要がある/…しなければならない/…すべきだ
書き下しの型:須らく…べし
例文
須ラク 学ブべシ。
書き下し文:須らく学ぶべし。
現代語訳:ぜひ学ぶ必要がある(=必ず学ぶべきだ)。
テスト頻出ポイント:「須」は「すべからく」という独特の読みが最頻出。書き下しの読みを答えさせる問題で、「すべからく」まで正確に書けるかが勝負です。意味は「ぜひ…する必要がある」という強い必要・義務。「べし」(当然)とセットで、「当然ぜひ…すべきだ」という強いおすすめ・命令に近い表現になります。
設問例:「須らく今を惜しむべし」の傍線部「須」の読みを、送り仮名も含めてひらがなで書きなさい。
解答ヒント:一度目の読みを問うています。答え:「すべからく」。(二度目の「べし」は別に問われることが多い。)
⑤ 宜(よろシク … べシ)=…するのがよい
読み方:一度目「宜(よろ)シク」(副詞)→ 二度目「べシ」(適当の助動詞)
意味:…するのがよい/…するのが適当だ・ふさわしい
書き下しの型:宜しく…べし
例文
宜シク 早ク 帰ルべシ。
書き下し文:宜しく早く帰るべし。
現代語訳:早く帰るのがよい。
テスト頻出ポイント:「宜」も二度目は「べし」ですが、訳は「…するのがよい」という穏やかなおすすめです。「須(ぜひ…する必要がある)」より弱く、軽いアドバイスのニュアンス。「宜=よろしく」「須=すべからく」と、一度目の読みをセットで暗記しておくと、書き下し問題で取りこぼしません。
設問例:次の二文の意味の違いを説明せよ。「宜しく行くべし」「須らく行くべし」
解答ヒント:宜=「行くのがよい(おすすめ)」、須=「ぜひ行く必要がある(強い義務)」。強さの度合いが違う点を書ければ正解。
⑥ 猶・由(なホ … (の/が)ごとシ)=ちょうど…のようだ
読み方:一度目「猶(な)ホ」(副詞)→ 二度目「(の/が)ごとシ」(比況の助動詞)
意味:ちょうど…のようだ/まるで…と同じだ
書き下しの型:猶ほ…の(が)ごとし(「由」も同じ読み・意味)
例文
過ギタルハ 猶ホ 不ル 及バ ガごとシ。
書き下し文:過ぎたるは猶ほ及ばざるがごとし。
現代語訳:やりすぎることは、ちょうど足りないのと同じようなものだ。(=過ぎたるはなお及ばざるがごとし)
テスト頻出ポイント:「猶」は『論語』の有名な「過ぎたるは猶ほ及ばざるがごとし」で出るので、例文ごと覚えておくと一発で得点できます。二度目の「ごとし」の前は、体言(名詞)なら「の」、活用語(連体形)なら「が」でつなぐのが原則。書き下しでは「猶ほ…のごとし/がごとし」とひらがなにします。「由」も同じ意味の再読文字です。
設問例:傍線部「猶ほ魚の水を得るがごとし」の意味を答えなさい。
解答ヒント:「猶ほ…がごとし」=「ちょうど…のようだ」。答え:「ちょうど魚が水を得たようなものだ(=相性がぴったりだ)。」
⑦ 盍(なんゾ … ざル)=どうして…しないのか/…したらどうか
読み方:一度目「盍(なん)ゾ」(副詞)→ 二度目「ざル」(打ち消し)
意味:どうして…しないのか/…すればよいではないか・…したらどうか(やわらかな勧誘)
書き下しの型:盍ぞ…ざる
例文
盍ゾ 各オノオノ 言ハ 爾ノ 志ヲ ざル。
書き下し文:盍ぞ各おの爾の志を言はざる。
現代語訳:どうしてそれぞれ自分の志を言わないのか(=言ってみたらどうか)。
テスト頻出ポイント:「盍」は再読文字の中でも特殊で、「なんぞ…ざる」=「どうして…しないのか」という反語(はんご)の形になります。表面は「しないのか?」という問いかけですが、本当の意味は「…したらどうか」というやわらかい勧めです。もともと「盍」は「何(なん)+不(ず)」が合体してできた字だと説明されることが多く、ここから「なんぞ…ざる」という再読が生まれます。読みも訳もセットで覚えましょう。
設問例:「盍ぞ学ばざる」を現代語訳しなさい。
解答ヒント:「盍ぞ…ざる」は「どうして…しないのか=…したらどうか」。答え:「どうして学ばないのか(=学んだらどうか)。」
覚え方(語呂・コツ)
再読文字は、まず「字の一覧」と「一度目の読み」を、リズムよく口で唱えて覚えるのが一番の近道です。次のような語呂・整理が定番です。
- 順番ごと暗記:「未(いまだ)・将且(まさに…す)・当応(まさに…べし)・須(すべからく)・宜(よろしく)・猶由(なほ)・盍(なんぞ)」を、この順でくり返し声に出す。テストでは思い出す順番が決まっていると強いです。
- 「まさに」3兄弟の区別:同じ「まさに」と読む「将・且・当・応」は、二度目で見分ける。「将・且=す(今にも…する)」、「当・応=べし(…すべきだ/だろう)」。「まさに来た“将=す”、まさに“当然べし”」と口で言ってみると混ざりません。
- 「べし」4きょうだい:二度目が「べし」になるのは「当・応・須・宜」。頭の読みで「まさに(当応)・すべからく(須)・よろしく(宜)」と区別。
- セットで覚える漢字:意味が同じペアは「将=且」「当≒応」「猶=由」。どちらか一方を見たら相方も思い出す。
- 名文で覚える:「過ぎたるは猶ほ及ばざるがごとし」「未だ…ず」など、有名なフレーズごと暗記すると、本番で読み・意味が同時に出てきます。
入試・定期テスト対策(よく出る問い方)
再読文字は、漢文の中でももっとも出題されやすい単元です。問われ方はだいたい次の4パターンに決まっているので、対策はしやすいです。
- 書き下し文を書かせる問題:一度目は漢字+カタカナ送り仮名、二度目はひらがな。「未だ…ず」「将に…せんとす」のように、返って読む部分をひらがなにできているかが採点ポイント。
- 読み(送り仮名つき)を答えさせる問題:「須」→「すべからく」、「宜」→「よろしく」、「盍」→「なんぞ…ざる」など、一度目の特殊な読みがねらわれます。
- 現代語訳・意味選択:「将(今にも…する)」と「当(…すべきだ)」のような似た字の意味の違いを選ばせる。「応」が義務(べき)ではなく推量(だろう)である点も頻出。
- 返り点をつけさせる問題:二度目の読みは下の語から返ってくるので、レ点や一・二点を正しく打てるかを問う。一度目は返り点に関係なく先に読む点に注意。
総合設問例:次の文を(1)書き下し文にし、(2)現代語訳しなさい。
「未ダ 嘗テ 学バず。」
解答ヒント:(1)一度目「未だ」は漢字、二度目「ず」はひらがな。書き下し→「未だ嘗て学ばず。」(2)「未だ…ず」=「まだ…ない」、「嘗て」=「これまでに」。訳→「これまで一度も学んだことがない。」
まとめ
再読文字は、「一字を二回読む」という見た目のインパクトに最初は驚きますが、ルール自体は単純です。最後にもう一度、要点を確認しておきましょう。
- 一度目=返り点を無視して副詞として読む。二度目=返り点に従って返り、動詞・助動詞として読む。
- 覚える字は未・将(且)・当(応)・須・宜・猶(由)・盍。読みと意味をセットで暗記。
- 書き下し文では二度目をひらがなにする──これが減点を防ぐ最大のコツ。
- 「まさに」と読む4字(将・且・当・応)は、二度目が「す」か「べし」かで見分ける。
再読文字をマスターすれば、漢文の文章はぐっと読みやすくなります。まずは一覧表を声に出して覚え、次に例文の有名フレーズを丸ごと暗記していきましょう。返り点や送り仮名の基礎に不安が残る人は、もう一度漢文入門 訓読の基本に戻って確認すると、再読文字の理解がさらに深まります。

コメント