はじめに ── 漢文は「読み方のルール」を知れば一気にわかる
「漢文」と聞くと、知らない漢字がびっしり並んでいて難しそう…と感じるかもしれません。でも安心してください。漢文は外国語(昔の中国語)の文章を、日本語として読むための「ルール」が決まっています。そのルールさえ覚えれば、初めて見る文章でも順番どおりに読めるようになります。
このページでは、漢文を読むうえで土台になる「訓読(くんどく)」「返り点(かえりてん)」「送り仮名(おくりがな)」「書き下し文(かきくだしぶん)」の4つを、中学生・高校初学者にもわかるように、例文をたくさん使ってやさしく説明します。定期テストや入試で必ず問われる「返り点に従って読む」「書き下す」問題に、このページだけで対応できるようにしていきます。
漢文の3つのすがた ── 白文・訓読文・書き下し文
同じ漢文でも、見せ方によって3つの「すがた」があります。まずはこの3段階をはっきり区別できるようになりましょう。これが分かると、教科書やテストで何を求められているかが見えてきます。
| 名前 | どんなもの? | 例(「学びて時に之を習ふ」) |
| 白文(はくぶん) | 漢字だけの、もとの中国語の文。返り点も送り仮名もついていない、まっさらな状態。 | 學 而 時 習 之 |
| 訓読文(くんどくぶん) | 白文に返り点と送り仮名をつけて、日本語の順番で読めるようにした文。漢字は漢字のまま。 | 學ビテ而時ニ習フレ之ヲ |
| 書き下し文(かきくだしぶん) | 訓読文を、日本語の文章として漢字仮名交じりで書き直したもの。読む順番どおりに、上から普通に読める。 | 学びて時に之を習ふ |
ざっくり言うと、白文(材料)→ 訓読文(読む順番の印をつける)→ 書き下し文(日本語の文に仕上げる)という流れです。テストで「書き下しなさい」と言われたら、白文や訓読文をいちばん右の「日本語の文」に直す、ということです。
訓読とは ── 中国語を日本語の語順で読む工夫
訓読とは、中国語の文章を、日本語の語順・文法に直して読むことです。なぜそんな工夫が必要なのでしょうか。それは、中国語と日本語では語順がちがうからです。
たとえば「私は本を読む」を考えてみましょう。
| 日本語の順番 | 私は 本を 読む(「読む」が最後) |
| 中国語(漢文)の順番 | 我 読 書(「読む」が「本」より先) |
このように、漢文では「読む」が先に、「書(本)」が後に来ます。英語の I read a book. と同じ並びだと考えると分かりやすいですね。これをそのまま上から「我・読・書」と読むと日本語として不自然です。そこで、「読」と「書」の順番をひっくり返して読む」ための目印が必要になります。それが次の「返り点」です。
返り点 ── 読む順番を指示する記号
返り点は、漢字の左下に小さくつける記号で、「ここは下から上に返って読みなさい」という順番の指示です。返り点には種類があり、返る距離(何字分さかのぼるか)によって使い分けます。まずは一覧で全体像をつかみましょう。
| 記号 | 読み方のルール | 例(数字は読む順番) |
| レ点(れてん) | すぐ下の1字を先に読み、レ点のついた字に1字だけ返って読む。「1字だけ上に戻る」とき専用。 | 読②レ 書① → 「書を読む」 |
| 一・二(・三)点 | 2字以上はなれて返るときに使う。先に「一」のついた字まで読み、そのあと「二」「三」へと返って読む。 | 有③二 朋① 自遠②… → 「朋遠より有り」型 |
| 上・(中・)下点 | 一・二点でまとめたかたまりを、さらに上に返すときに使う。一二点の外側を囲うイメージ。 | 「一・二点」の範囲を読み終えてから「上→下」へ返る |
| 甲・乙・丙点 | 上・中・下点でも足りないほど大きく返るときに使う、いちばん外側の返り点。 | 上下点のかたまりを、さらに甲→乙へ返る |
| 一レ点(いちれてん) | レ点と一二点の合わせ技。まずレ点として1字返り、続けて「一」として下から返ってくる受け皿になる。 | 下の字を読む→1字返る→さらに「二」から「一」へ返る |
返り点を読むときの大原則は2つだけです。
- 返り点のついていない字は、上から順にそのまま読む。
- 返り点のついた字は飛ばしておき、指示どおり下から返ってきたときに読む。
レ点を使ってみよう
白文「読書」にレ点をつけると 読レ書 となります。読み方は次のとおりです。
- 「読」にはレ点がついている → いったん飛ばす。
- すぐ下の「書」を先に読む(①)。
- 1字上に返って「読」を読む(②)。
読む順番は 書 → 読。送り仮名をつけて書き下すと 「書を読む」 となります。
一・二点を使ってみよう
レ点は「1字だけ返る」専用でした。では2字以上はなれて返るときは? そのときが一・二点の出番です。
たとえば「読漢文(漢文を読む)」では、「読」は「漢」「文」の2字をこえて返る必要があります。そこで 読二漢文一 とします。
- 「読」には「二」がついている → 飛ばす。
- 「漢」を読む(①)。
- 「一」のついた「文」を読む(②)。
- 「一」を読み終えたので「二」のついた「読」に返る(③)。
読む順番は 漢 → 文 → 読。書き下すと 「漢文を読む」 です。「一」のついた字まで進んでから、「二」へ返る──この流れが一二点の基本です。
上・下点を使ってみよう
一・二点で作ったかたまりを、もう一段大きく返したいときに上・下点を使います。「一二点は内側、上下点は外側」と覚えると整理できます。読む順番は必ず「一→二(内側を先に処理)」→「上→下(外側をあとで処理)」になります。間に一段はさみたいときだけ「中」を使い、上・中・下の3つになります。
一レ点を使ってみよう
「一レ点」はレ点と一二点が合体した記号です。1つの字に「下から1字返ってくる(レ点のはたらき)」と「さらに遠くから一二点で返ってくる」という2つの役割を持たせたいときに使います。読むときは、まずレ点として下の1字から返り、続いて「一」として下のかたまりの仕上げを受け止めます。形が複雑に見えますが、「レ点の動き+一二点の動きを順番にやるだけ」と考えれば大丈夫です。
送り仮名 ── 漢字に日本語の活用や助詞をおぎなう
漢字だけでは、日本語として読むのに足りない部分があります。動詞の活用語尾(〜ふ、〜る など)、助詞(〜を、〜に、〜は など)、助動詞(〜ず、〜べし など)です。これらを漢字におぎなうのが送り仮名です。
送り仮名には次の特徴があります。テストでもよく問われるポイントです。
- 漢字の右下に、小さく書く(返り点は左下、送り仮名は右下、と位置が逆なので注意)。
- カタカナで書く。
- かなづかいは歴史的仮名遣いを使う(例:「言ふ」を「いう」ではなく「いふ」と書く)。
たとえば「習之」に送り仮名をつけると 習フレ之ヲ のようになり、「之を習ふ」と読めるようになります。送り仮名は、漢字を日本語の文の中に組みこむための「のりしろ」だとイメージしてください。
書き下し文のルール ── 日本語の文に直す
訓読文(返り点・送り仮名つきの漢字の文)を、読む順番どおりに、漢字仮名交じりの日本語の文に直したものが書き下し文です。書き下すときのルールは、次の3つを押さえれば十分です。
- 返り点の指示に従って、読む順番に並べかえる。
- 送り仮名は、歴史的仮名遣いのひらがなにして書く。
- 日本語の助詞・助動詞にあたる漢字は、漢字のままにせず「ひらがな」に直す。
3つめがいちばん間違えやすいところです。漢文では助詞・助動詞も漢字で書かれていますが、書き下すときはそれをひらがなにします。逆に、実際の意味を持つ言葉(名詞・動詞など)は漢字のまま残します。「役割が文法の部品(助詞・助動詞)ならひらがな」と判断しましょう。代表的なものを表にまとめます。
| 漢字 | 書き下し(ひらがな) | はたらき・意味 |
| 之 | の/これ | 「〜の」(助詞)や「これ」(代名詞)。助詞の「の」のときはひらがな。 |
| 不(弗) | ず | 打消の助動詞「〜ない」。 |
| 也 | なり | 断定「〜である」。文末に置かれることが多い。 |
| 与 | と | 「〜と」(並列の助詞)。「あたフ」など動詞の場合は漢字のまま。 |
| 自・従 | より | 起点「〜から」。 |
| 可 | べし | 可能・当然「〜できる/〜べきだ」の助動詞。 |
| 使・令 | しむ | 使役「〜させる」の助動詞。 |
| 如・若 | ごとし | 比況「〜のようだ」の助動詞。 |
| 者 | は/もの | 主題を示す「〜は」(助詞)や「〜する者」。助詞のときはひらがな。 |
置き字 ── 書かない(読まない)漢字
漢文には、文の調子を整えたり文法的な役割を示したりするだけで、訓読のときには声に出して読まない漢字があります。これを置き字(おきじ)といいます。置き字は書き下し文にも書きません(読まないので、文字として残さない)。代表的な置き字は次のとおりです。
| 置き字 | おもな位置 | はたらき |
| 而 | 語と語の間 | 前後をつなぐ(順接「そして」/逆接「しかし」)。意味は上の字の送り仮名「〜て」「〜ども」などに反映される。 |
| 於・于 | 場所・対象・比較を示す語の前 | 「〜において」「〜より」などの関係を示す(英語の前置詞に近い)。読まずに、関係だけを送り仮名で表す。 |
| 矣・焉 | 文末 | 断定・強調・完了などの語気(言い切りの調子)を添える。 |
| 乎(の一部) | 語の後ろ | 「於」と同じく場所・比較などを示すときは置き字。ただし文末で疑問・感嘆を表すときは「〜か」「〜かな」と読むので注意。 |
「乎」のように、同じ漢字でも使われ方で「置き字(読まない)」になったり「読む字」になったりすることがあります。文中での役割(前置詞のように関係を示すだけか、文末で気持ちを表すか)を見て判断します。最初は「而・於・于・矣・焉」を置き字の代表として覚えておけば十分です。
なお、再読文字(さいどくもじ)といって「未・将・当・須」などのように1字を2回読む特別な字もありますが、これはルールが少し別なので、別の記事でくわしく説明します。
例文で練習 ── 白文から書き下し文まで
ここまでのルールを使って、実際に白文を書き下してみましょう。「①返り点で順番を決める→②送り仮名をひらがなにする→③助詞・助動詞の漢字をひらがなにし、置き字は消す」の手順でやれば、迷いません。
例文1:読レ書(レ点)
- 順番:「書」を先に読み、1字返って「読」(書→読)。
- 送り仮名「書ヲ・読ム」をひらがなに。
- 書き下し文:書を読む。
例文2:有二朋自レ遠方一来(『論語』より)
有名な「朋有り、遠方より来たる」の一節です。少し記号が多いですが、ひとつずつ処理します。
- 「有」には「二」がついている → 飛ばす。
- 「朋(とも)」を読む。
- 「自(より)」にレ点 → いったん飛ばし、すぐ下の「遠」、続けて「方」を読み、「自」に返る。「遠方より」となる。
- 「一」のついた「来(きたる)」を読む。
- 最後に「二」のついた「有(あり)」に返る。
読む順番は 朋 → 遠 → 方 → 自 → 来 → 有。「自」は助詞なのでひらがな「より」にします。
書き下し文:朋遠方より来たる有り。(※教科書により「朋有り、遠方より来たる」と語順を整えて訓む形もあります。)
例文3:學レ而不レ思(「学びて思はざれば」型/置き字「而」あり)
「而」が置き字として登場する例です。置き字は読まず、書き下しにも書きません。
- 「學(まなぶ)」を読む。「而」は置き字なので読まないが、そのはたらき(順接「〜て」)は「学びて」という送り仮名に表れる。
- 「不」にレ点 → 飛ばし、すぐ下の「思(おもふ)」を読み、「不(ず)」に返る。
- 「不」は打消の助動詞なのでひらがな「ず」に。
読む順番(声に出す字)は 學 → 思 → 不。「而」は飛ばします。
書き下し文:学びて思はず。(「而」は文字として書かれていないことに注目。順接の意味は「て」に込められています。)
このように、書き下し文では「置き字は消える」「助詞・助動詞の漢字はひらがなになる」のが大きな特徴です。逆に言えば、書き下し文を見て「ここがひらがなになっているのはなぜ?」を説明できれば、漢文の基本は身についています。
入試・定期テスト対策 ── 設問例と解答のヒント
実際のテストでは、次のようなパターンで問われます。出題の意図と、解くときの着眼点をセットで覚えておきましょう。
テスト頻出ポイント(まとめ)
- 返り点に従って読む順番を答える:レ点=1字返る、一二点=離れて返る、を取り違えない。返り点のない字は上から順に読む。
- 白文に返り点・送り仮名をつける:書き下し文と見くらべ、「下から返って読んでいる箇所」にレ点や一二点を補う。
- 書き下し文に直す:助詞・助動詞の漢字(不・也・之・与・自 など)をひらがなにし、置き字(而・於・于・矣・焉)は書かない。
- 送り仮名は歴史的仮名遣い:「いふ」「おもふ」「ゐ」などを現代仮名遣いにしない。
設問例1(書き下し)
問:次の訓読文を書き下し文に直しなさい。 不レ知レ之(之を知らず)
解答のヒント:レ点が2つ。下の「之」から返って「知」、さらに返って「不」。読む順番は「之→知→不」。「之」は助詞「の」ではなく代名詞「これ」、「不」は打消の助動詞なのでひらがな「ず」。答え:之を知らず。
設問例2(返り点をつける)
問:書き下し文「過ちを改む」に合うように、白文「改過」に返り点・送り仮名をつけなさい。
解答のヒント:「過(あやまち)を」→「改(あらたむ)」の順に読む=「改」は下の「過」より後に読む=1字返る=レ点。送り仮名は「過ちヲ・改ム」。答え:改レ過(改ムレ過チヲ)。
設問例3(置き字を見ぬく)
問:次の文の置き字を一つぬき出しなさい。 青取レ之於藍(青は之を藍より取る)
解答のヒント:書き下し文「青は之を藍より取る」と見くらべると、「於」にあたる文字が書き下しに出てこない。「於」は「〜より(から)」の関係を示すだけで読まない置き字。答え:於。(「於」のはたらきは「藍より」の送り仮名に表れています。)
まとめ ── この順番で考えれば必ず読める
漢文の入門でいちばん大事なのは、「読む順番のルール(返り点)」と「日本語に直すルール(送り仮名・書き下し)」を分けて考えることです。最後にもう一度、流れを確認しましょう。
- 白文(漢字だけ)に、返り点(読む順番)と送り仮名(活用・助詞・助動詞)をつける=訓読文。
- 返り点に従って読む順番を決める。レ点は1字返る/一二点は離れて返る/上下点・甲乙点はさらに外側を返る。
- 日本語の文に直す=書き下し文。送り仮名と助詞・助動詞の漢字はひらがな、置き字は書かない。
この3ステップさえ身につければ、初めて見る漢文でも落ち着いて読み解けます。次のステップとして「再読文字」や代表的な句法(否定・疑問・使役・受身など)を学ぶと、入試レベルの文章にも対応できるようになります。漢文も、古文と同じく日本の古典の大切な一部です。背景となる時代や作品の流れは 古典文学史 もあわせて読むと、より深く理解できますよ。

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