漢文の「禁止」と「願望」は、目印の漢字さえ覚えれば確実に得点できる句法です。この記事では、「するな」を表す禁止(勿・莫・無・毋)と、「したい・してほしい」を表す願望(欲す・願はくは・請ふ など)を、目印の字+読み+訳の表で整理し、教科書レベルの例文で読み方をそろえて確認します。
「禁止の勿」と「ただの否定の不」のちがいまで押さえれば、書き下しと現代語訳でまちがえなくなります。最後に覚え方のコツもまとめました。
禁止の句法(〜するな)
禁止は「〜してはいけない」「〜するな」と相手に行動をやめさせる言い方です。目印になる字は勿・莫・無・毋の4つ。どれも文の頭(動詞の前)に置かれ、「なかれ」と読みます。「〜すること勿(なか)れ」の形が基本です。
| 目印の字 | 読み(送り仮名) | 訳 |
|---|---|---|
| 勿 | (〜する)こと勿(なか)れ | 〜してはいけない/〜するな |
| 莫 | (〜する)こと莫(なか)れ | 〜してはいけない/〜するな |
| 無 | (〜する)こと無(なか)れ | 〜してはいけない/〜するな |
| 毋 | (〜する)こと毋(なか)れ | 〜してはいけない/〜するな |
4つとも意味・読みはほぼ同じで、すべて「なかれ」と読むのがポイントです。「なかれ」は形容詞「なし」の命令形にあたる言い方で、「〜が無いようにせよ=〜するな」というニュアンスです。
禁止の「勿・莫」と否定の「不」のちがい
ここが一番まちがえやすいところです。形は似ていますが、はたらきが違います。
- 不(〜ず)=ただの否定…「〜しない」と事実を打ち消すだけ。命令ではありません。
- 勿・莫・無・毋(〜なかれ)=禁止…「〜するな」と相手にやめさせる命令の言い方です。
たとえば「不行」は「行かず(行かない)」という事実の否定ですが、「勿行」は「行く勿(なか)れ=行くな」という禁止になります。主語が「あなた・人」で、命令の調子なら禁止、と見分けるとよいでしょう。なお「無」「莫」は文脈によっては「〜が無い」という存在の否定(なし)で読むこともあるので、動詞の前にあって命令の調子なら「なかれ」、と判断します。
禁止の例文(白文→書き下し→訳)
| 白文 | 書き下し | 現代語訳 |
|---|---|---|
| 己所不欲、勿施於人。 | 己(おのれ)の欲(ほっ)せざる所、人に施(ほどこ)すこと勿(なか)れ。 | 自分がしてほしくないことを、人にしてはいけない。 |
| 過則勿憚改。 | 過(あやま)ちては則(すなは)ち改(あらた)むるに憚(はばか)ること勿(なか)れ。 | あやまちをおかしたら、改めることをためらってはいけない。 |
| 己所不欲、莫施於人。 | 己(おのれ)の欲(ほっ)せざる所、人に施(ほどこ)すこと莫(なか)れ。 | 自分がしてほしくないことを、人にしてはいけない。 |
| 毋友不如己者。 | 己(おのれ)に如(し)かざる者を友とすること毋(なか)れ。 | 自分におよばない(自分より劣った)者を友としてはいけない。 |
1〜2番目と4番目は『論語』の有名な一節です。1番目と3番目を見比べると、「勿」も「莫」も同じく「なかれ」と読み、訳も同じになることが分かります。
願望の句法(〜したい・〜してほしい)
願望は「自分が〜したい」「相手に〜してほしい」という気持ちを表す言い方です。次の目印を押さえましょう。文末は多く「〜ん(〜む)」で結ばれます。
| 目印の字 | 読み(送り仮名) | 訳 |
|---|---|---|
| 欲 | 〜(せ)んと欲(ほっ)す | 〜しようとする/〜したい |
| 願 | 願(ねが)はくは〜(せ)ん | どうか〜したい/〜してほしい |
| 請 | 請(こ)ふ〜(せ)ん | どうか〜させてください/〜してほしい |
| 庶幾 | 庶幾(こひねが)はくは〜(せ)ん | どうか〜であってほしい/願わくは〜 |
| 幸 | 幸(さいは)ひに〜(せよ) | どうか〜してほしい/〜してくださると幸いだ |
「願はくは」「請ふ」「庶幾(こひねが)はくは」「幸ひに」は、いずれも文の頭に置いて「どうか〜」と相手にていねいに願う合図になります。「欲す」だけは「〜(せ)んと欲す」と文のうしろにきて、「〜したい・〜しようとする」と自分の希望を表します。
願望の例文(白文→書き下し→訳)
| 白文 | 書き下し | 現代語訳 |
|---|---|---|
| 我欲学焉。 | 我(われ)学(まな)ばんと欲(ほっ)す。 | 私は学ぼうと思う(学びたい)。 |
| 願見其書。 | 願(ねが)はくは其(そ)の書を見ん。 | どうかその書物を見たい。 |
| 請改之。 | 請(こ)ふ之(これ)を改(あらた)めん。 | どうかこれを改めさせてください。 |
| 幸来吾家。 | 幸(さいは)ひに吾(わ)が家(いへ)に来(きた)れ。 | どうか私の家に来てほしい。 |
上の4文は、句法の形がはっきり分かるように作った例文です。「欲す」は文のうしろ、「願はくは・請ふ・幸ひに」は文の頭にくる、という位置のちがいに注目してください。文末が「〜ん」で結ばれることが多いのも願望の合図です。
覚え方ポイント
- 禁止は「なかれ」で総まとめ…勿・莫・無・毋の4字は、ぜんぶ「(〜すること)なかれ=するな」。1つ覚えれば4つ同じ。
- 「不」は否定、「勿」は禁止…「不」は「〜ず(しない)」と事実を打ち消すだけ。「勿」は「〜するな」と命令。命令の調子かどうかで見分ける。
- 願望は「位置」で見分ける…「願はくは・請ふ・庶幾はくは・幸ひに」は文の頭、「欲す」は文のうしろ(〜んと欲す)。
- 願望の文末は「〜ん」…「見ん」「改めん」のように「〜ん(〜む)」で結ばれることが多い。これも願望のサイン。
- 「願はくは=どうか」と訳す…ていねいにお願いする気持ち。「請ふ=どうか〜させてください」とセットで覚える。
禁止は「なかれ」、願望は「位置」と「〜ん」。この2点をおさえれば、書き下しでも現代語訳でも自信をもって答えられます。
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「禁止」の句法をもっとくわしく
禁止の「なかれ」は、もともと「無し(存在しない)」という形容詞からきています。「〜することなかれ」は直訳すると「〜することが無いようにせよ」で、そこから「〜するな」という強い命令の意味になりました。だから禁止の字(勿・莫・無・毋)は、どれも「相手の行動を止める」気持ちをふくんでいます。テストでは「なかれ」と読めるかどうかがそのまま得点になるので、4つの字を見たら反射的に「なかれ」と出てくるようにしておきましょう。
もう一つ大切なのが送り仮名です。「勿施於人」を書き下すときは「人に施すこと勿れ」のように、「こと」を補ってから「なかれ」とつなげます。この「こと+なかれ」のセットが禁止の合図なので、訳すときも「〜してはいけない/〜するな」とそろえて答えれば、書き下しと現代語訳がぶれません。
「願望」の句法をもっとくわしく
願望は、大きく二つのタイプに分けて覚えると整理できます。一つは自分の希望を表す「欲す(〜したい・〜しようとする)」。もう一つは相手へのお願いを表す「願はくは・請ふ・幸ひに(どうか〜してほしい)」です。同じ「願望」でも、誰の気持ちを言っているのかが違うので、訳すときに気をつけましょう。
- 欲す…「我(われ)学ばんと欲す」のように、文のうしろにきて自分の願い・意志を表す。訳は「〜したい・〜しようとする」。
- 願はくは/請ふ/幸ひに…文の頭にきて、相手へのていねいなお願いを表す。訳は「どうか〜してほしい・〜させてください」。
「願はくは」と「請ふ」は、どちらも「どうか」と訳せますが、ニュアンスにわずかな差があります。「願はくは」は自分の願いを述べるていねいな言い方、「請ふ」は相手に許しを求める「〜させてください」の気持ちが強い、と覚えておくと現代語訳でまよいません。
つまずきやすいポイントと入試での問われ方
入試・定期テストでは、次のような形でねらわれます。あらかじめ「型」を知っておけば落ち着いて対応できます。
- 「不」と「勿」をすり替えてくる…「不行(行かず)」と「勿行(行く勿れ)」のように、否定と禁止を区別できているかを問う問題。命令の調子なら禁止、ただ事実を打ち消すなら否定、と判断します。
- 「無」「莫」を「なし」と読ませるか「なかれ」と読ませるか…動詞の前にあって命令の調子なら「なかれ」、名詞の前で「〜が無い」という存在の否定なら「なし」。文の意味から判断します。
- 願望の送り仮名・文末…「願見其書」を「願はくは其の書を見ん」と「〜ん」で結べるか。文末の「〜ん(〜む)」が願望のサインです。
- 現代語訳の選択肢…「どうか〜」が入っているかどうかで、願望(願はくは・請ふ)を正しくとらえているかが分かります。
とくに多いのが、白文に送り仮名を付けて書き下す問題です。禁止なら「こと勿れ」、願望なら文頭の「願はくは」や文末の「〜ん」を忘れないこと。ここを正確に書けるかで差がつきます。
ミニ練習問題(解答つき)
次の白文を書き下し文にして、現代語訳しましょう。答えはすぐ下にあります。
- 勿言。
- 我欲帰。
- 願聞其説。
- 過則勿憚改。
【解答】
- 書き下し:言ふこと勿(なか)れ。/訳:言ってはいけない(言うな)。
- 書き下し:我(われ)帰(かへ)らんと欲(ほっ)す。/訳:私は帰りたい(帰ろうと思う)。
- 書き下し:願(ねが)はくは其(そ)の説(せつ)を聞(き)かん。/訳:どうかその話を聞きたい。
- 書き下し:過(あやま)ちては則(すなは)ち改(あらた)むるに憚(はばか)ること勿(なか)れ。/訳:あやまちをおかしたら、改めることをためらってはいけない。
1は禁止(こと勿れ)、2は自分の願望(〜んと欲す)、3は相手への願望(願はくは〜ん)、4は『論語』の有名な一節です。どれも「禁止=なかれ」「願望=位置と〜ん」の型どおりに処理できたか確かめてください。
よくある質問(Q&A)
Q. 「勿・莫・無・毋」はどれを使ってもいいのですか?
A. 読み(なかれ)と意味(〜するな)はほぼ同じです。古典の文章では作品ごとに使われる字が決まっていますが、読み・訳は4字とも同じと考えて大丈夫です。テストでは本文に出てきた字をそのまま「なかれ」と読めばよいので、4つを別々に暗記する必要はありません。
Q. 「欲す」と「願はくは」はどう訳し分ければいいですか?
A. 「欲す」は自分が「〜したい・〜しようとする」。「願はくは」は相手に「どうか〜してほしい」とお願いする言い方です。主語が自分なら「欲す」、ていねいなお願いなら「願はくは」と考えると区別できます。
Q. 文末の「〜ん」は必ず付きますか?
A. 願望では「見ん」「改めん」のように「〜ん(〜む)」で結ばれることがとても多いです。ただし「幸ひに〜(せよ)」のように命令の形で結ぶ場合もあるので、「〜ん」だけにたよらず、文頭の合図(願はくは・請ふ・幸ひに)もあわせて確認しましょう。
まとめ
禁止と願望は、目印の字と「型」さえつかめば確実に得点できる句法です。最後にもう一度ポイントを整理します。
- 禁止…勿・莫・無・毋は、ぜんぶ「(〜すること)なかれ=するな」。「こと+なかれ」で書き下す。
- 否定との区別…「不(〜ず)」は事実の打ち消し、「勿(〜なかれ)」は命令の禁止。
- 願望(自分)…「〜んと欲す」は文のうしろにきて「〜したい」。
- 願望(相手)…「願はくは・請ふ・幸ひに」は文の頭にきて「どうか〜してほしい」。文末は「〜ん」で結ぶことが多い。
「禁止はなかれ、願望は位置と〜ん」。このキーワードを声に出して覚えれば、書き下しでも現代語訳でも、もう迷うことはありません。下のドリルや確認テストで、実際に手を動かして定着させましょう。
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