竹取物語『かぐや姫の昇天』は、月から来た天人の迎えによって、かぐや姫が翁・嫗(おうな)や帝のもとを去っていく、物語のクライマックスです。定期テストでは、天人の登場、嫗との別れ、天の羽衣・不死の薬、帝への文(ふみ)といった場面の現代語訳・敬語・助動詞・心情がくり返し問われます。とくに「天の羽衣を着ると人の心が変わってしまう」という設定は、かぐや姫の心情の変化を読み取るうえで最重要ポイントです。まずは本文をよく読んで設問に答え、最後の「解答・解説」で答え合わせをして確認しましょう。場面の流れがあいまいな人は、先に竹取物語『かぐや姫の昇天』のやさしい解説で全体像をつかんでおくと、設問がぐっと解きやすくなります。
本文
立てる人どもは、装束(さうぞく)のきよらなること、ものにも似ず。飛ぶ車一つ具(ぐ)したり。羅蓋(らがい)さしたり。その中に王(おう)とおぼしき人、家に、「造麻呂(みやつこまろ)、まうで来(こ)〔①〕。」と言ふに、猛(たけ)く思ひつる造麻呂も、物に酔ひたる心地して、うつぶしに伏せり。
……(中略)……
その返り事(かへりごと)はなくて、屋(や)の上に飛ぶ車を寄せて、「いざ、かぐや姫。きたなき所にいかでか久しくおはせ〔②〕む。」と言ふ。立て籠(こ)めたる所の戸、すなはちただ開きに開きぬ。格子(かうし)どもも、人はなくして開きぬ。嫗(おうな)抱きてゐたるかぐや姫、外に出でぬ。〔③〕えとどむまじければ、たださし仰ぎて泣きをり。
……(中略)……
天人の中に、持たせたる箱あり。天の羽衣(はごろも)入れり。またあるは不死の薬入れり。一人の天人言ふ、「壺(つぼ)なる御薬(みくすり)奉れ〔④〕。きたなき所のもの聞こしめし〔⑤〕たれば、御心地(みここち)悪(あ)しからむものぞ。」とて、持て寄りたれば、いささかなめ給ひて、少し形見とて、脱ぎ置く衣(きぬ)に包まむとすれば、ある天人包ませず。御衣(おんぞ)を取り出でて着せむとす。その時に、かぐや姫、「しばし待て。」と言ふ。「衣(きぬ)着せつる人は、心異(こと)になるなりといふ。〔⑥〕もの一言(ひとこと)、言ひ置くべきことありけり。」と言ひて、文(ふみ)書く。天人、「遅し。」と心もとながり給ふ。かぐや姫、「物知らぬことなのたまひそ。」とて、いみじく静かに、朝廷(おほやけ)に御文(おんふみ)奉り給ふ。〔⑦〕あわてぬさまなり。
……(中略)……
中将取りつれば、ふと天の羽衣うち着せ奉りつれば、翁を、いとほし、かなしと思しつる〔⑧〕ことも失せぬ。この衣着つる人は、もの思ひなくなりにければ、車に乗りて、百人ばかり天人具して昇りぬ。
設問
- 傍線部①「まうで来」について、次の問いに答えなさい。
- (あ)敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)を答えなさい。
- (い)敬語の種類と命令の相手に注意して、現代語訳しなさい。
- 傍線部②「おはせむ」について、次の問いに答えなさい。
- (あ)「おはせ」は敬語動詞である。その種類(尊敬・謙譲・丁寧)と、もとになる動詞の意味を答えなさい。
- (い)「いかでか……おはせむ」は、ここではどのような意味の表現か。係助詞「か」の用法に注意して、現代語訳しなさい。
- 傍線部③「嫗抱きてゐたるかぐや姫、外に出でぬ」を現代語訳しなさい。「ゐ(居)る」の意味と、文末の「ぬ」の文法的意味(助動詞の意味)に注意すること。
- 傍線部③の文末「出でぬ」の「ぬ」について、次の問いに答えなさい。
- (あ)助動詞「ぬ」の文法的意味を答えなさい。
- (い)この「ぬ」の終止形を答えなさい。
- 傍線部④「奉れ」・傍線部⑤「聞こしめし」について、次の問いに答えなさい。
- (あ)それぞれの敬語の種類(尊敬・謙譲)を答えなさい。
- (い)それぞれ誰に対する敬意を表す敬語か、答えなさい。
- 傍線部④をめぐって、天人がかぐや姫に「壺なる御薬奉れ」と勧めているのはなぜか。「きたなき所のもの聞こしめしたれば……」の部分をふまえて説明しなさい。
- 傍線部⑤「聞こしめし」は、もともとどの動詞の敬語か。また、ここでの口語訳(意味)を答えなさい。
- 傍線部⑥「衣着せつる人は、心異になるなりといふ」を現代語訳しなさい。「異になる」の意味がはっきりわかるように訳すこと。
- 傍線部⑥「着せつる」の「つる」について、次の問いに答えなさい。
- (あ)助動詞の基本形(終止形)と文法的意味を答えなさい。
- (い)ここで連体形「つる」になっている理由を、簡潔に説明しなさい。
- 傍線部⑥に関連して、かぐや姫が天の羽衣を着る前に「文(ふみ)」を書こうとしたのはなぜか。「衣を着ると心が変わる」という本文の内容に即して、わかりやすく説明しなさい。
- かぐや姫が「いみじく静かに」「あわてぬさまなり」と描かれていることから、このときのかぐや姫はどのような心の状態にあると考えられるか。天人が「遅し」と急かしている様子と対比して、簡潔に説明しなさい。
- 傍線部⑦「朝廷に御文奉り給ふ」について、次の問いに答えなさい。
- (あ)この一文には敬語が二つ含まれている。「奉り」「給ふ」のそれぞれについて、敬語の種類(尊敬・謙譲)を答えなさい。
- (い)「奉り」「給ふ」はそれぞれ誰に対する敬意を表すか、答えなさい。
- 傍線部⑦「朝廷に御文奉り給ふ」を現代語訳しなさい。「朝廷(おほやけ)」が誰を指すかにも注意すること。
- 傍線部⑦の場面のあと、かぐや姫が天の羽衣を着せられた結果、その心はどのように変化したか。本文中の言葉(「いとほし、かなし」「もの思ひなく」)を用いて説明しなさい。
- 傍線部⑧「思しつる」について、次の問いに答えなさい。
- (あ)「思し」はどの動詞の敬語か。敬語の種類(尊敬・謙譲)も答えなさい。
- (い)「つる」の文法的意味(助動詞の意味)と活用形を答えなさい。
- 本文「立て籠めたる所の戸、すなはちただ開きに開きぬ。格子どもも、人はなくして開きぬ」とあるが、ここからかぐや姫を迎えに来た天人のどのような力(性質)が読み取れるか、簡潔に説明しなさい。
- 翁・嫗は、外へ出てしまうかぐや姫を引きとめようとするが、結局どうすることもできない。そのときの嫗(および翁)の様子と心情が表れている部分を、本文中から十字以内で抜き出しなさい。
- 次の語句の、本文中での意味を答えなさい。
- (あ)きよら(「装束のきよらなること」)
- (い)いとほし(「翁を、いとほし、かなしと思しつる」)
- (う)形見(「少し形見とて」)
- 次の語句の、本文中での意味を答えなさい。
- (あ)心もとながり(「『遅し。』と心もとながり給ふ」)
- (い)具す(「百人ばかり天人具して」)
- 【文学史】『竹取物語』は、『源氏物語』の中で「物語の出で来はじめの祖(おや)」と評されている。これは竹取物語が文学史上どのような作品であることを示しているか、簡潔に説明しなさい。
- 【文学史】竹取物語のように、空想的・超自然的な要素を中心とする物語のジャンルを何というか、漢字で答えなさい。
- 【文学史】竹取物語について、次の問いに答えなさい。
- (あ)竹取物語は、現存する日本最古の何という種類の物語とされているか、漢字で答えなさい。
- (い)竹取物語は、和歌を中心に物語が展開する「歌物語」とは区別される。歌物語の代表作を一つ挙げなさい。
▼ 解答・解説を見る(まず自分で解いてから)
問1 (あ)謙譲語。
(い)訳:「(こちらへ)やってまいれ・参上せよ。」
「まうで来(く)」は「参上する・やって来る」という意味の謙譲語で、もとは「参(ま)ゐ出(い)で来」が変化した語です。天人の王が、自分たち(高い側)のいる所へ翁(造麻呂)を呼び寄せている命令なので、「(こちらへ)参上せよ・やってまいれ」と訳します。
問2 (あ)種類:尊敬語。もとの動詞の意味:「あり・居(を)り・行く・来」(=「いらっしゃる・おいでになる」)。
(い)訳:「(このような)けがれた所に、どうして長くいらっしゃろうか(いや、いらっしゃるべきではない)。」
「いかでか……む」は反語を表し、「どうして~しようか、いや~しない」の意になります。天人がかぐや姫に「早く月へ帰りましょう」とうながしている場面です。
問3 訳:「嫗が(大切に)抱いて座っていたかぐや姫は、(家の)外に出てしまった。」
「ゐ(居)る」は「座っている・じっとしている」の意。文末の「ぬ」は完了の助動詞で、「~してしまった」と訳します。引きとめようとしても、戸も格子もひとりでに開いてしまい、かぐや姫が外へ出てしまう、という不思議で切ない場面です。
問4 (あ)完了(の助動詞)。
(い)終止形:ぬ。
完了の助動詞「ぬ」は「な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね」と活用します。ここは文末なので終止形「ぬ」です(打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」とは別物なので注意。打消なら「出でぬ」=「出ない」となり文意が通りません)。
問5 傍線部④「奉れ」…種類は謙譲語で、薬を勧める(召し上がる)対象であるかぐや姫に対する敬意を表します。傍線部⑤「聞こしめし」…種類は尊敬語で、その動作主であるかぐや姫に対する敬意を表します。
※「奉る」はここでは「(薬を)召し上がる」の意の敬語とみる立場(教科書に多い)で解説しています。「差し上げる」の意とみる立場もありますが、いずれにせよ敬意の対象がかぐや姫である点が要点です。
問6 不死の薬を飲んでしまうと、地上(人間界)の「けがれ」が体に残ったままでは、月の世界へ帰ったあとに気分が悪くなってしまう。そこで天人は、けがれを清める意味で、月へ帰る前に薬を召し上がるよう勧めているのである。
問7 もとの動詞:「食ふ・飲む」(の尊敬語)。口語訳:「召し上がる」。
「聞こしめす」は「お聞きになる・お治めになる」など複数の意味を持つ尊敬語ですが、ここでは薬(不死の薬)を飲む場面なので「召し上がる」の意です。
問8 訳:「(天の)羽衣を着せられた人は、(人間の心が消えて)心がすっかり別のもの(=天人の心)に変わってしまうのだ、という。」
「心異になる」=「心が(人間のときとは)別のものになる」の意。天の羽衣を着ると、人間だったときの感情や思い(親への情など)がなくなってしまう、ということです。
問9 (あ)基本形:つ。文法的意味:完了(存続)。
(い)すぐ下の体言「人」に続くため、連体形「つる」になっています。「着せつる人」=「着せられた(着せてしまった)人」。
問10 天の羽衣を着てしまうと心が変わり、もう人間らしい気持ちで別れの言葉を残せなくなる。そこで羽衣を着る前に、まだ人間の心が残っているうちに、帝へお別れの文(手紙)を書いておこうとしたのです。実際、このあと羽衣を着たかぐや姫は、翁を「いとほし・かなし」と思う気持ちさえ消えてしまいます。
問11 天人が「遅し」と早く帰るよう急かしているのに対し、かぐや姫は少しもあわてず、たいへん落ち着いて静かにふるまっている。すでに月へ帰る運命を受け入れ、地上への未練を断ち切ろうとしている、静かで毅然とした覚悟の心境がうかがえる。
問12 (あ)「奉り」…謙譲語。「給ふ」…尊敬語。
(い)「奉り」(差し上げる)は、文を差し上げる相手である朝廷(帝)に対する敬意を表します。「給ふ」は、その動作主であるかぐや姫に対する敬意を表します。
一つの動作に、受け手への謙譲(奉り)と動作主への尊敬(給ふ)が重なった、二方向の敬語です。
問13 訳:「(かぐや姫は)帝にお手紙を差し上げなさる。」
「朝廷(おほやけ)」はここでは帝(天皇)を指します。「御文」は「お手紙」、「奉り」は「差し上げる」、「給ふ」は動作主のかぐや姫を敬う尊敬語です。
問14 かぐや姫は天の羽衣を着せられると、それまで翁を「いとほし、かなし(気の毒だ・いとしい)」と思っていた気持ちさえも消えてしまい、「もの思ひなく(何の物思いもなく)」なってしまった。つまり、人間としての情や悲しみを失い、心が天人のものに変わってしまったのである。
問15 (あ)「思し」…「思ふ」の尊敬語「思す(おぼす)」で、「お思いになる」の意。動作主であるかぐや姫を高めています。
(い)「つる」…完了(存続)の助動詞「つ」の連体形。下の「こと」(体言)に続くため連体形になっています。「思しつること」=「お思いになっていたことも」。
問16 戸や格子が、人が手を触れないのにひとりでに開いてしまっていることから、天人は人間の力では防ぎようのない、超自然的(神秘的)な力を持っていることが読み取れる。だからこそ、翁・嫗がいくら引きとめようとしても「えとどむまじ」(とどめることができそうにない)のである。
問17 「たださし仰ぎて泣きをり」(10字)。
引きとめることもできず、ただ天を見上げて泣くばかりだ、という、なすすべのない悲しみが表れています。
問18 (あ)きよら…「(この上なく)美しく清らかなこと・気高く美しいさま」。
(い)いとほし…「気の毒だ・かわいそうだ/いとしい」。
(う)形見…「(別れた人を)思い出すよりどころとなる品・記念の品」。
問19 (あ)心もとながり…「待ち遠しく思って・じれったがって(いらいらして)」。
(い)具す…「引き連れる・伴う/一緒に連れていく」。
問20 竹取物語は、現存する日本最古の作り物語(つくりものがたり)とされ、後の物語文学の出発点・源流となった作品である。だからこそ『源氏物語』(絵合の巻)で「物語の出で来はじめの祖(おや)」=多くの物語が生まれるおおもと(始祖)と評された、という意味である。
問21 伝奇物語(でんきものがたり)。空想的・超自然的な内容を中心とする物語のジャンルを指す。
問22 (あ)作り物語(つくりものがたり)。
(い)『伊勢物語』(または『大和物語』)。和歌を中心に短い物語が連なる「歌物語」の代表作で、空想的な筋を中心とする竹取物語(作り物語)とは系統が異なる。
※この問題はオリジナル作成です(教科書・市販問題集の転載ではありません)。本文は古典原文(著作権の対象外)を用いています。本文は流布本(古活字本系)の表記に拠り、設問の都合で一部を「(中略)」として省略しています。読みやすさのため一部に読みがな( )を補いました。
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