導入:なぜ「かぐや姫の昇天」はテストに出るのか
『竹取物語』の最後をかざる「かぐや姫の昇天(天の羽衣)」は、教科書・入試でくり返し出される名場面です。理由は三つあります。第一に、別れの哀しみと人間世界への未練という、心情を問いやすいテーマであること。第二に、帝への尊敬語や、係り結びなどの文法がぎゅっとつまっていること。第三に、富士山の名の由来を語る地名由来譚として、内容説明の問題が作りやすいことです。つまり「気持ち・文法・主題」を一度に確かめられる、出題者にとって便利な場面なのです。
まず物語全体の流れがあやふやな人は、竹取物語のあらすじを先に読むと、この最終段がぐっと分かりやすくなります。
あらすじ:昇天の場面の流れ
かぐや姫はもともと月の都の住人で、罪のつぐないのためにしばらく地上にいたのでした。期限が来た八月十五夜、月の都から天人たちが雲に乗って迎えにやって来ます。
帝(みかど)はかぐや姫を奪われまいと、二千人もの兵を竹取の家に送って守らせます。ところが天人が空に姿を現すと、兵たちはまるで何かにとりつかれたように戦う気力を失い、なすすべがありません。戸も格子もひとりでに開いてしまい、人の力ではどうにもならないのです。
かぐや姫は、育ての親である翁(おきな)・嫗(おうな)に別れを惜しみ、涙ながらに言葉をかわします。そして帝には、お礼と心を込めた手紙(文)、そして不死の薬を形見として残しました。
最後に天人が「天の羽衣」をかぐや姫に着せます。すると、地上の人を思う心(あはれ・もの思い)がすっと消えてしまい、かぐや姫は車に乗って百人ほどの天人を引き連れ、月へと昇っていきました。天上と地上の、はっきりとした対比が描かれる場面です。
残された帝は、かぐや姫のいないこの世で不死の薬を飲んでも意味がないと考えます。そこで、天にもっとも近い駿河(するが)の国の山の頂で、手紙と薬を焼かせました。多くの兵(士=つはもの)を引き連れて登ったことから、その山は「富士(ふじ)の山」と呼ばれるようになった――こう語られます。「不死」「士に富む」に通じる、有名な地名由来譚です。
名場面の原文(短い引用+訳)
天の羽衣を着せられ、かぐや姫の心が変わってしまう場面です。
この衣(きぬ)着つる人は、物思ひなくなりにければ、車に乗りて、百人ばかり天人具(ぐ)して、昇りぬ。
(『竹取物語』)
現代語訳:この羽衣を着てしまった人は、(地上を思う)もの思いがなくなってしまったので、(かぐや姫は)車に乗って、百人ほどの天人を引き連れて、天へ昇ってしまった。
そして物語は、富士山から立ちのぼる煙で静かに閉じられます。
その煙、いまだ雲の中へ立ちのぼるとぞ、言ひ伝へたる。
(『竹取物語』)
現代語訳:その(薬を焼いた)煙は、今もなお雲の中へ立ちのぼっていると、言い伝えられている。
重要古語・文法ポイント
| 語・表現 | 意味・訳 | ポイント |
| あはれなり | しみじみと心が動く/いとおしい | 別れの哀しみを表す中心語。形容動詞 |
| かなし | いとおしい/切ない | 翁・嫗への愛情。現代の「悲しい」より広い |
| いとほし | 気の毒だ/いとおしい | かぐや姫が翁を思う心。羽衣で消える |
| いみじ | はなはだしい/(よくも悪くも)たいへんだ | 文脈で訳し分ける。程度の強さを表す |
| もの思ひ | あれこれ思い悩むこと/心の動き | 「物思ひなくなりぬ」=人間らしい心の消失 |
| 具す | 引き連れる/一緒に行く | サ変動詞。「天人具して」の形で頻出 |
| 奉る | 差し上げる(謙譲)/お…申し上げる | 帝への手紙・薬を「奉る」。敬意の方向に注意 |
| 仰せたまふ | おっしゃる(尊敬) | 主語は帝。尊敬の動詞+尊敬の補助動詞による二重尊敬(最高敬語)で帝を高める |
敬語は、だれからだれへの敬意かを必ず確認しましょう。「奉る」は謙譲語で動作の受け手(帝)を、「仰せたまふ」は尊敬語で動作をする人(帝)を高めます。識別のコツは敬語の識別でくわしく確認できます。また「あはれ」「かなし」など心情を表す語は、心が動く古文の形容詞でまとめて覚えると得点に直結します。
テストでの問われ方
この場面でよく問われるのは、次のようなポイントです。
- 心情の変化:「天の羽衣を着る前と後で、かぐや姫の心はどう変わったか」。着る前は翁を「いとほし・かなし」と思っていたのに、着た後はもの思いが消える――この対比が定番です。
- 富士山の名の由来:「なぜ『ふじの山』と名づけられたか」を本文の言葉で説明させる問題。不死の薬を焼いたこと、多くの士(つはもの)を連れて登ったことを押さえます。
- 敬語の主体:「仰せたまふ」「奉る」の動作主・受け手を答える問題。帝が関わる敬語に注意。
- 主題:天上と地上の対比、人間世界への未練というテーマを選ぶ選択問題。
- 係り結び:結末の「とぞ……言ひ伝へたる」で、係助詞「ぞ」の結びが連体形「たる」になる点。
作品の基本情報をおさえよう
『竹取物語』は、現存する日本最古の物語といわれる作品です。作者ははっきりわかっておらず、成立は平安時代の前期(九〜十世紀ごろ)と考えられています。『源氏物語』の中で「物語の出(い)で来(き)はじめの祖(おや)」、つまり「物語というジャンルのはじまり」と評されていることでも有名です。光る竹から生まれた小さな姫が美しく成長し、五人の貴公子や帝の求婚をしりぞけ、最後は月の都へ帰っていく――この「かぐや姫の昇天」は、その物語の結末にあたる場面です。神秘的な誕生で始まった物語が、神秘的な別れで閉じられる、という構成になっています。
昇天の場面を読むときは、「これは物語のクライマックスであり、同時に終わりでもある」という位置づけを意識すると、一つひとつの描写の意味がよくわかります。育ての親との別れ、帝への思い、そして人間らしい心そのものとの別れ――いくつもの「別れ」が重ねられているのが、この場面の読みどころです。
場面の読み深め:三つの「別れ」
「かぐや姫の昇天」を深く味わうコツは、この場面にいくつもの「別れ」が描かれていることに気づくことです。大きく三つに整理してみましょう。
- 育ての親との別れ:竹の中から見つけたかぐや姫を、わが子のようにいつくしんで育てた翁と嫗。その二人と、かぐや姫は涙ながらに別れを告げます。血のつながりはなくても、長い年月をともに過ごした「家族」との別れです。
- 帝との別れ:かぐや姫を深く思っていた帝に対し、姫は手紙と不死の薬を形見として残します。直接顔を合わせない、手紙を通した別れであるところに、奥ゆかしさと切なさがあります。
- 人間らしい心との別れ:天の羽衣を着せられると、かぐや姫の「もの思い(地上の人を思う心)」が消えてしまいます。これは、人間としての感情そのものとの別れです。三つの別れの中で、最ももの悲しく、この場面の中心になっています。
とくに三つ目の「心との別れ」が重要です。羽衣を着る前のかぐや姫は、翁を「いとほし(気の毒だ・いとおしい)」と思い、泣きながら別れを惜しむ、ふつうの人間と同じ心を持っていました。ところが羽衣を着た後は、その心がすっと消えてしまう。「天上の世界」では、人間のような悲しみや未練は不要なものなのです。ここに、あたたかい地上(人間の世界)と、清らかだが冷たい天上(月の世界)という、はっきりとした対比が描かれています。
もう少し原文を読む(別れの言葉)
昇天の直前、かぐや姫が翁・嫗にかける別れの言葉も、よく取り上げられる部分です。短い一節を、現代語訳とあわせて読んでみましょう。
「ここにも心にもあらでかくまかるに、昇(のぼ)らむをだに見送(みおく)りたまへ」
(『竹取物語』)
現代語訳:「私も、自分の心からではなく(不本意ながら)こうして帰っていくのですから、せめて(私が)天に昇るところだけでも見送ってください。」
ここでは、かぐや姫がまだ人間らしい情を持っていることがよくわかります。「心にもあらで」は「自分の本心からではなく・不本意ながら」という意味で、月へ帰るのが姫の望みではないことを示しています。文末の「見送りたまへ」は「見送る」に尊敬の補助動詞「たまふ」がついた形で、育ての親への敬意のこもった頼みになっています。羽衣を着る前のこの「情のあるかぐや姫」と、着た後の「情の消えたかぐや姫」を対比して読むと、場面の主題がくっきり見えてきます。
文法をもう一歩:係り結びと敬語の整理
この場面でとくに大事な文法は、係り結びと敬語です。順番に整理しましょう。
① 係り結び 結末の「その煙、いまだ雲の中へ立ちのぼるとぞ、言ひ伝へたる」を見てください。係助詞「ぞ」があると、文末は終止形ではなく連体形で結ばれます。ここでは「たり」が連体形「たる」になっています。「ぞ・なむ・こそ」が出てきたら文末の形が変わる――これが係り結びです。「ぞ・なむ」は連体形で、「こそ」は已然形(いぜんけい)で結ぶ、と覚えましょう。意味の上では、内容を強調するはたらきがあります。
② 敬語の方向 敬語は「だれが・だれを高めているか」をつかむことが何より大切です。この場面の敬語を整理すると、次のようになります。
- 尊敬語(動作をする人を高める):「仰せたまふ(おっしゃる)」など。主語は帝。書き手が帝に敬意をはらっています。
- 謙譲語(動作の受け手を高める):「奉る(差し上げる)」など。かぐや姫が手紙や薬を「奉る」相手、つまり帝を高めています。
ポイントは、尊敬語も謙譲語も、結局は帝への敬意を表している、という点です。物語の中で帝がとくべつ高い存在として描かれていることが、敬語からも読み取れます。「だれを高めているか」を問う問題は頻出なので、本文に出てくる敬語に印をつけながら読む習慣をつけましょう。
つまずきやすいポイント
- 「あはれ」と「かなし」を現代語のまま訳してしまう:「あはれ」は「かわいそう」だけでなく「しみじみと心が動く」、「かなし」は「悲しい」だけでなく「いとおしい・切ない」という広い意味を持ちます。文脈で訳し分けましょう。
- 羽衣を着る前後の心の変化を逆にとらえる:正しくは「着る前=情がある/着た後=情が消える」です。「羽衣を着て悲しくなった」と誤解しやすいので注意。
- 富士山の由来を取り違える:由来は「不死の薬を焼いたこと」と「多くの士(つはもの)を引き連れて登ったこと」の二つに通じる、という説明です。「姫が富を残したから」などは誤りです。
- 「具す(ぐす)」の読みと意味:「天人具して」は「天人を引き連れて」の意味。サ変動詞で「ぐす」と濁って読む点に注意します。
ミニ練習問題(解答つき)
理解の確認に、短い問題に挑戦してみましょう。答えを見る前に、自分の言葉で考えてみてください。
問1.「この衣着つる人は、物思ひなくなりにければ」とあるが、「物思ひ」とはここでは具体的にどのような心のことか、説明しなさい。
解答例:翁・嫗や帝など、地上の人々を思いやり、別れを惜しむ人間らしい心のこと。(天の羽衣を着るとこの心が消える。)
問2.結末の一文「その煙、いまだ雲の中へ立ちのぼるとぞ、言ひ伝へたる」で、文末が「たる」と連体形になっているのはなぜか、文法的に説明しなさい。
解答例:係助詞「ぞ」があるため、係り結びの法則によって、文末が連体形「たる」で結ばれているから。
問3.帝が不死の薬を飲まずに焼かせたのはなぜか。帝の気持ちをふまえて説明しなさい。
解答例:かぐや姫がいなくなったこの世で、自分だけが死なずに生き続けても意味がない(むしろつらいだけだ)と考えたから。姫への深い思いと喪失感が表れている。
よくある質問(Q&A)
Q1.なぜ「天の羽衣」を着ると心が消えてしまうのですか。
天の羽衣は、地上の人間の感情を取り去り、天人としての清らかな状態にもどす衣だと考えられています。月の都は、人間のような悲しみや未練のない世界として描かれているため、羽衣を着るとそうした「もの思い」が消えるのです。地上のあたたかさと、天上の冷たい清らかさの対比を表す、象徴的な小道具といえます。
Q2.「ふじの山」の由来は、史実なのですか。
これは史実ではなく、物語による地名由来譚(伝説)です。富士山の名の本当の語源には諸説あり、はっきりとはわかっていません。『竹取物語』は、「不死」「士に富む」という言葉の響きを使って、富士山の名を物語に結びつけているのです。テストでは「本文ではどう説明されているか」を答えれば十分で、語源の真偽まで問われることはありません。
Q3.かぐや姫の「罪」とは何だったのですか。
本文では、かぐや姫が罪のつぐないのため地上にいた、とは語られますが、その罪の具体的な内容ははっきり書かれていません。「天上で何らかの過ちを犯し、その罰として地上に下された」とだけ読み取れます。あえて詳しく説明しないことで、かぐや姫の神秘性が保たれている、ともいえるでしょう。
学習のまとめ
最後に、この場面で必ずおさえておきたいポイントを整理します。
- 主題:三つの「別れ」(育ての親・帝・人間らしい心)と、地上(あたたかい)と天上(清らかで冷たい)の対比。
- 心情の変化:天の羽衣を着る前は情があり、着た後はもの思いが消える。この対比が心情問題の核心。
- 富士山の由来:「不死」の薬を焼いたこと+多くの「士(つはもの)」を連れて登ったこと、の二つに通じる地名由来譚。
- 文法:「ぞ……たる」の係り結び、帝に関わる尊敬語「仰せたまふ」・謙譲語「奉る」の敬意の方向。
- 重要古語:あはれ・かなし・いとほし・いみじ・もの思ひ・具す。現代語と意味がずれる語に注意。
『竹取物語』の結末は、千年以上も前に書かれたとは思えないほど、別れの哀しみがいきいきと描かれています。物語のしくみ(別れと対比)をつかんだうえで、原文の短いフレーズを声に出して覚えておくと、テスト本番でも自信を持って答えられるはずです。あわてず一つずつ整理して、この名場面を得点源にしましょう。
📝 確認クイズ
読んだあとの腕だめし。「▶ 答えと解説」を開く前に、まず自分で考えてみましょう。
Q1. かぐや姫はもともとどこの住人で、なぜ地上にいたのですか。
- ア.天竺の住人で、修行のために地上にいた
- イ.竜宮城の住人で、宝物をさがすために地上にいた
- ウ.月の都の住人で、罪のつぐないのためにしばらく地上にいた
▶ 答えと解説
✅ ウ.月の都の住人で、罪のつぐないのためにしばらく地上にいた
かぐや姫は月の都の住人で、罪のつぐないのため期限つきで地上にいたと本文に書かれています。
Q2. 「天の羽衣」を着せられると、かぐや姫はどうなりましたか。
- ア.地上の人を思う心が消え、車に乗って天へ昇っていった
- イ.翁と嫗にもう一度別れを告げてから昇っていった
- ウ.兵たちと戦って道を切りひらいてから昇っていった
▶ 答えと解説
✅ ア.地上の人を思う心が消え、車に乗って天へ昇っていった
羽衣を着るともの思い(地上を思う心)が消え、百人ほどの天人を引き連れて月へ昇りました。
Q3. 本文によると、「ふじの山(富士の山)」という名の由来として説明されているのはどれですか。
- ア.二度と人が登れないほど富んだ山だったことに通じる
- イ.不死の薬を焼き、多くの士(つはもの)を引き連れて登ったことに通じる
- ウ.かぐや姫が富をのこして昇ったことに通じる
▶ 答えと解説
✅ イ.不死の薬を焼き、多くの士(つはもの)を引き連れて登ったことに通じる
「不死」「士に富む」に通じる地名由来譚として、薬を焼き多くの兵を連れて登ったことが名の由来と説明されています。
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まとめ
「かぐや姫の昇天」は、天の羽衣を着た瞬間に人間らしい心が消えるという一点をつかめば、心情問題はほとんど解けます。あわせて、富士山の地名由来譚と、帝に関わる尊敬語・謙譲語を整理しておきましょう。別れの哀しみ、人間世界への未練、そして天上と地上の対比――この三つを意識して読むと、千年以上前の物語が今の私たちの心にも響いてくるはずです。原文の短いフレーズだけでも声に出して覚えておくと、テスト本番で大きな力になります。
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