「美しい」じゃないの?――心が動く古文の形容詞
古文には、気持ちや美しさ・おもしろさをあらわす形容詞がたくさん出てきます。やっかいなのは、その多くが今と意味がちがう「古今異義語(ここんいぎご)」だということ。たとえば「うつくし」を「美しい(きれい)」と訳すと、テストではバツになることがあります。
ここでは、入試でねらわれやすい感情・情趣(じょうしゅ=しみじみとした味わい)の形容詞を8つ、正しい訳とまちがえやすいポイントといっしょに整理します。意味を取りちがえると話の中身まで反対になってしまう語ばかりなので、ひとつずつ確実に覚えていきましょう。
1. うつくし【美し】=かわいい・いとしい
現代語の「美しい(beautiful)」ではありません。古文の「うつくし」は、小さいもの・幼いものに対する「かわいい」「いとしい」という愛情をあらわします。
『枕草子』の有名な一節「うつくしきもの。瓜にかきたるちごの顔。」(=かわいらしいもの。瓜にかいた子どもの顔。)の「うつくし」がこの意味です。きれいというより「かわいい」と感じている場面ですね。
2. らうたし【労たし】=かわいい・いとおしい
こちらも「かわいい」と訳しますが、ニュアンスがちがいます。「らうたし」は「守ってやりたい」「世話をしてやりたい」と思うほどのいとおしさです。弱くて小さいものを、思わず手を差しのべたくなる――そんな気持ちをあらわします。
「うつくし」が見た目のかわいらしさ寄り、「らうたし」がかばってあげたい気持ち寄り、とおさえておくと区別しやすくなります。
3. ゆかし【床し】=心がひかれる・見たい/知りたい/聞きたい
「ゆかし」は、そのものに心がひかれて「見たい」「知りたい」「聞きたい」という気持ちです。何にひかれているかによって、訳語を「見たい・知りたい・聞きたい」と使い分けるのがコツです。
【練習例】「都のことがゆかし」=都のことが知りたい。/「花のさまゆかし」=花のようすが見たい。
※この2文は意味を確認するための作例です。
4. なつかし【懐かし】=心がひかれる・親しみがもてる
現代語の「昔がなつかしい(過去をなつかしむ)」ではありません。古文の「なつかし」は、そばにいたい・心がひかれる・親しみがもてるという意味です。もともと「懐く(なつく)」と同じ仲間のことばで、今この対象に心がよっていく感じが本来の意味です。「過去をふり返る」意味は、現代になってから強まったものです。
5. かなし【愛し・悲し】=いとおしい・かわいい/悲しい
「かなし」には2つの方向があります。ひとつは「いとおしい」「かわいい」(愛し)、もうひとつは現代と同じ「悲しい」(悲し)です。胸がしめつけられるほど心が動く、という点では根っこは同じで、その向きが「愛情」か「悲しみ」かで分かれます。
『土佐日記』には、亡くした娘を思って「なき子を……」と嘆く場面があり、深い悲しみを語る箇所が知られています。一方、子や恋人をいとおしむ「かなし」も和歌に多く、文脈で「いとおしい」か「悲しい」かを判断する必要があります。
6. わろし【悪し】=よくない・感心しない
「わろし」は「よくない」「感心しない」。ポイントは程度です。古文には「あし【悪し】」という語もあり、こちらがはっきり「悪い」。それに対して「わろし」は「あし」ほどひどくはない、ちょっとよくないくらいの軽い否定です。
| よし(最上) | よい |
| よろし | まあよい・悪くない |
| わろし | あまりよくない |
| あし(最下) | 悪い |
このように「よし→よろし→わろし→あし」と程度の階段で覚えると整理できます。
7. あさまし【浅まし】=驚きあきれる
「あさまし」は「驚きあきれる」「びっくりする」。注意したいのは、よいことにも悪いことにも使える点です。あまりに意外で言葉を失う、という気持ちで、「みっともない・なさけない」という現代語の「あさましい」とはズレます。よい意味の意外さ(思いがけずすばらしい)にも、悪い意味の意外さ(あまりのひどさにあきれる)にも使われます。
8. いみじ=程度がはなはだしい
「いみじ」は程度がはなはだしいことをあらわす語で、よい方向にも悪い方向にもふれます。よければ「すばらしい」、悪ければ「ひどい・とんでもない」。どちらに訳すかは前後の文脈しだいです。
【練習例】「いみじううれし」=たいそううれしい(よい方向)。/「いみじき雨」=ひどい雨(悪い方向)。
※意味の幅を示すための作例です。
まちがえやすい語をまとめて確認
| 語 | 入試での訳 | 注意点 |
| うつくし | かわいい・いとしい | 「美しい(きれい)」ではない |
| らうたし | かわいい・いとおしい | 守ってやりたい気持ち |
| ゆかし | 心がひかれる/見たい・知りたい・聞きたい | 何にひかれるかで訳し分ける |
| なつかし | 心がひかれる・親しみがもてる | 「昔がなつかしい」ではない |
| かなし | いとおしい・かわいい/悲しい | 文脈で2つの意味を判断 |
| わろし | よくない・感心しない | 「あし」ほど悪くはない |
| あさまし | 驚きあきれる | よい・悪い両方の意外さに使う |
| いみじ | 程度がはなはだしい(すばらしい/ひどい) | よい・悪い両方にふれる |
ここで見たように、感情をあらわす形容詞は現代語と形が同じでも意味がちがう「古今異義語」が中心です。古文を読むときは「今の意味で訳して大丈夫かな?」と一度立ち止まるくせをつけましょう。ほかの古今異義語もまとめて確認したい人は古今異義語まとめを、覚え方のコツを知りたい人は単語の覚え方もあわせて読んでみてください。
まとめ
- うつくし=かわいい・いとしい。「美しい(きれい)」と訳さない。
- らうたし=かわいい・いとおしい。守ってやりたい気持ち。
- ゆかし=心がひかれる。見たい・知りたい・聞きたいで訳し分ける。
- なつかし=心がひかれる・親しみがもてる。「昔をなつかしむ」ではない。
- かなし=いとおしい・かわいい/悲しい。文脈で判断する。
- わろし=よくない・感心しない。「よし→よろし→わろし→あし」の階段で覚える。
- あさまし=驚きあきれる。よい・悪い両方の意外さに使う。
- いみじ=程度がはなはだしい。すばらしい/ひどい、どちらにもふれる。
- 多くが古今異義語。今の意味で訳す前に一度立ち止まる。

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