『あはれ』と『をかし』の違いをやさしく解説|古文二大重要語の感じ方

結論:「あはれ」は心がしみじみ動く感動、「をかし」は知的に面白い・風情があるという趣

古文を読んでいて何度も出てくる二大重要語が、あはれをかしです。まず結論から言うと、あはれは心の底からしみじみと湧き上がってくる深い感動を表し、をかしは頭で「面白い」「興味深い」「美しい」と感じる、明るく知的な趣を表します。どちらも「すばらしい」という気持ちを含みますが、その感じ方の方向がちがうのです。ここを押さえると、訳のえらび方が一気に楽になります。

「あはれ」とは ― しみじみ湧き上がる深い感動

あはれは、もともと「ああ」という感動の声から生まれた言葉だと言われます。胸の奥がじんとして、心が深く動くときの気持ちです。大切なのは、悲しいときだけに使うのではないということ。うれしい・なつかしい・いとおしい・さびしい――喜怒哀楽すべての、しんみりとした深い感動に使えます。

この「あはれ」を中心にした美しさのとらえ方を「もののあはれ」と呼び、『源氏物語』を代表とする平安文学の中心的な美意識とされています。物事にふれて自然に心が動く、その繊細な感受性そのものが「あはれ」です。

たとえば『源氏物語』桐壺巻では、最愛の人を亡くした帝の悲しみを語る場面で、その深い嘆きが「あはれ」の情趣としてえがかれます。秋の夕暮れに虫の音を聞いて胸がしめつけられる――そんな、しみじみとした感動の世界が「あはれ」だと思ってください。

「をかし」とは ― 知的に興味をひかれる明るい趣

いっぽうをかしは、対象を少し離れたところからながめて「おや、面白い」「きれいだな」「風情があるな」と感じる、明るく知的な趣です。気持ちが内へ沈むのではなく、外の物事へ向かって興味がひらいていく感じ、と言うとイメージしやすいかもしれません。

この「をかし」を代表する作品が、清少納言の『枕草子』です。物事を鋭く観察し、その面白さや美しさを生き生きと切り取っていく――その知的でセンスのよいまなざしが「をかし」の世界です。

有名なのが冒頭の一段、「春はあけぼの」です。「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる」と、夜明けの空のうつろいを楽しそうに描写します。おもしろいことに「秋は夕暮れ」の段では、ねぐらへ急ぐ烏の姿を「あはれなり」、列をなして飛ぶ雁(かり)が小さく見えるようすを「いとをかし」と書き分けています。同じ作者が一つの場面で両方を使い分けているのは、二語の感じ方のちがいを知る絶好の例です。しんみり泣くのではなく、「いいなあ、面白いなあ」と興味をもって味わう――これが「をかし」の感覚です。

対比表でひと目で整理

中心の意味 感情の質 代表する作品
あはれ しみじみとした感動・情趣 心の内へ深く沈む。喜怒哀楽すべての深い感動(しんみり系) 『源氏物語』(もののあはれ)
をかし 知的に興味をひかれる趣・面白さ・美しさ 外の物事へ明るくひらく。観察的でセンス重視(興味・風情系) 『枕草子』

大ざっぱには「あはれ=心、をかし=頭」「あはれ=しんみり、をかし=明るい」と覚えておくと、文章中で見分けやすくなります。

注意:現代語の「あわれ」「おかしい」とはズレる(古今異義)

ここがテストでねらわれる大事なポイントです。あはれをかしは、現代語と意味がずれている古今異義語です。

現代語の「あわれ(哀れ)」は「かわいそう・みじめ」という意味にせまく限定されますが、古文の「あはれ」は前述のとおり、うれしさやなつかしさもふくむ深い感動全般を指します。「かわいそう」とだけ訳すと意味が狭くなりすぎるので注意しましょう。

また現代語の「おかしい」は「滑稽だ・変だ・笑える」という意味が中心ですが、古文の「をかし」に「滑稽でつい笑ってしまう」というニュアンスはほぼありません。「面白い・興味深い・風情がある・美しい」と訳すのが基本です。「おかしい」と直訳すると誤訳になりやすいので気をつけてください。ほかの紛らわしい語もまとめて確認したい人は、古今異義語まとめもあわせて読んでおくと安心です。

訳すときのコツ ― 文脈で「系統」を見分ける

実際の入試では、その場の文脈から「しみじみ系」か「興味・風情系」かを判断します。次の手順がおすすめです。

① 場面の空気を読む

別れ・死・もの思い・なつかしさなど、心が深く動くしんみりした場面なら「あはれ」。夜明けの空・庭の草花・人の振る舞いなどを明るく観察して味わう場面なら「をかし」と見当をつけます。

② 訳語の引き出しを用意する

「あはれ」は〈しみじみと心打たれる/趣深い/いとしい/気の毒だ〉など、〈をかし〉は〈趣がある/風情がある/面白い/すばらしい/美しい〉などの訳語を、文脈に合わせて選びます。どちらも一語ではなく、場面に合う日本語を当てるのがコツです。

③【練習例】で確かめる

【練習例】「月のいとあはれなるを見て、昔の人を思ひ出づ。」→〈月がとてもしみじみと趣深いのを見て、昔の人を思い出す。〉心が内へ向かう感動なので「あはれ」。

【練習例】「庭の紅葉のいとをかしきに、しばしながむ。」→〈庭の紅葉がたいそう趣深く美しいので、しばらくながめる。〉外の景色を明るく味わっているので「をかし」。

※上の二文は意味を確かめるためにこちらで作った文章(古典作品からの引用ではありません)です。

作品ごとの世界観をつかんでおくと判断がさらに速くなります。枕草子のあらすじ源氏物語のあらすじもあわせて読んでみてください。

まとめ

  • あはれ=心の底からしみじみ湧き上がる深い感動・情趣。悲しみだけでなく、喜怒哀楽すべての深い感動に使う。
  • をかし=知的に興味をひかれる趣。明るく「面白い・興味深い・風情がある・美しい」という感じ方。
  • 美意識の代表は、あはれ=『源氏物語』(もののあはれ)をかし=『枕草子』(「春はあけぼの」)
  • 合言葉は「あはれ=心・しんみり/をかし=頭・明るい」。
  • 現代語の「あわれ(かわいそう)」「おかしい(滑稽)」とは意味がずれる古今異義語。直訳に注意。
  • 訳すときは文脈を見て、しみじみ系か興味・風情系かを判断し、合う訳語を選ぶ。

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