「いみじ」は良い意味?悪い意味?――評価・程度の古語は“どっちにも転ぶ”
古文を読んでいて、いちばん訳に迷うのが「評価・程度」をあらわす形容詞・形容動詞です。やっかいなのは、これらの語の多くがプラス(よい意味)とマイナス(悪い意味)の両方を持っていること。たとえば「いみじ」は「すばらしい」とも「ひどい」とも訳せます。現代語の「やばい」が、文脈しだいで「最高だ」にも「まずい」にもなるのと同じ感覚です。
だから単語帳で「いみじ=すばらしい」とだけ覚えると、本文で「いみじく泣く(ひどく泣く)」が出たときに足をすくわれます。入試・定期テストでは、まさにこの「文脈でプラス・マイナスを判断させる」形で出題されます。この記事では、評価・程度をあらわす重要古語を表で網羅し、両義の見分け方と設問パターンまで一気に整理します。
なお、「うつくし」「ゆかし」など心が動く感情の形容詞は別テーマです。あわせて読むと語彙が一気に広がります → 心が動く古文の形容詞
【表1】程度がはなはだしい系(いみじ・ゆゆし・こちたし・ことごとし・おどろおどろし)
まずは「程度がとても強い」ことをあらわすグループです。強さの方向(よい方へ強いのか・悪い方へ強いのか)を文脈で決めるのが共通のコツです。
| 語 | 意味(入試標準訳) | 注意・両義のポイント |
|---|---|---|
| いみじ | ①(程度が)はなはだしい・並々でない ②(よい方へ)すばらしい・立派だ ③(悪い方へ)ひどい・大変だ・つらい | 最重要の両義語。「いみじ」は本来「程度がはなはだしい」が核。よい文脈なら「すばらしい」、悪い文脈なら「ひどい」。連用形「いみじく」+形容詞・動詞は「ひどく〜・たいそう〜」と程度の強調になる(例:いみじく悲し=ひどく悲しい)。 |
| ゆゆし | ①不吉だ・忌まわしい ②(程度が)はなはだしい・すばらしい・たいそうだ | もとは「ふれてはいけない(斎ゆ)」という神聖・タブーの語。そこから悪い方は「不吉だ」、よい方は「(恐れ多いほど)すばらしい」の両義に。プラスでもマイナスでも“程度が並でない”点は共通。 |
| こちたし | ①(言葉や評判が)仰々しい・大げさだ ②煩わしい・うるさい ③(数量が)多すぎる・はなはだしい | 「言痛し(こといたし)」が語源で、人の口がうるさい・評判がうっとうしいニュアンス。基本マイナス寄り。髪や草木が「こちたし」なら「(多すぎて)うっとうしいほどだ」。 |
| ことごとし | 大げさだ・仰々しい・おおぎょうだ | 「事々し」。必要以上に大きく見せている感じで、基本マイナス(鼻につく・度が過ぎる)の評価。「こちたし」と訳が近いので並べて覚えると効率的。 |
| おどろおどろし | ①大げさだ・仰々しい ②恐ろしい・気味が悪い・不気味だ | 音や様子が「ぎょっとするほど」の意。物音・病状なら「恐ろしい・ただ事でない」、言動なら「大げさだ」と訳し分ける。怪異・物の怪の場面で頻出。 |
【表2】驚き・心外系(あさまし・めざまし・はしたなし・あいなし)
つぎは「予想とちがって驚く・興ざめする・きまりが悪い」グループ。“良くない方向の感情評価”が中心ですが、もとは中立(ただ驚く)だった語もあります。
| 語 | 意味(入試標準訳) | 注意・両義のポイント |
|---|---|---|
| あさまし | ①驚きあきれる・意外だ・あっけにとられる ②(悪い方へ)情けない・ひどい・見苦しい ③興ざめだ | 核は「予想外で驚きあきれる」で、もとは良し悪し中立。よい意味の驚き(すばらしくて驚く)もありうるが、入試では悪い驚き=情けない・あきれる方向が圧倒的に多い。現代語「あさましい(さもしい)」とは意味がズレる点に注意(→古今異義語)。 |
| めざまし | ①目が覚めるほどすばらしい・立派だ ②(目下の者が出過ぎていて)心外だ・気に食わない・目に余る | 「目が覚めるほど」が共通の核。感心して目が覚めるなら①、不快で目が覚める(カチンとくる)なら②。『源氏物語』桐壺で、身分の低い更衣が寵愛されるのを周囲が「めざまし」=目に余る・心外だと見る用例が超有名。誰の視点かを必ず確認。 |
| はしたなし | ①中途半端だ・どっちつかずだ ②きまりが悪い・体裁が悪い・ばつが悪い ③そっけない・無愛想だ | 「端(はした)=中途半端」が語源。そこから「中途半端で居心地が悪い→きまりが悪い」へ展開。現代語「はしたない(下品だ)」とは意味が違うので要注意。天候や態度が主語なら「そっけない・無愛想だ」。 |
| あいなし | ①おもしろくない・つまらない・興ざめだ ②気にくわない・不愉快だ ③〔連用形「あいなく」で〕わけもなく・むやみに・なんとなく | 基本はマイナスの評価「つまらない・興ざめだ」。連用形「あいなく」は副詞的に「わけもなく・やたらに」と訳すのがポイント(例:あいなく心ときめきす=わけもなく胸がどきどきする)。「あいなう」とウ音便になることも。 |
【表3】道理・程度の基準系(わりなし・せちなり・すずろなり/そぞろなり・なのめなり・おぼろけなり)
最後は「道理に合うか」「並か格別か」という基準・程度をあらわすグループ。とくに打消・反語とセットで意味が反転する「なのめなり」「おぼろけなり」は、入試の超頻出ポイントです。
| 語 | 意味(入試標準訳) | 注意・両義のポイント |
|---|---|---|
| わりなし | ①道理に合わない・無理だ ②どうしようもない・しかたがない ③(程度が)むやみだ・はなはだしい ④つらい・苦しい ⑤この上なくすばらしい | 「理(ことわり)無し」=筋道が立たない、が核。そこから「どうにもならない→つらい/むやみだ」へ広がる多義語。良い方向に振れて「(理屈ぬきに)すばらしい」になることもあるので、文脈で幅広く対応する。 |
| せちなり | ①切実だ・ひたむきだ・痛切だ ②しきりだ・しょっちゅうだ ③大切だ・重要だ | 漢語「切」から。気持ちが強く差し迫っている意。「せちに」と連用形になると「しきりに・ひたすら」と程度・頻度の副詞に。現代語「せつない」につながる感覚で覚えると楽。 |
| すずろなり (そぞろなり) |
①なんとなく・これといった理由もない ②思いがけない・予想外だ ③(程度が)むやみだ・やたらだ ④(自分に)関係ない・無関係だ | 「すずろ」「そぞろ」は同じ語。核は「これといった理由・つながりがない」。「すずろに涙こぼる(わけもなく涙がこぼれる)」のように、連用形「すずろに」=わけもなく・むやみにが頻出。 |
| なのめなり | ①並ひと通りだ・ふつうだ・平凡だ ②いいかげんだ・おろそかだ/〔打消「なのめならず」で〕並ひと通りでない・格別だ・たいそうだ | 打消と組むと意味が逆転する代表格。「なのめなり」単独=平凡・いいかげん。「なのめならず」=格別だ・ひとかたでない。設問で打消の有無を必ずチェック。「なのめならぬ」=格別の、もよく出る。 |
| おぼろけなり | ①並ひと通りだ・ふつうだ・いいかげんだ/〔打消・反語をともなって〕並ひと通りでない・格別だ | 「なのめなり」とほぼ同じ挙動。「おぼろけならず」「おぼろけの〜ならず」=格別だ・尋常でない。「おぼろけの願によりてにや(並々ならぬ祈願によってか)」のように、下に打消・反語が来る前提で訳すと外さない。 |
文脈で「良し悪し」を見分ける4つのコツ
両義語に強くなるには、訳を丸暗記するより「判断の手がかり」を押さえるのが近道です。次の4点を順にチェックしましょう。
① 一緒に使われている語(共起)を見る。「いみじ」のあとに「うれし・めでたし」があればプラス、「悲し・わびし・つらし」があればマイナス。形容詞「いみじく+〜」は、後ろの語の感情がそのまま方向を決めます。
② 誰の視点・誰に対する評価かを見る。「めざまし」は「上の立場の人が、下の者を見て心外に思う」のが典型。語り手や登場人物の身分関係を押さえると、プラス(感心)かマイナス(不快)かが決まります。
③ 打消・反語とセットかを見る。「なのめなり」「おぼろけなり」は、下に「ず・じ・まじ」や反語の「や・か」が来ると“格別だ”へ反転します。逆に言えば、打消が無ければ「ふつうだ・いいかげんだ」。ここは設問の狙い目です。
④ 連用形が副詞的に働いていないかを見る。「あいなく」「すずろに」「いみじく」「せちに」などは、連用形になると「程度・理由」を添える副詞として訳すのが基本。形容詞の“評価”として訳すと不自然になります。
入試・定期テスト対策(設問例)
実際のテストでは、次のような形で問われます。出題意図ごとに対策を整理します。
| 設問のパターン | 対策・解答のコツ |
|---|---|
| 傍線部「いみじう」を現代語訳せよ | 直後の語の感情で方向を決める。後ろが「めでたし」ならプラス(たいそうすばらしい)、「悲し」ならマイナス(ひどく悲しい)。「程度の強調」を訳に必ず残す。 |
| 「めざまし」と感じたのは誰か/なぜか | 主語(評価する側)と対象(される側)の身分の上下を答案に書く。「目下の者が出過ぎていて心外だ」と訳語+理由をセットで。 |
| 「なのめならず」の意味として適切なものを選べ | 打消があるので「格別だ・並々でない」を選ぶ。「平凡だ」を選ばせる引っかけ選択肢に注意。「おぼろけならず」も同じ判断。 |
| 「あさまし」の意味として最も近いものは | 現代語「あさましい(下品だ)」を選ばせる引っかけが定番。古文では「驚きあきれる・意外だ」が正解の軸。文脈が悪い方なら「情けない」。 |
| 「はしたなし」の意味を答えよ | 現代語「はしたない(下品だ)」と混同させる頻出問題。「中途半端だ/きまりが悪い」が古語の正解。これも古今異義語の代表例。 |
| 「あいなく」の品詞・意味を説明せよ | 形容詞「あいなし」の連用形が副詞的に「わけもなく・むやみに」。「つまらなく」と直訳すると減点。連用形=副詞化の視点で。 |
「現代語と形は同じなのに意味がちがう」語(あさまし・はしたなし・あいなし等)は、出題者が大好きな引っかけポイントです。まとめてつぶしておきましょう → 古今異義語まとめ
まとめ――「核の意味+方向」で覚えれば一気に強くなる
評価・程度の古語は、訳語を一語ずつ丸暗記すると、両義に振り回されてかえって混乱します。今回の14語に共通する攻略法は、次の3つに集約できます。
(1) まず“核の意味”を1つ押さえる。いみじ=程度がはなはだしい、めざまし=目が覚めるほど、はしたなし=中途半端、すずろなり=理由がない――この芯さえ握れば、プラス・マイナスは文脈で派生として捉えられます。
(2) プラスかマイナスかは“まわりの語と視点”で決める。共起する感情語、評価する人と対象の身分関係を見れば、よい意味か悪い意味かはほぼ確定します。
(3) 打消・反語と連用形に反応する。「なのめならず・おぼろけならず=格別だ」の反転、「あいなく・すずろに=わけもなく」の副詞化は、設問の最頻出ポイント。ここを“反射”で処理できると得点が安定します。
この3点を意識して例文を音読すれば、評価・程度の古語は確実に得点源になります。語彙を効率よく定着させる方法は、こちらの記事もどうぞ → 単語の覚え方。あわせて感情の形容詞も押さえれば、読解のスピードと精度が一段上がります。

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