古文を読んでいて「あれ、これは誰がしているの?」と迷子になった経験はありませんか。古文では主語(動作をする人)がどんどん省略されるため、主語をつかめないと文章がぼやけてしまいます。この記事では、省略された主語を補うための5つのコツを、表と例文でやさしく解説します。読み終えるころには「主語を補うってこういうことか」と手順で考えられるようになります。
むずかしい用語は使いません。中学・高校で習う範囲の知識だけで、入試問題の読解にそのまま使えるところまで持っていきます。
そもそも、なぜ古文は主語が省略されるの?

古文(とくに物語や日記)は、もともと「声に出して語る」ことや「身内の間で読む」ことを前提に書かれました。話し手と聞き手の間で「誰の話か」が分かっているときは、いちいち「○○は」と言わなくても通じます。私たちが友達と話すとき「(その人)来たよ」「(私)行ってくる」と主語を省くのと同じです。
つまり古文の主語は、「書いていないのが普通」。だから読み手の側が、まわりの言葉を手がかりに主語を補って読む必要があるのです。手がかりは大きく分けて次の5つです。
- コツ① 助詞で「主語が続くか・変わるか」を読む
- コツ② 敬語のある・なし、種類で「身分」を見抜く
- コツ③ 動作の常識・話の流れから判断する
- コツ④ 会話文は「誰が言ったか」をつかむ
- コツ⑤ 指示語(その・かの など)の指す人を追う
コツ① 助詞で「主語が続くか・変わるか」を読む

いちばん実用的なのがこれです。文と文をつなぐ言葉(接続助詞)に注目すると、主語が同じまま続くのか、別の人に入れかわるのかの目安がつかめます。あくまで「目安・確率」であって絶対のルールではありませんが、迷ったときの強力な手がかりになります。
| つなぎの言葉 | 主語はどうなりやすい? | イメージ |
|---|---|---|
| て・して・で | 主語は続きやすい(同じ人) | 「〜して、そのまま〜して」と動作が連続 |
| を・に・ば・ど・ども・が | 主語が変わりやすい(別の人) | 「〜すると、(別の人が)〜した」と場面が転換 |
「て」は前後の動作を一本につなぐので、同じ人がそのまま動作を続けることが多いのです。一方で「ば(〜すると/〜ので)」「を・に(〜したところ/〜のに)」「ど・ども(〜だけれど)」「が(〜が、〜けれど)」は、文がいったん区切れて場面が動くため、そこで主語が別の人に入れかわりやすくなります。
例文1(「て」=主語が続く)
男、文を書きて、使ひに持たせて、女のもとへ遣りけり。
(男は手紙を書いて、使いの者に持たせて、女のところへ送った。)
→「書く・持たせる・遣る」はすべて男の動作。「て」でつながっているので主語が続いています。
例文2(「ば」=主語が変わる)
女、いみじう泣けば、男もえ立ち去らず。
(女がひどく泣くので、男も立ち去ることができない。)
→前半の主語は女、「ば」のあとは男に交替しています。
例文3(接続助詞「を」=主語が変わる)
君は出でさせ給ひぬるを、女房たち名残を惜しみけり。
(主君はお出かけになってしまったが、女房たちは別れを惜しんだ。)
→前半の主語は君、「を」のあとは女房たちへ交替しています。なお、文をつなぐ接続助詞の「を」は活用語の連体形に付きます(ここでは連体形「給ひぬる」に付いています)。「〜を見る」のような目的語を示す「を」とは働きがちがうので、見分けてから使いましょう。
※「ば」は未然形+ば(〜なら)/已然形+ば(〜すると・〜ので)の2種類がありますが、どちらでも「文がそこで一区切りして場面が動く」という働きは同じで、主語交替の目印として使えます。
コツ② 敬語のある・なし、種類で「身分」を見抜く

古文では、身分の高い人の動作には敬語(尊敬語)が付き、低い人の動作には付かないことが多いです。だから敬語が付いているかどうかで「この動作は偉い人のものだな」と当たりがつきます。
| 敬語の種類 | 誰を高めている? | 主語のヒント |
|---|---|---|
| 尊敬語(給ふ・おはす・のたまふ など) | 動作をする人(主語) | 主語は身分の高い人 |
| 謙譲語(奉る・聞こゆ・申す など) | 動作を受ける人(相手) | 主語はへりくだる側の人 |
| 敬語なし | — | 主語は身分の低い人のことが多い |
例文4
大臣、御簾の内に入らせ給ひて、女房に物を申しけり。
(大臣が御簾の内にお入りになって、女房に何かをおっしゃった。)
→「入らせ給ふ」と二重の尊敬が付いているので、入る動作の主語は身分の高い大臣だと分かります。
敬語は主語当ての最重要ポイントなので、別記事で「敬語で主語を見抜くコツ」をくわしく解説しています。あわせて読むと一気に得点源になります。
コツ③ 動作の常識・話の流れから判断する

言葉の手がかりがなくても、「その動作をするのは普通は誰か」という常識で決まることがあります。たとえば「泣く」「うれし」と思うのは心を動かされている人、「仕ふ(お仕えする)」のは家来、「召す(お呼びになる)」のは主人、というように、動作と立場はだいたい結びついています。
- 「(手紙の)返事をする」→ 直前に手紙を受け取った人
- 「お呼びになる・命じる」→ 身分の高い側/「参上する・お仕えする」→ 低い側
- 直前に話題になっていた人が、次の動作の主語になりやすい
コツ④ 会話文は「誰が言ったか」をつかむ
会話文(「 」でくくられた部分)の中の主語は、その言葉を言っている人を基準に考えます。地の文(話を進める部分)と会話文では主語の基準が変わるので、まずどこからどこまでが会話かをはっきりさせましょう。会話の終わりは「〜と言ふ」「〜とのたまふ」「〜と思ふ」などの形で示されることが多いです。
例文5
男、「われ、明日は必ず参らむ」と言ひて、出でぬ。
(男は「自分は明日は必ず参上しよう」と言って、出て行った。)
→会話文の中の「参らむ(参上しよう)」の主語は、話している男。会話の外の「言ひて」「出でぬ」も「て」でつながり男のままです。
会話文や、声に出さず心の中で思う言葉(心内語)の見つけ方は、別記事でくわしく扱っています。
コツ⑤ 指示語(その・かの など)の指す人を追う
「その人」「かの女」「これ」などの指示語が出てきたら、少し前にもどって「それが誰・何を指すか」を確かめます。指示語は基本的に「直前に出た人・物」を指すので、ここをたどると主語の流れが見えてきます。
例文6
ある女、宮仕へに出でけり。その女、心ばへいとよしと評判なりけり。
(ある女が宮仕えに出た。その女は、気立てがたいへんよいと評判であった。)
→「その女」は直前の「ある女」を指すので、後半の主語も同じ女だと確定できます。
主語をつかむ手順チェックリスト

実際の文章では、次の順番で確認すると主語を取り違えにくくなります。一文ずつ、指でなぞりながらチェックしてみましょう。
- 「は・が・も」を探す → そこが主語(話題)の宣言。まずこれを見つける。
- つなぎの言葉を見る →「て」なら主語キープ、「を・に・ば・ど・が」なら主語交替を疑う。
- 敬語を見る → 尊敬語が付けば偉い人、なければ身分の低い人。種類で動作の向きも判断。
- 常識と流れで確かめる → その動作を普通するのは誰か。直前の話題の人か。
- 「 」(会話)に入ったら、話し手を主語の基準に切りかえる。
- 迷ったら現代語に直して「誰が?」と問い、意味が通るか確かめる。
ポイントは、1つの手がかりだけで決めつけないこと。助詞・敬語・常識を重ね合わせれば、ほとんどの主語は自信を持って補えます。最初はゆっくりでかまいません。慣れると自然に主語が浮かぶようになります。
つまずきやすいポイント3つ
主語の補い方を習いたての人がよく落ちこむ「落とし穴」を3つにまとめました。先に知っておくと、同じ失敗をしなくてすみます。
① 「て」でも主語が変わることがある
「て=主語が続く」はあくまで目安です。前後の意味をよく見ると、別の人に移っている場合もあります。たとえば「人々に酒を勧めて、皆酔ひにけり」では、勧めたのは主人ですが、酔ったのは「皆(客たち)」です。助詞だけで機械的に決めず、必ず意味が通るかを最後に確かめましょう。助詞は「最初の見当をつける道具」、意味の確認は「最後の答え合わせ」と覚えると安心です。
② 敬語の有無は「絶対」ではない
身分の高い人でも、地の文では敬語が付かないこともあります。逆に、語り手が特別に敬っている相手には敬語が重なります。敬語は「強いヒント」ですが、これ一つで断定せず、助詞や話の流れと合わせて判断するのが安全です。とくに会話文の中では、話し手から見た敬意で敬語が使われるため、地の文とは基準がずれる点に注意しましょう。
③ 一文が長いと主語を見失う
古文は句点(。)が少なく、一文がとても長くなりがちです。長い一文は、まず「、」やつなぎの言葉のところで区切って、小さなまとまりごとに「ここの主語は誰か」を確かめると整理できます。動作の数だけ主語があると考え、動詞を一つずつ拾っていくのがコツです。
入試・定期テストでの問われ方
主語をつかむ力は、古文読解のすべての土台です。直接「主語を答えよ」と問われることもありますが、それ以上に、ほかの設問を解くための前提として効いてきます。代表的な問われ方は次のとおりです。
- 傍線部の主語を答える問題(「傍線部はだれの動作か」)。選択肢から登場人物を選ぶ形が多い。
- 現代語訳・口語訳の問題。省略された主語を補わないと自然な訳にならず、減点される。
- 内容説明・心情説明の問題。だれの気持ちかを取り違えると、説明全体が崩れる。
- 敬語の識別の問題。だれからだれへの敬意かは、動作主(主語)が決まって初めて答えられる。
とくに記述式の現代語訳では、補った主語を( )に入れて訳すと採点者に伝わりやすく、得点しやすくなります。たとえば「(女は)泣きて、(男は)慰めけり」のように示すと、主語を正しく読めていることがアピールできます。
ミニ練習問題(解答つき)
ここまでのコツを使って、実際に主語を補ってみましょう。まず自分で考えてから、解答を見てください。
問1 次の傍線部の主語はだれですか。
翁、竹を取りて、よろづのことに使ひけり。名をば、さぬきのみやつことなむいひける。
(おじいさんは竹を取って、いろいろなことに使っていた。名前を、さぬきのみやつこといった。)
解答1 主語は翁(おじいさん)。前半で話題になっている「翁」が、そのまま後半の主語に続いています。直前の話題の人が次の主語になりやすい、というコツ③が効く場面です。なお、これは『竹取物語』の冒頭部分です。
問2 次の傍線部はだれの動作ですか。助詞に注目して考えましょう。
女、つれなく言ひければ、男、いみじう恨みけり。
(女が冷淡に言ったので、男はひどく恨んだ。)
解答2 主語は男。前半「女、つれなく言ひければ」の「ば」で場面が区切れ、後半で主語が女から男へ交替しています。コツ①(「ば」は主語が変わりやすい)の典型例です。
問3 次の傍線部の動作主はだれですか。敬語に注目しましょう。
大納言、御前に参りて、かしこまりて申し給ふ。
(大納言が御前に参上して、恐縮して申し上げなさる。)
解答3 主語は大納言。「参る」は謙譲語で、へりくだっているのは大納言。「給ふ」という尊敬語も付いているので、語り手が大納言を高めていることが分かります。動作主は大納言、その動作の向かう先(申し上げる相手)は身分のさらに高い人だと読み取れます。
よくある質問(Q&A)
Q. 助詞のルールと、敬語のヒントが食いちがったらどうすればいい?
A. どちらか一方で決めず、話の流れと意味を最終判断にしてください。助詞も敬語も「目安」です。現代語に直して「誰が?」と問い、いちばん自然に意味が通る人を主語に選ぶのが正解への近道です。
Q. 主語を補うのに時間がかかってしまいます。速くするコツは?
A. はじめは時間がかかって当然です。「は・が・も」を探す→つなぎの言葉を見るという順番を体にしみこませると、だんだん一目で見当がつくようになります。短い文でくり返し練習するのが近道です。
Q. 登場人物が多くて誰が誰だか分からなくなります。
A. 読みながら、人物が出てくるたびに欄外に名前をメモし、関係(親子・主従など)を矢印で書くと整理できます。テスト本番でも、問題用紙の余白に簡単な人物メモを作るのがおすすめです。
まとめ
古文の主語は「書いていないのが普通」。だからこそ、読み手が手がかりを集めて補う力が問われます。最後にもう一度、5つのコツを整理しておきましょう。
- 助詞で主語が続くか変わるかを読む(「て」は続く、「を・に・ば・ど・が」は変わりやすい)。
- 敬語のある・なしと種類で身分を見抜く。
- 常識と話の流れで、その動作をするのは誰かを考える。
- 会話文では話し手を主語の基準に切りかえる。
- 指示語の指す人を前にもどってたどる。
大切なのは、1つの手がかりだけで決めつけず、いくつも重ね合わせて確かめること。そして最後は必ず現代語に直して「誰が?」と問い、意味が通るかをチェックすることです。この習慣がつけば、古文の文章は見ちがえるほど読みやすくなります。まずは下の確認テストで、覚えたコツを実際に使って力だめしをしてみましょう。
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