先帝身投げ テスト対策問題28問|二重敬語・解答つきPDF

定期テスト対策

壇ノ浦の合戦で、二位の尼が幼い安徳天皇を抱いて入水する『平家物語』屈指の名場面です。敬語(誰から誰への敬意か)・現代語訳・「先世の十善戒行」など仏教的背景が定期テストで頻出します。

本文(傍線①〜⑮)

源氏の兵ども、すでに平家の船に乗り移りければ、水手(かこ)・梶取(かんどり)ども、射殺され、斬り殺されて、船を直すに及ばず、船底に倒れ伏しにけり。
二位殿はこの有様を御覧じて日ごろ思しめしまうけたる事なれば、鈍色(にぶいろ)の二つ衣(ぎぬ)うち被(かづ)き、練袴(ねりばかま)の稜(そば)高くはさみ、神璽(しんじ)を脇にはさみ、宝剣を腰にさし、主上(しゆしやう)を抱き奉りて、「我が身は女なりとも、敵(かたき)の手にはかかるまじ。君の御供に参るなり。御心ざし思ひ参らせ給はむ人々は、急ぎ続き給へ」とて、船端(ふなばた)へ歩み出でられけり。
主上、今年は八歳にならせ給へども、御年のほどより、はるかにねびさせ給ひて、御かたちうつくしく、あたりも照り輝くばかりなり。御髪(みぐし)黒うゆらゆらとして、御背(おんせ)過ぎさせ給へり。あきれたる御様にて、「尼ぜわれをばいづちへ具して行かむとするぞ」と仰せければ、
二位殿、幼き君に向かひ奉り、涙をおさへて申されけるは、「君はいまだ知ろしめされさぶらはずや。先世(せんぜ)の十善戒行(じふぜんかいぎやう)の御力によつて、今万乗(ばんじよう)の主(あるじ)とは生まれさせ給へども、悪縁にひかれて、御運すでに尽きさせ給ひぬ。まづ東に向かはせ給ひて、伊勢大神宮に御暇(おんいとま)申させ給ひ、その後、西に向かはせ給ひて、西方浄土の来迎にあづからむと思しめし、御念仏さぶらふべし。この国は粟散辺地(ぞくさんへんぢ)とて、心憂きさかひにてさぶらへば、極楽浄土とてめでたき所へ具し参らせさぶらふぞ」と、泣く泣く申させ給ひければ、
山鳩色(やまばといろ)の御衣(おんぞ)に、びんづら結はせ給ひて、御涙におぼれ、小さくうつくしき御手を合はせ、まづ東を伏し拝み、伊勢大神宮に御暇申させ給ひ、その後、西に向かはせ給ひて、御念仏ありしかば、二位殿やがて抱き奉りて、「浪の下にも都のさぶらふぞ」と慰め奉りて、千尋(ちひろ)の底へぞ入り給ふ

語注 水手・梶取=船をこぐ者と、かじをとる者。 二位殿=平時子(たいらのときこ)。清盛の妻で、安徳天皇の祖母。従二位だったので「二位の尼」とも呼ばれる。 鈍色=にぶい灰色。 二つ衣=二枚重ねの衣。 練袴=練絹で仕立てた袴。 稜=袴のすそ・へり。 主上=天皇。ここでは八歳の安徳天皇。 君=天皇。ここでは安徳天皇。 御心ざし思ひ参らせ給はむ人々=私を慕ってくださる人々。 御背過ぎさせ給へり=(御髪が)背の下まで届いていらっしゃった。 あきれたる=あっけにとられた。 先世=前世。生まれる前の世。 十善戒行=十の善い戒めを守り行うこと。 悪縁=悪い巡り合わせ。 御暇申す=お別れを申し上げる。 来迎=臨終のとき、阿弥陀仏が極楽浄土から迎えに来ること。 心憂きさかひ=つらい世界。 山鳩色=黄色みをおびた緑色。天皇の御衣に用いる色。 びんづら=少年の髪の結い方。左右に分けて耳のあたりで結ぶ。 ※本文の「浪」を「波」と書く教科書もある。

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使い方のおすすめ。①まず何も見ずに解く → ②解答で答え合わせ → ③まちがえた設問の番号と同じ傍線を本文で探して読み直す。

設問

A 語句の意味と読み

  1. ①「御覧じて」の終止形(言い切りの形)と意味を書け。
  2. ②「日ごろ思しめしまうけたる」の「日ごろ」の意味を書け。
  3. ⑥「ねびさせ給ひて」の「ねび」は、もとはどの語か。終止形と意味を書け。
  4. ⑦「尼ぜ」とは、どういう意味の言葉か。
  5. ⑧の「いづち」の意味を書け。
  6. ⑩「万乗(ばんじよう)の主(あるじ)」の意味を書け。
  7. ⑮「千尋(ちひろ)」の意味を書け。

B 文法

  1. ④「主上を抱き奉りて」の「奉り」は本動詞か補助動詞か。また、敬語の種類を書け。
  2. ⑤「敵の手にはかかるまじ」の「まじ」の意味を書け。
  3. ⑥「ねびさせ給ひて」の「させ給ひ」を文法的に説明し、この敬語の呼び名も書け。
  4. ⑧「具して行かむとするぞ」の「む」の意味を書け。
  5. ⑪「御運すでに尽きさせ給ひぬ」の「ぬ」を文法的に説明せよ。
  6. ⑮「千尋の底へぞ入り給ふ」に見られる文法上のきまりの名と、結びの語を書け。

C 指す内容・敬意の方向

  1. ④「主上を抱き奉りて」の「奉り」は、誰から誰への敬意か。
  2. ⑧「われをばいづちへ具して行かむとするぞ」の「われ」は誰を指すか。
  3. ⑬「具し参らせさぶらふぞ」の「参らせ」は、誰から誰への敬意か。
  4. ⑮「千尋の底へぞ入り給ふ」の主語は誰か。

D 口語訳

  1. ②「日ごろ思しめしまうけたる」を口語訳せよ。
  2. ⑤「敵の手にはかかるまじ」を口語訳せよ。
  3. ⑧「われをばいづちへ具して行かむとするぞ」を口語訳せよ。
  4. ⑭「浪の下にも都のさぶらふぞ」を口語訳せよ。

E 内容・記述

  1. ②「日ごろ思しめしまうけたる」とあるが、二位殿は何を覚悟していたのか。三十字以内で書け。
  2. ⑨「十善戒行の御力」とあるが、二位殿は安徳天皇が天皇として生まれたわけをどう説明しているか。四十字以内で書け。
  3. ⑪「御運すでに尽きさせ給ひぬ」に続けて、二位殿は安徳天皇に何をするよう勧めているか。東と西に分けて、五十字以内で書け。
  4. ⑭「浪の下にも都のさぶらふぞ」と二位殿が言ったのはなぜか。四十字以内で書け。

F 文学史・思想

  1. ③「神璽(しんじ)」とは何か。また、それをふくむ三種の神器の名をすべて書け。
  2. ⑫「粟散辺地(ぞくさんへんぢ)」とはどういう意味か。また、どこの国を指しているか。
  3. この場面がおさめられている作品の書名・成立した時代・種類(ジャンル)を書け。

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解答と解説

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A 語句の意味と読み

問1 御覧ず/「見る」の尊敬語で「ご覧になる」
└ サ行変格活用。作者から二位殿への敬意を表す

問2 ふだん・かねてから・以前から
└ ×「一日中」ではない。数日という意味になることもある語

問3 ねぶ/大人びる・年のわりに成長して見える
└ バ行上二段活用。八歳なのに大人びて立派だった、という文脈

問4 尼君への親しみをこめた呼びかけ。ここでは祖母である二位殿を「おばあさま」と呼んだもの。
└ 八歳の天皇の言葉。幼さと無邪気さが伝わる呼び方

問5 どこ・どちらの方へ
└ 場所・方向をたずねる語。「いづちへ」で「どこへ」

問6 天子・天皇のこと
└ 「万乗」は兵車一万台を出せる大国の君主、つまり天子を表す語

問7 はかり知れないほど深い(長い)こと
└ 「尋」は両手を左右に広げた長さ。ここは海の深さをいう

B 文法

問8 補助動詞(謙譲の補助動詞「奉る」の連用形・ラ行四段活用)。
└ 動作の受け手である主上を高めている。「奉りて」は本文により「奉つて」と促音便になる形もある

問9 打消意志(〜まい・決して〜するつもりはない)。
└ 主語が一人称「我が身」なので意志。※打消推量と説明する教科書もあるので、お使いの教科書の説明に合わせること

問10 尊敬の助動詞「さす」の連用形「させ」+尊敬の補助動詞「給ふ」の連用形「給ひ」。二重敬語(最高敬語)という。
└ 使役の相手が出てこないので使役ではない。天皇など最高位の人に用いる

問11 意志(〜しよう)。「〜むとす」で「〜しようとする」。
└ 「われをば」の「を」は動作の対象。連れて行かれるのが「われ」=天皇で、連れて行こうとしているのは呼びかけられた尼ぜ(二位殿)。その二位殿の意志をたずねている

問12 完了の助動詞「ぬ」の終止形。「〜てしまった」の意。
└ 直前が連用形「給ひ」だから完了。打消「ず」の連体形「ぬ」なら未然形に付く

問13 係り結び。係助詞「ぞ」を受けて、文末が連体形「給ふ」で結ばれている。強意を表す。
└ ぞ・なむ・や・か→連体形、こそ→已然形

C 指す内容・敬意の方向

問14 作者から主上(安徳天皇)への敬意。
└ 地の文なので敬意の主は作者。謙譲語は動作の受け手を高める

問15 安徳天皇(主上)
└ 「尼ぜ」と呼びかけているのが八歳の天皇本人

問16 二位殿から、連れて行かれる主上(安徳天皇)への敬意。
└ 会話文なので敬意の主は話し手。「参らす」は謙譲の補助動詞で受け手を高める

問17 二位殿(二位の尼)。安徳天皇を抱いたまま海に入った。
└ 天皇の動作には「させ給ふ」と二重敬語が使われているのに、ここは「給ふ」一つ。敬語の重さが主語を見分ける手がかりになる

D 口語訳

問18 ふだんから(こうなったら、と)覚悟していらっしゃった
└ 「思しめす」は「思ふ」の尊敬語、「まうく」は前もって用意する・心づもりをする

問19 敵の手にはかかるまい(敵につかまったりはするまい)
└ 「まじ」を「〜まい」と訳す。直前の「我が身は女なりとも」とつなげて読む

問20 私をどこへ連れて行こうとするのか。
└ 「具す」=連れて行く・伴う。「ぞ」は疑問の意を強める

問21 波の下にも都がございますよ。(本文の字のまま「浪」と書いてもよい)
└ 「都の」の「の」は主格で「都が」。「さぶらふ」=ございます・あります(丁寧語)。ここを「お仕えする」と訳さない

E 内容・記述

問22 敵の手にかかる前に天皇のお供をして海に身を投げること。(二十七字)
└ 直後の「敵の手にはかかるまじ。君の御供に参るなり」が根拠

問23 前世で十の善い戒めを行った功徳の力によって天子に生まれた、と説明している。(三十七字)
└ 「〜の御力によつて、今万乗の主とは生まれさせ給へども」という形をおさえる。前世の行いが今の身の上を決めるという仏教の考え方(因果応報)にもとづく言い方

問24 東=伊勢大神宮にお別れを申し上げる。西=極楽浄土の来迎を願って念仏を唱える。(三十八字)
└ 東=神へのいとまごい/西=念仏、の順。天皇はこのとおりに行う

問25 これから沈む海の底も都だと言いかえて、何も知らない幼い天皇を慰めるため。(三十六字)
└ 直後に「慰め奉りて」とあるのが手がかり。天皇は「あきれたる御様」で事情がのみこめていない

F 文学史・思想

問26 神璽=三種の神器の一つで、勾玉(八尺瓊勾玉/やさかにのまがたま)のこと。三種の神器=八咫鏡(やたのかがみ)・八尺瓊勾玉(神璽)・草薙剣(くさなぎのつるぎ=本文の「宝剣」)。
└ 皇位のしるし。二位殿は神璽と宝剣を身につけて入水する

問27 粟粒をまき散らしたような、小さくへんぴな国という意味。仏教の世界観からみた日本を指す。
└ 「この国は粟散辺地とて」の「この国」=日本。極楽浄土と対比している

問28 『平家物語』/鎌倉時代/軍記物語。
└ 琵琶法師が語り伝えた。「諸行無常・盛者必衰」が全体の主題で、この場面はその象徴といえる

【テスト直前チェック】この三つ
❶「せ給ふ・させ給ふ」は二重敬語(最高敬語)で、安徳天皇の動作に集中する。地の文の「ならせ給へ」「ねびさせ給ひて」は作者から天皇への敬意。二位殿の会話の中の「生まれさせ給へ」「尽きさせ給ひぬ」は、話し手である二位殿から天皇への敬意。二重敬語かどうかと、誰からの敬意かは別に考える。
❷「さぶらふ」は丁寧語で「ございます」。⑭の訳はここが決め手=「波の下にも都がございますよ」。二位殿から、聞き手である安徳天皇への敬意。「お仕えする」と訳すと×。
❸東=伊勢大神宮にお別れ(御暇)、西=念仏(西方極楽浄土)。向きと行いの組み合わせと順番が、記述問題の答えになる。

現代語訳(全文)

源氏の兵たちが、もう平家の船に乗り移ってしまったので、(船をこぐ)水手や(かじをとる)梶取たちは、射殺され、斬り殺されて、船を立て直すこともできず、船底に倒れ伏してしまった。

二位殿はこの有様をご覧になって、ふだんから(こうなったら、と)覚悟していらっしゃったことなので、にぶい灰色の二枚重ねの衣を頭からかぶり、練絹の袴のすそを高くたくし上げてはさみ、神璽(=三種の神器の勾玉)を脇にはさみ、宝剣を腰にさし、天皇を抱き申し上げて、「私の身は女であっても、敵の手にはかかるまい。天皇のお供に参るのだ。私を慕ってくださる人々は、急いで後に続きなさい」と言って、船端へ歩み出られた。

天皇は、今年は八歳におなりであったけれども、お年のわりにずっと大人びていらっしゃって、お姿は美しく、あたりも照り輝くばかりである。御髪は黒くゆらゆらとして、お背中の下まで届いていらっしゃった。(天皇は)あっけにとられたご様子で、「尼ぜ(=おばあさま)、私をどこへ連れて行こうとするのか」とおっしゃったので、

二位殿は、幼い天皇に向かい申し上げて、涙をおさえて申し上げたことには、「あなたさま(=天皇)は、まだご存じでいらっしゃらないのですか。前世で十の善い戒めを守り行われたお力によって、今、天子としてお生まれになりましたけれども、悪い縁に引かれて、御運はもう尽きておしまいになりました。まず東に向かわれて、伊勢大神宮にお別れを申し上げなさり、そのあと、西に向かわれて、極楽浄土からのお迎えにあずかろうとお思いになって、お念仏をお唱えなさいませ。この国は粟散辺地(=粟粒をまき散らしたような小さくへんぴな国)といって、つらい所でございますから、極楽浄土という素晴らしい所へお連れ申し上げるのですよ」と、泣く泣く申し上げなさったので、

(天皇は)山鳩色のお召し物に、びんづらを結っていらっしゃって、お涙にむせびながら、小さくかわいらしいお手を合わせ、まず東を伏し拝んで、伊勢大神宮にお別れを申し上げなさり、そのあと、西に向かわれて、お念仏をお唱えになったので、二位殿はすぐに(天皇を)抱き申し上げて、「波の下にも都がございますよ」とお慰め申し上げて、千尋(=はかり知れないほど深い海)の底へとお入りになる。

※この問題は誰でも古典塾のオリジナルです。本文は古典(著作権の対象外)から正確に引用しています。

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