「漁夫の利」は、二者が争っているうちに第三者が労せずして利益を横取りすることのたとえとして、現在でも新聞・ニュースでよく使われる故事成語です。出典は中国・戦国時代の歴史書『戦国策』燕策で、本文には「蚌(ぼう=どぶがい)」と「鷸(いつ=しぎ)」が争う有名な場面が描かれます。定期テストでは、書き下し文・現代語訳に加え、否定(不〜)・仮定(即/則)・「肯ぜず」などの句法、そして蘇代がこの話で趙王に何を説いたのかという内容理解がねらわれます。
まずは故事成語そのものの背景を確認したい人は、漢文の故事成語のやさしい解説もあわせて読むと、この問題がぐっと解きやすくなります。それでは、本文と頻出設問で実戦練習をしていきましょう。
白文(原文)
【白文】
書き下し文(傍線①〜⑮)
趙(てう)且(まさ)に燕(えん)を伐(う)たんとす。蘇代(そだい)燕の為(ため)に恵王(けいわう)に謂(い)ひて曰(い)はく、「今者(いま)臣(しん)来(き)たりて易水(えきすい)を過(す)ぐるに、①蚌(ぼう)方(まさ)に出(い)でて曝(さら)す。而(しか)して②鷸(いつ)其(そ)の肉(にく)を啄(ついば)む。蚌合(がつ)して③其(そ)の喙(くちばし)を箝(はさ)む。鷸曰はく、『④今日(こんにち)雨(あめ)ふらず、明日(みやうにち)雨(あめ)ふらずんば、⑤即(すなは)ち死蚌(しぼう)有(あ)らん』と。蚌も亦(また)鷸に謂ひて曰はく、『⑥今日(こんにち)出(い)でず、明日(みやうにち)出(い)でずんば、即ち死鷸(しいつ)有らん』と。⑦両者(りやうしや)相(あ)ひ舎(す)つるを肯(がへ)んぜず。⑧漁者(ぎよしや)得(え)て之(これ)を并(あは)せ擒(とら)ふ。
⑨今(いま)趙(てう)且(まさ)に燕(えん)を伐(う)たんとす。燕趙⑩久(ひさ)しく相(あ)ひ支(ささ)へ、以(もつ)て⑪大衆(たいしゆう)を敝(つか)れしめば、⑫臣(しん)強秦(きやうしん)の漁父(ぎよほ)と為(な)らんことを恐(おそ)るるなり。⑬願(ねが)はくは王(わう)之(これ)を熟計(じゆくけい)せよ」と。恵王曰はく、「⑭善(よ)し」と。⑮乃(すなは)ち止(や)む。
語注 蚌=どぶがい(二枚貝)。 鷸=しぎ(くちばしの長い鳥)。 曝す=日に当てる。 喙=くちばし。 箝む=はさむ。 肯んず=進んで〜する。 擒ふ=捕らえる。 支ふ=持ちこたえる・にらみ合う。 敝る=疲れる。 大衆=多くの民。 熟計=よくよく考えること。 易水=燕と趙の境を流れる川。 蘇代=燕のために趙王を説得しに来た遊説家。
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設問
A 語句と読み
- ①の「蚌」と②の「鷸」の読みと意味をそれぞれ書け。
- ①の「曝す」の意味を書け。
- ⑧の「擒ふ」の読みと意味を書け。
- ⑬の「熟計」の意味を書け。
- ⑩「久(ひさ)しく相(あ)ひ支(ささ)へ」の「支ふ」のここでの意味を書け。
- ⑮「乃(すなは)ち止(や)む」の意味を書け。
B 句法
- ①の「方に〜す」は何と呼ばれる文字か。読み方も書け。
- ⑨「今(いま)趙(てう)且(まさ)に燕(えん)を伐(う)たんとす」の「且に〜んとす」は何と呼ばれる文字か。読み方と意味も書け。
- ④・⑥の「〜ずんば」は、どのような意味を表すか。
- ⑦の「肯んぜず」の意味を書け。
- ⑪の「敝れしめば」の「しめ」は文法的に何か。意味も書け。
C 何を・誰を指すか
- ②の「其の肉」とは、何の肉か。
- ③の「其の喙」とは、何のくちばしか。
- ⑦の「両者」とは何と何を指すか。
- ⑧の「之」は何を指すか。
D 口語訳
- ②・③「鷸其の肉を啄む。蚌合して其の喙を箝む」
- ④・⑤「今日雨ふらず、明日雨ふらずんば、即ち死蚌有らん」
- ⑧「漁者(ぎよしや)得(え)て之(これ)を并(あは)せ擒(とら)ふ」
- ⑫「臣(しん)強秦(きやうしん)の漁父(ぎよほ)と為(な)らんことを恐(おそ)るるなり」
E 内容・記述
- 蚌と鷸は、なぜ二匹とも漁師に捕まってしまったのか。三十字以内で書け。
- 蘇代は、このたとえ話で当時の国際情勢の何を説明しようとしたのか。蚌・鷸・漁父がそれぞれ何にあたるかを書け。
- ⑭「善し」・⑮「乃ち止む」とあるが、これはどういうことか。簡潔に書け。
- 故事成語「漁夫の利」は、現在どのような意味で使われるか。書け。
F 故事・文学史
- この話の出典の書名を漢字で書け。また、その書物はどのような内容を集めたものか。
- 蘇代は、どの国のために行動しているか。本文から読み取って書け。
- 「漁夫の利」と同じ話からできた、もう一つの言い方を書け。
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解答と解説
▼ 解答・解説を見る
A 語句と読み
問1 蚌=ぼう/どぶがい(二枚貝) 鷸=いつ/しぎ(くちばしの長い鳥)
└ ★毎年ここから出る
問2 日に当てる(甲羅を干す)
問3 とらふ/捕らえる
問4 よくよく考えること
問5 持ちこたえる。にらみ合ったまま動かない。
問6 そこで(燕を討つのを)とりやめた
└ 「乃ち」=そこで・そのまま
B 句法
問7 再読文字「方」/「まさニ〜ス」=ちょうど〜する・今〜したところだ
問8 再読文字「且」/「まさニ〜ントす」=今にも〜しようとする
└ ★①の「方」と混ぜて出る
問9 仮定条件(もし〜ないならば)
└ 「ず」+「ば」が濁った形
問10 どうしても〜しようとしない(進んで〜しない)
└ ×「〜できない」ではない
問11 使役の助動詞「しむ」/〜させる
C 何を・誰を指すか
問12 蚌(どぶがい)の肉
問13 鷸(しぎ)のくちばし
問14 蚌(どぶがい)と鷸(しぎ)
問15 蚌と鷸の両方
D 口語訳
問16 しぎがどぶがいの肉をついばんだ。どぶがいは殻を閉じて、しぎのくちばしをはさんだ。
問17 今日雨が降らず、明日も雨が降らなければ、(水が干上がって)死んだどぶがいができるだろう。
問18 漁師がたやすく、両方いっしょに捕らえてしまった。
問19 私は、強国の秦が(この話の)漁師になるのではないかと恐れるのです。
E 内容・記述
問20 たがいに相手を放そうとせず、争い続けていたから。(二十三字)
問21 蚌と鷸=争い合う燕と趙/漁父=労せずに利益を得る強国の秦
問22 恵王が蘇代の言い分をもっともだと認め、燕を討つのをとりやめたということ。
問23 二者が争っているすきに、第三者が苦労せずに利益を横取りすることのたとえ。
F 故事・文学史
問24 『戦国策』(燕策)/戦国時代の遊説家(説客)の言論・策略を、国ごとに集めた書物
問25 燕(えん)
問26 鷸蚌の争ひ(いつぼうのあらそい)
└ 争った二者のほうから見た言い方
【テスト直前チェック】この三つ
❶再読文字が二つ出る=「方に〜す」(ちょうど〜する)と「且に〜んとす」(今にも〜しようとする)。混ぜて出されます。
❷たとえの対応=蚌と鷸=争う燕と趙/漁父=労せず得をする強国の秦。記述問題はここだけです。
❸「肯んぜず」=どうしても〜しようとしない。「〜できない」ではありません。
現代語訳(全文)
趙は今にも燕を討とうとしていた。蘇代が燕のために(趙の)恵王に言うには、「いま私が参るときに易水を通りましたところ、どぶがいがちょうど出てきて甲羅を干していました。そこへしぎがその肉をついばみました。どぶがいは殻を閉じて、しぎのくちばしをはさみました。しぎが言うには、『今日雨が降らず、明日も雨が降らなければ、(水が干上がって)死んだどぶがいができるだろう』と。どぶがいもまたしぎに言うには、『今日(くちばしが)抜けず、明日も抜けなければ、死んだしぎができるだろう』と。両者はどちらも相手を放そうとしませんでした。(そこへ通りかかった)漁師が、たやすく両方いっしょに捕らえてしまいました。
いま趙は今にも燕を討とうとしています。燕と趙が長くにらみ合って、それによって多くの民を疲れさせるならば、私は、強国の秦が漁師になるのではないかと恐れるのです。どうか王よ、このことをよくよくお考えください」と。恵王は「よろしい」と言って、そこで(燕を討つのを)とりやめた。
※この問題は誰でも古典塾のオリジナルです。本文は古典(著作権の対象外)から正確に引用しています。
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