漢文には、一つの字でいくつもの読み方・働きを持つ「重要助字」があります。たとえば「之」は「の」「これ」と読むだけでなく動詞「ゆク」にもなり、「而」は「しかうして」「しかも」と読む場合と、読まずに置き字となる場合があります。「於・于」「乎」「也」「矣」「焉」などは文末・文中で置き字になることが多く、「以」「与」「其」「所」「者」もそれぞれ複数の用法を持ちます。これらは前後の文脈から読み・意味を判断することが何より大切です。次の各例文について、後の問いに答えよ。
本文
※例文は学習用です。
① 学而時習レ之。(学びて時に之を習ふ)
② 己所レ不レ欲、勿レ施二於人一。(己の欲せざる所、人に施すこと勿かれ)
③ 青取二之於藍一、而青二於藍一。(青は之を藍より取りて、藍より青し)
④ 知レ之者不レ如下好二之一者上。(之を知る者は之を好む者に如かず)
⑤ 学而不レ思則罔。(学びて思はざれば則ち罔し)
⑥ 仁者楽レ山、知者楽レ水。(仁者は山を楽しみ、知者は水を楽しむ)
⑦ 是知也。(是れ知るなり)
⑧ 朝聞レ道、夕死可矣。(朝に道を聞かば、夕べに死すとも可なり)
⑨ 割レ鶏焉用二牛刀一。(鶏を割くに焉んぞ牛刀を用ゐん)
⑩ 王坐二於堂上一。(王、堂上に坐す)
⑪ 以二五十歩一笑二百歩一、則何如。(五十歩を以て百歩を笑はば、則ち何如)
⑫ 吾与レ汝畢レ力平レ険。(吾汝と力を畢くして険を平らげん)
⑬ 苛政猛二於虎一也。(苛政は虎よりも猛なり)
⑭ 吾日三二省三吾身一。(吾日に吾が身を三省す)
設問
- 例文①の傍線部「而」は、訓読でどのように読む(扱う)か。その働きとあわせて答えよ。
- 例文①の傍線部「之」は何を指すか。指示内容を簡潔に答えよ。
- あわせて「之」の読みを答えよ。
- 例文②の傍線部「所」について、次に答えよ。
- 読み(送り仮名を含む)を答えよ。
- 「所不欲」の意味を答えよ。
- 例文②の傍線部「於」の働きとして最も適切なものを次から選べ。
- ア 比較 イ 場所 ウ 対象(受身ではない) エ 起点
- 例文③には「於」が二度出てくる。それぞれの働き(意味)を区別して答えよ。
- 一つ目「取之於藍」の「於」
- 二つ目「青於藍」の「於」
- 例文③の傍線部「而」は読まない置き字である。この「而」が示す前後の関係(順接か逆接か)を答えよ。
- 例文③の傍線部「之」の読みと、指示内容を答えよ。
- 例文④の傍線部「之」(二か所)の読みと、共通する指示内容を答えよ。
- 例文⑥の傍線部「者」の読みと働きを答えよ。
- 例文⑦の傍線部「也」の読みと働きを答えよ。
- 例文⑧の傍線部「矣」について、読むか読まないか、またその働きを答えよ。
- 例文⑨の傍線部「焉」の読み(送り仮名を含む)と働きを答えよ。
- あわせて、この文の意味(現代語訳)を答えよ。
- 例文⑪の傍線部「以」の読み(送り仮名を含む)と意味を答えよ。
- 例文⑫の傍線部「与」の読み(送り仮名を含む)と意味(働き)を答えよ。
- 例文⑬の傍線部「於」の働きを答えよ。あわせて「猛於虎」の意味を答えよ。
- 例文⑤の傍線部「而」の働きを、例文①の「而」と比較して答えよ。
- ①の「而」の働き
- ⑤の「而」の働き
- 例文⑩の傍線部「於」の働きを答えよ。例文③・⑬の「於」と用法が異なる点に注意して答えること。
- 次の例文を書き下し文に改めよ。(返り点・送り仮名にしたがうこと)
- 例文②「己所不欲、勿施於人。」
- 例文④「知之者不如好之者。」
- 次の傍線部を現代語訳せよ。
- 例文⑤「学而不思則罔。」
- 例文⑧「朝聞道、夕死可矣。」
- 「於・于」は置き字として読まれないが、文中では複数の意味を表す。本問の例文に出てきた「於」の用法を、「場所」「比較」「対象」の三つに分類し、それぞれ例文番号を一つずつ挙げて説明せよ。(記述)
- 「之」は文脈によって読みと働きが変わる字である。本問の例文に出てきた「之」のうち、「これ(指示代名詞)」と読むもの以外に、「の」と読む例や動詞「ゆク」と読む例があるかどうかを述べたうえで、「之」が多機能の字であることを、例を挙げて説明せよ。(記述)
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問1 ここでの「而」は順接の置き字で、それ自体は読まず、前の語に送り仮名「て」を付けて「学びて」と読む。働き=順接の接続で、「学ぶ」と「習ふ」をつなぎ、前の動作を受けて次の動作へつなぐ。(※「而」を接続詞として「しかうして」と読む用法もあるが、この文では置き字とするのがふつう。)
問2 「之」は前に出た「学んだ事柄(学んだ内容)」を指す。読みは「これ」。「時に之を習ふ」=折にふれて復習する、の意。
問3 読み=「ところ」。「所不欲」=「(自分が)してほしくないこと・望まないこと」。「所+動詞」で「~するところ(こと・もの)」を表す。
問4 ウ 対象。「施於人」で「人に(対して)施す」と、動作の及ぶ相手(対象)を示す。場所でも比較でもない。なお「於」自体は置き字で読まない。
問5 一つ目「取之於藍」の「於」=起点・出どころ(~より・~から)。「藍より取る」。二つ目「青於藍」の「於」=比較(~より(も))。「藍より青い」。同じ「於」でも前後の語で意味が変わる典型例。
問6 逆接。「藍から取ったのに、(その元の)藍より青い」と、前後が逆の関係でつながる。ここの「而」は読まない置き字で、逆接(しかも・それでいて)を示す。
問7 読み=「これ」。「之を藍より取る」。指示内容は「青(青色の染料)」。
問8 二か所とも読み=「これ」。共通の指示内容は「道(学問・真理)」など、前提となる学ぶ対象。「之を知る者は之を好む者に如かず」。
問9 読み=「もの」。働き=「~する者・~な人」を表す(「仁者」=仁の人、「知者」=知恵のある人)。前の語を受けて「~する人」とまとめる用法。
問10 読み=「なり」。働き=断定。「是れ知るなり」=「これが(本当の)知るということである」。文末で断定を表す。
問11 「矣」は読まない置き字。働き=文末で断定・完了の語気を添える(強い言い切り)。「夕べに死すとも可なり」と読み、「矣」自体は訓読しない。
問12 読み=「いづクンゾ」。働き=反語を表す副詞(疑問詞)。「焉んぞ牛刀を用ゐん(や)」=「どうして牛切り包丁を使う必要があろうか、いや要らない」。意味=「鶏をさばくのに、どうして(大きな)牛切り包丁を使おうか(その必要はない)」。小さな事に大げさな手段は不要、の意。
問13 読み=「もって」。意味=「~でもって・~を用いて・~によって」。「五十歩を以て百歩を笑ふ」=「五十歩逃げた者が百歩逃げた者を(自分の方がましだと)笑う」。手段・理由を表す。
問14 読み=「と」。働き=並列・相手を示す(~と(一緒に))。「吾汝と力を畢くす」=「私はお前と力を尽くして」。ここでの「与」は「あづかる」「くみス」ではなく、「~と」の意。
問15 働き=比較(~より(も))。「猛於虎」=「虎よりも猛々しい・恐ろしい」。「苛政は虎よりも恐ろしい」の意。「於」は読まない置き字。
問16 ①の「而」=順接(学んで、その上で習う)。⑤の「而」=逆接(学んでも思考しなければ)。どちらも読まない置き字で前の語に送り仮名「て」が付くのは同じだが、①は順接、⑤は逆接で、文脈によって順接・逆接が決まる。「学びて思はざれば則ち罔し」。
問17 働き=場所(~に・~で)。書き下しは「王、堂上に坐す」=「王は堂の上に坐る」。③の起点・比較、⑬の比較とは異なり、ここは動作の行われる場所を示す。「於」は読まない置き字。
問18 書き下し文。
例文②=「己の欲せざる所、人に施すこと勿かれ。」
例文④=「之を知る者は之を好む者に如かず。」
問19 現代語訳。
例文⑤=「学んでも(自分で)考えなければ、(知識が身につかず)ぼんやりとして得るものがない。」
例文⑧=「朝に(正しい)道(真理)を聞くことができたなら、その日の夕方に死んでも悔いはない。」
問20 (記述例)「於」の用法を三つに分類すると、
・場所=例文⑩「王坐於堂上」(堂の上に坐る。動作の行われる場所)。
・比較=例文③「青於藍」または⑬「猛於虎」(~より(も)。性質の程度を比べる)。
・対象=例文②「施於人」(人に対して施す。動作の及ぶ相手)。
いずれも「於」は読まない置き字だが、前後の語によって場所・比較・対象などの意味を補って訳す必要がある。
問21 (記述例)本問の例文に出てきた「之」は、①「時習之」、③「取之於藍」、④「知之者・好之者」のいずれも「これ」と読む指示代名詞で、前に出た事柄(学んだ内容・染料の青・学問の対象など)を指している。一方、「之」には本問には出ていないが「君子之道」のように「の」と読んで連体修飾を表す用法や、「之(ゆ)く」と読んで「行く」という動詞になる用法もある。このように「之」は同じ一字でありながら、文脈によって「これ(指示)」「の(連体)」「ゆク(動詞)」と読み・働きが変わる、典型的な多機能の字である。
※この問題は誰でも古典塾オリジナルです。
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