灌頂巻「大原御幸」は、壇ノ浦後に大原の寂光院で隠棲する建礼門院を、後白河法皇が訪ねる場面です。定期テストでは、寂光院の荒廃を雅に描く対句表現、最高敬語(御覧ず・思し召す・御幸)と敬意の方向、花摘みから戻る女院の心情がくり返し問われます。
本文
【冒頭(御幸の決意)】
かかりしほどに、文治二年の春のころ、法皇、建礼門院大原の閑居の御住まひ、御覧ぜまほしう思し召されけれども、如月・弥生のほどは、風はげしく、余寒もいまだつきず。……北祭も過ぎしかば、法皇夜をこめて大原の奥へぞ御幸なる。【寂光院・庵室の描写】
庭の夏草しげりあひ、青柳の糸みだれつつ、池の浮草波にただよひて、錦をさらすかとあやまたる。……甍やぶれては霧不断の香をたき、枢おちては月常住の灯をかかぐ。【老尼(阿波内侍)との対面】
法皇「人やある、人やある」と召されけれども、御いらへ申す者もなし。ややあつて、老い衰へたる尼一人まゐりたり。法皇「これに女院はいづくへ御幸なりぬるぞ」と仰せければ、「この上の山へ、花つみにいらせ給ひてさぶらふ」とぞ申しける。【女院、山を下る】
上の山より、こき墨染めの衣着たる尼二人、岩のかけぢをつたひつつ、おりわづらひ給ひけり。……「花がたみ肘にかけ、岩つつじとりぐしてもたせ給ひたるは、女院にてわたらせ給ひさぶらふなり」とぞ申しける。女院、「かかる御ありさまを見えまゐらせむずらん恥づかしさよ」とて。
問題
- 傍線部「御覧ぜまほしう」の意味を答えよ。また「御覧ず」がどの動詞の敬語かも示せ。
- 傍線部「思し召され」の敬語の種類と、誰への敬意かを答えよ。
- 傍線部「夜をこめて大原の奥へぞ御幸なる」を現代語訳せよ。「御幸」の読みと意味も添えよ。
- 傍線部「甍やぶれては霧不断の香をたき、枢おちては月常住の灯をかかぐ」について、(1)用いられている表現技法、(2)その表す内容を説明せよ。
- 傍線部「いづくへ御幸なりぬるぞ」を現代語訳せよ。ここでの「御幸」は誰の動作か。
- 傍線部「さぶらふ」の敬語の種類と、誰から誰への敬意かを答えよ。
- 傍線部「見えまゐらせむずらん」について、(1)「見え」「まゐらせ」の働きを説明し、(2)女院のどのような心情が表れているか答えよ。
- この「大原御幸」の場面が描こうとしている主題を、簡潔に説明せよ。
解答・解説
問1の解答
「御覧になりたく」。「御覧ず」は「見る」の尊敬語(サ変)で、ここは後白河法皇の動作に対する作者からの敬意。「まほし」は希望の助動詞で、法皇が女院の住まいを見たいとお思いになった、の意。
問2の解答
「思ふ」の尊敬語(最高敬語)で、動作主である後白河法皇への敬意。天皇・上皇級の高貴な人物に用いる語で、「お思いになる」と訳す。作者から法皇への敬意を表す。
問3の解答
「夜がまだ明けきらないうちに、大原の奥へ御幸なさる(お出ましになる)」。「御幸」は「ごかう(ごこう)」と読み、上皇・法皇・女院などの外出をいう尊敬語。人目を忍んで早朝に発たれた様子を表す。
問4の解答
(1)対句。(2)荒れ果てた庵室を、あえて仏道にふさわしい荘厳な場ととらえた表現。屋根瓦が破れて入りこむ霧を絶えず焚く香に、朽ちた扉から差しこむ月光を常にともる灯明に見立て、寂光院の荒廃を仏の道場として雅に描いている。
問5の解答
「どこへおいでになったのか」。ここの「御幸」は建礼門院(女院)の動作で、女院の外出を高めた尊敬表現。法皇が老尼に、女院の行き先を尋ねた言葉。
問6の解答
丁寧語(「あり・をり」の丁寧、ここは補助動詞的に「〜ております」)。老尼(阿波内侍)から、聞き手である後白河法皇への敬意。花摘みにお出になっております、と法皇にかしこまって申し上げている。
問7の解答
(1)「見え」は「見ゆ(見られる・お目にかける)」、「まゐらせ」は謙譲の補助動詞で法皇への敬意を添える。「(法皇に)お見せ申し上げるだろう」の意。(2)落ちぶれ果てた尼姿を、かつての帝に見られることへの深い恥じらいと嘆き。
問8の解答
かつて栄華を極めた平家の中宮・建礼門院が、一門滅亡後に大原で仏に仕える侘しい姿と、それを訪ねる法皇との対面を通して、栄枯盛衰の無常と、亡き一門・安徳天皇を弔い続ける女院の哀切を描く。灌頂巻全体の無常観を象徴する場面である。
👉 本文の現代語訳・語句・文法のくわしい解説は 解説記事 で確認できます。
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