平家物語『那須与一(扇の的)』は、屋島の戦いで源氏の若武者・那須与一が、海上の小舟に立てられた扇の的を射る名場面で、定期テストでも特に頻出の章段です。与一が神仏に祈る言葉、扇が射落とされる描写、敬語や助動詞、そして軍記物語としての無常観などが繰り返し問われます。まずは本文を読み、設問に答え、最後の解答・解説で確認しましょう。あらすじや言葉づかいに不安がある人は、先に平家物語『那須与一(扇の的)』のやさしい解説に目を通しておくと、設問がぐっと解きやすくなります。
本文
与一目をふさいで、「南無八幡大菩薩〔①〕、別しては我が国の神明、日光の権現、宇都宮、那須の湯泉大明神、願はくは、あの扇の真ん中射させてたばせたまへ〔②〕。これを射損ずるものならば、弓切り折り自害して、人に二度面を向かふべからず。いま一度本国へ迎へ〔③〕んとおぼしめさ〔④〕ば、この矢はづさせたまふな。」と心のうちに祈念して、目を見開いたれば、風も少し吹き弱り、扇も射よげにこそなつたりけれ〔⑤〕。
与一鏑(かぶら)を取つてつがひ、よつぴいて〔⑥〕ひやうど放つ。小兵といふぢやう、十二束三伏、弓は強し、浦響くほど長鳴りして、あやまたず扇の要際一寸ばかりおいて、ひいふつとぞ射切つたる。鏑は海へ入りければ、扇は空へぞ上がりける。しばしは虚空にひらめきけるが、春風に一もみ二もみもまれて、海へさつとぞ散つたりける〔⑦〕。
設問
- 本文冒頭で、与一は「目をふさいで」神々に祈り、「心のうちに祈念して」いる。このような与一の様子から読み取れる、与一の祈りの姿勢を説明しなさい。
- 「南無八幡大菩薩」とは、与一が呼びかけている神(八幡神)をたたえる言葉である。冒頭の「南無」はどのような意味か、簡潔に答えなさい。
- 傍線部①「南無八幡大菩薩」とあるが、与一はこの後、八幡大菩薩以下の神々に対してどのような内容を祈っているか。具体的に二点、簡潔に説明しなさい。
- 「別しては我が国の神明」の「別しては」の意味として最も適当なものを、次のア〜エから一つ選びなさい。
ア わざわざ イ とりわけ ウ 別れて エ その上さらに - 「射させてたばせたまへ」の「させ」について、文法的に説明しなさい(助動詞の名称・意味・活用形)。
- 傍線部②「願はくは、あの扇の真ん中射させてたばせたまへ」を現代語訳しなさい。
- 「これを射損ずるものならば、弓切り折り自害して、人に二度面を向かふべからず」という言葉から読み取れる、矢を射る前の与一の心情として最も適当なものを、次のア〜エから一つ選びなさい。
ア 扇を射損じても仕方がないと開き直る、投げやりな気持ち。
イ 失敗すれば命を絶つ覚悟で的に臨む、悲壮な決意。
ウ 平家の兵を多く討ち取ろうとする、勇み立つ気持ち。
エ 味方の期待をうとましく思う、わずらわしい気持ち。 - 「これを射損ずるものならば、弓切り折り自害して、人に二度面を向かふべからず」を現代語訳しなさい。
- 傍線部③「迎へ」、傍線部④「おぼしめさ」について、それぞれ動詞の活用の種類と活用形を答えなさい。また④「おぼしめさ」は誰の動作に対する敬語か、敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)とあわせて答えなさい。
- 「この矢はづさせたまふな」を現代語訳しなさい。また、文末の「な」の文法的な意味を答えなさい。
- 傍線部⑤「扇も射よげにこそなつたりけれ」について、(あ)現代語訳しなさい。(い)この一文は、与一にとってどのような状況になったことを表しているか説明しなさい。
- 傍線部⑤「扇も射よげにこそなつたりけれ」には、係り結びが用いられている。(あ)係りの助詞を抜き出しなさい。(い)結びの語を抜き出し、その活用形を答えなさい。
- 傍線部⑥「よつぴいて」を現代仮名遣いに直し、その意味も答えなさい。
- 傍線部⑥のあとの場面について、(あ)与一が放った鏑(かぶら)は、このあとどうなったか。(い)射切られた扇は、このあとどうなったか。それぞれ本文に即して簡潔に答えなさい。
- 「ひやうど放つ」「ひいふつとぞ射切つたる」のように、本文では矢が放たれ扇を射切る場面が音を表す言葉で生き生きと描かれている。このような、音や声をまねて表した言葉を何というか答えなさい。
- 「小兵といふぢやう、十二束三伏、弓は強し」とあるが、ここから読み取れる与一の人物像として最も適当なものを、次のア〜エから一つ選びなさい。
ア 体は小柄だが、強い弓を引く力のある若武者。
イ 体も大きく、力もない頼りない武者。
ウ 弓よりも刀の扱いにすぐれた武者。
エ 年老いて経験豊かな武者。 - 「あやまたず扇の要際一寸ばかりおいて、ひいふつとぞ射切つたる」の「あやまたず」の意味を答えなさい。
- 傍線部⑦「春風に一もみ二もみもまれて、海へさつとぞ散つたりける」のように、射落とされた扇のはかない様子が印象的に描かれている。このように、栄えていたものもやがて滅び、形あるものはとどまらないという、『平家物語』全体を貫く仏教的なものの見方を何というか、漢字三字で答えなさい。
- 傍線部⑦「春風に一もみ二もみもまれて、海へさつとぞ散つたりける」を現代語訳しなさい。
- 【文学史】『平家物語』について、次の問いに答えなさい。(あ)合戦や武士の活躍を描いた、このような種類の物語を何と呼ぶか答えなさい。(い)『平家物語』が、琵琶を弾きながら語り伝えられたことに関係する、目の不自由な芸能者の呼び名を答えなさい。
- 【文学史】『平家物語』が成立したとされる時代を、次のア〜エから一つ選びなさい。
ア 平安時代 イ 鎌倉時代 ウ 室町時代 エ 江戸時代 - この場面は、源平の合戦の一つを舞台にしている。(あ)この扇の的の場面が描かれる合戦の名を答えなさい。(い)与一はどちらの軍(源氏・平家)に属する武者か答えなさい。
▼ 解答・解説を見る(まず自分で解いてから)
問1 (解答例)目を閉じて雑念を払い、心の中で一心に神々に祈っており、的中をひたすら願う、真剣で必死な姿勢が読み取れる。
<解説>「目をふさいで」は目を閉じること、「心のうちに祈念して」は声に出さず心の中で祈ること。声高に願うのではなく、目を閉じて一心に祈るところに、与一の真剣さ・必死さがよく表れています。
問2 仏(神仏)に深く帰依する・心からおすがりする、という意味。
<解説>「南無」はもとはインドの言葉で、「お従いします・おすがりします」という意味を表します。「南無八幡大菩薩」で「八幡大菩薩さま、どうかおすがり申し上げます」と神仏に呼びかける言い方になります。
問3 (一点目)あの扇の真ん中を射させてください、ということ。(二点目)もし射損じたら自害する覚悟なので、どうかこの矢を外させないでください、ということ。
<解説>与一は「あの扇の真中射させてたばせたまへ」と的中を願い、続けて「この矢はづさせたまふな(=この矢を外させないでください)」と重ねて祈っています。的を射当てたいという一途な願いを、神々にすがって述べている場面です。
問4 イ(とりわけ)
<解説>「別して」は「特に・とりわけ」の意味。八幡大菩薩をはじめとする神々に祈ったうえで、「とりわけ日本の神々よ」と、さらに範囲をしぼって念を押している場面です。「わざわざ(ア)」「別れて(ウ)」「その上さらに(エ)」では意味が通りません。
問5 「させ」は使役の助動詞「さす」の連用形。
<解説>「射させてたばせたまへ」は、「(私に扇を)射させてください」という意味。「させ」は「(神が私に)射ることをさせる」という使役を表し、下に「て」が続くので連用形です。「たばせたまへ」と重ねて、神への強い願いの形になっています。
問6 どうか、あの扇の真ん中を射させてください。
<解説>「願はくは」は「どうか〜してください」と願望を表す言い方。「射させて」の「させ」は使役、「たばせたまへ」は「(神が私に)〜させてくださる」という意味で、「お与えくださいませ・〜させてくださいませ」と訳します。「たまへ」は命令形で、強い願いを込めた表現です。
問7 イ
<解説>「射損ずるものならば、弓切り折り自害して(=もし射損じたら、弓を折って自害して)」「人に二度面を向かふべからず(=二度と人に顔を合わせるわけにはいかない)」という言葉は、失敗すれば命を絶つという、退路を断った悲壮な覚悟を表しています。よってイが正解。ア・エは覚悟の重さに反し、ウは扇の的を射る場面の内容と合いません。
問8 もしこれを射損じるようなことがあれば、弓を折って自害して、二度と人に顔を合わせることはできない。
<解説>「射損ずるものならば」は「もし射損じたなら」、「弓切り折り」は「弓を折って」、「面を向かふべからず」は「顔を合わせることはできない(してはならない)」の意。失敗すれば死ぬという、退路を断った悲壮な覚悟を述べています。
問9 ③「迎へ」=ハ行下二段活用・未然形。④「おぼしめさ」=サ行四段活用・未然形。④は、源氏の神(八幡大菩薩などの神々)の動作に対する敬語で、種類は尊敬語。
<解説>③は下に推量の助動詞「ん(む)」が続くので未然形。「迎ふ」はハ行下二段。④「おぼしめす」は「思ふ」の尊敬語で、ここでは「(神々が)お思いになる」の意。「本国へ迎へんとおぼしめさば(=もう一度故郷へ帰してやろうとお思いになるなら)」と、神の心を敬っています。下に接続助詞「ば」を伴う未然形です。
問10 現代語訳…どうか、この矢を外させないでください。「な」の意味…禁止(〜するな・〜しないでくれ)を表す。
<解説>「はづさせ」は「外させ」で、「(私に)矢を外させる」という使役。文末の「な」は、上の動詞を受けて「〜するな・〜してくれるな」と禁止を表す終助詞です。「この矢を外させないでください」と、神に的中を強く願う言葉になっています。
問11 (あ)扇も射やすそうな状態になったのだった。(い)与一の祈りが通じたかのように風が弱まり、揺れていた扇が静まって、ねらいやすい絶好の状態になったということ。
<解説>「射よげに」は「射やすそうに・射るのによい具合に」の意。「こそ〜けれ」は係り結びで、強調を表します。神に祈った直後に風がやんで扇が射やすくなる、という劇的な場面で、与一の的中への期待が高まる箇所です。
問12 (あ)係りの助詞…こそ (い)結びの語…けれ(活用形=已然形)
<解説>「扇も射よげにこそなつたりけれ」は、係りの助詞「こそ」を受けて、文末が已然形「けれ」で結ばれています。「こそ〜已然形」の係り結びで、扇が射やすくなったことを強調しています。
問13 現代仮名遣い…よっぴいて。意味…弓を十分に引きしぼって。
<解説>「よつぴいて」は「よく引きて」が変化した形で、弓をいっぱいに引き絞る様子を表します。「つぴ」は促音・拗音化しているので、現代仮名遣いでは「よっぴいて」と書きます。
問14 (あ)海へ落ちて入っていった。(い)空へと舞い上がった(そののち、しばらく空中でひらめいてから海へ散り落ちた)。
<解説>「鏑は海へ入りければ、扇は空へぞ上がりける」とあるとおり、矢は海へ落ち、射切られた扇は空高く舞い上がりました。扇はそのあと「しばしは虚空にひらめきける」(しばらく空中でひらひらしていた)あと、海へ散っていきます。
問15 擬音語(擬声語)
<解説>「ひやうど」「ひいふつと」は、矢が放たれる音や、扇を射切る音をまねて表した言葉で、これを「擬音語(擬声語)」といいます。耳に残る音を写すことで、合戦の緊張感や与一の弓の見事さが生き生きと伝わってきます。
問16 ア
<解説>「小兵といふぢやう(=体は小柄だというものの)」「十二束三伏(=矢の長さ。長く力強い矢)」「弓は強し(=弓は強い)」とあり、体は小柄ながら強い弓を引く、力のある若武者として描かれています。よってアが正解。イ・ウ・エは本文の内容と合いません。
問17 ねらいを外さず・的を外さず(少しもあやまることなく)。
<解説>「あやまたず」は「あやまた(=間違える・外す)」+打消「ず」で、「外すことなく・的中して」の意。一寸ほどの所をねらって、ねらい違わず扇の要のきわを射切った、という見事な命中ぶりを表します。
問18 無常観(無常)
<解説>美しく揺れていた扇がひともみされて散っていく描写には、栄えるものもいつかは滅びるという「無常」の感覚がにじみます。『平家物語』冒頭の「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」に示される無常観が、作品全体を貫いています。
問19 (扇は)春風にひともみふたもみ揉まれて、海へさっと散り落ちたのだった。
<解説>「一もみ二もみもまれて」は「ひともみふたもみ揉まれて」、「さつとぞ散つたりける」は「さっと散ったのだった」の意。空に舞い上がった扇が、春風に弄ばれるように揺れて海へ散る、はかなくも美しい名場面です。「ぞ〜ける」は係り結びで強調を表します。
問20 (あ)軍記物語 (い)琵琶法師
<解説>合戦や武士の興亡を描いた物語を「軍記物語」といい、『平家物語』はその代表作です。『平家物語』は、琵琶を弾きながら語る「琵琶法師」によって各地に語り広められました(語り伝えられた形を「語り本」といいます)。
問21 イ(鎌倉時代)
<解説>『平家物語』は鎌倉時代に成立したと考えられている軍記物語です。平安時代末期に起こった源平の争乱を描き、滅びゆく平家のあわれを無常観とともに語っています。
問22 (あ)屋島の戦い (い)源氏
<解説>扇の的の場面は、讃岐国(今の香川県)の屋島で行われた「屋島の戦い」での出来事です。那須与一は源氏方の若武者で、平家方が掲げた扇の的を射るよう命じられ、見事に射落としました。
※この問題はオリジナル作成です(教科書・市販問題集の転載ではありません)。本文は古典原文(著作権の対象外)を用いています。なお、『平家物語』は写本によって本文に異同があり、傍線部⑤は「扇も射よげにぞなつたりける」と表記される本文もあります。お手元の教科書の表記にあわせてお読みください。
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