松尾芭蕉『おくのほそ道』の中でも、藤原三代の栄華の跡をしのぶ「平泉」の段は、定期テストで非常によく出題される名場面です。発句「夏草や兵どもが夢の跡」の季語・切れ字、杜甫の漢詩をふまえた「国破れて山河あり」、そして無常観の理解が問われます。まずは下の本文を読み、設問に答えてみましょう。答え合わせは最後の「解答・解説」でできます。本文の内容や現代語訳を先に確認したい人は、おくのほそ道『平泉』のやさしい解説も読んでおくと、設問がぐっと解きやすくなります。
本文
三代の栄耀(えいよう)一睡のうちにして〔①〕、大門の跡は一里こなたにあり。秀衡(ひでひら)が跡は田野になりて、金鶏山(きんけいざん)のみ形を残す。まづ高館(たかだち)に登れば、北上川、南部より流るる大河なり。衣川は和泉が城を巡りて、高館の下にて大河に落ち入る。泰衡(やすひら)らが旧跡は、衣が関を隔てて南部口をさし固め、夷(えぞ)を防ぐと見えたり。さても、義臣すぐつてこの城にこもり、功名一時(こうみょういちじ)の叢(くさむら)となる。〔②〕
「国破れて山河あり、城春にして草青みたり〔③〕」と、笠打敷きて、時のうつるまで涙を落しはべりぬ。〔④〕
夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡〔⑤〕
卯の花に兼房(かねふさ)見ゆる白毛(しらが)かな 曾良〔⑥〕
設問
- 傍線部①「一睡のうちにして」を、ここでの文脈に合うように現代語訳しなさい。
- 傍線部①「一睡のうちにして」という表現は、藤原氏の歴史についてどのようなことを表しているか、簡潔に説明しなさい。
- 傍線部②「さても、義臣すぐつてこの城にこもり、功名一時の叢となる」を現代語訳しなさい。
- 傍線部④「時のうつるまで涙を落しはべりぬ」を現代語訳しなさい。
- 本文冒頭の「大門の跡は一里こなたにあり」を、「こなた」の意味に注意して現代語訳しなさい。
- 傍線部③「国破れて山河あり、城春にして草青みたり」は、ある中国の詩人の漢詩をふまえた表現である。この詩人の名前と、ふまえられている漢詩の作品名を、それぞれ漢字で答えなさい。
- 問6でふまえられている漢詩の、もとの該当する二句を、書き下し文(訓読でも可)で答えなさい。
- 芭蕉がこの「平泉」の段で、わざわざ中国の詩人の漢詩を引いたのはなぜか。その意図を、平泉の今のありさまにふれて説明しなさい。
- もとの漢詩では「城春にして草木深し」となっている部分を、芭蕉は「城春にして草青みたり」と改めている。芭蕉がこのように言いかえたのはなぜだと考えられるか、説明しなさい。
- 発句⑤「夏草や兵どもが夢の跡」の季語を抜き出し、その季節を答えなさい。
- 発句⑤「夏草や兵どもが夢の跡」の切れ字を抜き出しなさい。
- 発句⑤「夏草や兵どもが夢の跡」の「夢」とは、ここでは具体的に何をたとえているか説明しなさい。
- 発句⑤「夏草や兵どもが夢の跡」にこめられた作者の心情を、目の前の「夏草」の情景と対比させながら説明しなさい。
- 発句⑤の句切れ(初句切れ・二句切れ・句切れなしなど)はどこにあるか答えなさい。
- 傍線部②「すぐつて」について、もとの動詞(終止形)と活用の種類を答えなさい。
- 傍線部④「時のうつるまで涙を落しはべりぬ」の「はべり」の文法的意味(種類)を答えなさい。
- 傍線部④の「落しはべりぬ」の「ぬ」は、文法的にどのような意味の助動詞か(終止形も合わせて)答えなさい。
- 本文中の「三代の栄耀」とは、だれの三代にわたる栄華を指すか。一族の名を漢字で答えなさい。
- 本文中の「功名」の読みと意味を答えなさい。
- 芭蕉が傍線部④で涙を落としたのはなぜか、この段の内容(栄えたものの今のありさま)をふまえて説明しなさい。
- 発句⑥「卯の花に兼房見ゆる白毛かな」の作者を本文中から抜き出し、「卯の花」と「白毛(白髪)」がどのような点で重ね合わされているか説明しなさい。
- この「平泉」の段全体を通して芭蕉が感じ取っている、人の世のはかなさをいう仏教的なものの見方を、漢字三字の語で答えなさい。
- 【文学史】『おくのほそ道』の作者名を漢字で答えなさい。
- 【文学史】『おくのほそ道』のように、旅の体験を俳句(発句)をまじえてつづった文章のジャンルを何と呼ぶか答えなさい。
- 【文学史】『おくのほそ道』が成立したのは何時代か答えなさい。
▼ 解答・解説を見る(まず自分で解いてから)
問1 「(藤原三代の栄華は)ひと眠りの夢のうちのことであって」。
問2 藤原清衡・基衡・秀衡の三代、約百年にわたって続いた栄華も、今ではひと眠りの夢のように、あっけなく消えてしまった、というはかなさ(無常)を表している。
問3 「それにしても、(義経が)すぐれた家臣を選りすぐってこの城にたてこもり、(けれども)手柄も一時のことで、(今は)草むらとなっている」。
問4 「(涙が流れる)時が移っていくほど長い間、涙を落としました」。「時のうつるまで」は「時間がたつのも忘れるほど(ずっと)」の意。
問5 「(昔の)大門の跡は、(ここから)一里ほどこちら側(手前)にある」。「こなた」は「こちら側・手前」の意。
問6 詩人…杜甫(とほ)。 作品名…春望(しゅんぼう)。
問7 もとの二句…「国破れて山河在り、城春にして草木深し」(国破山河在 城春草木深)。
問8 戦乱で都が荒れ果てても自然だけは変わらず残る、という杜甫の嘆きを引くことで、栄華をきわめた平泉も今は荒れ、自然(山河・草)だけが昔のまま残っているという無常の感慨を重ね合わせるため。
問9 目の前に青々と生い茂る夏草の情景に合わせるため。漢詩の「草木深し」よりも、夏草が青く茂る今の平泉のようすが、より具体的に思いうかぶように言いかえている。
問10 季語…「夏草」 季節…夏。
問11 切れ字…「や」。
問12 義経主従や藤原氏の武士たちが思いえがいた、栄華や手柄(功名)への野望・はかない望みをたとえている。
問13 かつて武士たちが功名を夢見て戦ったこの場所も、今はただ夏草が青々と生い茂るばかり。栄えた者の夢があとかたもなく消え去ったはかなさ・無常を、生い茂る夏草と対比して、しみじみとよんでいる。
問14 初句切れ。切れ字「や」のある初句「夏草や」のあとで、いったん大きく句が切れている。
問15 もとの動詞…「すぐる(選る)」(終止形)。 活用の種類…ラ行四段活用。(「すぐり」が促音便になって「すぐつて」となっている。)
問16 丁寧の補助動詞(丁寧語)。「(涙を)落としました」と、読者に対してていねいに述べている。
問17 完了の助動詞「ぬ」(終止形「ぬ」)。「(涙を)落とした・落としてしまった」という意味を表す。
問18 藤原氏(奥州藤原氏)。清衡・基衡・秀衡の三代を指す。
問19 読み…「こうみょう」。 意味…手柄を立てて名をあげること。また、その手柄。
問20 かつて源義経主従が忠義を尽くして戦い、藤原氏が栄華をきわめたこの地も、今ではただ夏草が生い茂る古戦場の跡となってしまった。その栄枯盛衰・人の世のはかなさに、深く心を打たれたから。
問21 作者…曾良(そら)。 重ね合わせ…白く咲く「卯の花」を、義経の忠臣・増尾兼房の白髪(白毛)に見立てている。白い花と白髪という色の共通点によって、老武者兼房が奮戦する姿を、今もまぼろしのように思い起こしている。
問22 無常観(むじょうかん)。(「無常」でも可。)この世のすべては移り変わり、栄えたものも必ず滅びる、というはかなさを見つめる見方。
問23 松尾芭蕉(まつおばしょう)。
問24 俳諧紀行文(はいかいきこうぶん)。(「紀行文」でも可。)
問25 江戸時代(元禄期)。
※この問題はオリジナル作成です(教科書・市販問題集の転載ではありません)。本文は古典原文(著作権の対象外)を用いています。
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