宇治拾遺物語の中でも、教科書・定期テストの超頻出教材が『絵仏師良秀(家の焼くるを見て喜ぶこと)』です。自分の家が焼けていくのを見て、笑いながら「もうけものだ」と言い放つ絵師の姿は、芸術家の凄まじい執念を描いた説話として知られています。このページでは、本文の原文・現代語訳・文法・語句・内容理解・文学史まで、定期テストで問われやすいポイントを20問以上の設問にまとめました。まずは本文を読み、解説が必要な人は 宇治拾遺物語のやさしい解説 もあわせて確認してから、設問に挑戦してみてください。
本文
これも今は昔、絵仏師良秀〔①〕といふ〔②〕ありけり〔③〕。家の隣より火出で来て、風おしおほひてせめければ、逃げ出でて大路へ出でにけり〔④〕。人の書かする仏もおはし〔⑤〕けり。また、衣着ぬ妻子なども、さながら内にありけり。それも知らず、ただ逃げ出でたるをことにして、向かひのつらに立てり。
見れば、すでにわが家に移りて、けぶり・炎くゆりけるまで、おほかた、向かひのつらに立ちてながめければ、「あさまし〔⑥〕きこと。」とて、人ども来とぶらひけれど、騒がず。「いかに〔⑦〕。」と人言ひければ、向かひに立ちて、家の焼くるを見て、うちうなづき〔⑧〕て、ときどき笑ひけり。
「あはれ、しつるせうとくかな〔⑨〕。年ごろはわろく〔⑩〕書きけるものかな。」と言ふ時に、とぶらひに来たる者ども、「こはいかに、かくては立ちたまへるぞ。あさましきことかな。もののつきたまへるか〔⑪〕。」と言ひければ、「なんでふ〔⑫〕もののつくべきぞ。年ごろ不動尊の火炎をあしく書きけるなり〔⑬〕。今見れば、かうこそ燃えけれ〔⑭〕と、心得つるなり。これこそせうとくよ。この道を立てて世にあらむ〔⑮〕には、仏だによく書きたてまつら〔⑯〕ば、百千の家もいできなん〔⑰〕。わたうたちこそ、させる能もおはせ〔⑱〕ねば、ものをも惜しみたまへ。」と言ひて、あざ笑ひてこそ立てり〔⑲〕けれ。
そののちにや、良秀がよぢり不動〔⑳〕とて、今に人々愛で合へり。
設問
- 『宇治拾遺物語』について、次の問いに答えなさい。
- (1) 成立した時代を次から選びなさい。〔 奈良時代 ・ 平安時代 ・ 鎌倉時代 ・ 江戸時代 〕
- (2)『宇治拾遺物語』のように、民間に伝わる話や仏教にまつわる話などを集めた、この種の文学のジャンル名を漢字で答えなさい。
- (3) 本文冒頭の「これも今は昔」のように、この種の作品の話の多くが用いる、決まり文句の書き出しを答えなさい。
- 傍線〔①〕「絵仏師」とはどのような人物か。本文全体をふまえて、職業がわかるように現代語で説明しなさい。
- 傍線〔②〕「いふ」、傍線〔③〕「ありけり」について、次の問いに答えなさい。
- (1) この一文「絵仏師良秀といふありけり」を現代語訳しなさい。
- (2)「いふ」の下には、本来あるべき語が省略されている。補うのに最も適切な一語を答えなさい。
- 傍線〔③〕「ありけり」の「けり」について、次の問いに答えなさい。
- (1) 文法的な意味(助動詞の種類)を答えなさい。
- (2) 終止形を答えなさい。
- (3) この「けり」と同じ意味・用法で使われている「けり」を、本文中の波線部以外からもう一つ抜き出しなさい。
- 傍線〔④〕「出でにけり」を単語に分け、それぞれの品詞・活用形を説明したうえで、現代語訳しなさい。特に「に」が何かを明らかにすること。
- 傍線〔⑤〕「おはし」について、次の問いに答えなさい。
- (1) 何という動詞が活用したものか、終止形(基本形)で答えなさい。
- (2) 敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧のいずれか)を答えなさい。
- (3) ここでは誰(何)に対する敬意か。動作の主体をふまえて答えなさい。
- 傍線〔⑥〕「あさまし」の、ここでの意味として最も適切なものを次から選びなさい。
- ア あさはかだ イ 驚きあきれる ウ みすぼらしい エ 恥ずかしい
- 傍線〔⑦〕「いかに」は、ここではどのような気持ちでかけられた言葉か。話しかけた人々の心情がわかるように、現代語で説明しなさい。
- 傍線〔⑧〕「うちうなづきて」の「うち」について、文法的に説明しなさい(品詞と働き)。
- 良秀は、自分の家が焼けていくのを見て「ときどき笑ひけり」とある。良秀はなぜ笑ったのか。その理由を本文に即して説明しなさい。
- 傍線〔⑨〕「しつるせうとくかな」について、次の問いに答えなさい。
- (1)「しつる」を単語に分け、含まれる助動詞「つ」の意味と活用形を答えなさい。
- (2)「せうとく(所得)」とはここではどのような意味か、現代語で答えなさい。
- (3) 文末の「かな」の意味(種類)と、ここでの心情を答えなさい。
- 傍線〔⑩〕「わろく」の終止形と、ここでの意味を答えなさい。また、現代語の「悪い(わるい)」との意味の違いにも触れなさい。
- 傍線〔⑪〕「もののつきたまへるか」を現代語訳しなさい。また、ここでの「もの」は具体的に何を指すか説明しなさい。
- 傍線〔⑫〕「なんでふ」の意味として最も適切なものを次から選び、記号で答えなさい。
- ア なんという(感嘆) イ どうして〜か、いや〜ない(反語) ウ なるほど エ たいへんな
- 傍線〔⑬〕「あしく書きけるなり」の「なり」について、文法的意味(助動詞の種類)と終止形を答えなさい。また、「あしく」の終止形も答えなさい。
- 傍線〔⑭〕「かうこそ燃えけれ」について、次の問いに答えなさい。
- (1)「かう」をすべてひらがなの現代仮名遣いに直しなさい。
- (2) この部分には係り結びが用いられている。係りの助詞と、それを受けて結びとなっている語を抜き出しなさい。
- (3) なぜ文末が終止形「けり」ではなく「けれ」になっているのか、理由を説明しなさい。
- 傍線〔⑮〕「あらむ」の「む」の文法的意味として最も適切なものを次から選びなさい。
- ア 意志 イ 推量 ウ 仮定・婉曲 エ 勧誘
- 傍線〔⑯〕「書きたてまつら(ば)」の「たてまつら」について、敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)と、誰に対する敬意かを答えなさい。
- 傍線〔⑰〕「いできなん」を単語に分け、「な」「ん(む)」の助動詞の意味をそれぞれ答えたうえで、現代語訳しなさい。
- 「わたうたちこそ、させる能もおはせねば、ものをも惜しみたまへ。」という良秀の言葉には、見舞いに来た人々に対するどのような気持ちが表れているか。簡潔に説明しなさい。
- 傍線〔⑲〕「あざ笑ひてこそ立てりけれ」について、係り結びを成立させている係りの助詞を抜き出し、結びの語の活用形を答えなさい。
- 傍線〔⑳〕「よぢり不動」とは何か。本文の内容をふまえて、現代語で説明しなさい。
- 傍線〔⑱〕「おはせ(ね)」について、次の問いに答えなさい。
- (1)「おはせ」の終止形(基本形)を答えなさい。
- (2) 直後の「ね」は何の助動詞か、意味と終止形を答えなさい。
- この話における良秀の人物像について、最も適切なものを次から選び、記号で答えなさい。
- ア 家族思いで、財産を何よりも大切にする常識的な人物
- イ 自分の絵の技術の向上のためなら、家族や財産の損失さえ気にしない芸術一筋の人物
- ウ 火事に動転し、何を言っているのか自分でもわからなくなった人物
- エ 世間の評判を気にして、悲しみを隠して笑ってみせた見えっぱりな人物
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問1
(1) 鎌倉時代
(2) 説話(説話集/説話文学)
(3) 今は昔(「今は昔、〜」)
〔解説〕『宇治拾遺物語』は鎌倉時代前期に成立した説話集。世俗の話・仏教の話・滑稽な話などを幅広く収める。多くの話が「今は昔」という決まり文句で始まる(本文も「これも今は昔」)。同じく「今は昔」で始まる説話集に平安時代の『今昔物語集』があり、内容の重なる話も多い。
問2 仏(特に仏画)を専門に描く絵師(画家)。
〔解説〕「絵仏師」=絵を描く仏師、すなわち仏や仏画を専門に描く職業の絵師。本文でも「不動尊の火炎」を描くと述べており、仏画の専門家であることがわかる。
問3
(1)(訳)これも今となっては昔のことだが、絵仏師良秀という者がいた。
(2) 者(人)
〔解説〕「良秀といふ(者)ありけり」と、「いふ」の下に体言「者(人)」が省略されている。説話の人物紹介によくある形。
問4
(1) 過去(の助動詞)。
(2) けり
(3)(例)「(火)出で来て」…ではなく過去の助動詞「けり」を抜き出す。例:「大路へ出でにけり」「人の書かする仏もおはしけり」「うなづきて、ときどき笑ひけり」などの「けり」。
〔解説〕「けり」は過去(〜た/〜たそうだ)を表す助動詞。地の文で過去の事実を語るのに繰り返し用いられている。終止形も「けり」。
問5 「出で(動詞「出づ」連用形)/に(完了の助動詞「ぬ」連用形)/けり(過去の助動詞「けり」終止形)」。(訳)大通りへ逃げ出てしまった。
〔解説〕「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形で、「〜てしまった」と訳す。連用形「に」+「けり」の形は「〜てしまった」という意味になる頻出パターン。断定の「なり」の連用形「に」と混同しないこと。
問6
(1) あり(おはす=「あり」「居り」の尊敬語)。
(2) 尊敬。
(3) 仏(人が描かせ申し上げた仏像)に対する敬意。
〔解説〕「おはし」は「おはす」の連用形で、「あり・居り」の尊敬語。ここでは「仏(仏像)」がいらっしゃった、という意味で、仏に対する敬意を表す。
問7 イ(驚きあきれる)。
〔解説〕古語「あさまし」は、よいことにも悪いことにも使い、予想外のできごとに「驚きあきれる・意外だ」の意。ここは家が焼けるのに騒がない良秀を見た人々が「驚きあきれたことだ」と言っている。現代語の「あさましい(卑しい・見苦しい)」とは意味が異なる。
問8 燃えている自分の家の前で平然と立っている良秀に対し、「いったいどうしたのか(なぜ騒がないのか)」と、その異様な様子をいぶかしみ、心配する気持ち。
〔解説〕「いかに」は「どんなふうに・どうして」の意の副詞。ここでは事情を問いただす言葉。
問9 接頭語。動詞「うなづく」の上に付いて語調を整え、「ちょっと・ふと」といった軽い意味を添える。
〔解説〕「うち〜」は動詞に付く接頭語で、動作が軽く行われる感じを添える。「うちうなづく」で「(軽く)うなずく」。
問10 これまで自分は不動尊の火炎を下手に描いていたが、目の前で実際に燃える炎を見て、炎が本当はどのように燃えるのか(描き方)がわかった。これで上手に描けるようになる、もうけものだ、と思ったから。
〔解説〕良秀の関心は、燃える家や家族ではなく「炎をどう描くか」という絵の技術に向いている。実物の炎を観察できたことを喜んで笑った。
問11
(1) 「し(サ変動詞「す」連用形)/つる(完了の助動詞「つ」連体形)」。「つ」は完了(〜た・〜てしまった)の意。活用形は連体形(下の「せうとく」=体言に続くため)。
(2) もうけもの・利益・得をしたこと。
(3) 「かな」は詠嘆の終助詞。ここでは「(思いがけない)もうけものをしたものだなあ」という、喜び・感嘆の気持ち。
〔解説〕家が焼けたのに「しつるせうとくかな(もうけものをしたなあ)」と言うところに、良秀の常識を超えた価値観が表れる。
問12 終止形「わろし」。意味は「下手だ・よくない・出来がよくない」。
〔解説〕「わろし」は「よくない・劣っている」で、絶対的な悪ではなく「(基準より)見劣りする・下手だ」というニュアンス。現代語の「悪い(わるい)」よりも程度が軽く、「悪し(あし)」(本当に悪い・下手だ)との対比で覚えるとよい。ここは「今までは(自分の絵は)下手に描いていたものだなあ」の意。
問13 (訳)物の怪(もののけ)でも取りついていらっしゃるのか。
「もの」=物の怪・悪霊。
〔解説〕「もの」はここでは正体の知れない霊的存在(物の怪)を指す。家が焼けても平然と笑う良秀の異常さを見て、「何かに取りつかれたのではないか」と人々が疑った言葉。「たまへ」は尊敬語で、良秀に対する敬意。
問14 イ(どうして〜か、いや〜ない=反語)。
〔解説〕「なんでふ(なんでう)」は「なにといふ」が変化した語で、ここでは「どうして物の怪などが取りつくものか、いや取りつくはずがない」という反語。良秀が人々の疑いを強く否定している。
問15 「なり」…断定の助動詞、終止形「なり」。「あしく」…終止形「あし」。
〔解説〕「書きけるなり」の「なり」は、活用語の連体形(「ける」)に接続しており、断定(〜のだ・〜のである)の助動詞。「あしく」は形容詞「あし」(悪い・下手だ)の連用形で、「わろし」より強く「下手だ・劣っている」の意。
問16
(1) こう
(2) 係りの助詞「こそ」/結びの語「けれ」
(3) 係りの助詞「こそ」を受けて、文末が已然形「けれ」で結ばれているから(係り結びの法則)。
〔解説〕「かう(歴史的仮名遣い)」→「こう(現代仮名遣い)」。「こそ〜已然形」は係り結びの基本。「燃えけれ」の「けれ」は過去の助動詞「けり」の已然形。「今見ると、(炎は)こう燃えるのだなあ」と納得した、の意。
問17 ウ(仮定・婉曲)。
〔解説〕「世にあらむには」は「世に(絵師として)生きていくには」の意で、「む」は下に体言相当(「には」)が続く仮定・婉曲(〜としたら、その場合)の用法。文末で意志・推量になる「む」と区別する。
問18 謙譲(語)。仏(描き申し上げる対象である仏)に対する敬意。
〔解説〕「たてまつる」は「(〜し)申し上げる」という謙譲の補助動詞。「書きたてまつる」で「お描き申し上げる」。動作の受け手である仏への敬意を表す。
問19 「いで来(カ変動詞「いで来(く)」連用形)/な(完了〈強意〉の助動詞「ぬ」未然形)/ん(=む。推量の助動詞「む」終止形)」。(訳)(百も千もの家が)きっと出てくるだろう(建つだろう)。
〔解説〕「な+む(ん)」は「きっと〜だろう・〜てしまうだろう」と訳す強意(確述)+推量の形。「な」は完了の助動詞「ぬ」の未然形だが、ここでは「きっと(〜だろう)」と確信を強める働き。「絵さえうまければ、家など百でも千でも建つ」という良秀の自信を表す。
問20 見舞いに来た人々を、「お前たちには(自分のような)これといった才能もないのだから、(私と違って)財産を惜しむのも当然だ」と見下し、あざける(皮肉る)気持ち。
〔解説〕自分は絵の腕さえあれば財産はいくらでも得られると考え、財を惜しむ常識的な人々を、才能のない者として軽んじている。芸術家としての強烈な自負が表れた言葉。
問21 係りの助詞「こそ」。結びの語「立てりけれ」は已然形。
〔解説〕「あざ笑ひてこそ立てりけれ」も「こそ〜已然形」の係り結び。「けれ」は過去「けり」の已然形。最後まで平然と、むしろあざ笑って立っていた良秀の姿で話が締めくくられる。
問22 良秀が描いた、身をよじったような姿の不動明王の絵(不動明王像)のこと。良秀はこの家の火事で見た炎をもとに不動尊の火炎をうまく描けるようになり、その評判の高い不動の絵が「よぢり不動」と呼ばれて後世まで人々に賞賛された。
〔解説〕「よぢり不動」は良秀の代表作とされる不動明王図。家を犠牲にしてまで得た「炎の写実」が名画を生んだ、という結びになっている。
問23
(1) おはす(「あり・居り」の尊敬語)。
(2) 打消の助動詞「ず」、終止形「ず」(「ね」は「ず」の已然形)。
〔解説〕「させる能もおはせねば」=「これといった才能もおありでないので」。「おはせ」は「おはす」の未然形、「ね」は打消「ず」の已然形で、「〜ねば(已然形+ば)」は「〜ので」と順接で訳す。見舞客に対する皮肉まじりの敬語。
問24 イ。
〔解説〕良秀は、家が焼け、家族や財産を失ってもそれを嘆くどころか、絵の技術が上がることを喜んでいる。芸術(仏画)の道に異常なまでに執着する人物像が描かれている。
※この問題はオリジナル作成です(教科書・市販問題集の転載ではありません)。本文は古典原文(著作権の対象外)を用いています。
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