「有名な漢詩は一通り覚えたはずなのに、テストに知らない詩が出た」——そんな経験はありませんか。漢詩には、李白や杜甫ほど名前は派手でなくても、教科書や定期テストでよく出る名作がいくつもあります。
この記事でわかること:教科書に出るのに見落とされがちな漢詩5首(杜牧『山行』・王翰『涼州詞』・張継『楓橋夜泊』・王之渙『登鸛鵲楼』・賈島『尋隠者不遇』)を、白文(もとの漢字)・書き下し文・現代語訳・形式・押韻・名句の味わい方まで、ひとつずつやさしく解説します。読み終わるころには、「漢詩の取りこぼし」がぐっと減っているはずです。
※ 李白『静夜思』『早発白帝城』、杜甫『春望』『絶句』、王維『送元二使安西』、孟浩然『春暁』、柳宗元『江雪』などの定番は、それぞれ別記事でくわしく解説しています。本記事は、その「すきま」をうめる5首をまとめました。
はじめに:漢詩を読む前の小さな準備
本文に入る前に、これから何度も出てくる用語だけ、かんたんに確認しておきましょう。むずかしく考えなくて大丈夫です。
- 絶句(ぜっく)……4つの句(行)でできた詩。1句が5字なら五言絶句、7字なら七言絶句です。
- 律詩(りっし)……8つの句でできた、絶句より長い詩。今回の5首はすべて絶句です。
- 押韻(おういん)……句の最後に、同じひびき(音)の字をそろえる決まり。歌でいう「韻をふむ」こと。七言絶句は第1・2・4句の終わり、五言絶句は原則として第2・4句の終わりでそろえます。
- 書き下し文(かきくだしぶん)……漢字だけの中国語(白文)を、日本語の語順・かなづかいで読めるように直した文のことです。
押韻の字は、声に出して読むと「あ、たしかに音が似ている」と感じられます。各詩で「どの字がそろっているか」に注目してみてください。それだけで、漢詩がぐっと身近になります。
1.杜牧『山行』──二月の花よりも紅い、晩秋のもみじ
作者:杜牧(とぼく、803〜852)。晩唐(とうの終わりごろ)を代表する詩人で、すっきりと美しい絶句の名手として知られます。
白文・書き下し文・現代語訳
| 白文 | 書き下し文 |
|---|---|
| 遠上寒山石径斜 | 遠く寒山に上れば 石径(せきけい)斜めなり |
| 白雲生処有人家 | 白雲生ずる処(ところ) 人家(じんか)有り |
| 停車坐愛楓林晩 | 車を停(と)めて 坐(そぞ)ろに愛す 楓林(ふうりん)の晩(くれ) |
| 霜葉紅於二月花 | 霜葉(そうよう)は 二月(にぐわつ)の花よりも紅(くれな)ゐなり |
現代語訳:
- 遠く、晩秋のさびしい山を登っていくと、石ころの多い小道が斜めにうねって続いている。
- 白い雲のわき立つあたりに、ぽつんと人家が見える。
- 私は車を停めて、なんとなく心ひかれるまま、夕暮れのかえでの林に見とれている。
- 霜にあたって赤く色づいた葉は、春二月の花よりも、ずっと紅(あか)い。
※語句のメモ:「寒山」は寒々とした晩秋の山。「坐(そぞろに)」は「これといった理由もなく・なんとなく」という意味で、ここが詩のやわらかさの肝です。「二月」は旧暦の二月、つまり花の咲く春のこと。なお、第2句は「白雲生処」を本文とする教科書が一般的ですが、「白雲深処」とする本もあります。
形式・押韻
- 形式:七言絶句
- 押韻:第1句「斜」・第2句「家」・第4句「花」(七言絶句の決まりどおり、第1・2・4句でそろっています)
名句の味わい方
この詩の見せ場は、最後の一句「霜葉は二月の花よりも紅なり」です。ふつう「いちばん美しいのは春の花」と思われがちですが、杜牧は「いや、秋のもみじのほうが、春の花よりも紅い」と言いきりました。枯れていくはずの秋に、春以上の美しさを見つける——この発想の転換が、この詩を名作にしています。「霜にあたって色づく」という、ふつうなら冷たさを感じさせる出来事を、いちばんの美しさへとひっくり返しているのです。
2.王翰『涼州詞』──酔って砂漠にたおれても、笑わないでくれ
作者:王翰(おうかん、687〜726ごろ)。盛唐(とうの最盛期)の詩人です。この詩は、国境の砂漠地帯に送られた兵士の心をうたった辺塞詩(へんさいし=国境・戦場をうたう詩)の名作として知られます。
白文・書き下し文・現代語訳
| 白文 | 書き下し文 |
|---|---|
| 葡萄美酒夜光杯 | 葡萄(ぶだう)の美酒 夜光(やくわう)の杯(はい) |
| 欲飲琵琶馬上催 | 飲まんと欲すれば 琵琶(びは)馬上に催(うなが)す |
| 酔臥沙場君莫笑 | 酔(ゑ)ひて沙場(さぢやう)に臥(ふ)すも 君笑ふこと莫(な)かれ |
| 古来征戦幾人回 | 古来(こらい)征戦(せいせん) 幾人(いくにん)か回(かへ)る |
現代語訳:
- ぶどうから造った見事な酒が、玉でできた光るさかずきに注がれている。
- さあ飲もうとすると、馬の上で鳴る琵琶の音が、「早く飲め」とせきたてるようだ。
- 酔っぱらって砂漠の戦場にたおれ伏したとしても、君よ、どうか笑わないでくれ。
- 昔から、戦に出ていって、いったい何人が生きて帰れただろうか。
※語句のメモ:「夜光杯」は、暗がりでも光るとされた、玉で作った高級なさかずき。「沙場」は砂漠の戦場。「君笑ふこと莫かれ」は「笑ってくれるな」という呼びかけ、「莫かれ」は禁止を表します。
形式・押韻
- 形式:七言絶句
- 押韻:第1句「杯」・第2句「催」・第4句「回」
名句の味わい方
この詩のすごさは、はなやかな宴会の場面が、最後の一句でがらりと色を変えるところです。前半は、美酒・光るさかずき・琵琶の音と、まるで楽しい酒盛りのよう。ところが最後に「昔から、戦に出て何人が帰れただろうか」と問いかけた瞬間、その明るさの裏に「どうせ生きては帰れないかもしれない」という覚悟がにじみます。陽気にふるまうほど、かえって戦場の悲しさが胸にせまる——この明と暗の落差こそ、この詩が長く読みつがれてきた理由です。
3.張継『楓橋夜泊』──眠れぬ夜にひびく、寒山寺の鐘
作者:張継(ちょうけい)。生まれた年・亡くなった年ははっきり分かっていませんが、753年に科挙(官僚になる試験)に合格した、盛唐から中唐ごろの人です。多くの詩は伝わっていませんが、この一首で名を残しました。
白文・書き下し文・現代語訳
| 白文 | 書き下し文 |
|---|---|
| 月落烏啼霜満天 | 月落ち烏(からす)啼(な)きて 霜(しも)天に満つ |
| 江楓漁火対愁眠 | 江楓(かうふう)漁火(ぎよくわ) 愁眠(しうみん)に対す |
| 姑蘇城外寒山寺 | 姑蘇(こそ)城外(じやうぐわい)の寒山寺(かんざんじ) |
| 夜半鐘声到客船 | 夜半(やはん)の鐘声(しようせい) 客船(かくせん)に到(いた)る |
現代語訳:
- 月は沈み、からすが鳴いて、霜の冷気が空いっぱいに満ちている。
- 川辺のかえでと、漁船のいさり火が、眠れずにいる私の目の前にちらついている。
- 蘇州(そしゅう)の町はずれにある、あの寒山寺から、
- 真夜中をつげる鐘の音が、旅の私の乗る舟まで聞こえてくる。
※語句のメモ:「江楓」は川辺のかえで。「漁火」は漁をする舟の明かり。「愁眠」は心配ごとがあって眠れないこと。「姑蘇」は蘇州(中国・江南の町)の古い呼び名。「客船」は旅人(=作者)の乗る舟です。
形式・押韻
- 形式:七言絶句
- 押韻:第1句「天」・第2句「眠」・第4句「船」
名句の味わい方
この詩は、音と光だけで、旅先の孤独を描ききったのが見事です。月は沈み(光が消え)、からすが鳴き(音)、霜が満ち(冷たさ)、漁火がちらつく(光)——まず目と耳を静かにとぎすませます。そして最後に「夜半の鐘声、客船に到る」。しずまり返った真夜中に、遠い寺の鐘がひとつ、ふっと舟まで届く。その一音が、かえって夜の静けさと、ひとり旅の心細さを深くしているのです。にぎやかなことを何も言わずに、しんとした寂しさを伝える——漢詩の「余韻」を味わうのにぴったりの一首です。
4.王之渙『登鸛鵲楼』──もう一階上れば、千里の景色が見える
作者:王之渙(おうしかん、688〜742)。盛唐の詩人で、雄大な景色をうたった作品で知られます。この詩は、黄河のほとりに建つ「鸛鵲楼(かんじゃくろう)」という高い建物に登ったときの一首です(「鸛雀楼」とも書きます)。
白文・書き下し文・現代語訳
| 白文 | 書き下し文 |
|---|---|
| 白日依山尽 | 白日(はくじつ)山に依(よ)りて尽(つ)き |
| 黄河入海流 | 黄河(くわうが)海に入りて流る |
| 欲窮千里目 | 千里の目を窮(きは)めんと欲(ほつ)し |
| 更上一層楼 | 更に上る 一層(いつそう)の楼(ろう) |
現代語訳:
- かがやく太陽が、山にもたれかかるようにして沈んでいき、
- 黄河は、海へと注ぎこむ勢いで流れていく。
- はるか千里のかなたまで見わたしたいと思って、
- 私は、もう一階、上の階へと登っていく。
※語句のメモ:「白日」はかがやく太陽。「依山」は山に寄りそうように、の意。「窮千里目」は「千里の目を窮む=はるか遠くまで見つくす」。「一層楼」は楼閣(高い建物)の一つ上の階のことです。
形式・押韻
- 形式:五言絶句
- 押韻:第2句「流」・第4句「楼」(五言絶句なので、原則どおり第2・4句でそろい、第1句はふみません)
名句の味わい方
前半2句は、沈む夕日と流れる黄河という、雄大な景色をぴたりと対(つい)にして並べています(このように形・意味をそろえて並べる技を「対句(ついく)」といいます)。そして読みどころは後半の「千里の目を窮めんと欲して、更に上る一層の楼」。もっと遠くまで見たいなら、もう一段、上に登ればいい——景色をよむうたでありながら、「目標を高くもち、さらに努力を重ねよう」という前向きな励ましの言葉としても読まれ、今も中国でとても親しまれています。短い五言絶句の中に、大きな景色と人生の教えを同時にこめた、みごとな一首です。
5.賈島『尋隠者不遇』──雲が深くて、先生のいる場所はわからない
作者:賈島(かとう、779〜843)。中唐の詩人で、一字一句をとことん練り上げる作風で知られます。じつは「推敲(すいこう)」という言葉は、この賈島が「門を推(お)す」とするか「敲(たた)く」とするか迷った話から生まれました(くわしくは故事成語『推敲』の記事をどうぞ)。
白文・書き下し文・現代語訳
| 白文 | 書き下し文 |
|---|---|
| 松下問童子 | 松下(しようか) 童子(どうじ)に問ふ |
| 言師採薬去 | 言ふ 師は薬を採(と)りに去(い)ると |
| 只在此山中 | 只(た)だ此(こ)の山中に在(あ)らん |
| 雲深不知処 | 雲深くして 処(ところ)を知らず |
現代語訳:
- 松の木の下で、(隠者に仕える)子どもにたずねてみた。
- 子どもが言うには、「先生は薬草を採りに出かけました」とのこと。
- 「ただ、この山の中にはいらっしゃるのでしょうが、
- 雲が深く立ちこめていて、どこにおられるのかは分かりません。」
※語句のメモ:「隠者(いんじゃ)」は、世間をはなれて山にひっそり暮らす人。「童子」はその人に仕える子ども。題の「不遇」は「(隠者に)会えなかった」という意味です。この詩は、作者の問いに童子が答える会話のかたちで進むのが特徴です。
形式・押韻
- 形式:五言絶句
- 押韻:第2句「去」・第4句「処」(五言絶句なので第2・4句でそろっています)
名句の味わい方
たった20文字の中に、会話だけで一場面を描ききったのがこの詩のうまさです。作者は隠者をたずねたのに会えなかった——でも詩は「残念だった」とは言いません。かわりに、童子の「薬を採りに行きました」「この山にはいるはずですが」「雲が深くて分かりません」という言葉を重ねていきます。読み終わると、深い雲につつまれた山と、つかみどころのない隠者のすがたが、自然と目にうかびます。会えなかったさびしさよりも、雲深い山の奥ゆかしさが心に残る——言葉を切りつめた賈島らしい、味わい深い一首です。
5首をまとめて確認
最後に、今回の5首を表で見わたしておきましょう。テスト前の見直しにも使ってください。
| 作品 | 作者 | 形式 | 押韻の字 | 覚えどころ(名句) |
|---|---|---|---|---|
| 山行 | 杜牧(晩唐) | 七言絶句 | 斜・家・花 | 霜葉は二月の花よりも紅なり |
| 涼州詞 | 王翰(盛唐) | 七言絶句 | 杯・催・回 | 酔ひて沙場に臥すも君笑ふこと莫かれ |
| 楓橋夜泊 | 張継 | 七言絶句 | 天・眠・船 | 夜半の鐘声、客船に到る |
| 登鸛鵲楼 | 王之渙(盛唐) | 五言絶句 | 流・楼 | 千里の目を窮めんと欲して、更に上る一層の楼 |
| 尋隠者不遇 | 賈島(中唐) | 五言絶句 | 去・処 | 雲深くして処を知らず |
テストでよく問われる三つのポイント:
- 形式……1句が何字か(5字=五言・7字=七言)と、句が4つ(=絶句)かを確認すれば答えられます。
- 押韻……七言絶句なら第1・2・4句、五言絶句なら第2・4句の終わりの字。「どの字がそろっているか」を声に出して確かめましょう。
- 名句の意味……上の表の「覚えどころ」を、現代語訳とセットで言えるようにしておくと安心です。
おわりに
有名な詩人の詩だけでなく、こうした「教科書の名作」を押さえておくと、テストでも入試でも、ぐっと安定して点が取れるようになります。どの詩も、たった20〜28文字の中に、晩秋のもみじ・戦場の覚悟・眠れぬ夜の鐘・千里の景色・雲深い山——と、ひとつの大きな世界をとじこめています。声に出して読み、押韻のひびきを楽しみながら、ぜひお気に入りの一首を見つけてみてください。
※ 漢詩の「絶句・律詩・押韻・対句」のきまりをまとめて整理したい方は、別記事「漢詩のきまり(絶句・律詩・押韻・対句)」もあわせてどうぞ。
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