1. はじめに ― 「春暁」とは
『春暁(しゅんぎょう)』は、盛唐の詩人・孟浩然(もうこうねん)(689〜740)が詠んだ漢詩です。春のあたたかさに、ついうとうとしてしまう朝の気分を、わずか二十字でえがいた作品で、中学校でも習う有名な詩ですが、高校の定期テストでは形式・押韻・現代語訳・主題までぐっと細かく問われます。この記事で、テストに出るポイントを順番におさえていきましょう。
2. 白文
春暁 孟浩然
春眠不覚暁
処処聞啼鳥
夜来風雨声
花落知多少
3. 書き下し文
春眠(しゅんみん)暁(あかつき)を覚(おぼ)えず
処処(しょしょ)啼鳥(ていちょう)を聞く
夜来(やらい)風雨(ふうう)の声
花落つること知んぬ多少ぞ
※書き下しの「覚えず」は「おぼえず」と読みます。
4. 現代語訳
春の眠りは心地よく、夜が明けたことにも気づかない。
あちらこちらで、鳥のさえずる声が聞こえてくる。
昨夜から(聞こえていた)風と雨の音よ。
花は、いったいどれほど散ってしまったことだろうか。
おさえておきたい語句
| 語句 | 読み | 意味 |
| 覚(えず) | おぼ(えず) | 気がつく(夜明けに気づかない)。「目をさます」ではない |
| 処処 | しょしょ | あちらこちら・いたるところ |
| 啼鳥 | ていちょう | 鳴いている鳥。さえずる鳥(の声) |
| 夜来 | やらい | 昨夜から。「夜が来る」ではないので注意 |
| 多少 | たしょう | どれほどか(数量への問いかけ)。「多いか少ないか」ではない |

5. 詩のきまり(詩型・押韻・対句)
詩型 ― 五言絶句
一句が五字で、全体が四句から成るので五言絶句(ごごんぜっく)です。一句五字・八句なら五言律詩、一句七字・四句なら七言絶句となります。
押韻 ― 暁・鳥・少
押韻している字は「暁」「鳥」「少」の三字です。五言の詩では、原則として偶数句の末字(この詩では第二句「鳥」・第四句「少」)で韻を踏みますが、『春暁』は[第一句末の「暁」も韻を踏んで]おり、初句から押韻する形になっています。ここは[テストで狙われやすいポイント]です。
構成 ― 転句はどこ?
絶句は、第一句=起句、第二句=承句、第三句=転句、第四句=結句という起承転結の構成をとります。『春暁』では[第三句「夜来風雨声」が転句]で、朝の景色から一転して昨夜の風雨へと話題が転じています。
句法 ― 「不」と「知多少」
「春眠不覚暁」の「不」は、下の語を打ち消す否定の字です。「不覚(覚えず)」のように、[必ず下から返って読みます]。また「知多少」の「多少」は数量を問いかける言い方で、文末で疑問(反語をふくむ)・詠嘆の気持ちを表します。
6. 鑑賞のポイント
主題 ― のどかさと、花を惜しむ心
春の朝のうとうととした心地よさ(第一・二句)から、昨夜の風雨と散った花への思い(第三・四句)へと展開します。春の朝ののどかでけだるい心地と、散った花を惜しむ気持ちが、この詩の主題です。
「耳で聞いた春」をえがく
この詩は「見る」よりも「聞く」描写が中心です。「啼鳥」(鳥の声)や「(風雨の)声」といった、[耳でとらえた春]が詠まれていて、それが『春暁』のさわやかさ・臨場感を生んでいます。
直接「惜しい」と言わないうまさ
第三・四句には、昨夜の風雨で花がどれほど散ってしまっただろうかと思いめぐらし、過ぎゆく春や散る花を惜しむ気持ちが表れています。直接「悲しい」「惜しい」と言わず、「花落知多少」と数量を問いかける形で、花を惜しむ心をしみじみと表している点がこの詩のうまさです。
作者・孟浩然について
孟浩然は盛唐の詩人で、自然や田園の風景に人生の思いをかさねてうたう自然詩人(田園詩人)として知られます。作風の近い王維(おうい)とあわせて「王孟(おうもう)」と並び称されます。
確認クイズ(3問)
Q1. 『春暁』の詩の形式として正しいものはどれ?
ア 五言絶句 イ 七言絶句 ウ 五言律詩
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正解:ア 解説:一句が五字(「春眠不覚暁」)で、全体が四句から成るので五言絶句です。八句なら律詩になります。
Q2. 「夜来風雨声」の「夜来」の意味として正しいものはどれ?
ア 夜が来るころ イ 昨夜から ウ 夜ごとに
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正解:イ 解説:「夜来」は「昨夜から・ゆうべ以来」の意味の熟語です。「夜が来る」と訳すと第四句とのつながりが崩れるので注意しましょう。
Q3. 『春暁』で押韻している字の組み合わせはどれ?
ア 眠・鳥・声 イ 暁・声・少 ウ 暁・鳥・少
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正解:ウ 解説:第一句末「暁」・第二句末「鳥」・第四句末「少」が、響きの似た音で韻を踏んでいます。第一句末でも押韻している点に注意です。
7. 一句ずつていねいに読む
『春暁』はたった二十字(五字×四句)の短い詩ですが、一句ずつ区切って読むと、朝のうとうととした気分から、散った花を思う心へと、気持ちが移り変わっていくようすがよく分かります。ここでは一句ずつ、白文・書き下し文・現代語訳をならべて、ていねいに読んでみましょう。
第一句(起句) 春眠不覚暁
書き下し文…春眠(しゅんみん)暁(あかつき)を覚(おぼ)えず
現代語訳…春の眠りは気持ちよく、夜が明けたことにも気づかない。
春の朝はあたたかく、ふとんの中の心地よさについ眠りこんでしまう――そんな実感から詩が始まります。「不覚暁」は「暁(夜明け)を覚(おぼ)えず」と、下の「暁」から「不覚」へと返って読むのがポイント。ここでの「覚」は[「目をさます」ではなく「気がつく」]の意味で、「夜が明けたことに気づかない」と訳します。
第二句(承句) 処処聞啼鳥
書き下し文…処処(しょしょ)啼鳥(ていちょう)を聞く
現代語訳…あちらこちらで、鳥のさえずる声が聞こえてくる。
うとうとしている耳に、あちこちから鳥の声が届いてきます。「処処」は「いたるところ・あちらこちら」、「啼鳥」は「鳴いている鳥(の声)」のこと。まだ目をしっかり開けてはいないのに、声だけがにぎやかに聞こえてくる――この「耳でとらえた春」が、第一句ののどかさをいっそうふくらませています。
第三句(転句) 夜来風雨声
書き下し文…夜来(やらい)風雨(ふうう)の声
現代語訳…昨夜から(聞こえていた)風と雨の音よ。
ここで場面が大きく転じます。さわやかな朝の鳥の声から一転して、作者は「そういえば、ゆうべは風と雨の音がしていたなあ」と思い出すのです。「夜来」は[「昨夜から・ゆうべ以来」という意味の熟語で、「夜が来る」ではありません]。起承転結でいう転句にあたり、朝の景色から昨夜の風雨へと話題が切りかわる、この詩のいちばんの山場です。
第四句(結句) 花落知多少
書き下し文…花落つること知んぬ多少ぞ
現代語訳…花は、いったいどれほど散ってしまったことだろうか。
転句で昨夜の風雨を思い出した作者は、「あの風雨で、庭の花はどれくらい散ってしまっただろう」と心を寄せます。「多少」は「どれほどか」と数量を問いかける言い方で、「多いか少ないか」ではありません。直接「もったいない」「悲しい」とは言わず、散った花の数を問いかける形で、過ぎゆく春や散る花を惜しむ気持ちをしみじみと表しているのです。
8. 漢文の基礎 ― 返り点と書き下しのしくみ
『春暁』を白文(漢字だけの原文)から書き下し文にするとき、日本語として読めるように字の順番を入れかえる必要があります。その順番を示す記号が返り点(かえりてん)です。代表的なものを確認しておきましょう。
- レ点…すぐ下の一字を先に読み、一字だけ上に返って読む記号。
- 一・二点…二字以上をへだてて返るときに使う記号。「一」のついた字を読んでから「二」のついた字に返る。
- 送りがな…漢字の右下に小さく付け、日本語の助詞・助動詞・活用語尾をおぎなう。
たとえば第一句「春眠不覚暁」は、「不覚暁」の部分を「暁を覚えず」と読みます。下の「暁」を先に読み、上の「不覚」へと返っているのが分かります。このように、否定の「不」は必ず下から返って読むのが漢文の決まりです。テストでは「返り点に従って書き下しなさい」「書き下し文を白文に直しなさい」という形でよく問われます。
9. つまずきやすいポイントと、入試・定期テストでの問われ方
『春暁』はやさしそうに見えて、定期テストでは[意味を取りちがえやすい語]がねらわれます。ここで一気に整理しておきましょう。
- 「覚」を「目がさめる」と訳してしまう…ここでの「覚」は「気がつく」。「夜が明けたことに気づかない」が正しい訳です。
- 「夜来」を「夜が来る」と訳してしまう…「夜来」は「昨夜から・ゆうべ以来」という一つの熟語。意味問題で頻出です。
- 「多少」を「多いか少ないか」と訳してしまう…ここでは「どれほどか」と数量を問いかける言い方。詠嘆・疑問の気持ちがこもります。
- 押韻を偶数句だけと思いこむ…『春暁』は第一句末「暁」も韻を踏みます。押韻字を「暁・鳥・少」と三つ答えられるかがカギです。
- 転句を取りちがえる…話題が転じるのは第三句「夜来風雨声」。「どこで場面が変わるか」を問う設問に注意。
定期テストでは、(1)詩型を答える、(2)押韻字をすべて書き出す、(3)傍線部の語句の意味を選ぶ・記述する、(4)現代語訳をする、(5)主題を説明する、という五つのパターンがよく出ます。とくに「押韻字をすべて答えよ」「この詩の主題を二十字程度で書け」という問いは差がつきやすいので、上の整理をそのまま覚えておくと安心です。
10. ミニ練習問題(解答つき)
ここまでの内容を、書きこみ式の練習でたしかめましょう。まず自分で答えてから、解答を開いて確認してください。
問1 第三句「夜来風雨声」は、起承転結のうちどれにあたるか答えなさい。
問2 「春眠不覚暁」を、返り点に従って書き下し文に直しなさい。
問3 「花落知多少」を現代語訳しなさい。
問4 この詩で押韻している字を、すべて漢字で書きなさい。
問5 この詩は「見る」描写と「聞く」描写のどちらが中心か答え、その理由となる語句を一つあげなさい。
解答
- 転句。さわやかな朝の鳥の声から、昨夜の風雨へと話題が転じている句だから。
- 春眠(しゅんみん)暁(あかつき)を覚(おぼ)えず。「不覚暁」は下の「暁」から上の「不覚」へ返って読む。
- 花は、いったいどれほど散ってしまったことだろうか。(「多少」=どれほどか、と数量を問いかける訳にする)
- 暁・鳥・少。第一句末の「暁」も押韻している点に注意。
- 「聞く」描写が中心。理由となる語句…「啼鳥(鳥の声)」または「(風雨の)声」。
11. よくある質問(Q&A)
Q. 『春暁』はいつごろの、どんな詩人の作品ですか。
A. 盛唐(とうの中ごろ、八世紀前半)の詩人・孟浩然(もうこうねん、689〜740)の作品です。孟浩然は自然や田園の風景に思いをかさねてうたう詩人で、作風の近い王維(おうい)とあわせて「王孟(おうもう)」と並び称されます。
Q. なぜ第一句でも韻を踏んでいるのですか。
A. 五言の詩では偶数句末で韻を踏むのが原則ですが、第一句末でも韻を踏む形(初句押韻)もよくあります。『春暁』はその一例で、「暁・鳥・少」の三字が響きの似た音でそろっています。テストでは押韻字を三つとも答えさせる問題が多いので、第一句末を忘れないようにしましょう。
Q. 「明るい詩」と「さびしい詩」、どちらととらえればよいですか。
A. どちらか一方ではなく、両方の気分が重なっているのがこの詩のよさです。前半(第一・二句)は春の朝ののどかでけだるい心地、後半(第三・四句)は散った花を惜しむしんみりとした思い。明るさとさびしさが同居しているところを読み取れると、主題の説明問題で高い評価になります。
Q. 暗唱のコツはありますか。
A. 「春眠/処処/夜来/花落」と、各句の最初の二字を手がかりにすると覚えやすくなります。さらに「朝の眠り→鳥の声→昨夜の風雨→散った花」という場面の流れをイメージしながら唱えると、順番をまちがえにくくなります。
まとめ
・『春暁』は盛唐の詩人・孟浩然の五言絶句(一句五字・全四句)。
・押韻は「暁」「鳥」「少」。偶数句末が原則のところ、第一句末でも韻を踏む。
・「夜来」=昨夜から、「多少」=どれほどか、「不」=否定の字。訳語がそのまま問われやすい。
・主題は春の朝ののどかな心地と、散った花を惜しむ気持ち。
・鳥の声や風雨の音など、「耳で聞いた春」をえがいている点が特徴。
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