宇治拾遺物語『検非違使忠明(けびいしただあきら)』は、清水寺の舞台から蔀(しとみ)を「パラシュート」のように使って飛び降りるという、痛快なアクションで人気の説話です。古文入門期の定期テストでは、「ありけり」「去にけり」などの品詞分解、「京童部」「蔀」「やをら」「あさましがる」などの古語、そして主語の判別が必ずねらわれます。まずは本文を読み、設問に答えてみましょう。解答は記事末尾で確認できます。
本文
これも今は昔、忠明といふ検非違使ありけり〔①〕。それが若かりけるとき、清水の橋のもとにて京童部〔②〕どもといさかひをしけり。京童部、手ごとに刀を抜きて、忠明を立てこめて殺さむとしければ〔③〕、忠明も太刀を抜きて、御堂ざまに上るに、御堂の東のつま〔④〕にも、あまた立ちて向かひ合ひたれば、内へ逃げて、蔀〔⑤〕のもとを脇にはさみて、前の谷へ躍り落つ。蔀、風にしぶかれて、谷の底に鳥のゐるやうに〔⑥〕やをら落ちにければ、それより逃げて去にけり〔⑦〕。
京童部ども、谷を見おろしてあさましがり〔⑧〕、立ち並みて見けれども、すべきやうもなくて〔⑨〕、やみにけりとなむ〔⑩〕。
設問
設問は全部で23問あります。型ごとにまとめてありますが、番号は通し番号です。解答は記事末尾の「解答・解説を見る」で確認できます。
1. 語句の読み・意味
- 「検非違使」とは、どのような仕事をする役人か。簡潔に説明しなさい。
- 傍線部②「京童部」の読みを平仮名で答え、どのような人々を指すか説明しなさい。
- 「手ごとに」の意味を答えなさい。
- 「あまた」の意味を答えなさい。
- 傍線部⑤「蔀」の読みを平仮名で答え、どのような物か簡潔に説明しなさい。
- 「やをら」の意味として最も適当なものを選びなさい。
ア まっさかさまに イ 突然に ウ 静かに・そっと - 傍線部⑧「あさましがり」のもとになっている形容詞「あさまし」の意味を答えなさい。
2. 現代語訳
- 傍線部③「殺さむとしければ」を、「む」の意味がわかるように現代語訳しなさい。
- 「御堂ざまに上るに」を、「ざま」の意味がわかるように現代語訳しなさい。
- 傍線部⑥「鳥のゐるやうに」を、「ゐる」の意味がわかるように現代語訳しなさい。
- 傍線部⑨「すべきやうもなくて」を現代語訳しなさい。
3. 文法
- 傍線部①「ありけり」を品詞分解しなさい。動詞の活用の種類も明らかにすること。
- 「それが若かりけるとき」の「それ」は誰を指すか。また「が」の用法(格助詞としての働き)を答えなさい。
- 傍線部③「殺さむ」の「む」の文法的意味を次から選びなさい。
ア 推量 イ 意志 ウ 勧誘 エ 婉曲 - 「向かひ合ひたれば」の「たれ」について、もとの助動詞の終止形・文法的意味・活用形を答えなさい。
- 「風にしぶかれて」の「れ」の文法的意味を答え、この部分を現代語訳しなさい。
- 「落ちにければ」を品詞分解しなさい。
- 傍線部⑦「去にけり」の「去に」について、(1)読みを平仮名で答え、(2)動詞の終止形と活用の種類を答えなさい。
- 傍線部⑩「となむ」の後には言葉が省略されている。(1)どのような語が省略されているか補い、(2)この「なむ」の品詞と、このような表現を何と呼ぶかを答えなさい。
4. 内容
- 「忠明を立てこめて」の意味を答えなさい。
- 忠明が高い舞台から「前の谷へ躍り落つ」しても無事だったのはなぜか。本文に即して説明しなさい。
- 「前の谷へ躍り落つ」「立ち並みて見けれども」の主語をそれぞれ答えなさい。
- 『宇治拾遺物語』の成立した時代とジャンル名を答えなさい。
▼ 解答・解説を見る(まず自分で解いてから)
【語句の読み・意味】
問1 平安京の中の犯罪の取り締まりや裁判などにあたった役人(今の警察官と裁判官を兼ねたような役職)。
問2 読み:きやうわらんべ(きょうわらんべ)。意味:京の都の、血気盛んな若者たち。けんかっ早い乱暴な若者の集団としてしばしば説話に登場する。
問3 めいめいの手に・それぞれの手に。「ごと(毎)」=〜のたびに・それぞれ。
問4 たくさん・大勢。
問5 読み:しとみ。意味:格子の裏に板を張った建具で、上につり上げて開ける戸(寝殿造りなどの建物で、窓・戸の役割をした)。
問6 ウ。「やをら」=静かに・そっと。蔀が風を受けてゆっくり着地した様子。「やにわに(突然)」と混同しないこと。
問7 驚きあきれるほどだ・意外で驚くばかりだ。現代語の「卑しい・見苦しい」の意味とのズレが頻出。「あさましがる」で「驚きあきれる」という動詞になる。
【現代語訳】
問8 「殺そうとしたので」。「む」は意志(〜しよう)。
問9 「御堂の方へ上っていくと」。「ざま(様)」=〜の方・〜の方向。「御堂」は清水寺の本堂を指す。
問10 「鳥が(地面に)とまるように」。「ゐる(居る)」=(鳥が)とまる・(人が)座る、の意。蔀がふわりと着地したたとえ。
問11 「どうしようもなくて・どうすることのできる方法もなくて」。「す」(サ変・する)+「べき」(可能・当然)+「やう」(方法)+「も…なし」。
【文法】
問12 あり(ラ行変格活用動詞「あり」の連用形)+けり(過去の助動詞「けり」終止形)。「けり」は連用形接続。説話の語り出しに使われる「けり」(伝聞された過去)。
問13 「それ」=忠明。「が」=主格(〜が)。※「それが若かりけるとき」=「忠明が若かったとき」。連体修飾格(〜の)と答えてもよい(「彼の若かったとき」)が、いずれにせよ忠明を受ける。
問14 イ(意志)。主語が「京童部」で、「殺す」という自分たちの動作について「〜(し)よう」と述べている。
問15 終止形:たり。文法的意味:完了(存続)。活用形:已然形(直後に「ば」があるため)。已然形+ば=確定条件「〜ので・〜ところ」。
問16 「れ」=受身の助動詞「る」の連用形。訳:「(蔀が)風にあおられて・風に押し戻されるようにして」。「に」は受身の相手(動作主)を表す格助詞。
問17 落ち(タ行上二段動詞「落つ」連用形)+に(完了の助動詞「ぬ」連用形)+けれ(過去の助動詞「けり」已然形)+ば(接続助詞、確定条件)。
問18 (1) 読み:いに。(2) 終止形:去ぬ(往ぬ)、活用の種類:ナ行変格活用。ナ変は「死ぬ・去ぬ(往ぬ)」の二語のみで、活用の種類を問う問題の定番。
問19 (1) 「語り伝へたる」「言ひける」などの語(〜ということだ、と語り伝えている)。(2) 「なむ」は係助詞。結びの語が省略される結びの省略(結流れと区別して「省略」)。説話の末尾の決まり文句「〜となむ」。
【内容】
問20 忠明を(逃げ場がないように)取り囲んで閉じこめて。
問21 (例)脇にはさんで飛んだ蔀が風を受けて(風にあおられて)、ちょうど鳥が舞い降りてとまるように、谷の底へゆっくりと落ちたから。蔀がパラシュートやグライダーのような役割を果たした。
問22 「前の谷へ躍り落つ」の主語=忠明。「立ち並みて見けれども」の主語=京童部ども。古文では主語が省略されるため、動作の流れから判断する。
問23 鎌倉時代(前期)に成立した説話集。編者は未詳。『今昔物語集』と共通する話を多く収める。
※本文は『宇治拾遺物語』巻七ノ四「検非違使忠明のこと」によります(表記は高校教科書で一般的なものに合わせています)。設問・解説は誰でも古典塾オリジナルです。


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