源氏物語『夕顔』のなかでも、廃院(はいいん)で物の怪(け)が現れる場面は、定期テスト・入試ともに頻出の山場です。光源氏が名も知らぬ女君・夕顔とさびれた院で一夜を過ごすうち、枕元に美しい女が立ち、恨み言を述べて消える——そして夕顔は息絶えてしまいます。敬語の方向、助動詞の意味、そして「誰がしたことか」を問う主語把握が問われやすい箇所です。まずは本文を読み、設問に答え、最後の解答で確認しましょう。あらすじや背景があやふやな人は、先に源氏物語『夕顔』のやさしい解説に目を通しておくと、設問が一気に解きやすくなります。
本文
宵過ぐるほど、すこし寝入りたまへるに〔①〕、御枕上に、いとをかしげなる女ゐて、「己がいとめでたしと見たてまつる〔②〕をば、尋ね思ほさで、かく、ことなることなき人を率ておはして、時めかしたまふ〔③〕こそ、いとめざましくつらけれ」とて、この御かたはらの人をかき起こさむとす〔④〕、と見たまふ。
物に襲はるる心地して、おどろきたまへれば、火も消えにけり〔⑤〕。うたて思さるれば、太刀を引き抜きて、うち置きたまひて、右近を起こしたまふ〔⑥〕。これもおそろしと思ひたるさま〔⑦〕にて、参り寄れり。
設問
- 傍線部①「すこし寝入りたまへるに」を、適切な敬語をふまえて現代語訳しなさい。
- 傍線部①「すこし寝入りたまへるに」について、次の問いに答えなさい。
- 「たまへ」は敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)のいずれか。また誰に対する敬意か答えなさい。
- 「る」の文法的意味(助動詞の種類と活用形)を答えなさい。
- 「に」の品詞・用法を答えなさい。
- 「いとめでたしと見たてまつる」の「めでたし」の意味を、文脈に合うように答えなさい。
- 傍線部②「見たてまつる」について、次の問いに答えなさい。
- 敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)を答えなさい。
- 誰から誰への敬意かを答えなさい。
- 「尋ね思ほさで」の「思ほさ」は、ある動詞の敬語表現である。
- もとになっている動詞(基の語)を答えなさい。
- 「で」の文法的意味(用法)を答えなさい。
- 「ことなることなき人」とは具体的に誰を指すか。また「ことなることなし」を現代語訳しなさい。
- 「率ておはして」を現代語訳しなさい。また、「おはす」に込められた敬意の種類(尊敬・謙譲・丁寧)を答えなさい。
- 傍線部③「時めかしたまふ」の主語は誰か。また「時めかす」の意味を答えなさい。
- 「いとめざましくつらけれ」について、次の問いに答えなさい。
- 「めざまし」の意味を、ここでの文脈に即して答えなさい。
- このように嘆いて恨み言を述べているのは誰か答えなさい。
- 傍線部④「この御かたはらの人をかき起こさむとす」の「かたはらの人」とは具体的に誰を指すか答えなさい。また「む」の文法的意味(用法)を答えなさい。
- 傍線部④全体「この御かたはらの人をかき起こさむとす、と見たまふ」を現代語訳しなさい。
- 「物に襲はるる心地して」の「るる」の文法的意味(助動詞の種類と活用形)を答えなさい。
- 「おどろきたまへれば」について、次の問いに答えなさい。
- 「おどろく」のここでの意味を答えなさい。
- 「ば」の用法(接続のはたらき)を答えなさい。
- 「火も消えにけり」とあるが、何の火(明かり)が消えたのか答えなさい。
- 傍線部⑤「消えにけり」を文法的に説明し(「に」「けり」の識別を含めて)、現代語訳しなさい。
- 「うたて思さるれば」について、次の問いに答えなさい。
- 「うたて」の意味を答えなさい。
- 「思さるれ」に含まれる助動詞「る」の意味(用法)を答えなさい。
- 「太刀を引き抜きて、うち置きたまひて」とあるが、源氏が太刀を抜いてそばに置いたのはなぜか。本文の流れをふまえて簡潔に説明しなさい。
- 傍線部⑥「右近を起こしたまふ」の動作主は誰か答えなさい。また、源氏がこのような行動をとった理由を、本文に即して簡潔に説明しなさい。
- 「これも」の「これ」は誰を指すか。また「これも」と「も」が用いられていることから、もう一人、同じように恐ろしいと感じている人物がいることがわかる。それは誰か答えなさい。
- 傍線部⑦「おそろしと思ひたるさま」とあるが、誰がどのような気持ちでいる様子か。本文の流れをふまえて説明しなさい。
- 「参り寄れり」の「参り」は敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)のいずれか。また、その動作主は誰か答えなさい。
- 会話文中の「己」は誰を指すか答えなさい。また、その読み(ひらがな)も答えなさい。
- この場面に描かれた出来事を時間の流れに沿って整理したとき、本文の範囲で起こった出来事として正しいものを、次のア〜エからすべて選びなさい。
- ア 源氏が眠っていると、枕元に美しい女が現れて恨み言を述べた。
- イ 源氏が目を覚ますと、灯火が消えていた。
- ウ 源氏は右近を起こし、右近は恐ろしがりながら近寄ってきた。
- エ 夕顔がみずから起き上がって、源氏に物の怪のことを訴えた。
- 【文学史】『源氏物語』の作者名を漢字で答えなさい。また、『源氏物語』のように、伝奇的・虚構的な内容を中心に作者が想像力で創作した物語を、当時の歌物語に対して何と呼ぶか答えなさい。
- 【文学史】『源氏物語』が成立したのは何時代か答えなさい。また、『源氏物語』は全部でいくつの巻(帖)から成るか、漢数字で答えなさい。
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問1 (答)少しお眠りになっていると。
「寝入り」は「眠り込む」、「たまへ」は尊敬の補助動詞「たまふ」(…なさる・お…になる)の已然形で、源氏に対する敬意。「る」は完了・存続の助動詞「り」の連体形、「に」は接続助詞(…ところ・…と)。主語は光源氏なので、敬語をふまえて「お眠りになっていると」と訳します。
問2 (答)
・敬語の種類…尊敬語。光源氏に対する敬意(作者から源氏への敬意)。
・「る」…完了・存続の助動詞「り」の連体形。ここでは存続(…ている)でとるとよい。
・「に」…接続助詞。「…ところ・…と」と、あとに続く内容へつなぐはたらき。
「寝入りたまへ・る・に」と分けて考えます。「たまへ」が補助動詞の尊敬、その下の「る」が助動詞「り」、最後の「に」が接続助詞です。
問3 (答)すばらしい・立派だ(心ひかれるほど美しい・申し分ない)。
「めでたし」は「すばらしい・立派だ」が基本義。ここは物の怪が源氏を「すばらしいとお見上げしているのに」と言う場面なので、源氏の美しさ・立派さをほめる意味で用いられています。
問4 (答)謙譲語。作者から、(物の怪が「めでたし」と見申し上げている相手である)源氏への敬意。
「たてまつる」は「見る」に付いた謙譲の補助動詞で、「見申し上げる」の意。動作(見る)の受け手である源氏を高めています。会話文の中の言葉ですが、敬意の出どころは語り手(作者)と考えます。
問5 (答)
・基の語…「思ふ」。
・「で」…打消の接続助詞(…ないで・…ずに)。
「思ほす」は「思ふ」の尊敬語で、ここは物の怪が源氏の心を高めて「お思いになる」と言っているもの。「尋ね思ほさで」で「(私を)尋ねてお思いにもならないで」となり、「で」は「…ないで」と打消を表します。
問6 (答)「ことなることなき人」=夕顔(源氏が連れて来た女君)。現代語訳…格別なところもない/とりたてて優れたところもない。
物の怪の女が、源氏が連れて来た夕顔を見下して「格別でもない(つまらない)女」と言っている表現です。「ことなり」は「格別だ・特別だ」の意で、それを「なし」で打ち消しています。
問7 (答)現代語訳…(夕顔を)連れていらっしゃって。敬語の種類…尊敬語。
「率て」は「率る(ゐる)」で「連れて」、「おはす」は「来(く)」「行く」「あり」の尊敬語。ここは源氏が夕顔を連れて来たことを高めているので尊敬で、「お連れになって・連れていらっしゃって」と訳します。
問8 (答)主語=光源氏。「時めかす」=寵愛する・もてはやす(特別に大切にしてかわいがる)。
物の怪の女が「私を訪ねてもくださらず、こんな格別でもない女を連れて来てご寵愛なさるのは心外でつらい」と恨んでいる場面で、寵愛している主体は源氏です。
問9 (答)
・「めざまし」…心外だ・気にくわない(目をみはるほど意外で、不愉快だ)。
・嘆いているのは…枕元に現れた女(物の怪)。
「めざまし」はもともと「目が覚めるほど意外だ」で、よい意味にも悪い意味にも使いますが、ここは「(自分をさしおいて夕顔を寵愛するとは)心外で気にくわない」という不快の意。恨み言を述べているのは物の怪の女です。
問10 (答)「かたはらの人」=(源氏のかたわらに寝ている)夕顔。「む」=意志の助動詞「む」の終止形。
物の怪が「この(源氏の)そばの人=夕顔をかき起こそうとする」と源氏には見えた、という箇所です。「かき起こさむとす」の「む」は、主体(物の怪)の意志を表します。
問11 (答)この(源氏の)そばに寝ている人(夕顔)を揺り起こそうとする、と(源氏は夢うつつに)ご覧になる。
「かき起こす」は「揺り起こす」、「むとす」は「…ようとする」。最後の「見たまふ」は源氏が(半ば夢の中で)そう見た、ということです。
問12 (答)受身の助動詞「る」の連体形。
「襲はる」は「襲ふ」+受身の「る」で「襲われる」の意。下の「心地」に連なるので連体形「るる」になっています(何かに襲われるような気持ち、の意)。
問13 (答)
・「おどろく」…目を覚ます・はっと気づく。
・「ば」…已然形+「ば」で、順接の確定条件(…と・…ところ)を表す。
「おどろきたまへ・れ・ば」で、「たまへ」は尊敬の補助動詞、「れ」は完了・存続「り」の已然形、「ば」は接続助詞。古文の「おどろく」は「びっくりする」だけでなく「目を覚ます」の意で頻出です。
問14 (答)(廃院の中で源氏たちのそばにともしてあった)灯火。
「火」はここでは部屋の明かり=灯火(ともしび)のこと。不気味な気配のなかで明かりまで消えてしまい、いっそう恐ろしさが増す場面です。
問15 (答)文法説明=「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形、「けり」は過去(詠嘆)の助動詞「けり」の終止形。現代語訳=(灯火も)消えてしまった。
連用形「に」+「けり」は「…てしまった」と訳すのが基本。ナ変動詞などの活用語尾の「に」ではなく、ここは助動詞「ぬ」である点に注意します。
問16 (答)
・「うたて」…いやだ・気味が悪い・不快だ。
・「る」…自発の助動詞「る」(自然と…される)。
「思さるれ」は「思す(=思ふの尊敬)」+自発の「る」の已然形で、「自然と(気味悪く)お思いになる」の意。「うたて思さるれば」で「気味悪くお思いになるので」となります。
問17 (答)何かに襲われるような恐ろしい心地で目を覚ましたところ、灯火も消えていて気味悪く感じられたため、身を守り、また女房を起こすために太刀を抜いて手近に置いた。
突然の不気味な気配と暗闇のなか、源氏は護身のために太刀を抜き、それをそばに置いてから右近を起こそうとしています。武器を構えるほどの緊張・恐怖が読み取れます。
問18 (答)動作主=光源氏。理由=何かに襲われるような恐ろしい心地で目を覚ましたところ、灯火も消えており、不気味で不安に思われたため、右近を起こして助けを求めようとした(明かりや人手を確保しようとした)から。
直前の「うたて思さるれば(=気味悪くお思いになるので)」が理由にあたります。
問19 (答)「これ」=右近。もう一人、同じように恐ろしいと感じているのは=光源氏。
「これも」の「も」は「(源氏と同じく)この右近も」と並べる助詞。直前で源氏が「物に襲はるる心地」で恐れていることをふまえ、右近も同様に恐ろしがっている、と読みます。
問20 (答)右近が、(源氏と同じように)何が起きたのか分からず、たいそう恐ろしいと思っている様子。
「これも」の「これ」は右近を指し、「(源氏に劣らず)この右近も恐ろしいと思っている様子で、源氏のそばに近寄って来た」という流れです。不気味な気配のなか、女房の右近もおびえていることが読み取れます。
問21 (答)謙譲語。動作主=右近。
「参り寄る」は「近寄る・参上する」の意で、「参る」は謙譲語。右近が(高貴な)源氏のそばへ近寄って来る動作を、その源氏を高めて表しています。
問22 (答)「己」=枕元に立った女(物の怪)。読み=おの(「己が」で「おのが」。単独では「おのれ」とも)。
「己が」は「自分が」の意の一人称。ここは物の怪の女のせりふの中なので、「私が(あなたを)すばらしいと拝見しているのに」という意味になります。
問23 (答)ア・イ・ウ。
本文では、(ア)源氏が眠っている枕元に美しい女が現れて恨み言を述べ→(イ)源氏が目を覚ますと灯火が消えており→(ウ)源氏が右近を起こすと右近は恐ろしがりながら近寄って来た、という順で進みます。エの「夕顔がみずから起き上がって訴えた」は本文に書かれていません(夕顔は終始受け身で、のちに息絶えてしまいます)。
問24 (答)作者=紫式部(むらさきしきぶ)。呼称=作り物語(つくりものがたり)。
『源氏物語』は平安時代中期に紫式部が著した長編物語。『竹取物語』などの流れをくむ、虚構を中心とした「作り物語」に分類され、『伊勢物語』のような和歌中心の「歌物語」と対比して整理されます。
問25 (答)時代=平安時代(中期)。巻数=五十四(帖)。
『源氏物語』は平安時代中期(十一世紀初め)に紫式部が著した、全五十四帖の長編物語で、平安朝文学(王朝物語)の最高峰とされます。「夕顔」はその前半、光源氏(ひかるげんじ)の若き日を描く巻の一つです。
※この問題はオリジナル作成です(教科書・市販問題集の転載ではありません)。本文は古典原文(著作権の対象外)を用いています。原文は流布本・諸注釈書で表記(仮名遣い・漢字/「火」「灯」など)に異同があり、本記事はそれらに基づき校合しています。お手元の教科書と表記が異なる場合は、教科書の本文を優先してください。
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