古文の「に」は、たった一字でありながら七つもの異なる文法的役割を担うため、識別問題の定番として繰り返し出題されます。見分けの要点は「直前の語の品詞と活用形」「直後にどんな語が続くか」の二点です。たとえば連用形+「に」+「き・けり」なら完了の助動詞、体言や連体形+「に」+「あり・侍り」なら断定の助動詞、というように前後の語が決め手になります。語幹に「に」がくっついて一語になっている形容動詞・ナ変動詞・副詞とも区別しましょう。次の各例文中の傍線部「に」について、後の問いに答えよ。
本文
※例文は学習用に作成しています。
① 都にのぼりて、久しき友に会ひぬ。
② 雨降りければ、出でずして家にとどまりけり。
③ この人は、まことに心ある人にありけり。
④ 鳥の声を聞くに、心すずしくなりぬ。
⑤ 花、いと美しく咲きにけり。
⑥ 春の野はのどかにして、人の心ものどけし。
⑦ 老いたる馬、ついに道のほとりに死にけり。
⑧ さらに知らぬ国の言の葉を学ぶ。
⑨ 月の都の人にてなむありける。
⑩ 文を書きにたり、まだ送らず。
⑪ 静かに歩みて、堂の前に立つ。
⑫ 約束せしを違へけるに、いと恨めし。
⑬ 暁に、鶏の声しきりに聞こゆ。
⑭ かの僧、年老いて山に往にけり。
⑮ これは竜の頸の玉に侍り。
⑯ つひに本意のごとくなりにけり。
設問
- 傍線部①「に」の種類を、次の①〜⑦から選べ。
- 選択肢:①格助詞 ②接続助詞 ③断定の助動詞「なり」連用形 ④完了の助動詞「ぬ」連用形 ⑤形容動詞ナリ活用連用形活用語尾 ⑥ナ変動詞連用形活用語尾 ⑦副詞の一部
- そう判断した根拠を、直前の語の品詞をふまえて述べよ。
- 傍線部②「に」の種類を①〜⑦から選び、現代語訳とともに答えよ。
- 傍線部③「に」の種類を①〜⑦から選べ。
- 直後にどんな語が続いていることが判断の手がかりになるか。
- 傍線部④「に」の種類を①〜⑦から選べ。
- 直前の「聞く」の活用形を答えよ。
- この「に」を含む部分を現代語訳せよ。
- 傍線部⑤「に」の種類を①〜⑦から選べ。
- 直前の「咲き」の活用形と、直後の語を手がかりに根拠を述べよ。
- 傍線部⑥「に」の種類を①〜⑦から選べ。
- 終止形(言い切りの形)を答えよ。
- 傍線部⑦「に」の種類を①〜⑦から選べ。
- 「死に」の「に」が他の用法と紛らわしい理由を簡潔に説明せよ。
- 傍線部⑧「に」の種類を①〜⑦から選べ。
- 傍線部⑨「に」の種類を①〜⑦から選べ。
- 「にて」の形に着目し、判断の根拠を述べよ。
- 傍線部⑩「に」の種類を①〜⑦から選べ。
- 直前の「書き」の活用形と直後の「たり」を手がかりに根拠を述べよ。
- 傍線部⑪「に」の種類を①〜⑦から選べ。
- この「に」を含む語の終止形を答えよ。
- 傍線部⑫「に」の種類を①〜⑦から選べ。
- 直前の「ける」の活用形を答え、現代語訳を示せ。
- 傍線部⑬「に」の種類を①〜⑦から選べ。
- ここでの「に」が表している意味(時・場所など)を答えよ。
- 傍線部⑭「に」の種類を①〜⑦から選べ。
- 直前の「山」と「往に」のうち、傍線部はどちらに属するかを明らかにして根拠を述べよ。
- 傍線部⑮「に」の種類を①〜⑦から選べ。
- 直後の「侍り」が判断にどう関わるか説明せよ。
- 傍線部⑯「に」の種類を①〜⑦から選べ。
- ③「人にありけり」の「に」と、⑮「玉に侍り」の「に」は同じ種類か異なる種類か。理由とともに答えよ。
- ③の断定「なり」連用形の「に」と、⑤の完了「ぬ」連用形の「に」とを見分ける決め手を、直前の語の活用形の違いに着目して説明せよ。
- ①の格助詞「に」と、③の断定の助動詞「なり」連用形の「に」とを区別する方法を、直前の語と直後の語の両面から記述せよ。
- 次のうち「形容動詞・ナ変動詞・副詞の一部(=活用語尾や語の一部としての『に』)」に当たるものを、傍線部⑥⑦⑧⑪⑯からすべて選べ。
- 傍線部⑤と⑩は、いずれも直前が連用形で直後に助動詞が続く点で形が似ている。両者がともに同じ種類だと言える理由を述べよ。
- 「連用形+に+けり」という並びを見たとき、その「に」を何の助動詞だと判断できるか。本文中の該当する番号を挙げて答えよ。
▼ 解答・解説を見る
問1 ①格助詞。「都」という体言(名詞・場所)に付き、「のぼる」という動作の帰着点を示している。根拠=直前が体言で、移動先(〜へ・〜に)を表すから格助詞。
問2 ①格助詞。「家」という体言に付き、とどまる場所を示す。現代語訳「(雨が降ったので、外出せず)家にとどまった」。「に」は「〜に」のまま訳せる。
問3 ③断定の助動詞「なり」連用形。直後に「あり(ありけり)」が続くことが手がかり。体言「人」+「に」+「あり」の形で「〜である」と訳す。
問4 ②接続助詞。直前の「聞く」は連体形。連体形+「に」で「〜すると・〜したところ」の意。現代語訳「鳥の声を聞くと、心がすがすがしくなった」。
問5 ④完了の助動詞「ぬ」連用形。直前の「咲き」は連用形、直後に「けり」が続く。連用形+「に」+「けり」で「〜てしまった・〜た」と訳す(「咲いてしまった」)。
問6 ⑤形容動詞ナリ活用連用形活用語尾。「のどかに」で一語。終止形は「のどかなり」。
問7 ⑥ナ変動詞連用形活用語尾。「死に」で動詞「死ぬ」の連用形。紛らわしい理由=直後に「けり」が続くため、形のうえでは「連用形+に+けり」と同じに見え、完了「ぬ」の連用形「に」と取り違えやすいから。実際は「死ぬ」というナ変動詞そのものの活用語尾である。
問8 ⑦副詞の一部。「さらに」で一語の副詞(下に打消を伴い「まったく〜ない」の意で使うことが多い)。「に」だけを切り離せない。
問9 ③断定の助動詞「なり」連用形。「にて」の形に着目する。体言「人」+「にて」で「〜であって・〜で」と訳し、断定「なり」の連用形「に」+接続助詞「て」と分析できる。
問10 ④完了の助動詞「ぬ」連用形。直前の「書き」は連用形、直後に「たり」が続く。連用形+「に」+「たり」で「〜てしまった・〜た」(「書いてしまった」)。
問11 ⑤形容動詞ナリ活用連用形活用語尾。「静かに」で一語。終止形は「静かなり」。
問12 ②接続助詞。直前の「ける」は連体形。連体形+「に」で逆接「〜のに」の意。現代語訳「約束したのを破ったのに、たいそう恨めしい」。
問13 ①格助詞。「暁」という時を表す体言に付き、「に」は時を示す(「明け方に」)。
問14 ⑥ナ変動詞連用形活用語尾。傍線部は「往に」に属する。「往ぬ(去る・行ってしまう)」はナ変動詞で、その連用形が「往に」。直前の「山に」の格助詞「に」とは別で、傍線部は動詞の活用語尾である(直後に「けり」が続く点も完了と紛らわしいが、語そのものの一部)。
問15 ③断定の助動詞「なり」連用形。直後に「侍り」が続くことが決め手。体言「玉」+「に」+「侍り」で「〜でございます」と訳す丁寧な断定。
問16 ⑦副詞の一部。「つひに」で一語の副詞(「とうとう・最後に」の意)。「に」だけを切り出せない。
問17 同じ種類。どちらも③断定の助動詞「なり」の連用形「に」である。③は直後が「あり」、⑮は直後が「侍り」と語は違うが、いずれも体言+「に」+(あり/侍り)の形で「〜である・〜でございます」と訳せる断定の用法で一致する。
問18 決め手は直前の語の活用形。断定「なり」連用形の「に」は体言(または連体形)に付くのに対し、完了「ぬ」連用形の「に」は必ず動詞などの連用形に付く。③は体言「人」+「に」だから断定、⑤は連用形「咲き」+「に」だから完了、と直前の語で判別できる。
問19 格助詞「に」は体言に付いて場所・時・帰着点などを表し、下に「あり・侍り」を伴わない(①「都に+のぼる」)。断定「なり」連用形の「に」も体言に付くが、直後に「あり・侍り・おはす」が続くか「にて・にして」の形をとる(③「人に+あり」)。よって直後に「あり」類があるかどうかが区別の決め手で、直前が体言である点は共通するため直後の語で判断する。
問20 ⑥⑦⑧⑪⑯すべて。⑥「のどかに」・⑪「静かに」は形容動詞ナリ活用の活用語尾、⑦「死に」はナ変動詞の活用語尾、⑧「さらに」・⑯「つひに」は副詞で、いずれも「に」が語の一部(活用語尾や語の一部)となっている。指定された範囲(⑥⑦⑧⑪⑯)はすべて「語の一部としての『に』」に当たる。
問21 ⑤「咲きにけり」も⑩「書きにたり」も、直前が連用形(咲き・書き)、直後が助動詞(けり・たり)で、間の「に」はともに完了の助動詞「ぬ」の連用形である。連用形+「に」+(けり/たり)という同じ構造をとるため、両者は同じ種類だといえる。
問22 ④完了の助動詞「ぬ」の連用形。本文中では⑤「咲きにけり」が該当する(直前「咲き」=連用形、直後「けり」)。
※この問題は誰でも古典塾オリジナルです。


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