伊勢物語『月やあらぬ』定期テスト対策問題|現代語訳・文法・内容の頻出設問と解答

定期テスト対策

伊勢物語の中でも屈指の名場面が、第四段『月やあらぬ』です。手の届かない身分になってしまった恋人を忘れられない男が、一年後、思い出の場所をひとり訪れて詠む歌「月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして」は、定期テストの超頻出歌。とくに「や」を疑問と取るか反語と取るかで歌の意味が変わる「両説」の訳し分け、「ぬ」の識別(打消「ず」の連体形)、係り結び、敬語が必ずねらわれます。まずは本文を読み、設問に答えてみましょう。解答は記事末尾で確認できます。

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本文

むかし、東の五条に、大后の宮おはしましける〔①〕西の対に、住む人ありけり。それを、本意にはあらで〔②〕、心ざし深かりける人、行きとぶらひけるを、正月の十日ばかりのほどに、ほかに隠れにけり〔③〕。あり所は聞けど、人の行き通ふべき所にもあらざりければ〔④〕、なほ憂しと思ひつつなむありける〔⑤〕。

またの年の正月に、梅の花ざかりに、去年〔⑥〕を恋ひて行きて、立ちて見、ゐて見、見れど、去年に似るべくもあらず〔⑦〕。うち泣きて、あばらなる板敷に、月の傾くまで伏せりて、去年を思ひ出でて詠める〔⑧〕。

 月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして

と詠みて、夜のほのぼのと明くるに、泣く泣く帰りにけり〔⑨〕。

設問

設問は全部で23問あります。型ごとにまとめてありますが、番号は通し番号です。解答は記事末尾の「解答・解説を見る」で確認できます。

1. 語句の読み・意味

  1. 「正月」の読みを、歴史的仮名遣いの平仮名で答えなさい。
  2. 「本意」の読みを平仮名で答え、ここでの意味を簡潔に答えなさい。
  3. 傍線部⑥「去年」の読みを平仮名で答え、意味を答えなさい。
  4. 「あばらなる板敷」の「あばらなり」の意味として最も適当なものを選びなさい。
    ア 広々として立派だ  イ 荒れて隙間が多い  ウ 真新しくきれいだ
  5. 「西の対」とは、寝殿造りのどのような建物か。簡潔に説明しなさい。

2. 現代語訳

  1. 傍線部②「あらで」を、「で」の意味がわかるように現代語訳しなさい。
  2. 「あり所は聞けど、人の行き通ふべき所にもあらざりければ」を現代語訳しなさい。
  3. 「立ちて見、ゐて見、見れど」を、「ゐて」の意味がわかるように現代語訳しなさい。
  4. 「なほ憂しと思ひつつなむありける」を現代語訳しなさい。

3. 文法・敬語

  1. 傍線部①「おはしましける」について、敬語の種類を答え、誰から誰への敬意かを答えなさい。
  2. 傍線部③「隠れにけり」を品詞分解し、「に」の文法的意味を答えなさい。また、ここで「隠れ」たのは誰かも答えなさい。
  3. 傍線部④「あらざりければ」の「ば」の用法を、接続する活用形にふれて説明しなさい。
  4. 傍線部⑤「なむありける」について、(1)「なむ」の品詞と意味、(2)文末が「ける」という形になっている理由を答えなさい。
  5. 傍線部⑦「似るべくもあらず」の「べく」の文法的意味を答え、この部分を現代語訳しなさい。
  6. 傍線部⑧「詠める」の「る」のもとの助動詞名と活用形を答え、なぜこの形(連体形)で文が止まっているのかを説明しなさい。
  7. 傍線部⑨「帰りにけり」を品詞分解しなさい。

4. 和歌の解釈

  1. 「月やあらぬ……」の歌の句切れをすべて答えなさい。
  2. 「や」を疑問と取る説にしたがって、この歌全体を現代語訳しなさい。
  3. 「や」を反語と取る説にしたがって、この歌全体を現代語訳しなさい。
  4. 「月やあらぬ」「春ならぬ」の「ぬ」について、(1)文法的に説明し、(2)完了の助動詞「ぬ」ではないと判断できる理由を二つ答えなさい。
  5. 「わが身ひとつはもとの身にして」には、男のどのような思いがこめられているか。「変わったもの」と「変わらないもの」を対比させて説明しなさい。

5. 内容・文学史

  1. 男が「泣く泣く帰りにけり」となったのはなぜか。「またの年の正月」に男がしたことをふまえ、本文に即して説明しなさい。
  2. 『伊勢物語』のジャンル名(〜物語という呼び方)と、主人公のモデルと目される平安時代の歌人の名を答えなさい。
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【語句の読み・意味】

問1 むつき。陰暦一月の呼び名。

問2 読み:ほい。意味:かねてからの望み・本来の意向。「本意にはあらで」=(女にとって)望んだ相手ではなくて。※「ほんい」と読まない点に注意。

問3 読み:こぞ。意味:去年・昨年。和歌や物語でよく使われる読みで、テスト頻出。

問4 イ。「あばらなり」は「(家などが)荒れはてて、隙間が多い」の意のナリ活用形容動詞。女が去った邸の荒廃ぶりを表す。

問5 寝殿造りで、中心の建物(寝殿)の西側に建てられた付属の建物(対の屋)。渡殿(廊下)で寝殿とつながる。

【現代語訳】

問6 「本心からというわけではなくて」。「で」は打消の接続助詞で「〜ないで・〜なくて」。未然形「あら」に接続する。

問7 「(女の)いる場所は聞くけれど、(普通の)人が行き通うことのできるような所でもなかったので」。「べき」はここでは可能(〜できる)の意。

問8 「立って見、座って見、(あれこれ)見るけれど」。「ゐる(居る)」=座る。落ち着かずに姿勢を変えながら昔の面影を探す様子。

問9 「やはりつらいと思いながら過ごしていた」。「つつ」=反復・継続(〜しながら・〜し続けて)。

【文法・敬語】

問10 尊敬語(「おはします」=「あり」の尊敬語で「いらっしゃる」)。作者から大后の宮への敬意。地の文の敬語は作者からの敬意になる。

問11 隠れ(ラ行下二段動詞「隠る」連用形)+に(完了の助動詞「ぬ」連用形)+けり(過去の助動詞「けり」終止形)。完了「ぬ」は連用形接続。「隠れ」たのは西の対に住んでいた女(=男が通っていた相手)。

問12 已然形「あらざりけれ」+「ば」=確定条件(原因・理由)で「〜ので」。未然形+ば(仮定条件)との区別が頻出。

問13 (1) 係助詞「なむ」で、意味は強意(訳には出さなくてよい)。(2) 係助詞「なむ」を受けて係り結びが成立し、文末が連体形「ける」になっている。

問14 「べく」は推量の助動詞「べし」の連用形で、ここは可能(〜できる)の意(当然と説明する説もある)。訳:「去年に似ているはずもない(似ることができそうもない)」。

問15 完了(存続)の助動詞「り」の連体形。下に「歌」などの体言が省略されており、連体形で止めることで「(去年を思い出して)詠んだ歌」と名詞的にまとめている(準体法)。直後の和歌を導く形。

問16 帰り(ラ行四段動詞「帰る」連用形)+に(完了の助動詞「ぬ」連用形)+けり(過去の助動詞「けり」終止形)。「〜てしまった」と動作の完了を過去から述べる定番の形。

【和歌の解釈】

問17 初句切れ・三句切れ。「月やあらぬ」(初句)・「春や昔の春ならぬ」(二〜三句)がそれぞれ「ぬ」(連体形)で結ばれて切れる。

問18 疑問説:「月は昔の月ではないのか。春は昔の春ではないのか。(まわりはすべて変わってしまったように見える。)私のこの身だけはもとのままの身であって(あの人を思う心も変わらないのに)」。すべてが変わって感じられる、という嘆きの解釈。

問19 反語説:「月は昔の月でないことがあろうか、いや、もとのままの月だ。春は昔の春でないことがあろうか、いや、もとのままの春だ。(それなのに)私のこの身だけはもとの身のままで(あの人だけがいない)」。月も春も変わらないのに自分の境遇だけが変わってしまった、という解釈。両説とも「変わらぬ自分の思い」と「失われた恋」の対比を詠む点は共通。

問20 (1) 打消の助動詞「ず」の連体形。(2) 理由:「あら」「なら」という未然形に接続している(完了「ぬ」なら連用形接続)。また、係助詞「や」の結びとして連体形が要求される位置である(完了「ぬ」の連体形なら「ぬる」となるはず)。

問21 月や春(まわりの世界)は去年と変わらない(あるいは変わってしまったように見える)のに対し、自分の身ひとつ、つまりあの人を恋しく思う自分の心だけは何ひとつ変わらないのに、肝心の相手はもうここにいない――という孤独と悲しみ。「にして」は「〜であって」(断定「なり」連用形+接続助詞「して」)。

【内容・文学史】

問22 (例)翌年の正月、梅の花盛りに去年を恋しく思って女の住んでいた西の対を訪れ、立っては見、座っては見しても去年の面影はなく、荒れた板の間に月が傾くまで横になって思い出にひたり、歌を詠んだが、悲しみは晴れず、夜がほのぼのと明けるころ、泣きながら帰るしかなかったから。

問23 ジャンル:歌物語(和歌を中心に短い章段を連ねた物語。『大和物語』『平中物語』が同ジャンル)。モデルと目される歌人:在原業平(六歌仙の一人。この段の女は後の二条の后藤原高子とされる)。

※本文は『伊勢物語』第四段によります(表記は高校教科書で一般的なものに合わせています)。設問・解説は誰でも古典塾オリジナルです。

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