古文の重要単語の多くは、現代語の一語にきれいに対応しません。とくに「あはれ」「いみじ」「をかし」などの多義語は、置かれた文脈(プラスの場面かマイナスの場面か、何を対象としているか)によって意味が大きく変わります。だからこそ、訳語を丸暗記するだけでなく、その語が「どんな気持ち・どんな様子」を表す言葉なのかという中心義をつかみ、場面に合わせて訳し分ける力が必要です。
次の各例文を読み、傍線部の古語について後の問いに答えよ。
本文
※例文は学習用に作成しています。
① 月をながめて、もののあはれを知る人ぞ涙ぐみける。
② 親に先立ちて子の失せにけるは、いとあはれなり。
③ 笛の音のをかしう聞こゆれば、人々耳をとどめけり。
④ そのふるまひ、いとをかしくて、見る人みな笑ひけり。
⑤ 三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。
⑥ 古き友のもとより文の来たるは、げになつかしき。
⑦ 人目もはばからず物乞ふさまの、見るにやさしくおぼゆ。
⑧ 言ひ出でむもやさしくて、ただ思ひのみ深し。
⑨ 別れの日近づきて、いとかなしき心地す。
⑩ この稚児、をかしげにてものを言ふさま、いみじうかなし。
⑪ 返事の遅きを、こころもとなく待ちわぶ。
⑫ つれづれなるままに、硯に向かひて文字を書く。
⑬ 旅の宿のわびしきに、雨さへ降り出でぬ。
⑭ 秋果てて草も枯れ、庭のさますさまじ。
⑮ 夜ふけて門を叩く音に、人みなおどろきて起きぬ。
⑯ 雷の鳴りて、すさまじき夜なりけり。
⑰ 市の者ども、声高にののしりて物を売る。
⑱ そのうはさ、世にあまねくののしりけり。
⑲ 兄はおとなしく、弟をよくいたはりけり。
⑳ 姫君の御かたち、いとうるはしくおはす。
設問
- ①「あはれ」の文脈上の意味として最も適切なものを選べ。
- ア しみじみとした情趣・感動 イ こっけいだ ウ 待ち遠しい
- ②「あはれなり」の文脈上の意味を答えよ。(選択肢:ア 趣がある イ 気の毒だ・いたわしい ウ かわいらしい)
- ③「をかしう」の文脈上の意味として最も適切なものを選べ。
- ア こっけいだ イ 趣がある・風情がある ウ 気の毒だ
- ④「をかしく」の文脈上の意味を答えよ。(選択肢:ア 美しい イ 趣がある ウ こっけいだ・おかしい)
- ⑤「うつくしう」の文脈上の意味を答えよ。(選択肢:ア かわいらしい イ 立派だ ウ 気の毒だ)
- ⑥「なつかしき」の文脈上の意味として最も適切なものを選べ。
- ア 心がひかれる・慕わしい イ 過去が恋しい ウ うっとうしい
- ⑦「やさし」の文脈上の意味を答えよ。(選択肢:ア 優美だ イ 見ていてつらい・気の毒だ ウ たやすい)
- ⑧「やさし」の文脈上の意味を答えよ。(選択肢:ア 恥ずかしい・きまりが悪い イ 親切だ ウ つらい)
- ⑨「かなし」の文脈上の意味として最も適切なものを選べ。
- ア 悲しい・つらい イ いとしい・かわいい ウ 趣がある
- ⑩「かなし」の文脈上の意味を答えよ。(選択肢:ア 悲しい イ いとしい・かわいくてたまらない ウ 気の毒だ)
- ⑪「こころもとなく」の文脈上の意味を答えよ。(選択肢:ア 待ち遠しい・じれったい イ 心細い ウ 不安だ)
- ⑫「つれづれなる」の文脈上の意味として最も適切なものを選べ。
- ア することがなく退屈だ イ 連続している ウ 親しみがある
- ⑬「わびし」の文脈上の意味を答えよ。(選択肢:ア さびしくみすぼらしい・つらい イ 趣がある ウ あわれだ)
- ⑭「すさまじ」の文脈上の意味を答えよ。(選択肢:ア 程度がはなはだしい イ 殺風景だ・興ざめだ ウ おそろしい)
- ⑮「おどろき」の文脈上の意味として最も適切なものを選べ。
- ア 目を覚ます・はっと気づく イ びっくりする ウ あわてる
- ⑯「すさまじき」の文脈上の意味を答えよ。(選択肢:ア 殺風景だ イ 興ざめだ ウ おそろしい・ぞっとする)
- ⑰「ののしりて」の文脈上の意味を答えよ。(選択肢:ア 大声で騒ぐ イ 悪口を言う ウ 評判になる)
- ⑱「ののしりけり」の文脈上の意味を答えよ。(選択肢:ア 大声で騒ぐ イ 評判が高い・うわさされる ウ 非難する)
- ⑲「おとなしく」の文脈上の意味を答えよ。(選択肢:ア 静かでおだやかだ イ 大人びている・思慮分別がある ウ 年老いている)
- ⑳「うるはし」の文脈上の意味を答えよ。(選択肢:ア かわいらしい イ きちんとして美しい・端正だ ウ なれ親しんでいる)
- ①と②の「あはれ」は、それぞれどのような気持ちを表しているか。二つの意味の違いを説明せよ。
- ③と④の「をかし」は意味が異なる。それぞれの意味の違いを説明せよ。
- ⑦と⑧の「やさし」は意味が異なる。それぞれの意味の違いを説明せよ。
- ⑨と⑩の「かなし」は意味が異なる。その違いを説明せよ。
- ⑭と⑯の「すさまじ」は意味が異なる。その違いを説明せよ。
- 次の語の中心的な意味(その語が本来表す気持ち・様子)を、それぞれ簡潔に説明せよ。
- (1)「いみじ」 (2)「こころもとなし」
▼ 解答・解説を見る
問1 ア(しみじみとした情趣・感動)。月を眺めて心動かされる場面なので、プラスの「情趣・感動」の意。「あはれ」の中心義は、対象に深く心を動かされること。
問2 イ(気の毒だ・いたわしい)。子に先立たれた親の悲しみを述べる場面で、ここでは同情・哀傷の意。「いとあはれなり」で「たいそう気の毒だ」。
問3 イ(趣がある・風情がある)。笛の音に聞き入る場面なので、美的にすぐれている意。「をかし」の中心義は、明るく心ひかれる興趣。
問4 ウ(こっけいだ・おかしい)。人々が笑う場面なので、滑稽でおかしい意。中世以降に強まる用法。
問5 ア(かわいらしい)。三寸ほどの小さな人の様子なので「かわいらしい・いとしい」。「うつくし」は小さいものへの愛情を表す語で、現代語の「美しい」とは異なる。
問6 ア(心がひかれる・慕わしい)。古い友からの手紙に心ひかれる場面。「なつかし」は「心がひかれて離れがたい・慕わしい」が原義で、現代語の「過去を懐かしむ」とはずれる点に注意。
問7 イ(見ていてつらい・気の毒だ)。人目もかまわず物乞いする姿を見て、見るにたえない・気の毒だと感じる意。「やさし」には「身もやせ細る思いだ」の語感がある。
問8 ア(恥ずかしい・きまりが悪い)。言い出すのもきまりが悪い、という場面。「やさし」のもう一つの代表義。
問9 ア(悲しい・つらい)。別れが近づいてつらい気持ちを表す。哀傷の「かなし」。
問10 イ(いとしい・かわいくてたまらない)。稚児のかわいらしさに胸がいっぱいになる場面。「かなし」には「いとしくてたまらない」という愛情の意がある。
問11 ア(待ち遠しい・じれったい)。返事が遅いのを待ちわびる場面なので「じれったい・待ち遠しい」。「こころもとなし」は不安・じれったさを表す。
問12 ア(することがなく退屈だ)。なすこともなく手持ちぶさたな様子。「つれづれ」は所在なさ・もの寂しい退屈を表す。
問13 ア(さびしくみすぼらしい・つらい)。旅の宿のわびしさを述べる場面。「わびし」は心細くつらい・みすぼらしい意。
問14 イ(殺風景だ・興ざめだ)。秋が果てて草の枯れた庭の様子なので「殺風景だ・興ざめだ」。風情のなさを表す。
問15 ア(目を覚ます・はっと気づく)。門を叩く音で皆が目を覚ます場面。「おどろく」の中心義は「はっと気づく・目を覚ます」で、現代語の「びっくりする」とずれる。
問16 ウ(おそろしい・ぞっとする)。雷の鳴る夜の様子で、ぞっとするようなおそろしさを表す。「すさまじ」は「興ざめだ」のほか「ぞっとするほどだ・程度がはなはだしい」の意でも用いる。
問17 ア(大声で騒ぐ)。市で声高に物を売る場面なので「大声で騒ぐ・声高に言う」。「ののしる」は本来「大声をあげる」意。
問18 イ(評判が高い・うわさされる)。うわさが世に広まる場面なので「評判が高い・世に騒がれる」。「ののしる」が転じた用法。
問19 イ(大人びている・思慮分別がある)。弟をいたわる兄の様子で「大人びて思慮分別がある」。「おとなし」は「大人らしい・分別がある」が原義で、現代語の「静かでおとなしい」とはずれる。
問20 イ(きちんとして美しい・端正だ)。姫君の容貌が整って美しい様子。「うるはし」は乱れなく整った端正な美をいう。
問21 ①は月の情趣に心打たれる「しみじみとした感動・情趣」を表すプラスの語感。②は子を失った悲しみへの「気の毒だ・いたわしい」という同情・哀傷を表す。どちらも「心が深く動く」点は共通するが、①は美的な感動、②は悲哀・同情へと文脈で振れている。
問22 ③は笛の音の「趣がある・風情がある」という美的賞賛、④はふるまいを見て笑う「こっけいだ・おかしい」という滑稽の意。「をかし」は明るい興趣が中心義だが、対象が風流なら「趣がある」、人の言動なら「こっけいだ」に振れる。
問23 ⑦は物乞いの姿を「見ていてつらい・気の毒だ」と感じる意、⑧は言い出すのが「恥ずかしい・きまりが悪い」の意。「やさし」は本来「身がやせ細るほど耐えがたい」という語感から、文脈により「つらい」「恥ずかしい」へ分かれる(現代語「優しい=親切」とは別)。
問24 ⑨は別れがつらい「悲しい・つらい」、⑩は稚児が「いとしい・かわいくてたまらない」の意。「かなし」は「胸がしめつけられるほど心が動く」が中心義で、対象により悲哀にも愛情にも振れる。
問25 ⑭は枯れた庭の「殺風景だ・興ざめだ」、⑯は雷の夜の「おそろしい・ぞっとする」の意。「すさまじ」は調和を欠いてしらける感じが中心で、対象により「興ざめ」にも「ぞっとするほど」にも振れる。
問26 (1)「いみじ」…程度がはなはだしいことを表す語で、それ自体はよい・悪いの方向を持たない。文脈に応じて「すばらしい」にも「ひどい・大変だ」にも振れる。 (2)「こころもとなし」…対象がはっきりせず心が落ち着かないさまが中心義で、「待ち遠しい・じれったい」「不安だ・気がかりだ」「ぼんやりしている」などの意になる。
※この問題は誰でも古典塾オリジナルです。
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