『孟子』は、孔子の教えを受け継いだ戦国時代の思想家・孟子(孟軻)の言行を弟子がまとめた書です。孟子は、人は生まれつき善い心を備えているとする「性善説」を唱えました。その根拠が「四端」で、誰の心にも惻隠(あわれみ)・羞悪(はじ・にくみ)・辞讓(ゆずり)・是非(よしあし)の四つの芽生えが具わり、それぞれが仁・義・礼・智という四つの徳の出発点になると説きます。ここでは「人、皆 人に忍びざるの心有り」と、子どもが井戸に落ちそうな場面のたとえを中心に学びます。次の文章を読み、後の問いに答えよ。
白文(原文)
【白文】
書き下し文(傍線①〜⑮)
孟子曰(いは)く、人皆①人に忍びざるの心有り。……
人皆人に忍びざるの心有りと謂(い)ふ所以の者は、今人②乍(たちま)ち③孺子(じゆし)の将(まさ)に井(せい)に入らんとするを見れば、皆④怵惕惻隠(じゆつてきそくいん)の心有り。孺子の父母に⑤内交する所以(ゆゑん)に非(あら)ざるなり、⑥誉(ほまれ)を郷党朋友(きやうたうほういう)に要(もと)むる所以に非ざるなり、⑦其の声を悪(にく)みて然(しか)るに非ざるなり。
⑧是(ここ)に由(よ)りて之を観れば、⑨惻隠の心無きは、人に非ざるなり。羞悪(しうを)の心無きは、人に非ざるなり。辞讓(じじやう)の心無きは、人に非ざるなり。是非の心無きは、人に非ざるなり。
惻隠の心は、⑩仁の端(たん)なり。羞悪の心は、義の端なり。辞讓の心は、礼の端なり。是非の心は、智の端なり。人の是(こ)の四端有るや、⑪猶(な)ほ其の四体(したい)有るがごときなり。……
凡(およ)そ四端の我に有る者、皆⑫擴(ひろ)めて之を充(み)たすを知れば、⑬火の始めて然(も)え、泉の始めて達するがごとし。⑭苟(いやし)くも能(よ)く之を充たさば、以て四海を保つに足る。苟くも之を充たさざれば、⑮以て父母に事(つか)ふるに足らず。
語注 忍びざるの心=他人の不幸を見過ごせない、いたわりの心。 乍ち=とっさに・ふと。 孺子=幼い子ども。 井=井戸。 怵惕=はっとしておそれ、はらはらすること。 惻隠=あわれみ、いたみ悲しむ心。 内交=親しい交わりを結ぶこと。 要む=求める。 郷党=郷里の人々。 朋友=友人。 端=芽生え・いとぐち・始まり。 四体=両手両足。からだ。 擴めて充たす=おし広げて十分に発揮する。 四海=天下・世界中。 苟くも=もし(仮定)。
解いて確かめる ― 縦書きの確認テスト(無料PDF)
読んだだけでは、テストでは書けません。本番と同じ縦書きで、実際に手を動かしてください。26問・解答と現代語訳つきです。
使い方のおすすめ。①まず何も見ずに解く → ②解答で答え合わせ → ③まちがえた設問の番号と同じ傍線を本文で探して読み直す。
設問
A 語句と読み
- ③の「孺子」の読みと意味を書け。
- ②「乍(たちま)ち」の読みと意味を書け。
- ④の「怵惕」の読みと意味を書け。
- ④の「惻隠」の意味を書け。
- ⑩の「端」のここでの意味を書け。
- ⑪の「四体」の意味を書け。
B 句法
- ③の「将に〜んとす」は何と呼ばれる文字か。読み方と意味も書け。
- ⑪の「猶ほ〜がごとし」は何と呼ばれる文字か。意味も書け。
- ⑤・⑦の「〜に非ざるなり」は、どのような意味を表すか。
- ⑭「苟(いやし)くも能(よ)く之を充たさば」の「苟くも〜ば」は、どのような意味を表すか。
- ⑫を含む「皆擴めて之を充たすを知れば」の「ば」は何形に接続し、何を表すか。
C 何を指すか
- ①「人に忍びざるの心」とは、どのような心か。十五字以内で書け。
- ⑤・⑥・⑦で、孟子は何を否定しているのか。三つまとめて書け。
- ⑫の「之」は何を指すか。
- ⑬は、四端をどうすることのたとえか。本文の語を用いて書け。
D 口語訳
- ②・③を含む「今人乍ち孺子の将に井に入らんとするを見れば」
- ⑨「惻隠の心無きは、人に非ざるなり」
- ⑪を含む「人の是の四端有るや、猶ほ其の四体有るがごときなり」
- ⑭を含む「苟くも能く之を充たさば、以て四海を保つに足る」
E 内容・記述
- 四端と、それが出発点となる四徳の対応を、それぞれ漢字一字で書け。
- ⑧より前で、孟子が「孺子の井に入らんとする」たとえを持ち出したのは、何を証明するためか。
- ⑪のたとえによって、孟子は四端が人にとってどのようなものだと言いたいのか。
- ⑮「以て父母に事(つか)ふるに足らず」とあるが、四端を充たさなければどうなると言っているのか。
F 思想・文学史
- この文章で説かれている、人の本性は善であるとする考え方を漢字三字で書け。また、孟子が受け継ぎ発展させた儒家の祖とされる思想家名も書け。
- 孟子が活躍したのは何時代か。
- 孟子の性善説に対し、「人の本性は悪であり、努力によって善に向かう」と説いた同じ戦国時代の儒家の思想家名を書け。
[広告・PR]
再読文字(将・猶)が、どうしても頭に入らないという人へ
古典の記述問題は、自分の答案が何点になるのか、ひとりでは判断がつきません。誰でも古典塾は解答つきのPDFを配っていますが、あなたが書いた答案そのものを見て直すことまではできません。そこを埋めるのがZ会の通信教育です。まずは資料を取り寄せて、教材と添削の中身を見てから決められます。
![]()
解答と解説
▼ 解答・解説を見る
A 語句と読み
問1 じゆし(じゅし)/幼い子ども
問2 たちまち/とっさに・ふと
問3 じゆつてき(じゅってき)/はっとしておそれ、はらはらすること
問4 あわれみ、いたみ悲しむ心
└ ★四端の一つ目
問5 芽生え・いとぐち・始まり
└ ×「はし・きわ」ではない
問6 両手両足。からだ。
B 句法
問7 再読文字「将」/「まさニ〜ントす」=今にも〜しようとする
問8 再読文字「猶」/「なホ〜ノごとシ」=ちょうど〜と同じようだ
└ ★③の「将」と混ぜて出る
問9 〜ではないのである(打消・否定)
問10 もし〜ならば(仮定条件)
問11 已然形(「知れ」)に接続し、順接の確定条件(〜すると・〜ので)を表す。
C 何を指すか
問12 他人の不幸を見過ごせない心。(十四字)
問13 子を助けようとするのは、①その子の父母と親しくなるためでも、②郷里の人や友人にほめられるためでも、③泣き声を不快に思ったためでもない、ということ。
問14 四端(惻隠・羞悪・辞讓・是非の心)
問15 四端を擴めて充たすこと(おし広げて十分に発揮すること)
D 口語訳
問16 いま、ふと幼い子どもが今にも井戸に落ちようとしているのを見ると、
問17 あわれみの心がない者は、人ではないのである。
問18 人にこの四つの芽生えがあるのは、ちょうど人に両手両足があるのと同じことである。
問19 もしよくこれを十分に発揮できるなら、天下を安らかに保つことができる。
E 内容・記述
問20 惻隠=仁/羞悪=義/辞讓=礼/是非=智
└ ★毎年ここから出る
問21 人には生まれつき善い心(人に忍びざるの心)が具わっている、ということを証明するため。
問22 手足と同じように、人であれば誰にでも生まれつき具わっているもの、ということ。
問23 父母に仕えることさえもできない、と言っている。
F 思想・文学史
問24 性善説/孔子
問25 戦国時代
問26 荀子(じゆんし)
【テスト直前チェック】この三つ
❶四端と四徳の対応=惻隠→仁/羞悪→義/辞讓→礼/是非→智。ここは即答できるように。
❷再読文字が二つ=「将に〜んとす」(今にも〜しようとする)と「猶ほ〜がごとし」(ちょうど〜のようだ)。
❸「端」=芽生え。四端は完成した徳ではなく、育てるべき「芽」だという点が記述で問われます。
現代語訳(全文)
孟子が言うには、人には誰にでも、他人の不幸を見過ごせない心がある。……
人には誰にでも他人の不幸を見過ごせない心がある、と言えるわけは、いま、ふと幼い子どもが今にも井戸に落ちようとしているのを見れば、誰でもはっとしておそれ、あわれみいたむ心が起こるからである。(それは)その子の父母と親しくなろうとするからではない。郷里の人々や友人からほめられようとするからでもない。その泣き声を不快に思ってそうするのでもない。
このことから考えてみると、あわれみの心がない者は、人ではない。はじにくむ心がない者は、人ではない。ゆずる心がない者は、人ではない。よしあしを見分ける心がない者は、人ではない。
あわれみの心は、仁の芽生えである。はじにくむ心は、義の芽生えである。ゆずる心は、礼の芽生えである。よしあしを見分ける心は、智の芽生えである。人にこの四つの芽生えがあるのは、ちょうど人に両手両足があるのと同じことである。……
およそ四端が自分にそなわっている者が、それをみなおし広げて十分に発揮することを知れば、ちょうど火が燃えはじめ、泉がわきはじめるように(さかんになる)。もしよくこれを十分に発揮できるなら、天下を安らかに保つことができる。もしこれを十分に発揮しなければ、父母に仕えることさえもできない。
※この問題は誰でも古典塾のオリジナルです。本文は古典(著作権の対象外)から正確に引用しています。
あわせて読みたい
- 漢文・荀子『性悪説』と孟子『性善説』の違い(この範囲のやさしい解説)
- 再読文字 一覧と覚え方|未・将・当ほか9字と練習PDF ― 「将」「猶」をまとめて
- 漢文 句形これだけ100|無料PDFと決め手つき
- 漢文『論語』学而・為政|書き下し文・現代語訳 ― 孟子が受け継いだ孔子の教え
- 定期テスト対策 一覧(174テーマ)



コメント