『土佐日記』は、平安時代の歌人紀貫之が、土佐の国司の任を終えて京へ帰る旅を、約五十五日間にわたって書きつづった日記です。当時、日記は漢文で書くのが男性の常でしたが、貫之は自分を女性に仮託(女性のふりをする設定)して、かな(仮名)文字で書きました。これは日本初の仮名日記文学として、後の『蜻蛉日記』や『枕草子』『源氏物語』など女流文学の道を開いたとされ、文学史上きわめて重要です。冒頭の「すなる」「するなり」の助動詞の識別は定期テストの最頻出ポイントです。次の文章を読み、後の問いに答えよ。
本文
男もすなる〔①〕日記といふものを、女もしてみむ〔②〕とて、するなり〔③〕。
それの年の十二月の二十日あまり一日の日の、戌の時に門出す〔④〕。そのよし、いささかにものに書きつく〔⑤〕。
(注)すなる=「す」+助動詞。/戌の時=午後八時ごろ。/門出す=旅立ちのために出発する。
設問
- 冒頭の「男もすなる」の「も」と「女もしてみむ」の「も」は、二つを並べて述べる働きをしている。この「も」の意味・用法として最も適当なものを、次から選べ。
- ア 強意 イ 並列(同類) ウ 疑問 エ 禁止
- 傍線部①「すなる」を文法的に説明したい。次の小問に答えよ。
- (1) 「す」の終止形と品詞・意味を答えよ。
- (2) 「なる」は何という助動詞の何形か。またその意味(伝聞・推定のどちらか)を答えよ。
- (3) 「すなる」を現代語訳せよ。
- 傍線部②「してみむ」の「む」の文法的意味として最も適当なものを、次から選べ。
- ア 過去 イ 意志 ウ 打消 エ 完了
- 傍線部②「してみむ」を現代語訳せよ。
- 傍線部③「するなり」の「なり」は、①の「なる」とは別の助動詞である。次に答えよ。
- (1) 「なり」の文法的意味(断定・伝聞推定のいずれか)を答えよ。
- (2) ①の「なる」と③の「なり」を見分ける手がかりを、接続の観点から簡潔に説明せよ。
- 傍線部③「するなり」の「する」は、サ変動詞「す」の何形か。活用形を答えよ。
- 「それの年の十二月の二十日あまり一日の日」とは、何月何日のことか。漢数字で答えよ。
- 「戌の時」とは、現在のおよそ何時ごろか。次から選べ。
- ア 午前六時ごろ イ 正午ごろ ウ 午後八時ごろ エ 午前零時ごろ
- 傍線部④「門出す」の意味を答えよ。
- 傍線部⑤「ものに書きつく」を現代語訳せよ。
- 冒頭の一文「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとて、するなり。」を、全体として現代語訳せよ。
- この日記の作者は誰か。人名を漢字で答えよ。
- 問12の作者は、ある勅撰和歌集の編者の一人としても有名である。その和歌集名を答えよ。
- 『土佐日記』は何時代に成立した作品か。次から選べ。
- ア 奈良時代 イ 平安時代 ウ 鎌倉時代 エ 江戸時代
- 作者は当時、土佐でどのような立場にあったか。本文・解説をふまえて簡潔に答えよ。
- 当時、男性が日記を書く際に一般的に用いた文字(文体)は何か。漢字二字で答えよ。
- それに対し、作者が『土佐日記』で用いた文字は何か。答えよ。
- 作者は本文で、自分自身をどのような人物に見立てて(仮託して)書いているか。答えよ。
- 作者が、男性でありながらわざわざ女性に仮託して書いたのはなぜだと考えられるか。文字(文体)との関係に触れて、二十字以内で説明せよ。
- 『土佐日記』は、日本文学史上どのような点で画期的な作品とされるか。「仮名」という語を用いて簡潔に説明せよ。
- 『土佐日記』のあとに書かれた仮名日記文学を、次から一つ選べ。
- ア 古事記 イ 蜻蛉日記 ウ 万葉集 エ 徒然草
- 本文全体は、誰の立場・視点から語られているか。最も適当なものを次から選べ。
- ア 作者である男性自身 イ 作者が仮託した女性 ウ 土佐の国の役人 エ 京で待つ家族
▼ 解答・解説を見る
問1 イ(並列・同類)。「男も…女も…」と同類のものを並べて示している。
問2 (1) 終止形「す」。サ行変格活用動詞で、意味は「する」。 (2) 助動詞「なり」の連体形。意味は伝聞・推定。 (3) 訳「するという/するそうだ」。(※終止形「す」に接続しているので伝聞推定の「なり」。「男もするという日記」の意。)
問3 イ(意志)。「(私も)してみよう」という作者(仮託した女性)の意志を表す。
問4 「(女である私も)してみよう」。
問5 (1) 断定の助動詞「なり」。 (2) 伝聞推定の「なり」は終止形(ラ変型は連体形)に接続するのに対し、断定の「なり」は連体形・体言に接続する。①は終止形「す」+「なる」なので伝聞推定、③はサ変連体形「する」+「なり」なので断定と判別できる。
問6 連体形。下の断定の助動詞「なり」が連体形に接続するため、「する」はサ変連体形。
問7 十二月二十一日。(「二十日あまり一日」=二十日に一日を加えた日。)
問8 ウ(午後八時ごろ)。
問9 (旅立ちのために)出発する。旅立つ。
問10 「(その旅立ちの)事情を、少しばかり紙に書きつける。」
問11 「男もするという日記というものを、女(である私)もしてみようと思って、する(書く)のである。」
問12 紀貫之(きのつらゆき)。
問13 古今和歌集(古今集)。紀貫之は『古今和歌集』の撰者の一人で、仮名序の作者としても知られる。
問14 イ(平安時代)。十世紀前半(九三五年ごろ)の成立とされる。
問15 土佐の国司(国守)として赴任しており、その任期を終えて京へ帰るところであった。
問16 漢字(漢文)。当時、男性の日記は漢文で書くのが普通だった。
問17 仮名(かな)。
問18 女性(女)に見立てて(仮託して)書いている。
問19 (例)「仮名で書くため女性のふりをした。」(当時かな文字は主に女性が用いるものであり、かなで自由に書くために女性に仮託したと考えられる。)
問20 (例)漢文ではなく仮名で書かれた、日本で最初の本格的な仮名日記文学である点。後の女流日記文学の先がけとなった。
問21 イ(蜻蛉日記)。(ア『古事記』・ウ『万葉集』は奈良時代、エ『徒然草』は鎌倉時代末の随筆。)
問22 イ(作者が仮託した女性)。作者は女性のふりをして、その視点から語っている。
※この問題は誰でも古典塾オリジナルです。本文は古典作品(著作権の対象外)から正確に引用しています。
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