清少納言『枕草子』の「にくきもの」は、日常のいらだたしいものを次々に挙げていく「ものづくし(類聚章段)」の代表例です。定期テストでは「まらうど」「ねぶたし」などの古語の意味、「やりつべけれど」の助動詞、「さへ」の用法、「こそ…にくけれ」の係り結び、そして作者のするどい観察眼という主題が定番で問われます。
本文
【(一)急ぐことあるをりに】
にくきもの、急ぐことあるをりに来て、長言するまらうど。あなづりやすき人ならば、「後に」とてもやりつべけれど、さすがに心恥づかしき人、いとにくくむつかし。【(二)硯・墨】
すずろなる硯に髪の入りて磨られたる。また、墨の中に石のきしと入りて、きしみ鳴りたる。【(三)験者】
にはかにわづらふ人のあるに、験者もとむるに、例ある所にはなくて、ほかに尋ねありくほど、いと待ち遠に久しきに、からうじて待ちつけて、喜びながら加持せさするに……【(四)蚊】
ねぶたしと思ひて臥したるに、蚊のほそき声にわびしげに名のりて、顔のほどに飛びありく。羽風さへその身のほどにあるこそ、いとにくけれ。【(五)人の性】
ものうらやみし、身の上嘆き、人の上言ひ、露塵のこともゆかしがり、聞かまほしうして、言ひ知らせぬをば怨じ、そしり……いとにくし。
問題
- 傍線部(一)「まらうど」の読みをひらがな(現代仮名遣い)で答え、その意味を答えよ。
- 傍線部(一)「をり」を漢字で書き、意味を答えよ。
- 傍線部(一)「やりつべけれ」を文法的に説明し(品詞分解)、口語訳せよ。
- 傍線部(一)「さすがに心恥づかしき人」とはどのような人か、また作者がその相手を「いとにくくむつかし」と感じるのはなぜか、説明せよ。
- 傍線部(四)「羽風さへその身のほどにあるこそ、いとにくけれ」の「さへ」の意味(用法)を答え、あわせて全体を口語訳せよ。
- 傍線部(四)「羽風さへその身のほどにあるこそ、いとにくけれ」には係り結びが用いられている。係助詞と結びの語を抜き出し、結びが何形になっているか答えよ。
- 傍線部(四)「ねぶたし」の意味を答えよ。
- 傍線部(五)「ものうらやみし、身の上嘆き」を口語訳せよ。また、この段全体で作者が「にくきもの」を通して描こうとしたことを簡潔に説明せよ。
解答・解説
問1の解答
読み=まろうど。意味=客・来客。歴史的仮名遣い「まらうど」は現代仮名遣いで「まろうど」となり、招かれて訪ねてくる人(客人)を指す。ここでは「急用のあるときに来て長話をする客」への不満。
問2の解答
漢字=「折」。意味=時・場合・ちょうどそのとき。「急ぐことあるをり」で「急用があるとき」の意。
問3の解答
「やり」=ラ行四段動詞「やる(追い返す・行かせる)」の連用形/「つ」=強意(確述)の助動詞「つ」の終止形/「べけれ」=可能の助動詞「べし」の已然形/下の「ど」は逆接の接続助詞。口語訳=「(きっと・すぐに)追い返せるだろうけれど」。強意「つ」+推量系「べし」で“…できるにちがいない”のニュアンス。
問4の解答
「心恥づかしき人」=こちらが気おくれするほど立派で、気のおける(軽々しく扱えない)相手のこと。あなどってよい相手なら「また後で」と追い返せるが、こういう立派な相手にはそうも言えず、長話を我慢して聞かねばならないので、いっそう腹立たしく気づまりに感じるから。
問5の解答
「さへ」=添加の副助詞で「…までも」の意(あるものに、さらに別のものが加わる)。口語訳=「(蚊が飛びまわるだけでもいやなのに、)羽の起こす風までもがその体の大きさに(似合いで)ちゃんとあるのが、たいそう憎らしい。」細い声で寄ってくるうえに羽風まであることへのいらだち。
問6の解答
係助詞=「こそ」。結びの語=「にくけれ」(ク活用形容詞「にくし」)。「こそ」の結びなので已然形となり、「にくけれ」で結ばれている。強調の係り結び。
問7の解答
意味=眠い・眠たい。形容詞「ねぶたし」(現代語「眠い」の古形)。「眠いと思って横になっているのに、蚊が…」という文脈。
問8の解答
口語訳=「何かにつけて(他人を)うらやましがり、わが身の上を嘆いて…」。段全体=日常のささいな出来事や人の言動を鋭く観察し、いらだたしい・憎らしいと感じるものを次々に列挙する「ものづくし(類聚章段)」で、清少納言の細やかで機知に富んだ観察眼と、率直な感覚が主題となっている。
👉 本文の現代語訳・語句・文法のくわしい解説は 解説記事 で確認できます。
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