今昔物語集の『羅城門(羅城門の上層に登りて死人を見る盗人の語)』は、芥川龍之介の小説『羅生門』の原典として知られ、高校の定期テストでも頻出の説話です。荒れ果てた平安京の羅城門の上で、盗人が死人の髪を抜く老婆と出くわす――その緊張した場面を通して、説話特有の語り口と人間の生々しさを味わうことができます。まずは本文を読み、設問に答え、最後の「解答・解説」で確認してみましょう。物語の全体像をやさしくつかみたい人は、あわせて今昔物語集『羅城門』のやさしい解説もどうぞ。
本文(傍線①〜⑮)
今は昔、摂津(せつつ)の国のあたりより、①盗みせむがために京に上りける男の、日のいまだ暮れざりければ、羅城門(らじやうもん)の下に立ち隠れて立てりけるに、朱雀(すざく)のかたに人しげく行きければ、人の②静まるまでと思ひて、門の下に待ち立てりけるに、山城(やましろ)のかたより人どものあまた来(く)る音のしければ、③それに見えじと思ひて、門の上層に④やはらかきつきて登りたりけるに、見れば、⑤火ほのかにともしたり。
盗人、⑥あやしと思ひて、連子(れんじ)よりのぞきければ、若き女の死にて臥(ふ)したるあり。その枕上(まくらがみ)に火をともして、年いみじく⑦老いたる嫗の白髪(しらが)白きが、その死人の枕上に居(ゐ)て、死人の髪をかなぐり抜き取るなりけり。
盗人、これを見るに、⑧心も得ねば、「⑨これはもし鬼にやあらむ」と思ひて恐ろしけれども、「もし死人にてもぞある、⑩脅して試みむ」と思ひて、やはら戸を開けて、刀を抜きて、「おのれは、おのれは」と言ひて走り寄りければ、嫗、手まどひをして、⑪手をすりてまどへば、盗人、「こはなにぞの嫗の、かくはしぞ」と問ひければ、嫗、「⑫おのれが主にておはしましつる人の失(う)せ給へるを、⑬あつかふ人のなければ、かくて置き奉りたるなり。その御髪(みぐし)の、丈(たけ)に余りて長ければ、それを抜き取りて⑭鬘にせむとて抜くなり。⑮助け給へ」と言ひければ、盗人、死人の着たる衣と、嫗の着たる衣と、抜き取りてある髪とを奪ひ取りて、下り走りて逃げて去りにけり。
語注 摂津の国=今の大阪府北部から兵庫県南東部のあたり。 羅城門=平安京の南の正門。当時は荒れ果てていた。 朱雀=朱雀大路。羅城門から北へまっすぐのびる都の大通り。 山城の国=今の京都府南部。 上層=門の二階部分。 連子=連子窓。細い格子を間をあけて並べた窓。 枕上=まくらもと。 かなぐり抜き取る=手荒くつかんで引き抜く。 もぞ=「〜すると困る」という危惧(きぐ)を表す言い方。「ぞ」の結びで文末が連体形「ある」になっている。 手まどひ=あわてふためくこと・うろたえること。 こはなにぞの嫗の、かくはしぞ=これはいったいどういう者が、こんなことをしているのか。 主=主人。仕えていた相手。 御髪=「みぐし」と読む。お髪(かみ)。 丈=背丈。 おのれ=①自分・私 ②おまえ(相手をののしる言い方)。
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使い方のおすすめ。①まず何も見ずに解く → ②解答で答え合わせ → ③まちがえた設問の番号と同じ傍線を本文で探して読み直す。
設問
A 語句の意味と読み
- ②「静まる」とは、ここではどういうことか。
- ③「それに見えじ」の「見え(見ゆ)」の意味を書け。
- ④「やはらかきつきて」の「やはら」の意味を書け。
- ⑥「あやし」のここでの意味を書け。
- ⑦「老いたる嫗」の「嫗」の読みと意味を書け。
- ⑧「心も得ねば」の「心得(う)」の意味を書け。
- ⑭「鬘にせむとて」の「鬘」の読みと意味を書け。
B 文法(助動詞・係り結び・敬語の種類)
- ①「盗みせむがために」の「む」の文法的意味を書け。
- ③「それに見えじ」の「じ」の文法的意味と、「じ」が接続する活用形を書け。
- ⑧「心も得ねば」の「ね」の文法的意味・活用形と、「ば」の意味を書け。
- ⑨「これはもし鬼にやあらむ」の係助詞「や」の結びの語と、その活用形を書け。
- ⑩「脅して試みむ」の「む」の文法的意味を書け。
- ⑫「おのれが主にておはしましつる人の失せ給へる」の「おはしまし」と「給へ」は、それぞれ何敬語か。
C 指す内容と敬意の方向
- ③「それに見えじ」の「それ」は何を指すか。
- ⑫「おのれが主にておはしましつる人の失せ給へる」の「おのれ」は誰を指すか。
- ⑬「あつかふ人のなければ、かくて置き奉りたるなり」の「奉り」は何敬語で、誰に対する敬意か。
- ⑮「助け給へ」の「給へ」は何敬語で、誰から誰への敬意か。
D 口語訳
- ⑤「火ほのかにともしたり」を現代語訳せよ。
- ⑨「これはもし鬼にやあらむ」を現代語訳せよ。
- ⑪「手をすりてまどへば」を現代語訳せよ。
- ⑬「あつかふ人のなければ、かくて置き奉りたるなり」を現代語訳せよ。
E 内容・記述
- ④「やはらかきつきて」とあるが、盗人が門の上層に登ったのはなぜか。本文に即して四十字以内で書け。
- ⑩「脅して試みむ」とあるが、盗人は何を確かめようとしたのか。四十字以内で書け。
- ⑭「鬘にせむとて」とあるが、老婆は死人の髪を抜く行為をどのように説明して正当化したか。六十字以内で書け。
- ⑮「助け給へ」と老婆が命乞いをしたあと、盗人はどうしたか。⑨のときの気持ちと比べて心情がどう変わったかにも触れて、八十字以内で書け。
F 文学史
- この話の出典『今昔物語集』について、成立した時代と作品の種類(ジャンル)、および各話に共通する書き出しの言葉を書け。
- 『今昔物語集』は三部から成る。「天竺」「震旦」「本朝」は、それぞれ今のどこを指すか。
- この『羅城門』の話をもとにして書かれた近代小説の作品名と作者名を書け。
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解答と解説
▼ 解答・解説を見る
A 語句の意味と読み
問1 人の行き来が絶えること・人通りがなくなること。
└ 音が静まるのではなく、朱雀大路の人通りが絶えることをいう
問2 (人に)見られる・姿を見せる。
└ 「見ゆ」には「見える」のほかに「人に見られる・姿を見せる」の意がある。ここは後者で、「見えじ」=姿を見られまい
問3 そっと・静かに。
└ 気づかれないように、の意。本文にはもう一度「やはら戸を開けて」と出てくる
問4 不思議だ・変だ・怪しい。
└ ★「あやし」には「みすぼらしい」の意もあるが、ここは違う
問5 おうな/年老いた女・老婆。
└ 男の「翁(おきな)」と対になる語
問6 理解する・合点がいく。
└ 「心を得」=納得する・のみこむ。名詞の「心得(〜の心得がある)」の意味とは別物なので注意。傍線全体は打消の「ね」がつくので「わけが分からないので」となる(→設問10)
問7 かづら(かつら)/かつら・添え髪。
└ 他人の髪を使って作る添え髪のこと
B 文法(助動詞・係り結び・敬語の種類)
問8 婉曲(〜ような)。意志ととる説明もある。「〜むがために」で「〜するために」の意。
└ ★連体形の「む」+「が」を婉曲とする教科書が多いが、意志とする教科書もある。お使いの教科書の説明に合わせること
問9 打消意志(〜まい)/未然形(「見え」)に接続する。
└ 「見ゆ」は下二段。「見えじ」=姿を見られまい
問10 「ね」=打消の助動詞「ず」の已然形/已然形+「ば」で順接の確定条件(〜ないので)。
└ ★未然形+「ば」(もし〜ならば)との区別が頻出
問11 結び=「む」(連体形)。「あらむ」全体を結びとする教科書もある。
└ 「や」は疑問。「〜ではないだろうか」と訳す
問12 意志(〜しよう)。心の中の言葉の文末にあり、盗人自身の決意を表す。
└ 文末の「む」で主語が一人称なら意志
問13 どちらも尊敬語。ここは「にておはします」で「〜でいらっしゃる」(「〜である」の尊敬)、「給へ」は尊敬の補助動詞「給ふ」。
└ 老婆が、亡くなった相手を高めて言っている
C 指す内容と敬意の方向
問14 山城の方からやって来る大勢の人たち。
└ 直前の「人どものあまた来る音」を受ける
問15 嫗(老婆)自身。「私の」の意。
└ ★「おのれ」には①自分・私 ②おまえ の両方の意味があり、本文には両方が出てくる。盗人の言った「おのれは、おのれは」の「おのれ」は「おまえ」。同じ語で意味が正反対になる
問16 謙譲語。亡くなった主人(老婆が仕えていた人)に対する、老婆からの敬意。
└ 「置く」という動作の受け手を高めている
問17 尊敬語(補助動詞「給ふ」の命令形)。老婆(話し手)から盗人(聞き手)への敬意。
└ 会話文中の敬語は、話し手からの敬意
D 口語訳
問18 火(明かり)がかすかにともしてある。
└ 「たり」は存続(〜てある)
問19 これはもしかすると鬼ではないだろうか。
└ 「や〜む」で疑問。「もし」=もしかすると
問20 手をすり合わせて(拝むようにして)うろたえるので。
└ 「惑ふ」=分別を失ってあわてる
問21 世話をする人がいないので、こうして(ここに)置き申し上げているのです。
└ 「あつかふ」=世話をする。「奉り」は謙譲なので「〜申し上げる」
E 内容・記述
問22 山城の方から大勢の人が来る足音がしたので、姿を見られまいと思い身を隠すため。(三十八字)
└ 「それに見えじと思ひて」が根拠
問23 相手が鬼などの怪異なのか、生きた人間なのかという正体。脅して反応を見ようとした。(四十字)
└ ★「もし死人にてもぞある」の解釈は教科書によって説明が分かれる。お使いの教科書の説明に合わせること
問24 亡くなったのは自分の主人で、世話する人がいないのでここに置いている、その長い髪でかつらを作るのだ、と説明した。(五十五字)
└ ⑬と合わせて読む。この「生きるための言い分」が芥川『羅生門』の主題につながる
問25 死人の衣と老婆の衣と抜き取った髪を奪い、門を下りて逃げ去った。鬼かと恐れていたが、相手が人間だと分かると盗人の欲がむき出しになった。(六十六字)
└ 恐怖→強気→欲、という流れでとらえる
F 文学史
問26 平安時代末期/説話集/「今は昔」
└ 日本最大級の説話集で、千余話を収める
問27 天竺=インド、震旦=中国、本朝=日本。
└ インド→中国→日本と、仏教の伝わった順に並ぶ
問28 『羅生門』/芥川龍之介
└ 芥川は、原典にない「下人が悪へ踏み出す心の動き」を結末に据えて書きかえている
【テスト直前チェック】この三つ
❶「む」の使い分けが最大の山 ①「盗みせむがために」は目的を表す言い方の中の「む」(婉曲、または意志)、⑩「脅して試みむ」は心内文の文末にある盗人の意志。同じ「む」でも、置かれた場所で用法が変わります。
❷係り結びは「や」+連体形 ⑨「これはもし鬼にやあらむ」は、疑問の係助詞「や」を受けて文末が連体形「む」で結ばれています。訳は「〜ではないだろうか」。「じ」(③)は打消意志で未然形接続、という接続もセットで覚えましょう。
❸敬語は「誰が誰を高めるか」で決める ⑬「奉り」は謙譲で亡き主人へ、⑮「助け給へ」は尊敬で目の前の盗人へ。どちらも敬意を出しているのは老婆です。会話文の中の敬語は話し手からの敬意、と覚えておくと迷いません。
現代語訳(全文)
今となっては昔のことだが、摂津の国のあたりから、盗みをするために都へ上ってきた男が、日がまだ暮れなかったので、羅城門の下に身を隠して立っていたところ、朱雀大路の方に人の行き来が多かったので、人通りが静まるまでと思って、門の下で待って立っていたが、山城の方から大勢の人が来る足音がしたので、その人たちに姿を見られまいと思って、門の二階部分にそっとよじ登ったところ、見ると、火がかすかにともしてある。
盗人は、変だと思って、連子窓からのぞいたところ、若い女が死んで横たわっている。その枕もとに火をともして、たいそう年老いた白髪の白い老婆が、その死人の枕もとに座って、死人の髪を手荒くつかんで引き抜いているのであった。
盗人は、これを見て、わけがわからないので、「これはもしかすると鬼ではないだろうか」と思って恐ろしかったけれども、「もしかすると死人であるかもしれない、脅して試してみよう」と思って、そっと戸を開けて、刀を抜いて、「おのれは、おのれは(おまえは何者だ)」と言って走り寄ったところ、老婆は、あわてふためいて、手をすり合わせておろおろするので、盗人は、「これはいったい何者の老婆が、こんなことをしているのか」と尋ねたところ、老婆は、「私の主人でいらっしゃった方がお亡くなりになったのを、世話をする人がいないので、こうしてここに置き申し上げているのです。その方のお髪が、背丈より長いので、それを抜き取ってかつらにしようと思って抜いているのです。お助けください」と言ったので、盗人は、死人の着ている衣と、老婆の着ている衣と、抜き取ってあった髪とを奪い取って、(門を)下りて走って逃げ去ってしまった。
※「もし死人にてもぞある」は、「もぞ」を危惧(〜すると困る)ととって「ひょっとして死人であっては大変だ」と訳す説明もある(その場合、盗人はまだ恐れている場面になる)。お使いの教科書の説明に合わせること。
※この問題は誰でも古典塾のオリジナルです。本文は古典(著作権の対象外)から正確に引用しています。
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