古文では主語(動作主)がしばしば省略されますが、それを補う最大の手がかりが敬語です。尊敬語が使われていれば、その動作をする人は身分の高い人物だとわかります。謙譲語が使われていれば、動作の受け手が身分の高い人物だと判断できます。逆に、敬語がまったく付かない動作は、身分の低い人物や一般の人の動作であることが多いのです。この「敬語の種類から誰の動作かを見抜く」力は、複数の人物が登場する文章を正確に読むうえで欠かせません。次の文章を読み、後の問いに答えよ。
本文
※本文は学習用に作成した文章です。
〔場面〕ある宮中での出来事である。登場するのは、最も身分の高い帝(みかど)、帝にお仕えする大臣(おとど)、大臣に仕える女房(にょうぼう)、そして身分の低い従者(ずさ)の四人である。
帝、月のいとおもしろき夜、御簾(みす)の内にて琴を①弾かせたまふ。大臣、御前に参りて、その音をしばし②聞きたまふ。やがて大臣、帝に「この琴の音、世にたぐひなくこそ」と③申したまふ。帝、いたく喜ばせたまひて、「さらば、汝(なんぢ)にこの琴を④賜はむ」と⑤仰せらる。大臣、かしこまりて、これを⑥給はる。
大臣、退(まか)でて後、女房を召して、「この琴、いみじき宝なり。よくよく⑦守れ」と⑧のたまふ。女房、承りて、従者に「この琴を蔵に⑨納めよ」と言ふ。従者、おそれかしこみて、急ぎ蔵に⑩運ぶ。
設問
- 傍線部①「弾かせたまふ」の動作主は、帝・大臣・女房・従者のうち誰か。
- 傍線部①の動作主をそのように判断した根拠を、敬語の種類に触れて説明せよ。
- 使われている敬語は尊敬語・謙譲語・丁寧語のどれか。
- その敬語から、動作主の身分はどう判断できるか。
- 傍線部②「聞きたまふ」の動作主は誰か。
- 傍線部②に使われている敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)を答えよ。
- 傍線部③「申したまふ」の動作主は誰か。
- 傍線部③について、次の小問に答えよ。
- 「申す」は尊敬語・謙譲語・丁寧語のどれか。
- この謙譲語から、動作の受け手(言葉をかけられる相手)は誰だとわかるか。
- 傍線部③「申したまふ」と傍線部⑧「のたまふ」は、どちらも大臣の発言を表すが、敬語の働きには違いがある。その違いを、敬意の方向(誰への敬意か)に着目して説明せよ。
- 傍線部③「申す」は誰への敬意を表すか。
- 傍線部⑧「のたまふ」は誰への敬意を表すか。
- 傍線部④「賜はむ」の動作主は誰か。
- 傍線部④「賜はむ」を現代語訳せよ。
- 傍線部④の動作によって、琴を受け取る人物(動作の受け手)は誰か。
- 傍線部⑤「仰せらる」の動作主は誰か。
- 傍線部⑤「仰せらる」の敬語の種類を答え、あわせてこれが誰の動作かを判断した根拠を述べよ。
- 「仰す」はどのような意味の敬語か。
- 誰に対して用いられる敬語か。
- 傍線部⑥「給はる」の動作主は誰か。
- 傍線部⑥「給はる」を現代語訳せよ。
- 傍線部⑥の動作で、琴を与える側(動作の相手)は誰か。
- 傍線部⑦「守れ」は、誰が誰に命じた言葉か。命じた人と命じられた人の両方を答えよ。
- 命じた人(話し手)は誰か。
- 命じられた人(聞き手)は誰か。
- 傍線部⑧「のたまふ」の動作主は誰か。
- 傍線部⑧「のたまふ」の敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)を答えよ。
- 傍線部⑨「納めよ」は、誰が誰に命じた言葉か。
- 命じた人(話し手)は誰か。
- 命じられた人(聞き手)は誰か。
- 傍線部⑨「納めよ」に敬語が使われていないことから、話し手と聞き手の身分の関係についてどのようなことがわかるか。
- 傍線部⑩「運ぶ」の動作主は誰か。また、その動作に敬語が付いていない理由を、人物の身分の点から説明せよ。
- 本文中で、帝の動作には一貫してどのような敬語が用いられているか。種類を答えよ。
- 【記述】古文で省略された主語を補うとき、「尊敬語」と「謙譲語」はそれぞれどのように手がかりになるか。本文の例を一つずつ挙げながら、四十字以上で説明せよ。
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問1 帝。/琴を弾く動作に尊敬語「(せ)たまふ」が付いており、最も身分の高い帝の動作と判断できる。場面でも「帝……御簾の内にて琴を弾かせたまふ」とある。
問2 尊敬語。「(せ)たまふ」は尊敬の助動詞「す」+尊敬の補助動詞「たまふ」で、二重尊敬(最高敬語)。これほど高い敬意を払われるのは身分の最も高い帝であり、動作主は帝と判断できる。
問3 大臣。/「御前に参りて……聞きたまふ」とあり、聞く動作の主は帝の御前に参上した大臣である。「たまふ」(尊敬)が付くのは、大臣も従者・女房より身分が高い人物だからである。
問4 尊敬語。「たまふ」は尊敬の補助動詞で、聞く動作をする大臣への敬意を表す。
問5 大臣。/帝に対して「申す」のは、帝の御前に参上している大臣である。
問6 (1)謙譲語。 (2)動作の受け手は帝。「申す」は「言ふ」の謙譲語で、言葉をかけられる相手(=帝)への敬意を表すため、受け手が身分の高い帝だとわかる。
問7 (1)「申す」は受け手である帝への敬意。 (2)「のたまふ」は話し手である大臣への敬意。/③「申したまふ」は謙譲語「申す」で、言葉をかけられる相手(帝)を高める。一方⑧「のたまふ」は尊敬語で、発言する人物(大臣)自身を高める。同じ大臣の発言でも、謙譲語は受け手を、尊敬語は動作主を敬う点で敬意の方向が異なる。
問8 帝。/「汝にこの琴を賜はむ」と言って琴を与えようとするのは帝である。「賜ふ」は「与ふ」の尊敬語で、高貴な人が下の者に物を与える動作に用いる。
問9 (お前に)この琴を与えよう。/「賜は」=与える、「む」=意志「~しよう」。
問10 大臣。/帝が「汝(=大臣)に賜はむ」と言っているので、琴を受け取るのは大臣である。
問11 帝。/「仰す」は「言ふ」の尊敬語で、最も身分の高い人物の発言に用いられる。ここでは帝の発言である。
問12 尊敬語。「仰す」は「言ふ・命ず」の尊敬語で、目上の(最も高貴な)人物の発言を表す。直前で「賜はむ」と琴を与える側でもあり、動作主は帝と判断できる。
問13 大臣。/帝から琴を「給はる(いただく)」のは大臣である。
問14 (帝から琴を)いただく。/「給はる(賜はる)」は「受く・もらふ」の謙譲語で「いただく」の意。与えてくれる相手(帝)への敬意を含む。
問15 帝。/「給はる(いただく)」相手は与えてくれた帝であり、琴を与える側は帝である。
問16 (1)命じた人=大臣。 (2)命じられた人=女房。/大臣が女房を召して「よくよく守れ」と命じている。発言に「のたまふ」(尊敬)が付くのは、話し手である大臣への敬意による。
問17 大臣。/女房に命令の言葉をかけ、「のたまふ」と尊敬語で受けられているのは大臣である。
問18 尊敬語。「のたまふ」は「言ふ」の尊敬語で、発言した大臣への敬意を表す。
問19 (1)命じた人=女房。 (2)命じられた人=従者。/女房が従者に「蔵に納めよ」と指示している。
問20 「納めよ」に敬語が付いていないのは、話し手の女房から見て聞き手の従者が身分の低い者だからである。身分の低い相手への命令には敬語を用いないため、両者の上下関係(女房>従者)が読み取れる。
問21 動作主=従者。/「運ぶ」に敬語が付かないのは、従者が登場人物の中で最も身分の低い者であり、その動作には敬意を払う必要がないからである。敬語の有無からも、敬語のない「運ぶ」が身分の低い従者の動作だと判断できる。
問22 尊敬語(特に二重尊敬・最高敬語)。「弾かせたまふ」「喜ばせたまひて」「仰せらる」など、帝の動作には一貫して尊敬語が用いられている。
問23 (解答例)尊敬語は動作をする人が身分の高い人だと示す手がかりになる。例えば①「弾かせたまふ」の尊敬語から、動作主が帝だとわかる。一方、謙譲語は動作の受け手が身分の高い人だと示す手がかりになる。例えば③「申したまふ」の謙譲語「申す」から、言葉の受け手が帝だとわかる。このように敬語の種類に注目すれば、省略された主語や受け手を補うことができる。
※この問題は誰でも古典塾オリジナルです。
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