小式部内侍が、母・和泉式部の力を借りずに即座に名歌を詠んだという有名な逸話は、定期テストでも頻出です。特に和歌「大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天の橋立」に込められた掛詞(一つの言葉に二つの意味を重ねる技法)と、定頼中納言のからかいに対する小式部内侍の機転が問われます。まずは本文を読み、設問に答えてから、最後の解答で確認しましょう。あらすじや言葉の意味があいまいな人は、先に十訓抄『大江山』のやさしい解説を読んでおくと、設問が解きやすくなります。
本文(傍線①〜⑮)
和泉式部、保昌(やすまさ)が①妻(め)にて、丹後(たんご)に下(くだ)りけるほどに、京に歌合(うたあはせ)ありけるに、小式部内侍(こしきぶのないし)、歌詠(うたよ)みに②とられて詠みけるを、定頼中納言(さだよりのちゆうなごん)③たはぶれて、小式部内侍、局(つぼね)にありけるに、「丹後へ④つかはしける人は⑤参りたりや。いかに⑥心もとなく⑦おぼすらむ。」と言ひて、局の前を⑧過ぎられけるを、御簾(みす)より半(なか)らばかり出でて、わづかに直衣(なほし)の袖を⑨ひかへて、
大江山 ⑩いく野の道の⑪遠ければまだ⑫ふみもみず天(あま)の橋立(はしだて)
と詠みかけけり。思はずに、⑬あさましくて、「こはいかに、⑭かかるやうやはある。」とばかり言ひて、返歌(へんが)にも及ばず、袖を引き放ちて⑮逃げられけり。小式部、これより歌詠みの世に覚(おぼ)え出(い)で来(き)にけり。
語注 妻=め。 歌合=うたあはせ。歌の優劣を競う会。 局=つぼね。宮中の女房の部屋。 たはぶる=からかう・冗談を言う。 つかはす=(使いを)行かせる。 心もとなし=待ち遠しい・じれったい。 おぼす=「思ふ」の尊敬語。 直衣=なほし。貴族の平服。 御簾=みす。すだれ。 ひかふ=引きとめる。 あさまし=意外で驚きあきれる(×あさはかだ)。 大江山・いく野(生野)・天の橋立=いずれも京から丹後へ向かう道すじの地名。
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使い方のおすすめ。①まず何も見ずに解く → ②解答で答え合わせ → ③まちがえた設問の番号と同じ傍線を本文で探して読み直す。
設問
A 語句の意味と読み
- ①「妻(め)」の読みをひらがなで書け。
- 「歌合」「直衣」「御簾」の本文中での読みを、それぞれひらがなで書け。
- ③「たはぶれて」の意味を書け。
- ⑥「心もとなく」の意味を書け。
- ⑨「ひかへて」の意味を書け。
- ⑬「あさましくて」の意味を書け。
B 文法
- ②「とられて」を文法的に説明せよ。
- ⑤「参りたりや」の「や」の種類と意味を書け。
- ⑦「おぼすらむ」の「らむ」の意味を書け。
- ⑧「過ぎられける」と⑮「逃げられけり」の「られ」は同じ意味である。その意味を書け。
- ⑪「遠ければ」の「ば」は何形に接続し、どのような意味を表すか。
- ⑭「かかるやうやはある」の「やは」の意味(疑問・反語の別)と、結びの語・活用形を書け。
C 主語と指す内容
- ④「つかはしける」とあるが、誰が誰のもとへ、何のために人をつかわしたと中納言は言っているのか。
- ⑦「おぼすらむ」の主語は誰か。
- ⑬「あさましくて」と感じたのは誰か。
- ⑭の「かかるやう」とは、どのようなことを指すか。
D 口語訳
- ⑤〜⑦を含む「丹後へつかはしける人は参りたりや。いかに心もとなくおぼすらむ。」
- 和歌「大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天の橋立」を、掛詞の両方の意味が分かるように訳せ。
- ⑭「かかるやうやはある」を含む「こはいかに、かかるやうやはある。」
- 「返歌にも及ばず、袖を引き放ちて逃げられけり。」
E 和歌と内容・記述
- ⑩「いく野」は掛詞である。掛けられている二つの意味を書け。
- ⑫「ふみ」は掛詞である。掛けられている二つの意味を書け。
- この和歌で、小式部内侍は何を示そうとしたのか。四十字以内で書け。
- 定頼中納言が返歌もできずに逃げたのはなぜか。四十字以内で書け。
F 文学史
- この話の出典の作品名・ジャンル・成立時代を書け。
- 『十訓抄』とはどのような書物か、簡潔に書け。
- 小式部内侍の母は誰か。また、この和歌が収められている有名な歌集の名を書け。
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解答と解説
▼ 解答・解説を見る
A 語句の意味と読み
問1 め
└ 「つま」ではない
問2 うたあはせ/なほし/みす
└ 歌合=歌の優劣を競う会
問3 からかって。冗談を言って。
└ 中納言はわざと意地悪に声をかけている
問4 待ち遠しく。じれったく。気がかりで。
└ ×「頼りない」ではない
問5 引きとめて。つかんで止めて。
└ 袖をつかんで行かせないようにした
問6 意外で驚きあきれて。
└ ★×「あさはかだ」「みすぼらしい」
B 文法
問7 「とる」(ラ行四段動詞)の未然形「とら」+受身の助動詞「る」の連用形「れ」+接続助詞「て」
└ 「歌人として(歌合に)選ばれて」の意
問8 係助詞/疑問(〜か)
└ 「参る」は「来」の謙譲語
問9 現在推量(今ごろ〜ているだろう)
└ 「おぼす」は「思ふ」の尊敬語
問10 尊敬
└ ★受身ではない。どちらも定頼中納言の動作に対する敬意
問11 已然形(「遠けれ」)に接続し、順接の確定条件(〜ので)を表す。
└ 未然形+ば=仮定「〜なら」との区別
問12 反語(こんなことがあってよいものか、いや、ない)/結び=「ある」(ラ変動詞「あり」の連体形)
└ 係助詞「やは」→連体形で結ぶ
C 主語と指す内容
問13 小式部内侍が、丹後にいる母・和泉式部のもとへ、歌合に出す歌を作ってもらうために。
問14 小式部内侍
問15 定頼中納言
問16 小式部内侍が、母の助けを借りずにその場で即座にみごとな歌を詠みかけたこと。
D 口語訳
問17 丹後へおつかわしになった使いの者は帰って参りましたか。(お母上の歌がまだ届かず)どんなに待ち遠しくお思いでしょう。
問18 大江山を越え、生野を通って行く道が遠いので、まだ天の橋立を踏んでみたこともありませんし、母からの手紙も見ておりません。
問19 これはどうしたことだ、こんなことがあってよいものか、いや、あるはずがない。
問20 返歌をすることもできず、袖を引き放して逃げなさった。
E 和歌と内容・記述
問21 「生野」(丹波の地名)と「行く」
└ 京から丹後へ向かう道すじの地名
問22 「踏み」(天の橋立を踏む)と「文」(母からの手紙)
└ ★最頻出
問23 丹後への道のりを自分の言葉で詠み、母に歌を作ってもらってなどいないと示した。(三十七字)
問24 見くびっていた相手にその場でみごとな歌を返され、驚きあきれて言葉が出なかったから。(四十字)
F 文学史
問25 『十訓抄』/説話集/鎌倉時代
問26 年少者に教訓を与えるために、十の教訓の項目に分けて説話を集めた説話集。
問27 母=和泉式部/『小倉百人一首』(もとは『金葉和歌集』)
【テスト直前チェック】この三つ
❶掛詞は二つ=「いく野」=生野+行く/「ふみ」=踏み+文。ここは必ず出ます。
❷「過ぎられける」「逃げられけり」の「られ」は尊敬。受身ではありません(中納言の動作だから)。
❸「あさまし」=意外で驚きあきれる。現代語の「あさましい(みすぼらしい)」ではありません。
現代語訳(全文)
和泉式部が、保昌の妻として(夫の任国である)丹後に下っていたころ、京で歌合があり、小式部内侍が歌人として選ばれて歌を詠むことになったが、定頼中納言がふざけて、小式部内侍が局にいたときに、「丹後へおつかわしになった使いの者は帰って参りましたか。(お母上の歌がまだ届かず)どんなに待ち遠しくお思いでしょう。」と言って、局の前を通り過ぎなさったのを、(小式部内侍は)御簾から半分ほど身を乗り出して、わずかに(中納言の)直衣の袖を引きとめて、
大江山を越え、生野を通って行く道が遠いので、まだ天の橋立を踏んでみたこともありませんし、母からの手紙も見ておりません。
と詠みかけた。(中納言は)思いがけないことで、驚きあきれて、「これはどうしたことだ、こんなことがあってよいものか。」とだけ言って、返歌をすることもできず、袖を引き放して逃げなさった。小式部内侍は、これ以後、歌人としての評判が世に高まったのだった。
※この問題は誰でも古典塾のオリジナルです。本文は古典(著作権の対象外)から正確に引用しています。
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