古典を読むうえで最大の落とし穴が「古今異義語」です。古今異義語とは、形は現代語と同じなのに、古語の世界では意味がまったく違う言葉のこと。「うつくし」を「美しい」、「かなし」を「悲しい」と現代の感覚で訳すと、文章の意味を取り違えてしまいます。大切なのは、見慣れた語ほど立ち止まり、古文での意味を確かめる習慣をつけることです。
次の各例文を読み、傍線部の古語について後の問いに答えよ。
本文
※例文は学習用に作成しています。
① かかる人も世にいでおはするものなりけりと、あさましきまで目を驚かしたまふ。
② をさなき子の、ねず鳴きするにをどり来る、いとうつくし。
③ この世にかかる宝のあること、げにありがたしとなむ思ひける。
④ 夜ふけて、雨の音にふとおどろきて、あたりを見まはす。
⑤ かの君の御ありさま、見るにこちたく、われながらはづかし。
⑥ 故郷の方より吹く風に、そぞろになつかしうおぼゆ。
⑦ 人につかうまつるは、げにやさしきわざなりけり。
⑧ あるじ、客人をねんごろにもてなして、夜もすがら語らふ。
⑨ 旅立ちの日に烏の鳴くを、いまいましと人々言ひあへり。
⑩ さしたる用もなくしげく訪ね来るを、いと心づきなく思ふ。
⑪ 親なき身を、いとかなしと思ひて、よろづにいたはる。
⑫ 五月ばかりに山里の月見るこそ、すさまじけれ。
⑬ いかにせむ方もなく、わりなきこと多かる世なり。
⑭ 下﨟の身ながら歌詠むさま、いとめざましとぞ。
⑮ いつしか暮れぬるを、くちをしうおぼえて立ち帰る。
⑯ ほどなくこと果てて、人々おどろきあへり。
設問
- 傍線部①「あさましき」の古文での意味として最も適切なものを次から選べ。
- ア いやしい イ 驚きあきれるほどだ ウ あつかましい エ みすぼらしい
- 傍線部②「うつくし」の古文での意味を答えよ。
- 傍線部②「うつくし」について、古語の意味と現代語の意味の違いを説明せよ。
- 傍線部③「ありがたし」の古文での意味を、漢字を当てて説明せよ。
- 傍線部④「おどろき」の古文での意味を答えよ。
- 傍線部④「おどろく」を含む一文を、現代語に訳せ。
- 傍線部⑤「はづかし」の古文での意味として最も適切なものを次から選べ。
- ア 恥ずかしい イ こちらが気おくれするほど立派だ ウ 照れくさい エ みっともない
- 傍線部⑥「なつかしう」の終止形と、古文での意味を答えよ。
- 傍線部⑦「やさしき」の古文での意味を答えよ。
- 傍線部⑦「やさし」について、古語の意味と現代語「やさしい」の意味の違いを説明せよ。
- 傍線部⑧「ねんごろに」の古文での意味を答えよ。
- 傍線部⑧「ねんごろに」を含む一文を、現代語に訳せ。
- 傍線部⑨「いまいまし」の古文での意味を答えよ。
- 傍線部⑩「心づきなく」の終止形と、古文での意味を答えよ。
- 傍線部⑪「かなし」の古文での意味として最も適切なものを次から選べ。
- ア 悲しい イ さびしい ウ いとしい エ 心細い
- 傍線部⑪「かなし」を含む一文を、現代語に訳せ。
- 傍線部⑫「すさまじ」の古文での意味を答えよ。
- 傍線部⑫「すさまじ」について、古語の意味と現代語「すさまじい」の意味の違いを説明せよ。
- 傍線部⑬「わりなき」の終止形と、古文での意味を答えよ。
- 傍線部⑭「めざまし」の古文での意味を答えよ。
- 傍線部⑭「めざまし」は文脈によって良い意味にも悪い意味にもなる語である。それぞれどのような意味になるか、記述で説明せよ。
- 傍線部⑮「くちをし」の古文での意味を答えよ。
- 「古今異義語」とはどのような語か。本文の例を一つ挙げながら、四十字以内で記述せよ。
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問1 イ。「あさまし」は、よくも悪くも予想外のことに「驚きあきれる」が中心義。ここは立派さに目をみはる場面で、「驚きあきれるほどだ」。現代語の「あさましい(いやしい・みっともない)」とは異なる。
問2 かわいい・愛らしい。小さく可憐なものへの慈愛の情を表す。現代語の「美しい」ではない。
問3 古語「うつくし」は、小さいものへの「かわいい・愛らしい」という慈しみの情を表すのに対し、現代語「美しい」は、姿・形・色などの整った見た目の良さを広く言う。対象も中心となる感情も異なる。
問4 「有り難し」と書き、「(めったになく)存在しにくい→めったにない・珍しい」の意。そこから「貴重だ」「もったいない」の気持ちにつながる。感謝の意の「ありがたい」は後世の用法。
問5 はっと気づく・目を覚ます。「びっくりする」の意もあるが、基本は「ふと気がつく」。ここは雨音で目を覚ます場面。
問6 夜が更けて、雨の音にふと目を覚まして、あたりを見まわす。
問7 イ。「はづかし」は、相手が立派すぎて、対するこちらが気おくれするさま。「(相手が)立派だ・こちらが恥ずかしくなるほどだ」。現代語の「恥ずかしい」より範囲が広い。
問8 終止形「なつかし」。心がひかれる・親しみを感じる。過去を慕う現代語の「なつかしい」と違い、対象に引き寄せられる気持ち全般を表す。
問9 (人前に出るのが)つらい・きまりが悪い。また「優美だ・けなげだ」の意もある。ここは仕えることの気苦労を言い「つらい」。動詞「痩す」に由来し、身がやせ細る思いが原義。
問10 古語「やさし」は、人前で身のやせ細る思い、すなわち「つらい・きまりが悪い」、また「優美だ・けなげだ」の意であるのに対し、現代語「やさしい」は、他人に対する思いやりや、物事のたやすさを表す。原義からの隔たりが大きい。
問11 丁寧に・心をこめて。また人間関係では「親密に」。現代語「ねんごろ(男女が深い仲)」に偏る前の、広く「念入り・誠実」の意。
問12 主人は、客人を丁寧に(心をこめて)もてなして、一晩中語り合う。
問13 不吉だ・縁起が悪い。「忌む」を重ねた語で、避けたいほど縁起が悪いさま。現代語「いまいましい(腹立たしい)」とは別。
問14 終止形「心づきなし」。気にくわない・好感がもてない。心が向かない(=心付かない)ことから、対象に親しみを感じられないさまを言う。
問15 ウ。「かなし」は、身にしみていとおしい・かわいくてたまらない、が中心。「悲し」とも書くが古文では「愛し」の情が基本。ここは親なき子をいとおしむ場面。
問16 親のない我が身を、たいそういとおしいと思って、何かにつけて大切に世話をする。
問17 興ざめだ・殺風景だ。期待にそぐわず白けるさま。「すさまじきもの」は興ざめなものの代表例として説話・随筆に多い。現代語「すさまじい(程度がはなはだしい)」とは異なる。
問18 古語「すさまじ」は、期待にそぐわず「興ざめだ・殺風景だ」と感じる気持ちを表すのに対し、現代語「すさまじい」は、勢いや程度が並外れて激しいさまを表す。古語が「白ける」マイナス評価なのに対し、現代語は程度の甚だしさを言う点で異なる。
問19 終止形「わりなし」。道理に合わない・どうしようもない・つらい。「理(ことわり)無し」が原義で、筋の通らなさから、せつなさ・むやみさまで広く表す。
問20 (身分の低い者などが)目が覚めるほど立派だ・意外にすぐれている。一方で、目に余って「不愉快だ」の意にもなる。ここは下﨟が歌を巧みに詠む意外さへの感嘆で「立派だ」。
問21 良い意味では、身分の低い者などが「目が覚めるほど立派だ・すぐれている」と感嘆する意。悪い意味では、目に余って「不愉快だ・気にくわない」とけなす意。どちらも「目が覚める」ほど強く心を動かされる点は共通し、その方向が賞賛か非難かで分かれる。
問22 残念だ・くやしい・物足りない。「口惜し」と書く。期待外れで心残りなさま。
問23 形は現代語と同じだが、古語では意味が異なる語。例えば「うつくし」は古語で「かわいい」を表す。(38字)
※この問題は誰でも古典塾オリジナルです。
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