項羽(こうう)と劉邦(りゅうほう)の天下争いも、いよいよ最終局面。垓下(がいか)に追いつめられた項羽は、夜、四方から漢軍が歌う楚(そ)の歌を聞きます。味方であったはずの楚の人々の歌――それは、楚がすでに漢に降(くだ)ったことを意味していました。ここから「四面楚歌」という言葉が生まれます。本ページは、史記・項羽本紀『四面楚歌』の高校定期テスト対策用オリジナル問題です。書き下し・現代語訳・句法・内容理解・文学史まで、テストで問われやすいポイントを20問以上に絞ってまとめました。まずは本文と物語の流れを確認したい人は、史記『四面楚歌』のやさしい解説をあわせて読んでから挑戦してください。
本文
項王の軍、垓下に①壁す。兵少なく食尽く。漢軍及び諸侯の兵、之を囲むこと数重なり。夜、漢軍の四面、皆②楚歌するを聞き、項王乃ち大いに驚きて曰はく、
「③漢、皆已に楚を得たるか。④是れ何ぞ楚人の多きや。」と。
項王則ち夜起ちて帳中に飲む。美人有り、名は虞。常に幸せられて従ふ。駿馬有り、名は騅。常に之に騎る。⑤是に於いて項王乃ち悲歌忼慨し、自ら詩を為りて曰はく、
力は山を抜き 気は世を⑥蓋ふ
時利あらず 騅逝かず
騅の逝かざる ⑦奈何すべき
虞や虞や ⑧若を奈何せん
と。歌ふこと数闋、美人之に和す。項王泣数行下る。左右皆泣き、能く仰ぎ視るもの莫し。【白文】
設問
- 傍線部①「壁す」の読みを、送り仮名も含めて現代仮名遣いのひらがなで答えなさい。
- 傍線部①「壁す」はここではどのような意味か。最も適切なものを次から一つ選びなさい。
- (ア) 城壁を新しく築く
- (イ) とりでを築いて立てこもる
- (ウ) 敵の城壁を破壊する
- (エ) 川を背にして陣を構える
- 傍線部②「皆楚歌するを聞き」を、すべて現代仮名遣いのひらがなで書き下しなさい(白文「皆楚歌」の部分の読みを問う)。
- 「四面楚歌」とは、ここではどのような状況を表しているか。本文の内容に即して三十字以内で説明しなさい。
- 傍線部③「漢、皆已に楚を得たるか」を現代語訳しなさい。
- 傍線部③の文末「乎(か)」は、ここではどのような意味・用法か。次から一つ選びなさい。
- (ア) 命令
- (イ) 疑問
- (ウ) 反語
- (エ) 比較
- 傍線部④「是れ何ぞ楚人の多きや」について、次の小問に答えなさい。
- この句に用いられている句法の名称を答えなさい(「何〜(や/也)」の形)。
- 「疑問」と「詠嘆(感嘆)」のうち、ここではどちらの意味でとらえるのが適切か答え、その理由を本文の場面に即して簡潔に説明しなさい。
- 傍線部④「是れ何ぞ楚人の多きや」を、詠嘆(感嘆)の意味を生かして現代語訳しなさい。
- 項王が傍線部③④のように驚いたのはなぜか。「楚歌」が項王に何を悟らせたのかが分かるように、四十字以内で説明しなさい。
- 傍線部⑤「是に於いて」の読みを現代仮名遣いのひらがなで答えなさい。
- 本文中の「美人有り、名は虞」「駿馬有り、名は騅」について、次の小問に答えなさい。
- 「虞」とは何(誰)を指すか答えなさい。
- 「騅」とは何を指すか答えなさい。
- 傍線部⑥「気は世を蓋ふ」の「蓋ふ」の読みを、送り仮名も含めて現代仮名遣いのひらがなで答えなさい。
- 詩の第一句「力抜山兮気蓋世(力は山を抜き気は世を蓋ふ)」は、項羽のどのような人物像・心情を表しているか。簡潔に説明しなさい。
- 詩の各句に用いられている「兮」という字について、次の小問に答えなさい。
- 「兮」は読むか、読まないか答えなさい。
- 「兮」は詩の中でどのような働きをしている字か、簡潔に説明しなさい。
- 傍線部⑦「奈何すべき」の読みを現代仮名遣いのひらがなで答えなさい。
- 傍線部⑧「若を奈何せん」について、次の小問に答えなさい。
- 「若」とは誰を指すか答えなさい。
- 「奈何せん」はここでは疑問・反語のどちらでとらえるのが適切か答えなさい。
- 傍線部⑧「虞や虞や若を奈何せん」を、項羽の心情が伝わるように現代語訳しなさい。
- 「奈何(いかん・いかんせん)」という句法について、次の小問に答えなさい。
- 「奈何」が文末に置かれて「いかん」と読むときと、目的語をともなって「〜をいかんせん」と読むときとで、意味の違いを簡潔に説明しなさい。
- 項羽がこの詩(垓下の歌)に込めた心情として最も適切なものを次から一つ選びなさい。
- (ア) いまだ衰えぬ闘志で、必ず劉邦を討つという決意
- (イ) かつての英雄としての自負と、時運に見放され愛する者すら守れぬ無念・絶望
- (ウ) 部下を見捨てて一人逃げ延びようとする打算
- (エ) 天下を統一できた満足と安堵
- 本文末尾「項王泣数行下る。左右皆泣き、能く仰ぎ視るもの莫し」の描写は、その場のどのような様子を表しているか。簡潔に説明しなさい。
- 「能く仰ぎ視るもの莫し」を現代語訳しなさい。
- この文章の出典について、次の小問に答えなさい。
- 作品名を漢字で答えなさい。
- この作品の作者(編者)を漢字で答えなさい。
- この文章が収められている編(巻)の名を答えなさい。
- 出典の作品『史記』が、人物の伝記を中心に歴史をえがく形式で書かれていることを何というか。次から一つ選びなさい。
- (ア) 編年体
- (イ) 紀伝体
- (ウ) 国別体
- (エ) 紀事本末体
- 「四面楚歌」は、現在では故事成語としてどのような意味で使われているか。簡潔に説明しなさい。
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問1 へきす
〈解説〉「壁」は名詞「かべ・とりで」から転じて「とりでを築いて守る・立てこもる」という動詞として用いられ、「壁す」と読む。
問2 (イ)
〈解説〉直前で項羽の軍は劣勢に追いこまれており、「壁す」は垓下にとりでを築いて立てこもる意。「兵少なく食尽く」という苦境とも合う。
問3 みなそかするを
〈解説〉「楚歌す」で「楚の地方の歌をうたう」の意の動詞。四方の漢軍がそろって楚の歌をうたっているのを聞いた、という場面である。
問4 (例)四方を敵の漢軍に囲まれ、助けも逃げ場もない状況。(二十二字)
〈解説〉敵に四方を囲まれ、味方がなく孤立した状態を指す。後の「故事成語」の意味(問24)と区別して、本文の場面に即して書く。
問5 (例)漢軍はもうすっかり楚(の地)を手に入れてしまったのか。
〈解説〉「已に」は「すでに・もう」、「得たるか」は「手に入れてしまったのか」。楚の歌が四方から聞こえることから、楚がすでに漢に降伏したと項羽が受け取った場面。
問6 (イ)
〈解説〉文末の「乎」は疑問・反語などを表す助字。ここは項羽が「楚はもう漢のものになったのか」と問いかける疑問の用法。
問7
1 疑問形(「何〜也(や)」の形)。「何ぞ〜や」(文末に「ん」がないので反語形ではない。ここでは詠嘆に転用——小問2参照)
2 (例)詠嘆(感嘆)。四方から楚の歌が聞こえる以上、楚人が漢側に多くいることを項羽はすでに察しており、ここは理由を尋ねているのではなく「なんと楚の人が多いことか」と驚き嘆いていると読むのが自然だから。
〈解説〉「何ぞ〜や(也)」は文脈により〔疑問〕「どうして〜か」、〔反語〕「どうして〜だろうか、いや〜ない」、〔詠嘆〕「なんと〜であることよ」のいずれにもなる。ここは絶望の場面なので詠嘆でとるのが一般的。
問8 (例)これはなんと楚の人の多いことか。
〈解説〉詠嘆「何ぞ〜や」を「なんと〜であることよ」と訳す。
問9 (例)四方から楚の歌が聞こえたことで、味方であるはずの楚の人々までもがすでに漢に降伏したと悟り、自分が完全に孤立したと感じたから。(約五十六字→四十字に圧縮可)
※四十字での解答例:(例)四方の楚歌から、楚の人々まで漢に降ったと悟り、もはや味方がなく孤立したと感じたから。(約四十字)
〈解説〉「楚歌」が項羽に「楚の陥落=孤立」を悟らせた点を必ず入れる。
問10 ここにおいて
〈解説〉「於是」は「ここにおいて/そこで」と読み、場面の転換を示す。
問11
・虞……項羽が常に寵愛して連れていた女性(美人)。いわゆる虞美人(虞姫)。
・騅……項羽が常に乗っていた愛馬(駿馬)の名。
〈解説〉項羽が最後まで手放さなかった「愛する人」と「愛馬」。詩の中で項羽が気づかう対象でもある。
問12 おおう
〈解説〉「蓋」は「おおう」と読む。気力が世の中全体をおおいつくすほど盛んだ、の意。
問13 (例)山を引き抜くほどの力と、世をおおいつくすほどの気力を備えた、英雄としての並外れた力強さ(自負)を表している。
〈解説〉かつての項羽の絶大な武勇・気概を示す句。第二句以降の「時利あらず」と対比され、その落差が悲劇性を高める。
問14
1 読まない。
2 (例)句の途中や句末に置いて語調をととのえ、詠嘆の気持ちを添える助字(リズムを生む置き字)。
〈解説〉「兮」は楚辞(そじ)に多く見られる助字で、訓読では読まず、感嘆・調子をととのえる働きをする。
問15 いかんすべき
〈解説〉「可奈何」で「いかんすべき」。どうすることができようか、の意。
問16
1 若……虞(虞美人)を指す。「若」は二人称「なんじ(おまえ)」。
2 反語。
〈解説〉「若(なんじ)を奈何せん」は「おまえをどうしてやることができようか、いや、どうしてやることもできない」という反語で、虞への深い愛情と無力感を表す。
問17 (例)虞よ、虞よ、いったいおまえをどうしてやればよいのか(どうしてやることもできない)。
〈解説〉愛する虞を守ってやれない項羽の無念・絶望を読み取る。反語として「どうすることもできない」という含みを出すとよい。
問18
(例)文末で「いかん」と読むときは「どうであるか・どうしようか」と状態や方法を問う。目的語をともなって「〜をいかんせん」と読むときは「〜をどうしたらよいか(どうにもできない)」と、その対象の処置を問う(しばしば反語となる)。
〈解説〉「奈何(いかん)」は手段・状態を問い、「(目的語)を奈何せん(いかんせん)」は対象の処理を問う形。詩の「騅の逝かざる奈何すべき」「若を奈何せん」はいずれも後者に近く、なすすべがない心情を表す。
問19 (イ)
〈解説〉かつて「力は山を抜き気は世を蓋ふ」とうたわれた英雄が、時運に見放され、愛する虞すら守れない無念と絶望を歌った詩である。
問20 (例)項羽の悲嘆に虞も唱和し、項羽は涙を流し、側近たちも皆泣いて顔を上げて見ることもできないほど、深い悲しみに包まれた様子。
〈解説〉英雄項羽が涙を流す異例の場面で、別れと敗北の悲哀が極まっていることを示す。
問21 (例)(涙のために)顔を上げてまともに見ることのできる者は一人もいなかった。
〈解説〉「能く〜莫し」は「〜できる者がいない」。「仰ぎ視る」は顔を上げて見る。皆が泣きうつむく様子。
問22
1 史記
2 司馬遷(しばせん)
3 項羽本紀(こううほんぎ)
〈解説〉『史記』は前漢の司馬遷が著した歴史書。皇帝・帝王の記録を「本紀」といい、項羽は皇帝ではないが例外的に「項羽本紀」として立てられている点も問われやすい。
問23 (イ)
〈解説〉『史記』は、本紀(帝王)・世家(諸侯)・列伝(個人)などを中心に、人物の伝記を軸として歴史を記す「紀伝体」で書かれた最初の歴史書。年代順に記す(ア)編年体(『春秋』など)と区別する。
問24 (例)まわりがすべて敵・反対者ばかりで、味方や助けが一人もいない、孤立無援の状況。
〈解説〉本文の「四方を漢軍に囲まれた」場面(問4)から転じて、現在は比喩的に「周囲がみな敵で孤立すること」を表す故事成語として使われる。
※この問題はオリジナル作成です(教科書・市販問題集の転載ではありません)。本文は中国古典の原文(著作権の対象外)を用いています。
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