「鶏鳴狗盗(けいめいくとう)」は、『史記』孟嘗君列伝に由来し、くだらない技能でも時には役に立つこと、また転じて取るに足りない技能の持ち主を指す故事成語です。秦から逃げる孟嘗君を、犬のように盗みをはたらく食客と、鶏の鳴き真似をする食客が救った逸話に基づきます。定期テストでは、二人の食客がそれぞれ何をして主君を救ったか、成語の意味、そして「狐白裘」「鶏鳴」などの重要語が頻出ポイントです。次の文章を読み、後の問いに答えよ。
本文
【白文】
【書き下し文】
孟嘗君、人をして昭王の幸姫に抵りて解かんことを求めしむ。姫曰はく、「願はくは君の狐白裘を得ん。」と。蓋し孟嘗君、嘗て以て昭王に献じ、他の裘無し。客に能く狗盗を為す者有り。秦の蔵中に入り、裘を取りて以て姫に献ず。姫為に言ひ、釈さるるを得たり。即ち馳せ去り、姓名を変じ、夜半に函谷関に至る。関の法、鶏鳴きて方に客を出だす。秦王の後悔して之を追はんことを恐る。客に能く鶏鳴を為す者有り。鶏尽く鳴く。遂に伝を発して出づ。食頃にして、追ふ者果たして至るも、及ばず。
【語注】
- 孟嘗君(もうしょうくん)…斉の公子。多くの食客を抱えたことで知られる。
- 昭王(しょうおう)…秦の王。孟嘗君を招いたうえで囚え、殺そうとした。
- 幸姫(こうき)…王に寵愛されている側女。
- 狐白裘(こはくきゅう)…狐の脇の下の白い毛だけを集めて作った最高級の皮ごろも。
- 狗盗(くとう)…犬のように忍び込んで盗みをはたらくこと。また、その者。
- 函谷関(かんこくかん)…秦の東の関所。
- 伝(でん)…関所の通行を許す割り符・手形。
- 食頃(しょくけい)…食事をするほどのわずかな時間。
設問
- 傍線部①「孟嘗君、使人抵昭王幸姫求解。」を書き下し文に改めよ。
- 問1の「使人」について、ここで用いられている句法の名称を答えよ。また、この句法の意味(用法)を簡潔に説明せよ。
- 句法の名称
- 意味(用法)
- 「願得君狐白裘。」を現代語訳せよ。
- 「狐白裘」とはどのようなものか。本文の語注をふまえて簡潔に説明せよ。
- 幸姫はなぜ孟嘗君に「狐白裘」を求めたのか。その狙い(孟嘗君が幸姫に何を頼んだのか)をふまえて説明せよ。
- 「蓋孟嘗君、嘗以献昭王、無他裘矣。」とあるが、孟嘗君が幸姫の要求にすぐ応じられなかったのはなぜか。理由を説明せよ。
- 傍線部②「客有能為狗盗者。」を現代語訳せよ。
- 「姫為言、得釈。」とあるが、(ア)「為」は誰のためか、(イ)「釈さるる」とはどうなったことか、それぞれ答えよ。
- (ア)「為」は誰のためか
- (イ)「釈さるる」とはどうなったことか
- 「即馳去、変姓名、夜半至函谷関。」を現代語訳せよ。
- 「関法、鶏鳴方出客。」とは、函谷関のどのような決まりを述べたものか。説明せよ。
- 傍線部③「恐秦王後悔追之。」を書き下し文に改めよ。
- 問11「恐秦王後悔追之」を現代語訳せよ。
- 「客有能為鶏鳴者。」の食客は、孟嘗君を救うために何をしたか。本文に即して説明せよ。
- 「鶏尽鳴。」の結果、孟嘗君一行にとってどのような事態が生じたか。「関の法」と関連づけて説明せよ。
- 「遂発伝出。」の「伝」とは何か。本文の語注をふまえて答えよ。
- 傍線部④「追者果至、而不及。」を現代語訳せよ。
- 「狗盗を為す者」は、孟嘗君を救うために具体的に何をしたか。本文に即して説明せよ。
- 本文には、孟嘗君を救った二人の食客が登場する。それぞれがどのような技能で、どの場面で主君を救ったかを、二人を対比してまとめよ。
- 故事成語「鶏鳴狗盗」の意味を答えよ。
- 「鶏鳴狗盗」の出典(書名・篇名)を答えよ。
- 「鶏鳴狗盗」の故事から導かれる教訓として最も適当なものを、次のア〜エから一つ選べ。
- ア 立派な人物は、つまらない人間とは決して交わらないものだ。
- イ どんなにつまらなく見える技能でも、時として大いに役立つことがある。
- ウ 盗みや偽りは、たとえ主君のためであっても許されない。
- エ 大人数の食客を抱えることは、かえって身を滅ぼすもとである。
▼ 解答・解説を見る
問1 孟嘗君、人をして昭王の幸姫に抵りて解かんことを求めしむ。
解説:「使二A 〜一」は使役の句法。「使人」を「人をして〜しむ」と読む。「抵」は「いたる(到達する・面会しに行く)」、「解」は「(囚われを)解いてもらうこと」を求める意。
問2 句法の名称=使役(しえき)。意味(用法)=「(人に)〜させる」。「使二A B一(AヲシテBセしム)」の形で、Aに対してBという動作をさせることを表す。
解説:ここでは孟嘗君が「人(使者)」を派遣して、幸姫に取りなしを「求めさせた」という使役の文。
問3 どうかあなた様の狐白裘をいただきたい(頂戴したい)。
解説:「願はくは〜ん」は願望の表現。「君」は相手(孟嘗君)への敬称で「あなた様」。「得ん」は「手に入れたい」。
問4 狐の脇の下の白い毛だけを集めて作った、最高級の皮ごろも(毛皮のコート)。
解説:希少な部分の毛だけを使うため非常に高価で、二つとない貴重品であった点が後の展開につながる。
問5 孟嘗君は、秦の昭王に囚われた身を解いてもらうため、昭王の寵姫に取りなしを頼んだ。幸姫はその見返り(謝礼)として、孟嘗君が持つ貴重な狐白裘を欲しがったのである。
解説:幸姫への口添えの依頼と、その代償としての狐白裘要求という因果関係を押さえる。
問6 孟嘗君は、その狐白裘をすでに秦の昭王に献上してしまっており、手元に同じような裘がもう一つも残っていなかったから。
解説:「嘗て以て昭王に献じ」=以前に昭王へ献上済み。「他の裘無し」=代わりの裘がない。だから幸姫の要求にすぐ応じられなかった。
問7 食客の中に、犬のように(忍び込んで)盗みをするのが得意な者がいた。
解説:「能く〜を為す」は「上手に〜をすることができる」。「狗盗」は犬のようにこそこそ盗みをはたらくこと。
問8 (ア)孟嘗君のため。 (イ)(昭王に)囚われていた孟嘗君が、釈放されたということ。
解説:「為」は「(孟嘗君の)ために」。狐白裘を受け取った幸姫が昭王に口添えしたことで、孟嘗君は解放された。
問9 (孟嘗君は)すぐさま馬を走らせて逃げ去り、姓名を変え、夜半に函谷関に到着した。
解説:「即ち」=すぐに。「馳せ去り」=馬を走らせて逃げる。「変姓名」=追跡を逃れるため名を偽った。
問10 函谷関では、鶏が鳴く(夜明けの)時刻になって初めて、旅人(通行人)を関所の外へ通す、という決まり。
解説:「鶏鳴」を関所の開門の合図とする規則。これが次の「鶏の鳴き真似」の伏線になる。
問11 秦王の後悔して之を追はんことを恐る。
解説:「恐二〜一」は「〜を恐れる・心配する」。目的語が長い一続きの内容(秦王が後悔して追ってくること)になっている点に注意。
問12 (孟嘗君は)秦王が(解放したことを)後悔して自分を追ってくるのではないかと恐れた。
解説:「後悔」=釈放を悔やむこと。「追之」=孟嘗君を追跡すること。だから夜のうちに早く関を出たかった。
問13 鶏の鳴き真似が得意な食客が、本物そっくりに鶏の鳴き声を真似てみせた。
解説:その声につられて、付近の本物の鶏もいっせいに鳴き出すことになる。
問14 (真似の声につられて)あたりの鶏がみな鳴いたため、「鶏が鳴いたら客を出す」という関の決まりどおりに関所の門が開き、孟嘗君一行は夜明け前であるにもかかわらず関を通り抜けて脱出できた。
解説:問10の「関の法」と結びつけて、規則を逆手に取って早く出られた点をまとめる。
問15 関所の通行を許可する割り符(手形・通行証)。
解説:「伝を発して出づ」=通行の手形を出して(関を)出る。
問16 追っ手は案の定やって来たが、(孟嘗君一行には)追いつけなかった。
解説:「果たして」=予想どおり・案の定。「而」は逆接で「しかし」。「及ばず」=追いつかない。一足違いで逃げ切ったことを示す。
問17 犬のように秦の宮中の蔵に忍び込み、(昭王に献上されていた)狐白裘を盗み出して、それを幸姫に献上した。
解説:すでに昭王に献上された狐白裘を、狗盗の食客が盗み返して幸姫に渡した、という流れ。
問18 一人は「狗盗」の食客で、犬のように秦の蔵に忍び込んで狐白裘を盗み出し、それを幸姫に贈ることで孟嘗君を釈放させた。もう一人は「鶏鳴」の食客で、夜の函谷関で鶏の鳴き真似をして関所の門を開かせ、孟嘗君一行を脱出させた。いずれも一見つまらない技能だが、それぞれ危機の場面で主君を救った。
解説:「盗みの技能で釈放」「鳴き真似の技能で脱出」と、二人の役割を対比して整理する。
問19 くだらない(取るに足りない)技能でも、時には役に立つこと。また、そのようなつまらない技能しか持たない人物のこと。
解説:本来は卑しい技能を指すが、「いざというとき役立つ」という肯定的な意味でも用いられる。
問20 出典=『史記』孟嘗君列伝。
解説:前漢の司馬遷が著した歴史書『史記』の、孟嘗君について記した「孟嘗君列伝」に基づく。
問21 イ
解説:取るに足りないと思われた二つの技能が、まさに危機の場面で主君の命を救った話であり、「つまらない技能も時に役立つ」というイが教訓として最も適当。
※この問題は誰でも古典塾オリジナルです。本文は古典(著作権の対象外)から正確に引用しています。
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