『百人一首』は、藤原定家が選んだとされる名歌のアンソロジーで、和歌の修辞技法(枕詞・序詞・掛詞・縁語・体言止めなど)や四季・恋・人生の機微が凝縮されています。一首ごとに句切れや作者の心情を読み取り、現代語訳と修辞を結びつけて鑑賞することが、定期テスト対策の要点です。次の和歌を読み、後の問いに答えよ。
本文
① 秋の田のかりほの庵の苫をあらみわが衣手は露にぬれつつ(天智天皇)
② 春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山(持統天皇)
③ あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む(柿本人麻呂)
④ 田子の浦にうち出でて見れば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ(山部赤人)
⑤ 天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも(安倍仲麿)
⑥ このたびは幣も取りあへず手向山紅葉の錦神のまにまに(菅家)
⑦ ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは(在原業平朝臣)
⑧ めぐりあひて見しやそれとも分かぬ間に雲隠れにし夜半の月かな(紫式部)
⑨ 花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に(小野小町)
⑩ 忍ぶれど色に出でにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで(平兼盛)
設問
- ①の歌について、次の各問いに答えよ。
- 「かりほの庵」とはどのような小屋か、簡潔に説明せよ。
- 「苫をあらみ」を現代語訳せよ。
- この歌で詠まれている作者の境遇・心情を一言で述べよ。
- ②の歌の「来にけらし」を、文法に注意して現代語訳せよ。
- ④の歌の「白妙の」は、ある語にかかる枕詞である。何にかかるか、本文中の語で答えよ。
- ②の歌の「衣ほすてふ」の「てふ」は、もとはどのような語が変化したものか答えよ。また意味も記せ。
- ③の歌の「ひとりかも寝む」を現代語訳せよ。
- ④の歌の末尾「降りつつ」が表す表現上の効果(ニュアンス)を説明せよ。
- ⑤の歌について、次の各問いに答えよ。
- 「ふりさけ見れば」を現代語訳せよ。
- この歌は、作者がどこで(どのような状況で)詠んだものか説明せよ。
- ⑥の歌の「神のまにまに」を現代語訳せよ。
- ⑦の歌の「ちはやぶる」は何にかかる枕詞か、本文中の語で答えよ。
- ⑦の歌の「からくれなゐに水くくるとは」が描いている情景を、現代語で説明せよ。
- ⑧の歌の「雲隠れにし夜半の月」は、何をたとえた表現か。この歌の詞書(再会の場面)を踏まえて答えよ。
- ⑧の歌の作者「紫式部」の代表的な著作を一つ挙げよ。
- ⑨の歌の「いたづらに」の意味を答えよ。
- ⑨の歌の「ながめ」には二つの意味が掛けられている。その二つの意味を答えよ(掛詞)。
- ⑩の歌の「色に出でにけり」を現代語訳せよ。
- ②の歌の句切れを答えよ。
- ③の歌に用いられている、ある語を導き出すための修辞技法の名称を答えよ。また、それによって導かれている語句を抜き出せ。
- ⑥の歌の「幣(ぬさ)」とは何か、簡潔に説明せよ。
- ⑥の歌で、紅葉を「錦」にたとえている表現技法の名称を答えよ。
- ⑨の歌全体で、作者は主に何が衰えてゆくことを嘆いているか。重ねられている二つの対象を答えよ。
- ⑩の歌で詠まれている作者の心情を、簡潔に説明せよ。
- ①〜⑩の歌のうち、天皇(または天皇位にあった人物)が作者である歌を、番号ですべて選べ。
- ②・④の歌に共通して用いられている、純白を表す枕詞を、ひらがな五字で答えよ。
▼ 解答・解説を見る
問1
・「かりほの庵」=稲を刈り入れる時期に、田のそばに仮に作った粗末な小屋(仮の番小屋)。
・「苫をあらみ」=(屋根を葺いた)苫の編み目が粗いので。「(名詞)を(形容詞語幹)み」で「〜が…ので」と理由を表す。
・収穫期の田を守る人の苦労。夜露に袖を濡らしながら見張りをする、農民への思いやり・わびしさ。
問2 「来にけらし」=(夏が)来てしまったらしい。「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形、「けらし」は過去推量「けらし(=けるらし)」で、「〜したらしい」と推定する意。
問3 「白妙の」は「富士(の高嶺)」にかかる枕詞。(雪の白さを導く。)
問4 「てふ」は「といふ」が変化(約まって)できた語。意味は「〜という」。(「衣ほすてふ」=衣を干すという。)
問5 「ひとりかも寝む」=(私は)たった一人で寝るのだろうか。「かも」は疑問・詠嘆、「む」は推量。
問6 「降りつつ」の「つつ」は動作の反復・継続を表し、「(今も)降り続けていることだ」という臨場感と余情を生む。万葉集の「降りける」よりも、時間が止まったような幻想的・繊細な情景となる。
問7
・「ふりさけ見れば」=(遠く)はるかに振り仰いで見ると。
・作者の安倍仲麿は遣唐留学生として唐に渡り、長く帰国できずにいた。唐の地で月を見上げ、故郷の奈良・春日にある三笠山に昇っていた月を思い出して詠んだ歌である(帰国を願う望郷の歌)。
問8 「神のまにまに」=神の御心のままに。(紅葉を幣の代わりに神にお任せする、という意。)
問9 「ちはやぶる」は「神(神代)」にかかる枕詞。
問10 流れる竜田川の水面が、一面に散り浮かんだ紅葉によって、鮮やかな紅(くれない)色に染め抜かれている情景。神代の昔にも聞いたことがないほど不思議で美しい、という驚嘆を込めている。
問11 久しぶりに再会した相手(幼なじみの友人)を、夜半の月が雲に隠れてしまうように、それと見分ける間もなく慌ただしく帰ってしまった、その人をたとえている。儚い再会の名残を月に重ねた表現。
問12 『源氏物語』(ほかに『紫式部日記』も可)。
問13 「いたづらに」=むなしく・無駄に。
問14 「ながめ」=「眺め(物思いにふけって眺めること)」と「長雨(ながめ)」の二つの意味の掛詞。
問15 「色に出でにけり」=(恋しい気持ちが)顔色・表情に出てしまったよ。「色」は表情・顔色の意。
問16 二句切れ。(「夏来にけらし」で意味が大きく切れる。)
問17 序詞(じょことば)。「あしびきの山鳥の尾のしだり尾の」が、次の「ながながし」を導く序詞となっている。
問18 「幣」=神に祈るときに捧げる供え物。布や紙などを細かく切って捧げるもの(道中安全などを願って手向ける)。
問19 隠喩(暗喩)。「紅葉の錦」と、「〜のようだ」の語を用いずに紅葉を錦(美しい織物)にたとえている。
問20 「花の色」(桜の花の色)と、作者自身の容色(美貌)。長雨で花の色があせるのと、物思いをして過ごすうちに自分の美しさが衰えることとを重ねて嘆いている。
問21 人に知られまいと懸命に隠していた恋心が、とうとう表情に出てしまい、「何か物思いをしているのか」と人に尋ねられるほどになってしまった、という秘めた恋のせつなさ・うろたえ。
問22 ①・②。①は天智天皇、②は持統天皇の歌。いずれも天皇(位にあった人物)が作者である。(⑤の安倍仲麿は遣唐留学生であり天皇ではない。⑥の菅家=菅原道真、⑦の在原業平、⑩の平兼盛なども天皇ではない。)
問23 しろたへの(白妙の)。枕詞は「の」までを含めた五音の「しろたへの」の形で答える。
※この問題は誰でも古典塾オリジナルです。和歌は古典作品(著作権の対象外)から正確に引用しています。
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