「抑揚(よくよう)」は、程度の軽いものをまず挙げて(=抑)、それより重いものを強調する(=揚)構文です。基本形は「A且つ〜、況んやB乎(AすらかツBヲをやAでさえそうなのに、ましてBは言うまでもない)」。「且」「猶(なほ)」が抑(軽い例)を、「況んや〜をや」が揚(重い例)を受けます。読みでは「且・猶」を「すら・なほ」、「況」を「いはんや」と訓じる点が要です。次の各例文について、後の問いに答えよ。
本文
※例文は学習用です。
① 死馬且買㆑之、況生者乎。/死馬すら且つ之を買ふ、況んや生ける者をや。
② 庸人尚羞㆑之、況於将相乎。/庸人すら尚ほ之を羞づ、況んや将相に於いてをや。
③ 布衣之交尚不㆓相欺㆒、況大国乎。/布衣の交はりすら尚ほ相欺かず、況んや大国をや。
④ 死且不㆑避、卮酒安足㆑辞。/死すら且つ避けず、卮酒安くんぞ辞するに足らんや。
⑤ 一飯之徳猶報㆑之、況大恩乎。/一飯の徳すら猶ほ之に報ゆ、況んや大恩をや。
⑥ 禽獣猶知㆑恩、況於人乎。/禽獣すら猶ほ恩を知る、況んや人に於いてをや。
⑦ 小人且畏㆑天、況君子乎。/小人すら且つ天を畏る、況んや君子をや。
⑧ 匹夫猶不㆑可㆑奪㆑志、況大丈夫乎。/匹夫すら猶ほ志を奪ふべからず、況んや大丈夫をや。
⑨ 近者尚不㆑知、況遠方乎。/近き者すら尚ほ知らず、況んや遠方をや。
⑩ 一銭且不㆑可㆑得、況千金乎。/一銭すら且つ得べからず、況んや千金をや。
設問
- 例文①の「且」の読みを、送り仮名も含めてひらがなで書け。
- 例文①の「況」の読みをひらがなで書け(送り仮名「んや」を含む)。
- 例文①「死馬且買之、況生者乎」を書き下し文に改めよ。
- 例文①を現代語訳せよ。「〜でさえ…、ましてや〜は言うまでもない」の形を用いること。
- 例文①で「抑(軽い側)」にあたる語句と「揚(重い側)」にあたる語句を、本文中の語で抜き出せ。
- 抑(軽)=( )
- 揚(重)=( )
- 例文②の「尚」の読みを、送り仮名も含めてひらがなで書け。
- 例文②「庸人尚羞之、況於将相乎」を書き下し文に改めよ。
- 「況」は単独でも「いはんや〜をや」と読み、文末に「乎・哉」などを伴うことが多い。例文②で「いはんや」と呼応して文末に置かれ、「や」と読む字を一字で抜き出せ。
- 例文③「布衣之交尚不相欺、況大国乎」を現代語訳せよ。
- 例文④「死且不避、卮酒安足辞」は、前半で「死すら且つ避けず」と軽重を対比する抑揚を含む。前半部分だけを現代語訳せよ。
- 例文⑤の「猶」の読みを、送り仮名も含めてひらがなで書け。
- 例文⑤で「抑(軽い側)」にあたる語句と「揚(重い側)」にあたる語句を、本文中の語で抜き出せ。
- 抑(軽)=( )
- 揚(重)=( )
- 例文⑥「禽獣猶知恩、況於人乎」を書き下し文に改めよ。
- 例文⑦「小人且畏天、況君子乎」を現代語訳せよ。
- 例文⑧「匹夫猶不可奪志、況大丈夫乎」を書き下し文に改めよ。
- 記述:例文⑧「匹夫猶不可奪志、況大丈夫乎」が結局のところ最も言いたいことは何か。現代語で簡潔に説明せよ。
- 例文⑨「近者尚不知、況遠方乎」を現代語訳せよ。
- 抑揚形「A且〜、況B乎」で、文末の「乎」はどう読むか。ひらがなで書け。
- 抑揚構文における「抑(よく)」とは何を指すか。次から選べ。
- ア 結論として最も強調したい重い事柄を述べること
- イ まず程度の軽い・小さい事柄を挙げておさえること
- ウ 反語によって相手の意見を否定すること
- 抑揚構文における「揚(よう)」とは何を指すか。次から選べ。
- ア 前に挙げた軽い事柄を受けて、より重い事柄を強調すること
- イ 主語を省略して文を短くすること
- ウ 疑問の語気を添えて問いかけること
- 抑揚形では、抑(軽い例)に「且」「猶」「尚」のような副詞を添えることが多い。例文①〜⑩の中から、抑の語に「猶(なほ)」を用いている例文の番号をすべて挙げよ。
- 記述:抑揚という構文が、軽いものをわざわざ先に挙げてから重いものを述べるのはなぜか。その表現効果を一文で説明せよ。
▼ 解答・解説を見る
問1 かつ。「且」は抑揚で「〜すら(且つ)」と読み、軽い例を提示する。
問2 いはんや。「況」は「いはんや〜をや」と読み、重い例を強調する。
問3 死馬すら且つ之を買ふ、況んや生ける者をや。
問4 死んだ馬でさえ(高く)買うのだ、まして生きている馬は言うまでもない(=もっと高く買うはずだ)。
問5 抑(軽)=死馬(死せる馬)/揚(重)=生者(生ける者)。死んだ馬を軽い側に置き、生きた馬を重い側として強調している。
問6 なほ。「尚」も「且」と同様、抑(軽い側)を受けて「〜すら尚ほ」と読む。
問7 庸人すら尚ほ之を羞づ、況んや将相に於いてをや。
問8 乎。文末の「乎」が「いはんや」と呼応して「をや」の「や」を表す。
問9 庶民どうしの交わりでさえ互いに欺かないのに、まして大国(どうしの約束)は言うまでもない(=なおさら欺くべきではない)。
問10 死ぬことでさえ避けない(避けようとしない)。「死すら且つ避けず」の現代語訳。
問11 なほ。「猶」は「尚」と同じく「なほ」と読み、抑の副詞。
問12 抑(軽)=一飯之徳(わずか一膳の食事の恩)/揚(重)=大恩。小さな恩を軽い側に置き、大きな恩を重い側として強調している。
問13 禽獣すら猶ほ恩を知る、況んや人に於いてをや。
問14 つまらない人間でさえ天を畏れる、まして君子は言うまでもない(=なおさら天を畏れる)。
問15 匹夫すら猶ほ志を奪ふべからず、況んや大丈夫をや。
問16 (例)身分の低い一人の男ですらその志を無理に奪うことはできないのだから、まして立派な大丈夫の志はなおさら奪えない、ということ(=人の志の固さ・尊さを強調している)。
問17 近くの者でさえ知らない、まして遠方の者は言うまでもない(=なおさら知らない)。
問18 や。文末の「乎」は「をや」の「や」にあたり、抑揚・反語の語気を表す。
問19 イ。「抑」は、まず程度の軽い・小さい事柄を挙げておさえること。
問20 ア。「揚」は、前に挙げた軽い事柄を受けて、より重い事柄を強調すること。
問21 ⑤・⑥・⑧。抑の語に「猶(なほ)」を用いているのはこの三つ(①⑦⑩は「且」、②③⑨は「尚」)。
問22 (例)軽い事柄でさえそうなのだから、それより重い事柄は当然そうであると、対比によって後の重い内容を一層強く印象づけるため。
※この問題は誰でも古典塾オリジナルです。
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