漢文『鶏鳴狗盗』をやさしく解説|書き下し文・現代語訳・句法のポイント

漢文『鶏鳴狗盗』をやさしく解説|書き下し文・現代語訳・句法のポイント 漢文

「鶏鳴狗盗(けいめいくとう)」は、定期テストによく出る『史記』の有名な故事です。このページでは、確認テストと同じ本文を使って、白文・書き下し文・現代語訳・句法のポイントを10分で復習できるようにまとめました。

生徒
生徒「鶏鳴狗盗」って、鶏と犬の話ですか?テストでよく出るって聞いて不安です…。
先生
先生心配いりませんよ。つまらない技能でも時には役に立つ、という意味の故事成語です。本文と句法を順番に押さえれば10分で復習できます。

1. はじめに ― 「鶏鳴狗盗」とは

「鶏鳴狗盗」は、くだらない(取るに足りない)技能でも、時には役に立つことを表す故事成語です。転じて、そのようなつまらない技能の持ち主を指すこともあります。出典は『史記』孟嘗君(もうしょうくん)列伝です。

主人公の孟嘗君は斉の公子で、多くの食客(しょっかく=抱えていた人材たち)を持っていたことで知られます。秦の昭王に囚われた孟嘗君を、「犬のように忍び込んで盗みをはたらく食客」と「鶏の鳴き真似が得意な食客」の二人が救った、というお話です。

2. 白文

孟嘗君、使人抵昭王幸姫求解。姫曰、「願得君狐白裘。」蓋孟嘗君、嘗以献昭王、無他裘矣。客有能為狗盗者。入秦蔵中、取裘以献姫。姫為言、得釈。即馳去、変姓名、夜半至函谷関。関法、鶏鳴方出客。恐秦王後悔追之。客有能為鶏鳴者。鶏尽鳴。遂発伝出。食頃、追者果至、而不及。

3. 書き下し文

孟嘗君、人をして昭王の幸姫に抵りて解かんことを求めしむ。姫曰はく、「願はくは君の狐白裘を得ん。」と。蓋し孟嘗君、嘗て以て昭王に献じ、他の裘無し。客に能く狗盗を為す者有り。秦の蔵中に入り、裘を取りて以て姫に献ず。姫為に言ひ、釈さるるを得たり。即ち馳せ去り、姓名を変じ、夜半に函谷関に至る。関の法、鶏鳴きて方に客を出だす。秦王の後悔して之を追はんことを恐る。客に能く鶏鳴を為す者有り。鶏尽く鳴く。遂に伝を発して出づ。食頃にして、追ふ者果たして至るも、及ばず。

先生
先生白文と書き下し文を見くらべるのがコツです。とくに「使」と「願得」の読み方は、声に出して確認しておきましょう。

4. 現代語訳

孟嘗君は、使いの者を遣わして、昭王のお気に入りの側女(幸姫)のもとへ行かせ、囚われの身を解いてもらえるよう取りなしを求めさせた。幸姫は言った。「どうかあなた様の狐白裘をいただきたい。」と。実は孟嘗君は、その狐白裘をすでに昭王に献上してしまっていて、ほかに裘は残っていなかった。

食客の中に、犬のように忍び込んで盗みをするのが得意な者がいた。その者が秦の蔵に忍び込み、狐白裘を盗み出して幸姫に献上した。幸姫が孟嘗君のために昭王に口添えし、孟嘗君は釈放された。

孟嘗君はすぐさま馬を走らせて逃げ去り、姓名を変えて、夜半に函谷関に到着した。関所の決まりでは、鶏が鳴く(夜明けの)時刻になって初めて、旅人を関所の外へ通すことになっていた。孟嘗君は、秦王が釈放したことを後悔して自分を追ってくるのではないかと恐れた。食客の中に鶏の鳴き真似が得意な者がいて、その者が鳴き真似をすると、あたりの鶏がみないっせいに鳴いた。そこで通行の手形を出して関所を出た。食事をするほどのわずかな時間ののち、追っ手は案の定やって来たが、追いつけなかった

5. 句法・重要語のポイント

テストで狙われる句法

① 使役「使」=「〜をして…しむ」

「使人抵昭王幸姫求解」→「人をして昭王の幸姫に抵りて解かんことを求めしむ」。「使」は「(人に)〜させる」という使役を表し、「AヲシテBセしム」の形で読みます。書き下しでも句法名を答える問題でも最頻出です。

② 願望「願はくは〜ん」

「願得君狐白裘」→「願はくは君の狐白裘を得ん」。「どうか〜したい(いただきたい)」という願望の表現です。「君」は相手への敬称で「あなた様」と訳します。

③ 「客有能為〜者」=「客に能く〜を為す者有り」

「食客の中に、〜するのが得意な者がいた」。「能く」は「上手に〜することができる」の意味です。狗盗と鶏鳴とで二回出てくるのがこの話のポイントです。

④ 「果たして」と「而」

「追者果至、而不及」の「果たして」は「案の定・予想どおり」。「而」はここでは逆接で「しかし」。「追っ手は案の定やって来たが、追いつけなかった」となります。

覚えておきたい重要語

語句意味
狐白裘(こはくきゅう)狐の脇の下の白い毛だけを集めて作った最高級の皮ごろも
狗盗(くとう)犬のように忍び込んで盗みをはたらくこと。また、その者
幸姫(こうき)王に寵愛されている側女
函谷関(かんこくかん)秦の東の関所
伝(でん)関所の通行を許す割り符・手形
食頃(しょくけい)食事をするほどのわずかな時間

6. 故事の意味と現代での使い方

盗みや鳴き真似という、ふだんは「くだらない」と見られる特技が、危機の場面で主君の命を救いました。ここから「鶏鳴狗盗」は、つまらなく見える技能でも時として大いに役立つこと、また転じて、取るに足りない技能の持ち主を指す言葉になりました。

・例文1:ものまねなんて、と笑われていたが、鶏鳴狗盗というとおり、その特技が思わぬ場面でチームを救った。

・例文2:彼らを鶏鳴狗盗の集まりだとあなどっていると、思わぬ力にやられるかもしれない。

生徒
生徒二人の食客、どっちがどっちの働きをしたか、いつもこんがらがります…。
先生
先生いい質問です。狗盗=盗みで釈放、鶏鳴=鳴き真似で脱出。この対比をセットで覚えれば、もう間違えませんよ。

確認クイズ(3問)

Q1. 幸姫が、孟嘗君を助ける見返りとして求めたものは何ですか。

ア 函谷関の通行手形 イ 狐白裘 ウ 黄金

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正解:イ 解説:姫は「願はくは君の狐白裘を得ん」と言っています。狐白裘は狐の脇の下の白い毛だけで作った最高級の皮ごろもです。

Q2. 「狗盗」の得意な食客がしたことはどれですか。

ア 鶏の鳴き真似で関所の門を開けさせた イ 昭王に直接ゆるしを願い出た ウ 秦の蔵に忍び込み、狐白裘を盗み出して幸姫に献上した

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正解:ウ 解説:本文に「秦の蔵中に入り、裘を取りて以て姫に献ず」とあります。鳴き真似をしたのは別の食客です。

Q3. 函谷関の決まり(関の法)はどのようなものでしたか。

ア 鶏が鳴く時刻になって初めて客を通す イ 夜中にだけ門を開く ウ 身分の高い人だけが通れる

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正解:ア 解説:「関の法、鶏鳴きて方に客を出だす」とあります。この決まりを逆手に取り、鳴き真似であたりの鶏をいっせいに鳴かせて門を開けさせたのです。

7. 物語の背景 ― 孟嘗君と「戦国四君」

この故事をしっかり理解するには、舞台となった時代背景を知っておくと役立ちます。「鶏鳴狗盗」が描かれた時代は、中国の「戦国時代」です。多くの国が天下を争い、なかでも西方のがしだいに力を強めていました。主人公の孟嘗君は、その秦と対抗する東方の大国斉(せい)の有力な公子(君主の一族)でした。

孟嘗君は、すぐれた人物を身分に関係なく数多く召しかかえたことで有名です。彼のもとに身を寄せた人々を食客(しょっかく)といい、その数は数千人にのぼったと伝えられます。なかには一芸に秀でただけの者や、世間では役に立たないと見なされていた者も含まれていました。「盗みが得意な者」「鳴き真似が得意な者」も、まさにそうした食客の一人だったのです。この「分けへだてなく人を集める姿勢」が、結果として孟嘗君自身の命を救うことになりました。これが物語全体を貫くテーマです。

孟嘗君は、当時もっとも有力な四人の公子「戦国四君(せんごくしくん)」の一人に数えられます。残りの三人は、趙(ちょう)の平原君(へいげんくん)、魏(ぎ)の信陵君(しんりょうくん)、楚(そ)の春申君(しゅんしんくん)です。テストで「孟嘗君は何と呼ばれる四人の一人か」と問われることがあるので、あわせて覚えておくと安心です。

8. 句法をもう一歩 ― 場面で読みなおす

5章であげた句法を、本文の流れにそって、もう少しくわしく見ていきましょう。短い一節を取り出して「原文 → 書き下し文 → 現代語訳」の順に並べると、どこがポイントなのかがはっきりします。

場面1:助けを求める(使役)

  • 原文:使人抵昭王幸姫求解。
  • 書き下し文:人をして昭王の幸姫に抵りて解かんことを求めしむ。
  • 現代語訳:使いの者を、昭王のお気に入りの側女のところへ行かせ、囚われを解いてもらうよう取りなしを求めさせた。

ここでの主役は使役の「使」です。文の形は「使 A B」で、「AをしてB(せ)しむ」と読み、「AにBさせる」と訳します。この文では「人をして…求めしむ」となり、「使いの者に取りなしを求めさせた」という意味です。使役を表す字には「使」のほかに「令(しむ)」「遣(つかはす)」などもあり、いずれも書き下しで「しむ」と送るのが基本です。

場面2:皮ごろもを願う(願望)

  • 原文:願得君狐白裘。
  • 書き下し文:願はくは君の狐白裘を得ん。
  • 現代語訳:どうか、あなた様の狐白裘をいただきたい。

「願はくは〜ん(む)」は、「どうか〜したい・〜してほしい」という願望を表す決まった言い方です。文の最後が「ん(む)」で結ばれている点に注目しましょう。「君」は二人称の敬称で、ここでは孟嘗君を指して「あなた様」と訳します。「君=きみ(友達への呼びかけ)」と早合点しないことが大切です。

場面3:得意な食客がいた(存在+可能)

  • 原文:客有能為狗盗者。
  • 書き下し文:客に能く狗盗を為す者有り。
  • 現代語訳:食客の中に、犬のように忍び込んで盗みをするのが得意な者がいた。

「有 A 者」は「Aする者有り」と読み、「Aする者がいた」という存在の表現です。あいだにはさまった「能く(よく)」は「上手に〜できる」という可能・能力を表します。この同じ形が、のちに「客に能く鶏鳴を為す者有り(鳴き真似が得意な者がいた)」ともう一度くり返されます。同じ言い回しが二度出てくることが、二人の食客の活躍を対比させるこの話の骨組みになっているのです。

9. つまずきやすいポイントと入試での問われ方

「鶏鳴狗盗」を学ぶとき、高校生がよくつまずく点と、テストでの出され方をまとめました。先に弱点を知っておけば、本番であわてずにすみます。

  • 二人の食客の手柄を取りちがえる……「狗盗」の食客は狐白裘を盗んで釈放を、「鶏鳴」の食客は鳴き真似で脱出を実現しました。どちらがどちらの働きをしたのか、必ず区別して覚えましょう。テストでは「釈放のきっかけを作ったのはどちらの食客か」のように問われます。
  • 「方」の読みと意味……「鶏鳴方出客」の「方(まさに)」は「ちょうどその時・〜になって初めて」の意味です。「方角・方向」の意味ではありません。
  • 「蓋し(けだし)」の意味……「蓋孟嘗君、嘗以献昭王」の「蓋し」は「思うに・実は」という意味で、事情を説明するときに使います。「ふた(蓋)」とは関係ありません。
  • 「即ち(すなはち)」の意味……ここでは「すぐさま・ただちに」の意味です。「つまり」と訳すと文意がずれてしまいます。
  • 故事成語の意味の方向……「鶏鳴狗盗」は基本的に「つまらない技能でも役立つ」というプラスの意味ですが、「取るに足りない技能(の持ち主)」とやや見下す意味で使われることもあります。文脈でどちらの意味かを判断します。
先生
先生ここはひっかけの宝庫です。とくに「方」は方角ではなく「まさに〜になって初めて」。落ち着いて意味を選べば大丈夫ですよ。

入試・定期テストでは、次のような形で出題されやすいので、対策の的をしぼっておきましょう。

  1. 傍線部「使人抵昭王幸姫求解」を書き下し文に直す問題(使役の読み方が問われる)。
  2. 「願得君狐白裘」の口語訳を答える問題(願望の訳し方が問われる)。
  3. 「客有能為狗盗者」「客有能為鶏鳴者」がそれぞれ誰の・どんな働きを指すかを答える問題。
  4. 故事成語「鶏鳴狗盗」の意味を説明させる問題。
  5. 出典(『史記』孟嘗君列伝)や作者(司馬遷)を答える知識問題。

10. ミニ練習問題(解答つき)

ここまでの内容が身についたか、自分でたしかめてみましょう。まず答えを隠して考え、それから「答えを見る」を開いてください。

問1 次の白文を書き下し文に直しなさい。 「客有能為鶏鳴者。」

答えを見る

客に能く鶏鳴を為す者有り。 「有〜者」は「〜する者有り」、あいだの「能く」は「上手に〜できる」。意味は「食客の中に、鶏の鳴き真似が得意な者がいた」。

問2 「使人抵昭王幸姫求解」に使われている句法の名前を答えなさい。また、何という字がその働きを示していますか。

答えを見る

句法:使役(しえき)。働きを示す字:使。 「使 A B」で「AをしてB(せ)しむ=AにBさせる」と読みます。

問3 「願得君狐白裘」を現代語訳しなさい。

答えを見る

どうか、あなた様の狐白裘をいただきたい。 「願はくは〜ん」は願望「どうか〜したい」。「君」は敬称で「あなた様」。

問4 故事成語「鶏鳴狗盗」の意味を、二十字程度で説明しなさい。

答えを見る

つまらない技能でも時には役に立つこと。 転じて「取るに足りない技能(の持ち主)」を指すこともあります。

11. よくある質問(Q&A)

Q1.「鶏鳴狗盗」は良い意味ですか、悪い意味ですか。

もともとは「つまらなく見える技能でも、時には大きく役立つ」という、技能を生かした人をたたえる前向きな意味です。一方で、「取るに足りない小わざ(しかできない人)」とやや低く見て使うこともあります。どちらの意味で使われているかは、前後の文脈から読み取りましょう。

Q2.なぜ鳴き真似をすると関所を出られたのですか。

函谷関には「鶏が鳴く(=夜明けの)時刻になって初めて旅人を通す」という決まりがありました。まだ夜中で本物の鶏は鳴いていませんでしたが、鳴き真似の名人が鳴くと、それにつられてあたりの鶏が次々と鳴き出しました。番人は夜が明けたと勘違いし、決まりどおり門を開けて通したのです。決まりを逆手に取った機転がポイントです。

Q3.「狐白裘」はそんなに貴重なものなのですか。

はい。狐白裘は、狐の脇の下にあるわずかな白い毛だけを集めて作る皮ごろもで、たくさんの狐が必要になるため、当時きわめて貴重で高価な品でした。孟嘗君はそれをすでに一着しか持っておらず、しかも秦王に献上ずみだったため、同じものをもう一度用意できず、盗み出すしかなかったのです。

Q4.出典の『史記』とはどんな書物ですか。

『史記』は、前漢の歴史家・司馬遷(しばせん)が著した、中国を代表する歴史書です。伝説の時代から司馬遷の生きた時代までを、人物ごとに記す「列伝」などの形でまとめています。「鶏鳴狗盗」は、そのうちの「孟嘗君列伝」に収められた一節です。

まとめ

  • 故事成語「鶏鳴狗盗」=つまらない技能でも時には役立つこと。転じて、取るに足りない技能の持ち主。
  • 舞台は戦国時代。主人公は斉の公子・孟嘗君で、「戦国四君」の一人。多くの食客をかかえていた。
  • 狗盗の食客は狐白裘を盗んで「釈放」を、鶏鳴の食客は鳴き真似で函谷関からの「脱出」を実現。二人の対比がテストの定番。
  • 最頻出の句法は、使役「使(〜をして…しむ)」と願望「願はくは〜ん」。存在の「有〜者」、可能の「能く」もあわせて確認。
  • 出典は『史記』孟嘗君列伝、作者は司馬遷。知識問題でそのまま問われやすい。
先生
先生ここまでよくがんばりました。二人の食客の対比と、使役・願望の二つの句法。この三本柱を押さえれば本番でも怖くありません。最後に確認テストで力試しをしてみましょう。

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この記事を書いた人

中本 裕太(現役の古典講師)

国語科の教員免許を持つ現役の古典講師。個別指導塾フィット塾長。「誰でも古典塾」で古文・漢文の解説と約8,000問のドリルを無料公開しています。くわしいプロフィール

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