「先従隗始(隗より始めよ)」は、燕の昭王に郭隗が「まず私のような凡庸な者を厚遇なさい。さらば、それを聞いた賢者が次々と集まるでしょう」と進言した故事に基づく言葉です。本来は「大事を始めるには、まず手近なところ・身近な者から着手せよ」の意味ですが、後に転じて「事を言い出した者から、まず自分で始めよ」の意味でも使われます。定期テストでは、出典(『戦国策』燕策・『十八史略』)、死馬・涓人をめぐる例え話の趣旨、そして「隗より始めよ」の二つの意味と使い分けが頻出ポイントです。次の文章を読み、後の問いに答えよ。
白文(原文)
【白文】
書き下し文(傍線①〜⑮)
燕人(えんひと)太子平(たいしへい)を立てて君(きみ)と為(な)す。是(こ)れを昭王(しょうおう)と為す。①死を弔(とむら)ひ生を問ひ、②辞を卑(ひく)くし幣(へい)を厚くして、以て賢者を招く。郭隗(かくかい)に問ひて曰(い)はく、「斉(せい)③孤(こ)が国の乱(みだ)れに因(よ)りて、燕を襲破(しゅうは)せり。④孤極(きわ)めて燕(えん)の小(しょう)にして以(もっ)て報(むく)ゆるに足らざるを知る。⑤誠(まこと)に賢士(けんし)を得て与(とも)に国を共にし、以て先王の恥(はじ)を雪(すす)がんこと、孤が願ひなり。先生(せんせい)⑥可(か)なる者を視(しめ)せ。身(み)づから之(これ)に事(つか)ふることを得(え)ん。」と。
隗曰はく、「古(いにしへ)の君(きみ)、千金(せんきん)を以て⑦涓人(けんじん)をして千里の馬を求めしむる者(もの)有り。⑧死馬(しば)の骨を五百金に買(か)ひて返(かへ)る。君怒(いか)る。涓人曰はく、『⑨死馬すら且(か)つ之(これ)を買ふ。況(いは)んや生ける者をや。馬今に至(いた)らん。』と。⑩年(とし)を期(き)せずして、千里の馬至る者三(み)たびなり。今(いま)王(おう)必ず士を致(いた)さんと欲(ほっ)せば、⑪先づ隗(かい)より始めよ。況んや隗より賢なる者、⑫豈(あ)に千里を遠しとせんや。」と。
是(ここ)に於(お)いて昭王⑬隗の為(ため)に宮(きゅう)を改築し、⑭之に師事(しじ)す。是に於いて⑮士(し)争(あらそ)ひて燕に趨(おもむ)く。
語注 孤=王侯の自称。「わたくし」。幣=贈り物。雪ぐ=恥をすすぐ。涓人=宮中の雑用をする近侍の役人。千里の馬=一日に千里走る名馬。すぐれた人材のたとえ。期す=期間を定める。師事す=師として仕える。
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設問
A 語句と読み
- ①「死を弔(とむら)ひ生を問ひ」の意味
- ②「辞を卑(ひく)くし幣(へい)を厚くして」の意味
- ⑥「可(か)なる者」とはどのような者か
- ⑦の「涓人」とはどのような役目の人か
- ⑩「年(とし)を期(き)せずして」の意味
- ⑮の「趨く」の読みと意味
B 句法
- ⑨「死馬すら且(か)つ之(これ)を買ふ。況(いは)んや生ける者をや」の句法名
- ⑨の句法は、どのような言い方か。はたらきを説明せよ
- ⑫「豈(あ)に千里を遠しとせんや」の句法名
- ⑦「涓人をして千里の馬を求めしむ」の句法名
C だれのことか
- ③・④の「孤」とは誰のことか
- ⑪「先づ隗(かい)より始めよ」と言ったのは誰か。またその「隗」とは誰か
- ⑬・⑭で、宮を改築し師事したのは誰か
D 口語訳
- ④「孤極(きわ)めて燕(えん)の小(しょう)にして以(もっ)て報(むく)ゆるに足らざるを知る」
- ⑨「死馬すら且(か)つ之(これ)を買ふ。況(いは)んや生ける者をや」
- ⑩「年(とし)を期(き)せずして」、千里の馬至る者三たびなり
- ⑫「豈(あ)に千里を遠しとせんや」
E 内容・記述
- ⑤「誠(まこと)に賢士(けんし)を得て与(とも)に国を共にし、以て先王の恥(はじ)を雪(すす)がんこと」とあるが、昭王の願いを二点にまとめて書け。
- ⑧「死馬(しば)の骨を五百金に買(か)ひて返(かへ)る」について、涓人はなぜ死んだ馬の骨を五百金もの大金で買ったのか。四十字以内で書け。
- ⑪「先づ隗(かい)より始めよ」と進言したとき、郭隗は自分を何になぞらえているか。たとえ話と対応させて書け。
- ⑮「士(し)争(あらそ)ひて燕に趨(おもむ)く」とは、どういうことになったというのか。三十字以内で書け。
- 故事成語「隗より始めよ」について、(1)もともとの意味と(2)今よく使われる意味を、分けて書け。
F 文学史
- この故事の出典を二つ答えよ。
- この話の舞台になっている国と、人材を求めた王の名を答えよ。
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解答と解説
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A 語句と読み
問1 戦死者をとむらい、生き残った者を見舞う
└ 人心を集めるための行い
問2 ことばをへりくだらせ、贈り物を手厚くする
└ 「幣」=贈り物
問3 しかるべき人物。賢士として推薦できる者
問4 宮中の雑用をする近侍の役人
問5 一年もたたないうちに
└ 「期す」=期間を定める
問6 おもむく/(急いで)向かう・集まる
B 句法
問7 抑揚形
└ 「Aすら且つ〜、況んやBをや」
問8 価値の軽いものを挙げて、より重いものを強調する言い方
└ 死馬(軽)→生者(重)
問9 反語
└ 「豈に〜や」=どうして〜か、いや〜ない
問10 使役
└ 「(人)をして〜しむ」
C だれのことか
問11 燕の昭王(本人の自称)
問12 言ったのは郭隗。「隗」は郭隗自身
問13 昭王
D 口語訳
問14 わたくしは、燕が小国であって、(斉に)報復するには十分でないことをよく承知している。
問15 死んだ馬でさえこれを買うのだ。まして生きている馬ならなおさらだ。
問16 一年もたたないうちに、千里の馬が三頭もやって来た。
問17 どうして千里の道を遠いと思おうか、いや、遠いとは思わない。
E 内容・記述
問18 ①すぐれた人材を得て、ともに国を治めること。②その力で、斉に破られた先王の恥をすすぐこと。
問19 名馬を本気で高く買う君主だという評判を広め、生きた名馬を集めるため。(三十三字)
問20 死んだ馬の骨。たいした賢者でない自分をまず厚遇すれば、それが呼び水となって、自分よりすぐれた者(=生きた千里の馬)が集まると考えた。
問21 すぐれた人材が争うように燕へやって来たということ。(二十四字)
問22 (1)大事を成したいなら、まず手近な者(隗自身)から優遇せよ。(2)言い出した者が、まず自分から実行せよ。
F 文学史
問23 『戦国策』(燕策)・『十八史略』
問24 燕の国/昭王
【テスト直前チェック】この三つ
❶抑揚形「死馬すら且つ之を買ふ。況んや生ける者をや」=軽いものを挙げて重いものを強調する。この話の心臓部。
❷反語「豈に千里を遠しとせんや」。
❸隗=死んだ馬の骨という対応。ここが分かれば記述はすべて解けます。
現代語訳(全文)
燕の人々は太子平を立てて君主とした。これが昭王である。(昭王は)戦死者をとむらい遺族を見舞い、ことばをへりくだらせ贈り物を手厚くして、賢者を招いた。郭隗に問うて言った、「斉はわが国の内乱につけこんで、燕を攻め破った。わたくしは、燕が小国で、とても仕返しできないことをよく承知している。それでも、すぐれた人材を得てともに国を治め、先王の恥をすすぐこと、それがわたくしの願いだ。先生、しかるべき人物を教えてほしい。自分でその人に仕えたいと思う。」
隗が言った、「昔の君主に、千金を使って近侍の役人に一日千里を走る名馬を求めさせた者がいました。(その役人は)死んだ馬の骨を五百金で買って帰りました。君主は怒りました。役人は言いました、『死んだ馬でさえこれを買うのです。まして生きている馬ならなおさらでしょう。馬はすぐにやって来ます。』と。一年もたたないうちに、千里の馬が三頭もやって来ました。いま王がぜひとも人材を集めたいとお思いなら、まずこの隗から始めてください。まして隗よりすぐれた者なら、どうして千里の道を遠いと思いましょうか、いや思いません。」
そこで昭王は隗のために邸宅を建て直し、隗を師として仕えた。こうして、すぐれた人材が争うように燕へやって来た。
※この問題は誰でも古典塾のオリジナルです。本文は古典(著作権の対象外)から正確に引用しています。
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