助動詞「す・さす・しむ」は、いずれも未然形に接続し、「使役(〜させる)」と「尊敬(お〜になる)」の二つの意味をあらわします。見分けの第一原則は、すぐ下に尊敬語(給ふ・おはします等)があるかどうかです。下に尊敬語があれば「尊敬」または二重敬語(最高敬語)、なければ「使役」と判断するのが基本です。
接続は、「す」が四段・ナ変・ラ変の未然形に、「さす」がそれ以外の未然形に、「しむ」が用言の未然形(多くは漢文訓読・和歌)につきます。活用はすべて下二段型(せ/せ/す/する/すれ/せよ)です。次の各例文を読み、後の問いに答えよ。
本文
※①〜⑯はいずれも学習用のオリジナル例文です(擬古文)。「す・さす・しむ」の接続・意味・活用を学ぶために作成しています。
① 夜更けて、上達部、上人など、皆ものはかなき直衣姿にて、御格子上げさせて、外を御覧ず。
② 大臣、笛をいみじう吹かせ給ふ。
③ 帝、御涙を流させ給ひて、物も仰せられず。
④ 翁、嫗を呼びて、この子のことを言ひ知らせけり。
⑤ 君のおはします所に、人をやりて消息を伝へさせたまふ。
⑥ 親王に歌を詠ませ、御簾の内にて聞こしめす。
⑦ 女御、御琴を弾かせ参らせ給ふ。
⑧ 入道殿、舞をなむ舞はせ給ひける。
⑨ 先生、生徒に古文を読ましむ。
⑩ 天子、徳をもて民を従はしむ。
⑪ 馬を走らしめて、敵陣に攻め入る。
⑫ 聖人、人をして道を行はしむ。
⑬ 月を待たせ給ふほどに、夜やうやう更けぬ。
⑭ 使ひをやりて、急ぎ参らせよと言はせけり。
⑮ かの人に文を書かせて、こなたへ届けさせよ。
⑯ 帝、御琴をいとめでたく弾かせおはします。
設問
- ①の傍線部「させ」の文法的意味は、使役・尊敬のどちらか答えよ。またそう判断した理由を、すぐ下の語に着目して述べよ。
- ②の「吹かせ給ふ」の「せ」の文法的意味を答えよ。
- 下に何の語があるか指摘せよ。
- この「せ給ふ」をひとまとめにして何と呼ぶか、敬語の種類の呼称を答えよ。
- ②の例文全体を現代語訳せよ。
- ③の「流させ給ひて」の「させ」は、使役・尊敬のどちらか。理由も簡潔に述べよ。
- ④の「知らせけり」の「せ」は、使役・尊敬のどちらか答えよ。下に尊敬語があるか・ないかにも触れよ。
- ⑤の「伝へさせたまふ」の「させ」の文法的意味を答えよ。
- ⑤の例文全体を現代語訳せよ。
- ⑥の「詠ませ」の「せ」は使役・尊敬のいずれか。下にある語に着目して答えよ。
- ⑦の「弾かせ参らせ給ふ」には敬語が複数重なっている。「せ」の意味(使役・尊敬)を答え、なぜそう判断できるかを下の語に着目して述べよ。
- ⑧の「舞はせ給ひける」の「せ」の意味を答えよ。あわせて、この敬語表現の呼称(最高敬語の別名)を答えよ。
- ⑨の「読ましむ」の「しむ」の文法的意味を答えよ。
- ⑨で「す」ではなく「しむ」が用いられているのはなぜか。「しむ」が主に用いられる文体にふれて述べよ。
- ⑨の例文全体を現代語訳せよ。
- ⑩の「従はしむ」の「しむ」は使役・尊敬のいずれか。理由も述べよ。
- ⑪「走らしめて」の「しめ」を、もとの終止形「しむ」に直したうえで、なぜここで「す・さす」でなく「しむ」が選ばれているか説明せよ。
- ⑫の「行はしむ」について、現代語訳せよ。
- ⑬の例文全体を現代語訳せよ。
- ⑯「弾かせおはします」の「せ」の文法的意味を答え、あわせてこの敬語表現を何と呼ぶか答えよ。
- 次の各傍線部の活用形(下二段型の何形か)を答えよ。
- ①「させ」
- ⑬「待たせ給ふ」の「せ」
- ⑮「届けさせよ」の「させ」
- なぜ①は「さす」が用いられ、④は「す」が用いられているのか。それぞれが接続する動詞の活用の種類にふれて説明せよ。
- 次の三つの「せ」「す」のうち、助動詞「す」(使役・尊敬)であるものをすべて選び、記号で答えよ。
- (ア)⑬「待たせ給ふ」の「せ」
- (イ)「物を申す」の「す」(サ変動詞「申す」の語尾)
- (ウ)⑭「言はせけり」の「せ」
- ⑭「言はせけり」の「せ」と、③「流させ給ひて」の「させ」は、同じ意味か異なる意味か。それぞれの意味を答えたうえで違いを説明せよ。
- 「す・さす・しむ」に共通する活用の型を、終止形をもとに「( )型」の形で答えよ。また、その型の名称を漢字で記せ。
- 記述問題:助動詞「す・さす」が「使役」か「尊敬」かを見分けるときの最も基本的な手がかりを、一文で説明せよ。
▼ 解答・解説を見る
問1 使役。理由:「させ」のすぐ下に尊敬語がなく、「上げさせて」と直後に接続助詞「て」が続くだけだから。御格子を「(人に命じて)上げさせて」の意。下に尊敬語を伴わない「す・さす」は使役と判断する。
問2 尊敬。 ・下に尊敬の補助動詞「給ふ」がある。 ・「せ給ふ」をひとまとめにして二重敬語(最高敬語)と呼ぶ。天皇・皇族・大臣など最高位の人物への敬意をあらわす。
問3 「大臣が、笛をたいそう見事にお吹きになる。」(「吹かせ給ふ」は二重敬語で、大臣への高い敬意をあらわす。)
問4 尊敬。理由:「させ」の下に尊敬の補助動詞「給ひ」があるから。「流させ給ひて」で「(帝が)御涙をお流しになって」の意(二重敬語)。
問5 使役。「知らせけり」の「せ」の下には尊敬語がなく、過去の助動詞「けり」が続くだけである。「この子のことを言ひ知らせ(て聞かせ)た」の意で、使役と判断する。
問6 尊敬。下に尊敬の補助動詞「たまふ」があるため。「(おそばの人を介して)お伝えになる」の意で、二重敬語。
問7 「君(=主君)がいらっしゃる所に、人を遣わして手紙(の言葉)をお伝えになる。」(「伝へさせたまふ」は二重敬語。)
問8 使役。「詠ませ」の「せ」のすぐ下には尊敬語がなく、「(親王に)歌を詠ませ(て)」と他者に詠ませる意だから。「親王に歌をお詠ませになり」ではなく「親王に歌を詠ませ」と訳す使役の用法である。
問9 使役。「せ」のすぐ下にあるのは謙譲の補助動詞「参らせ(参らす)」であって、尊敬語ではないから。「す・さす」を尊敬と判断できるのは尊敬語がすぐ下に続く場合であり、間に謙譲語がはさまるときの「せ」は使役と解するのが一般的である。「(女御が、人に)御琴をお弾かせ申し上げなさる」の意(「参らせ」が謙譲、「給ふ」が尊敬)。
問10 尊敬。呼称は二重敬語(=最高敬語)。「舞はせ給ひける」で「(入道殿が)舞をお舞いになった」の意。
問11 使役。「しむ」の下に尊敬語がなく、「読ましむ(読ませる)」と生徒に読ませる意だから。
問12 「しむ」は主に漢文訓読体(および一部の和歌・改まった文章)で用いられる助動詞である。⑨は漢文訓読調の文であるため、「す」ではなく「しむ」が用いられている。
問13 「先生が、生徒に古文を読ませる。」(「読ましむ」は使役。)
問14 使役。理由:「従はしむ」の下に尊敬語がなく、「民を従はせる」の意だから。「天子が徳によって民を従わせる」と訳す。
問15 終止形は「しむ」。⑪「馬を走らしめて」は漢文訓読調の文であり、この文体では使役の助動詞として「す・さす」ではなく「しむ」が選ばれる。「(人が)馬を走らせて」の意。
問16 「聖人が、人に道を行わせる。」(「人をして〜しむ」は「人に〜させる」の意の漢文訓読特有の言い方。)
問17 「月(の出)をお待ちになるうちに、夜がしだいに更けてしまった。」(「待たせ給ふ」は二重敬語。「ぬ」は完了。)
問18 尊敬。下に尊敬の補助動詞「おはします」があるため。この敬語表現は二重敬語(最高敬語)と呼ぶ。「(帝が)御琴をたいそうみごとにお弾きになる」の意。
問19 活用形(すべて下二段型)。 ・①「させ」=連用形(下に接続助詞「て」が続く)。 ・⑬「せ」=連用形(下に補助動詞「給ふ」が続く)。 ・⑮「させ」=命令形(「届けさせよ」の「させよ」。命令形は「せよ/させよ/しめよ」)。
問20 ①の「上ぐ」は下二段活用、その未然形は「あ段」以外(上げ=げ)であり、四段・ナ変・ラ変以外の活用なので「さす」が付き「上げさせ」となる。④の「知る」は四段活用で、未然形は「知ら(あ段)」、四段の未然形には「す」が付くので「知らせ」となる。すなわち接続する動詞の活用の種類によって「す」か「さす」かが決まる。
問21 助動詞「す」であるものは(ア)と(ウ)。 ・(ア)「待たせ給ふ」の「せ」=尊敬の助動詞「す」。 ・(ウ)「言はせけり」の「せ」=使役の助動詞「す」。 ・(イ)「申す」の「す」はサ変動詞「申す」の語尾であって助動詞ではない(識別注意)。
問22 ⑭「言はせ」の「せ」は使役(下に尊敬語がなく「言わせた」の意)。③「流させ」の「させ」は尊敬(下に尊敬語「給ひ」があり「お流しになる」の意)。同じ「す・さす」の系列でも、下に尊敬語があるか否かで意味が分かれる点が違いである。
問23 下二段型(せ/せ/す/する/すれ/せよ)。型の名称は漢字で下二段。
問24 「す・さす」のすぐ下に尊敬語(給ふ・おはします等)があれば尊敬、なければ使役と判断する。(これが最も基本的な見分けの手がかりである。)
※この問題は誰でも古典塾オリジナルです。本文の引用は古典作品(著作権の対象外)から正確に行っています。
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