古文「す・さす・しむ」の識別を完全攻略|使役と尊敬を下接尊敬語で見抜く

古文「す・さす・しむ」これで完結 古典文法
古文「す・さす・しむ」これで完結

古文の助動詞「す・さす・しむ」は、使役と尊敬の二つの意味を担う重要な語です。「歌ヘ歌わす」(歌わせる)のように使役で使われる一方、「御覧ぜさす」(御覧になる)のように尊敬としても用いられます。同じ形で正反対に近い二方向の意味を持つため、入試では「使役か尊敬か」を判別させる設問が定番化しています。

結論から伝えます。「す・さす・しむ」を完全に攻略する鍵は三つです。第一に未然形接続であり、活用語の種類によって「す」「さす」「しむ」を使い分けること、第二に下に尊敬語が伴うかで使役と尊敬を見分けること、第三に下二段型に活用する点を覚えることです。

この記事では基本ルールを整理し、識別の手順をステップごとに解説します。さらに学習者がつまずきやすい誤解と典型例文の確認まで踏み込みます。共通テストでも国公立二次でも、「す・さす・しむ」の識別ができるかどうかで敬語表現の理解が変わります。

「す・さす・しむ」の基本(意味・接続・活用)

古文「す・さす・しむ」基本

「す・さす・しむ」を扱うときは、意味・接続・活用の三点をセットで覚えることが欠かせません。三つの語をまとめて整理する発想が、効率の良い学習につながります。

意味は使役「〜させる」と尊敬「〜なさる・お〜になる」の二つです。使役は他の人にある動作をさせることを表し、尊敬は身分の高い人の動作を高めて表現します。同じ「す」「さす」「しむ」が、文脈と他の敬語の有無によってこの二方向に分かれます。

未然形接続と語の使い分け

三語ともに未然形接続です。動詞の種類によって使い分けがあり、四段・ナ変・ラ変の未然形には「す」、それ以外(上一段・上二段・下一段・下二段・カ変・サ変)の未然形には「さす」が接続します。「しむ」は和文系の散文では用例が少なく、漢文訓読系の文や仏教説話などで使役を表す際に使われる傾向があります。

「行かす」(行く+す)、「見さす」(見る+さす)、「来さす」(来+さす)、「す(する)さす」のように、動詞の種類に応じて自然に「す」と「さす」が選ばれます。接続の使い分けは、動詞の活用の種類を見分ける力と直結しています。

下二段型の活用

「す・さす・しむ」はいずれも下二段型に活用します。未然形「せ/させ/しめ」、連用形「せ/させ/しめ」、終止形「す/さす/しむ」、連体形「する/さする/しむる」、已然形「すれ/さすれ/しむれ」、命令形「せよ/させよ/しめよ」となります。三語が同じ活用パターンを共有しているため、一つ覚えれば三つすべてを処理できます。

連体形「する/さする/しむる」と、サ変動詞「す」の連体形「する」が同じ形になる点は注意が必要です。文脈と接続で区別する必要があります。

「す・さす・しむ」の識別方法(ステップごとに解説)

古文「す・さす・しむ」識別方法

「す・さす・しむ」と判定された後は、使役か尊敬かを絞り込む作業が必要です。次の三ステップで処理します。

ステップ一:接続を確認して使役・尊敬の助動詞と確定する

直前の語が未然形になっているかを確認し、本当に「す・さす・しむ」かどうかを確定します。「行かす」「見さす」のように未然形に接続している形が見つかれば、使役か尊敬のいずれかの助動詞だと判断できます。サ変動詞「す」の活用や、副詞「す」などとの混同を避けるため、接続の確認が出発点になります。

ステップ二:下に尊敬語が続くかを確認する

「す・さす・しむ」の下に尊敬語(給ふ・おはす・おはします・召す等)が続いている場合は、ほとんどの場合尊敬の意味になります。「せ給ふ」「させ給ふ」「しめ給ふ」のような形は、二重尊敬(最高敬語)として帝・上皇など最高位の人物に対する敬意を表します。下に尊敬語がない場合は、使役の可能性が高くなります。

ステップ三:文脈で使役・尊敬を最終判断する

下に尊敬語がある場合でも、文脈によっては使役の意味として「〜させなさる」と訳すこともあります。例えば「家来に物を取らせ給ふ」は「家来に物を取らせなさる」で、使役+尊敬の重ね使いです。文脈の中で、誰が誰に何をさせているかを丁寧に確認することで、純粋な尊敬か、使役+尊敬かを判別できます。

よくある誤解・ミスポイント

「す・さす・しむ」の学習で典型的につまずきやすいポイントを整理します。これらを意識するだけで、実戦での誤訳が大幅に減ります。

下に尊敬語があると即座に尊敬と決めつける

「せ給ふ」「させ給ふ」を見たら反射的に尊敬と判断する癖がついていると、使役+尊敬の重ね使いを見落とします。文脈で「誰が誰に何をさせているか」を確認し、使役の対象が明示されている場合や、文意が「〜させなさる」のほうが自然な場合は、使役と尊敬の重ね使いで処理してください。

下に尊敬語がないのに尊敬と読む

「行かす」「見さす」のように下に尊敬語が続かない場合は、原則として使役です。尊敬として処理してしまうと文意が破綻します。下に尊敬語があるかないかを最初に確認する習慣をつけてください。

「す」とサ変動詞「す」の混同

「す」はサ変動詞「す(する)」と同じ形なので、混同しやすい論点です。サ変動詞「す」は単独で「する」という意味の動詞であり、未然形接続の助動詞「す」とは別物です。「学問す」(学問する)のサ変動詞と、「行かす」(行かせる)の助動詞は接続と意味が違うので、文脈で区別してください。

「さす」と「しむ」の使い分けを混同する

「さす」と「しむ」は意味が近いですが、「しむ」は漢文訓読系の文章で使われる傾向があり、和文では「さす」がメインです。物語や随筆では「さす」を使い、漢文訓読体の文章では「しむ」を使うという棲み分けがあると考えると、文体に応じた使い分けが見えやすくなります。

例文で確認(古文+現代語訳セット)

ここでは典型例を通じて、使役と尊敬の識別の流れを具体的に確認します。古文と現代語訳をセットで読み、識別の感覚を体得してください。

例文一:使役「〜させる」

古文:「子に書を読ます。」【練習例】

現代語訳:「子に書物を読ませる。」

「読ま」は四段動詞「読む」の未然形、「す」は使役の助動詞です。「子」という使役の対象が明示されており、下に尊敬語が続かないため使役と判断できます。最も基本的な使役の形です。

例文二:尊敬「〜なさる」(下に尊敬語)

古文:「帝、和歌をよませ給ふ。」【練習例】

現代語訳:「帝は和歌をお詠みになる。」

「よま」は四段動詞「よむ」の未然形、「せ」は「す」の連用形、「給ふ」が尊敬の補助動詞です。主語が帝(最高位)であり、下に尊敬語が続いているため、二重尊敬(最高敬語)の典型例です。和歌・物語で頻出する形なので、形ごと暗記しておくと反応速度が上がります。

例文三:使役+尊敬「〜させなさる」

古文:「家来に物を取らせ給ふ。」【練習例】

現代語訳:「家来に物を取らせなさる。」

「取ら」は四段動詞「取る」の未然形、「せ」は使役の「す」、「給ふ」は尊敬の補助動詞です。「家来」という使役の対象が明示されているため、純粋な尊敬ではなく、使役+尊敬の重ね使いと判断します。「下に尊敬語があれば全て尊敬」と機械的に処理せず、文脈で使役の対象の有無を確認することが重要です。

例文四:「さす」の使役

古文:「人を呼びにやらさす。」【練習例】

現代語訳:「人を呼びに行かせる。」

「やら」は四段動詞「やる」の未然形ですが、ここでは下二段動詞「やる」(古文の用法)として「さす」が接続しています。使役で「人を行かせる」という意味です。「さす」は四段・ナ変・ラ変以外の動詞の未然形に接続するという基本ルールに沿った例です。

例文五:「しむ」の使役(漢文訓読系)

古文:「兵をして城を守らしむ。」【練習例】

現代語訳:「兵に城を守らせる。」

「しむ」は漢文訓読系の文で使役を表す典型的な形です。「兵をして」が使役の対象を示し、「守ら」(四段動詞「守る」の未然形)に「しむ」が接続して「守らせる」という意味になっています。漢文書き下し文や、漢籍由来の説話・教訓文に頻出するパターンです。

まとめ

古文「す・さす・しむ」まとめ

「す・さす・しむ」を一言で表すと、「未然形接続で、使役『〜させる』と尊敬『〜なさる』の二つの意味を持つ助動詞」です。三語は下二段型の活用を共有し、動詞の種類に応じて使い分けます。意味判定の最大の手がかりは「下に尊敬語が続くかどうか」です。

識別の核心は三つです。第一に直前の語が未然形になっているかを確認すること、第二に下に尊敬語が続くかどうかで使役・尊敬を判別すること、第三に下に尊敬語があっても使役+尊敬の重ね使いの可能性を文脈で見極めることです。

「す」「さす」「しむ」の使い分けは動詞の活用の種類を見分ける力と直結しているため、動詞の活用の学習と合わせて取り組むと効率的です。「せ給ふ」「させ給ふ」は最高敬語の典型形として頻出するので、形ごと丸暗記しておくと入試本番でも安定して対応できます。古文の敬語表現を読み解く土台となる助動詞なので、例文を音読しながら、形と意味の対応を体に染み込ませていきましょう。

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