十訓抄『安養の尼』定期テスト対策問題

定期テスト対策

安養の尼の定期テスト対策問題です。本文を読み、設問に答えてみましょう。問題用紙で解きたい人は下のPDFをどうぞ。解答は記事末尾で確認できます。

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本文

横川(よかわ)の恵心僧都(ゑしんそうづ)の妹、安養の尼のもとに強盗入りて、あるほどの物、みな取りて出でにければ〔①〕、尼上は紙衾(かみぶすま)といふものばかりを引き着て居(ゐ)られたる〔②〕に、姉なる尼のもとに、小尼公(こあまぎみ)とてありけるが、走り参りて見ければ、小袖を一つ落としたりけるを取りて、「これ落として侍(はべ)るなり〔③〕。奉れ〔④〕」とて、持て来たりければ、尼上のいはれける〔⑤〕は、

「これを取りて後(のち)は、わが物とこそ思ひつらめ〔⑥〕。主(ぬし)の心ゆかぬものをば、いかが着るべき〔⑦〕。なほ持ておはしまして〔⑧〕、取らせ給(たま)へ〔⑨〕」

とありければ、門の方へ走り出でて、「やや」と呼び返して、「これを落とし給ひぬ。たしかに奉らん〔⑩〕」と言ひければ、盗人ども立ち止まりて、しばし案じたる気色(けしき)にて〔⑪〕、「悪(あ)しく参りにけり〔⑫〕」とて、取りたりける物どもを、さながら〔⑬〕返し置きて帰りにけり〔⑭〕。

設問

1. 現代語訳

1. 傍線部①「あるほどの物、みな取りて出でにければ」を現代語訳しなさい。

2. 傍線部⑥「わが物とこそ思ひつらめ」を、主語を補って現代語訳しなさい。

3. 傍線部⑦「主の心ゆかぬものをば、いかが着るべき」を現代語訳しなさい。

2. 文法・敬語

4. 傍線部②「居られたる」の「られ」は何の助動詞か。文法的意味(種類)を答えなさい。

5. 傍線部④「奉れ」、傍線部⑨「取らせ給へ」の敬語について、それぞれ敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)を答えなさい。

6. 傍線部⑧「持ておはしまして」の「おはします」は、ここではどのような敬語(種類)か答えなさい。

7. 傍線部⑥「わが物とこそ思ひつらめ」について、文末が「らめ」と已然形になっているのはなぜか。文法的に説明しなさい。

8. 傍線部③「侍るなり」の「侍る」の敬語の種類を答えなさい。

3. 語句

9. 傍線部⑬「さながら」の、ここでの意味を答えなさい。

10. 傍線部⑪「案じ(案ず)」、傍線部⑪「気色」の、ここでの意味をそれぞれ答えなさい。

11. 傍線部⑫「悪しく参りにけり」を、盗人の心情がわかるように現代語訳しなさい。

4. 内容理解

12. 傍線部⑦「主の心ゆかぬものをば、いかが着るべき」とあるが、ここで尼上が言う「主」とは誰のことか。本文に即して答えなさい。また、この言葉から読み取れる尼上の人柄を説明しなさい。

13. 傍線部⑩・⑭の流れについて、盗人たちが盗んだ物を「さながら返し置きて帰りにけり」となったのはなぜか。盗人の心の動きをふまえて説明しなさい。

5. 文学史

14. この話が収められている『十訓抄』の成立した時代(区分)と、作品のジャンル(種類)を答えなさい。また、この安養の尼の説話とほぼ同じ内容の類話が収められている、鎌倉時代の代表的な説話集の名を一つ答えなさい。

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解答・解説

1. 現代語訳

1. 家にある程度(ありったけ)の物を、すべて取って(盗んで)出て行ってしまったので。 「あるほどの物」は「ある限りの物・家財一切」。「みな取りて」で根こそぎ奪ったことを表す。「出でにければ」は「出で(連用形)+に(完了「ぬ」の連用形)+けれ(過去「けり」の已然形)+ば」で「出て行ってしまったので」。

2. (盗人は)自分の物だときっと思っているだろう。 主語は「盗人」。「こそ……らめ」は係り結びで、「らめ」は現在推量の助動詞「らむ」の已然形。「つ」(完了・強意)+「らむ」で「きっと~ているだろう」と強く推量する。盗人がすでに我が物と思い込んでいるはずだ、という意味。

3. 持ち主が納得していない物を、どうして着ることができようか(いや、着られない)。 「心ゆかぬ」は「心ゆく」(満足する・納得する)の打消で「納得していない」。「いかが……べき」は反語で「どうして~できようか、いや、できない」。盗まれて持ち主(盗人)の気が済んでいない物を身につけるわけにはいかない、という無欲・潔白な心を表す。

2. 文法・敬語

4. 尊敬の助動詞「らる」(の連用形)。 「居(ゐ)る」+「られ」で「(尼上が)座っていらっしゃる」。語り手から尼上への敬意を表す尊敬。受身・可能・自発ではない点に注意。

5. ④「奉れ」=謙譲語。⑨「取らせ給へ」=尊敬語。 ④「奉る」は「与ふ・差し上ぐ」の謙譲語で、小尼公が尼上に「差し上げてください(=持ち主に返しなさい)」と勧める形。⑨「給ふ」は尊敬の補助動詞で、尼上への敬意。「取らす」は「与える・くれてやる」の意。

6. 尊敬語(「行く・来」の尊敬で「いらっしゃる」)。 「おはします」は「あり・行く・来」の尊敬語。「持ておはします」で「(その小袖を)持っていらっしゃって」。尼上が小尼公に対して敬意をこめて言っている形。

7. 直前に係助詞「こそ」があり、係り結びの法則によって結びの語が已然形になるため。 「こそ」は文末を已然形で結ぶ。よって推量の「らむ」が已然形「らめ」となっている。

8. 丁寧語。 「侍り」は「あり・をり」の丁寧語で「~ございます・~です」。「これ落として侍るなり」で「これを落としてございます(落とされたのです)」と、小尼公が丁寧に述べている。

3. 語句

9. そっくりそのまま全部。すべて。 「さながら」は「そのまま・残らず全部」の意。ここでは盗んだ物を「すべてそっくり元どおりに」返し置いたことを表す。現代語の「さながら(まるで~のようだ)」とは意味が異なる点に注意。

10. 「案じ(案ず)」=あれこれ思案する・考え込む。「気色」=(外に表れた)ようす・様子。 「しばし案じたる気色にて」で「しばらく考え込んでいるようすで」。盗人たちが尼上の言葉に心を動かされ、思案している場面。

11. (盗みに入ったのは)悪いことをしてしまった(まちがった所へ参上してしまった)なあ。 「悪しく」は形容詞「悪し」の連用形で「悪く・よくなく」。「参りにけり」は「参る」(参上する=盗みに入ったことを自らへりくだって言う)+完了「に」+詠嘆の「けり」。盗人が自らの行いを恥じ、後悔する気持ちが表れている。

4. 内容理解

12. 「主」は、その小袖を盗んで持ち去った盗人を指す。物を盗まれてもなお、盗人を物の持ち主として尊重し、相手が納得していない物は身につけまいとする、無欲で慈悲深い(潔白な)人柄が読み取れる。 盗んだ品でも「いったん盗人の物になった以上、盗人の気持ちが収まっていないものを着るわけにはいかない」と考えるところに、欲を離れた清らかな心と、相手への思いやりが示されている。

13. 落とした小袖まで律儀に返そうとする尼上の無欲で潔白な態度に、盗人たちが心を打たれて深く反省したから。 尼上の言葉を聞いた盗人たちは「しばし案じたる気色」で考え込み、「悪しく参りにけり」と自らの行いを恥じ、奪った物を残らず元へ返して帰った。尼上の高潔な心が盗人を改心させた、という説話の主題(仏教的な徳・教訓)を示す結末である。

5. 文学史

14. 『十訓抄』は鎌倉時代に成立した説話集(教訓説話集)。類話を収める説話集は『古今著聞集』。 『十訓抄』は建長四年(一二五二年)成立で、年少者の教訓のために十か条にわたって説話を集めた教訓説話集。同じ安養の尼(恵心僧都=源信の妹)の話は、同じく鎌倉時代の説話集『古今著聞集』にも類話として収められている。

📚 あわせて使う

📖 先に理屈を固めたい人へ:『安養の尼』やさしい解説

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