丁寧語は、話し手が聞き手に対して、また書き手が読み手に対して敬意を表す敬語です。動作や物事そのものを高めるのではなく、述べる相手(聞き手・読み手)を直接高めるのが特徴です。代表的な語は「侍(はべ)り」「候(さぶら)ふ・候(さうら)ふ」で、本動詞としては「あり・をり」の丁寧(あります・おります・ございます)、補助動詞としては「〜です・〜ます」の意を添えます。ここで注意したいのは、「侍り・候ふ」には丁寧語のほかに謙譲語(貴人のおそばに「お控え申し上げる・お仕えする」、また「あり・をり」をへりくだって言う)の用法もあり、その識別が試験で頻出することです。話し手から聞き手への敬意か、動作の及ぶ相手への敬意かを手がかりに見分けます。次の各例文を読み、後の問いに答えよ。
本文
※例文は学習用に作成しています。
① これは唐土より渡り侍りし琴に侍り。
② 「客人はいづくにかおはします」「西の対にこそ候へ」
③ 帝の御前に夜昼候ひて、片時も離れ奉らず。
④ 「御文を確かに賜り候ひぬ」と使ひの申し侍り。
⑤ かかる山里にも、をかしき花は咲き侍りけり。
⑥ 「殿はただ今出でさせ給ひて、こなたには候はず」と申す。
⑦ 翁、竹を取ること久しくなり侍りぬ。
⑧ 「御供に候ひし者どもは、皆まかり帰り候ひぬ」と奏す。
⑨ この事、ゆめゆめ人に語り給ふな、と申し候ふ。
⑩ 雪のいと高う降りたる朝、火桶など持て参り侍りき。
⑪ 「われも年ごろ御前に候ひつれど、かかる事は知り侍らず」と言ふ。
⑫ 「いとうれしき仰せに侍り。必ず参り候はむ」と返事す。
⑬ 大臣、内裏に候ひ給ひて、夜更くるまで政(まつりごと)を定め給ふ。
⑭ 「この笛は亡き父の持たれ侍りし物にて候ふ」と泣く泣く語る。
⑮ 「明日は雨も降り侍りぬべし。御出では延べさせ給へ」と申し上ぐ。
⑯ 山深く住み侍れば、訪ふ人もまれにこそ侍れ。
設問
- 傍線①「渡り侍りし」「琴に侍り」の二つの「侍り」は、それぞれ丁寧語・謙譲語のいずれか。また本動詞・補助動詞の別も答えよ。
- 傍線②「西の対にこそ候へ」の「候へ」は丁寧語か謙譲語か。理由とともに答えよ。
- この「候へ」を現代語訳せよ。
- 傍線③「御前に夜昼候ひて」の「候ひ」は丁寧語か謙譲語か。
- そう判断できる根拠を、敬意の方向にふれて述べよ。
- 傍線④「賜り候ひぬ」の「候ひ」は本動詞か補助動詞か。また丁寧語か謙譲語かも答えよ。
- 傍線⑤「咲き侍りけり」の「侍り」は本動詞か補助動詞か。現代語訳も示せ。
- 傍線⑥「こなたには候はず」の「候は」は丁寧語・謙譲語のいずれか。本動詞・補助動詞の別も答えよ。
- 傍線⑦「久しくなり侍りぬ」の「侍り」を現代語訳せよ(「〜ます」の形で)。
- 傍線⑧「まかり帰り候ひぬ」の「候ひ」は丁寧語か謙譲語か。本動詞・補助動詞の別も答えよ。
- 傍線⑨「申し候ふ」の「候ふ」は誰の誰に対する敬意か。話し手・聞き手の関係をふまえて答えよ。
- 傍線⑩「持て参り侍りき」の「侍り」は丁寧語か謙譲語か。本動詞・補助動詞の別も答えよ。
- 傍線⑪の「御前に候ひつれ」と「知り侍らず」について、それぞれ丁寧語・謙譲語のいずれかを判別せよ。
- 「候ひ」と「侍ら」で用法が異なる理由を簡潔に述べよ。
- 傍線⑫「仰せに侍り」「参り候はむ」の二つの語は、それぞれ本動詞か補助動詞か。
- 傍線⑬「内裏に候ひ給ひて」の「候ひ」は丁寧語か謙譲語か。「給ひ」が付いていることも手がかりに説明せよ。
- 傍線⑭「持たれ侍りし」「物にて候ふ」の二つの語の、丁寧語・謙譲語の別と、本動詞・補助動詞の別を答えよ。
- 傍線⑮「降り侍りぬべし」の「侍り」は丁寧語か謙譲語か。誰への敬意かも答えよ。
- 傍線⑯「住み侍れば」「まれにこそ侍れ」の二つの「侍り」について、本動詞・補助動詞の別をそれぞれ答えよ。
- 「まれにこそ侍れ」を現代語訳せよ。
- 本文中の「侍り」「候ふ」のうち、現代語の「ございます」に当たる本動詞の丁寧語の例を、番号で二つ挙げよ。
- 本文中の会話文・手紙文では、なぜ丁寧語が多く用いられているのか。聞き手・読み手との関係にふれて説明せよ。
- 「侍り・候ふ」が丁寧語か謙譲語かを見分けるための着眼点を、二点に整理して記述せよ。
- 次のうち、補助動詞の「侍り・候ふ」をすべて選び、番号で答えよ。
- (あ) 咲き侍り (い) 琴に侍り (う) 御前に候ひ (え) なり侍り (お) 西の対に候へ
- 傍線②と傍線③では、ともに「候ふ」が用いられているが用法が異なる。両者の違いを、敬意の対象の観点から説明せよ。
▼ 解答・解説を見る
問1 「渡り侍りし」=丁寧語・補助動詞(「渡って参りました/渡ってきました」と聞き手を高める)。「琴に侍り」=丁寧語・本動詞(「〜である/〜でございます」、断定の「に」+「あり」の丁寧)。いずれも語り手から聞き手への敬意。
問2 丁寧語。問いに答えて聞き手に「(西の対に)おります・ございます」と述べているもので、「あり・をり」の丁寧の本動詞。現代語訳は「西の対におります(ございます)」。係助詞「こそ」の結びで已然形「候へ」。
問3 謙譲語。「帝の御前に夜昼候ひて」は、帝のおそばに「お控え申し上げて・お仕えして」の意で、動作の及ぶ相手(帝)を高める。敬意の方向が聞き手ではなく、動作の対象である帝へ向かう点が丁寧語との違い。
問4 補助動詞。「賜り(受け取り)」に付いて「〜ました」の意を添える。丁寧語で、手紙文として読み手(差出先)を高める。
問5 補助動詞。「咲き」に付く「〜ました/〜ですよ」の丁寧。現代語訳は「咲いておりました(咲いたのでございました)」。
問6 丁寧語・本動詞。「こちらにはおりません・ございません」の意で、「をり・あり」の丁寧の本動詞。聞き手(来訪者)への敬意。
問7 「(久しく)なりました」。「なり」に付く補助動詞の丁寧。
問8 丁寧語・補助動詞。動詞の連用形「まかり帰り」の下に付いて「〜ました・〜ております」の意を添えている(「まかり帰り」自体が謙譲語)。「奏す」=帝への言上の場面なので、聞き手である帝への敬意を表す。
(※帝に対してへりくだる謙譲(丁重)の用法と説明する説もある。)
問9 話し手(言いつける人)から聞き手(言いつけられる相手)への敬意。「申し候ふ」の「候ふ」は丁寧の補助動詞で、聞き手を高めて「申します」と述べている。
問10 丁寧語・補助動詞。「持て参り」に付く「〜ました」の丁寧で、語り手から聞き手への敬意。
問11 「御前に候ひつれ」=謙譲語(御前にお控え申し上げる・お仕えする)。「知り侍らず」=丁寧語(存じません・知りません、と聞き手を高める)。理由:前者は動作の及ぶ相手(御前=貴人)を高め、後者は述べる相手(聞き手)を高めるため、同じ話者の同じ発話でも用法が分かれる。
問12 「仰せに侍り」=本動詞(断定「に」+「侍り」で「〜でございます」)。「参り候はむ」=補助動詞(「参り」に付く「〜ましょう」の丁寧)。
問13 謙譲語。「内裏に候ひ給ひて」は大臣が内裏(帝のおそば)に「お仕え申し上げなさって」の意。さらに尊敬の「給ひ」が付いており、語り手は大臣に敬意を払いつつ、大臣の動作の対象(帝のいます内裏)への謙譲として「候ふ」を用いている。丁寧の補助動詞なら直前は連用形の動詞となるが、ここは「内裏に」という場所+「候ふ」で「お控えする」意の本動詞的用法である点も手がかり。
問14 「持たれ侍りし」=丁寧語・補助動詞(「お持ちでいらっしゃいました」、尊敬「れ」+丁寧「侍り」)。「物にて候ふ」=丁寧語・本動詞(断定「にて」+「候ふ」で「〜でございます」)。いずれも語り手から聞き手への敬意。
問15 丁寧語。「降りますにちがいない」と聞き手(進言する相手=貴人)に述べる丁寧の補助動詞。敬意は聞き手へ。
問16 「住み侍れば」=補助動詞(「住み」に付く「〜ております」)。「まれにこそ侍れ」=本動詞(「あり」の丁寧、「ございます・おります」)。現代語訳は「(訪ねる人も)めったにございません」。
問17 「ございます」に当たる本動詞の丁寧の例は、①「琴に侍り」、⑫「仰せに侍り」、⑭「物にて候ふ」、②「西の対に候へ」、⑥「候はず」、⑯「まれにこそ侍れ」などのうち二つを挙げればよい(例:①と⑯)。
問18 会話文は話し手が目の前の聞き手に、手紙文は書き手が読み手に向けて述べるため、その相手に直接敬意を表す丁寧語がふさわしいから。相手を高めることで、ていねいでへりくだった物言いになる。
問19 ①敬意の方向で見る…述べる相手(聞き手・読み手)を高めていれば丁寧語、動作の及ぶ相手(貴人)を高めていれば謙譲語。②文脈・直前の語で見る…動詞の連用形に付いて「〜です・ます」を添えていれば丁寧の補助動詞、「あり・をり」の意で単独なら丁寧の本動詞、「御前に・おそばに」など貴人のもとに「お控え・お仕えする」意なら謙譲。
問20 補助動詞は (あ) 咲き侍り、(う) 御前に候ひ、(え) なり侍り。
※(い) 琴に侍り と (お) 西の対に候へ は本動詞(断定・存在の「あり」の丁寧)。なお(う)は補助動詞的に動詞「候ひ」が用いられているが、本問では「御前に候ひ=お控えする」を謙譲の本動詞と見る立場もあり、設問⑪・③の文脈では謙譲。ここでは語形の上で動詞連用形に続く形を補助動詞として選ばせる趣旨。最も確実な補助動詞は (あ)(え) の二つである。
問21 傍線②は聞き手に「(西の対に)おります」と述べる丁寧語で、敬意は聞き手へ向かう。傍線③は帝の御前に「お仕えする」謙譲語で、敬意は動作の及ぶ相手(帝)へ向かう。同じ「候ふ」でも、高める対象が聞き手か貴人かで丁寧・謙譲が分かれる。
※この問題は誰でも古典塾オリジナルです。
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