源氏物語『葵(車争ひ)』定期テスト対策問題|現代語訳・敬語・心情の頻出設問と解答

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賀茂祭(葵祭)の御禊(ごけい)見物で、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)の車と光源氏の正妻・葵の上の車が場所をめぐって争う「車争ひ」の場面は、高校の定期テストで非常によく出題されます。とくに敬語・助動詞の識別、御息所が受けた屈辱とその心情(のちの「物の怪」の伏線)が問われやすいところです。まずは本文を読んで設問に答え、最後の解答で確認しましょう。場面の流れがあいまいな人は、先に源氏物語『葵(車争ひ)』のやさしい解説に目を通しておくと理解が深まります。

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本文

 大殿(おほとの)には、かやうの御歩(あり)きもをさをさし給は〔①〕ぬに、御心地(ここち)さへ悩ましければ、思しかけざり〔②〕けるを、若き人々、「いでや、一人々々(ひとりひとり)して見給は〔③〕むこそ、はえなからめ」など言ひて、出で立ち給ふ

 日たけゆきて、儀式もわざとならぬさまにて出で給へり。隙(ひま)もなう立ちわたりたるに、よき女房車(にようばうぐるま)多くて、雑々(ざふざふ)の人なき隙を思ひ定めて、皆さし退(の)けさする中に、網代(あじろ)のすこしなれたるが、下簾(したすだれ)のさまなどよしばめるに、いたう引き入りて、ほのかなる袖口・裳(も)の裾・汗衫(かざみ)など、物の色いと清らにて、ことさらにやつれたるけはひしるく見ゆる車、二つあり。

 「これは、さらに、さやうにさし退け〔④〕などすべき御車にもあらず」と、口強(くちこは)くて、手触れさせず。

 ……つひに御車ども立て続けつれば、副車(ひとだまひ)の奥に押しやられて、物も見えず〔⑤〕。

 心やましきをばさるものにて、かかるやつれをそれと知られぬるが、いみじうねたきこと、限りなし〔⑥〕。

設問

  1. 傍線部①・③の「給は」、および「出で立ち給ふ」の「給ふ」は、それぞれ誰から誰への敬意を表す敬語か。種類(尊敬・謙譲・丁寧)も答えなさい。
  2. 傍線部②「ざり」は、文法的に何の何形か。終止形(基本形)も答えなさい。
  3. 若き人々の言葉「いでや、一人々々して見給はむこそ、はえなからめ」を、内容がよく分かるように現代語訳しなさい。
  4. 「立ちわたりたるに」「立て続けつれば」の二つの「立て(立ち)」のうち、完了の助動詞「つ」が用いられているのはどちらか。指摘し、その活用形も答えなさい。
  5. 「ことさらにやつれたるけはひしるく見ゆる車、二つあり」とあるが、この車に乗っていたのは誰か。なぜ「やつれ(目立たぬよう質素にする)」た様子で来ていたのかも含めて答えなさい。
  6. 「これは、さらに、さやうにさし退けなどすべき御車にもあらず」を、誰の言葉かを意識して現代語訳しなさい。
  7. 「これは、さらに……御車にもあらず」と強気に言い張っているのは、どちら側の人々か。本文の語「口強くて」を手がかりに答えなさい。
  8. 傍線部④「さし退け」の「さし」の意味・はたらきとして最も適当なものを、次から一つ選びなさい。
     ア 「指し示す」という意味の動詞 イ 軽く・ちょっと、の意を添える接頭語 ウ 使役の助動詞 エ 「差し上げる」という謙譲の意
  9. 「副車」「汗衫」「下簾」の読みを、それぞれ現代かなづかいで答えなさい。
  10. 傍線部⑤「副車の奥に押しやられて、物も見えず」を、主語を補って現代語訳しなさい。
  11. 傍線部⑤「押しやられて」の「られ」は、文法的に何の何形か。意味(受身・尊敬・自発・可能)も答えなさい。
  12. 御息所が「心やましきをばさるものにて」と述べていることから、御息所にとって「行列が見えないこと」と「正体を知られたこと」のどちらがより深い痛手だったと読み取れるか。理由とともに説明しなさい。
  13. 傍線部⑥「心やましきをばさるものにて、かかるやつれをそれと知られぬるが、いみじうねたきこと、限りなし」を現代語訳しなさい。
  14. 傍線部⑥について、六条御息所はどのような点を「いみじうねたきこと」と感じているのか。屈辱の内容を本文に即して説明しなさい。
  15. 本文冒頭「大殿には、かやうの御歩きもをさをさし給はぬに」を現代語訳しなさい。(「をさをさ……ぬ」の意味に注意)
  16. 「皆さし退けさする」の「さする」は、文法的に何の何形か。意味も答えなさい。
  17. 「見給はむこそ、はえなからめ」の「む」「め」について、それぞれ何の助動詞か、また係り結びの関係を説明しなさい。
  18. 葵の上が、ふだんはあまりしないこのような見物に出かけることになった、直接のきっかけ(理由)を本文に即して二つ挙げなさい。
  19. この場面で受けた屈辱は、のちの物語でどのような出来事につながっていくか。葵の上と六条御息所の関係をふまえ、簡潔に説明しなさい。
  20. 次の語の本文中での意味を答えなさい。
     (1)をさをさ(し給はぬ) (2)よしばめる (3)ねたき (4)やつれ
  21. 【文学史】『源氏物語』について、次の問いに答えなさい。
     (1)作者名を漢字で答えなさい。
     (2)成立した時代を、次から一つ選びなさい。 ア 奈良時代 イ 平安時代 ウ 鎌倉時代 エ 室町時代
     (3)『源氏物語』は、伝説や空想をもとにした「(  )物語」と、和歌を中心に説明を加えた「歌物語」とに大きく分けられる物語文学のうち、前者の系譜を大成した作品である。空欄に入る語を答えなさい。
  22. 【文学史】『源氏物語』の主人公「光源氏」の正妻で、この「車争ひ」の当事者となり、のちに物の怪に苦しめられて世を去る女性は誰か。その名を答えなさい。
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問1 いずれも葵の上(およびその一行)に対する敬意で、種類は尊敬語。①③の「給は」、および「出で立ち給ふ」の「給ふ」は、四段活用の補助動詞「給ふ」で、動作の主体である葵の上を高めている。誰からの敬意かというと、作者(語り手)からの敬意である。

問2 打消の助動詞「ず」の連用形。終止形(基本形)は「ず」。「思しかけざりけるを」で、「ざり」が下の「けり」に連なるため連用形になっている(「ず」の連用形には「ず」と「ざり」があり、助動詞に続くときは「ざり」を用いる)。

問3 「さあ(まあ)、(奥さまが)お一人だけでご見物なさるようなのは、はえ(見ばえ・引き立つところ)がなく物足りないでしょう」(だからご一緒に出かけましょう)、などと言って。
※「はえなからめ」=「見ばえがしないだろう・引き立たないだろう」。若い女房たちが葵の上に見物を勧める言葉。

問4 完了の助動詞「つ」が用いられているのは「立て続けつれば」のほう。「つれ」は完了の助動詞「つ」の已然形で、下の「ば」と合わさって確定条件(〜したので)を表す。なお「立ちわたりたる」の「たる」は存続の助動詞「たり」。

問5 乗っていたのは六条御息所(とその一行)。御息所は、源氏との関係に思い悩む心を慰めようと御禊の行列(と源氏の晴れ姿)をひそかに見に来ていた。正妻ではない立場ゆえ、人に気づかれぬよう車の装いをわざと地味にし、「お忍び」で来ていたのである。

問6 「この車は、まったく、そのように(むやみに)わきへ押しのけたりなどしてよいようなお車ではない」(と言って手を触れさせない)。
※御息所方の供人の言葉。自分たちの主の車を軽んじられまいとして強気に言い張っている場面。

問7 御息所側の人々(供人)。「口強くて、手触れさせず」とあるとおり、自分たちの主の車を押しのけられまいとして強気に言い張り、相手に手を触れさせなかった。
※もっとも、結果的には酔った葵の上方の供人たちに押し切られてしまう。

問8 。「さし退(の)く」の「さし」は、動詞の上に付いて語調を整え、「ちょっと・さっと」といった意を添える接頭語。ここでは「(車を)わきへ押しのける」の意。使役や謙譲の意味はない。

問9 副車=ひとだまひ 汗衫=かざみ 下簾=したすだれ
※「副車(ひとだまひ)」は主人の車に従う供の車、「汗衫」は子どもや女房が着た上着、「下簾」は牛車の前後の簾の内側に垂らした布。

問10 (御息所の車は、葵の上方の車に)とうとう(葵の上の)お車を立て並べられてしまったので、お供の女房の車の後ろに押しやられて、何も見えない(状態になってしまった)。
※「副車(ひとだまひ)」は主人の車に付き従う供の者の車。御息所の車が後ろへ追いやられ、行列が見えなくなったことを押さえる。

問11 受身の助動詞「らる」の連用形「られ」で、意味は受身。「(葵の上方に車を)押しやられて」と、御息所の車が押しのけられる側になっていることを表す。

問12 「正体を知られたこと」のほうが、より深い痛手であったと読み取れる。「心やましきをばさるものにて(=不愉快なのはそれとして)」と、場所を奪われて見えないことは「仕方のないこと」として一段低く置き、続けて「かかるやつれをそれと知られぬるが、いみじうねたき」と、お忍びの姿を見抜かれた屈辱のほうを「この上なくくやしい」と強調しているからである。身分ある女性としての誇りが傷つけられた点が、御息所にとって最もこたえたのである。

問13 (場所を奪われて)不愉快なのはまあそれとして(仕方ないとしても)、こんなふうにお忍びで質素にしているのを「御息所だ」と相手に見抜かれてしまったのが、この上なくくやしいことであるよ。
※「さるものにて」=「それはそれとして・言うまでもなく」。見えないこと以上に、正体を知られた屈辱を深く恨んでいる。

問14 御息所は、(一)見物の場所を奪われ、車を後ろへ押しのけられて行列が見えなくなったという無念さに加え、(二)人目を忍んで質素な姿(やつれ)で来ていたのに、その姿が葵の上方の供人に「御息所だ」と気づかれ、正体を見抜かれたうえで軽んじられたことを、この上なくくやしく(ねたく)感じている。身分ある女性としての誇りを傷つけられた点が屈辱の中心である。

問15 大殿(葵の上)は、このような外出(お出かけ)もめったになさらないのに……。
※「をさをさ……ぬ(打消)」で「めったに〜ない・ほとんど〜ない」の意。「御歩き」は外出・お出ましのこと。

問16 使役の助動詞「さす」の連体形「さする」で、意味は使役。「皆さし退けさする」で、(葵の上方が供人に命じて)他の車をみな押しのけさせる、の意。

問17 「む」は推量(婉曲)の助動詞「む」の連体形、「め」は同じ「む」の已然形。係助詞「こそ」を受けて、結びの「め」が已然形になっている(係り結び。「こそ……め(已然形)」)。「見給はむこそ、はえなからめ」で、「ご見物なさるようなのは、見ばえがしないだろう」の意。

問18 (一)葵の上自身は体調がすぐれず気が進まなかったが、(二)若い女房たちが「奥さまお一人だけのご見物では見ばえがしない」と勧めたこと。この女房たちの誘いがきっかけで、ふだんはしない見物に出かけることになった。

問19 車争ひで深い屈辱を受けた六条御息所は、葵の上への恨み(嫉妬)をつのらせる。やがてその思いが本人も知らぬうちに生霊(いきりょう)=物の怪となって葵の上に取りつき、出産後の葵の上を死に至らしめることになる。つまりこの「車争ひ」は、のちの物の怪出現(葵の上の死)の伏線となる重要な場面である。
※二人は、光源氏をめぐる「正妻(葵の上)」と「年上の恋人(御息所)」という関係にある。

問20 (1)めったに(〜ない)・ほとんど(〜ない) (2)趣がある・風情があるように見える(「よし(良し・由)」めく=上品で奥ゆかしい感じがする) (3)くやしい・しゃくにさわる・ねたましい (4)(目立たぬよう)わざと地味にした姿・やつした姿・お忍びの姿

問21【文学史】 (1)紫式部 (2)イ 平安時代(十一世紀初め頃の成立) (3)作り(つくり)物語。『源氏物語』は『竹取物語』などに始まる「作り物語」の系譜を受け継ぎ、「歌物語」(『伊勢物語』など)の要素も取り込んで大成した、わが国を代表する長編物語である。

問22【文学史】 葵の上(あおいのうえ)。光源氏の最初の正妻で、左大臣家の娘。この「車争ひ」で六条御息所と場所を争い、のちに御息所の生霊(物の怪)に苦しめられ、夕霧を出産した直後に亡くなる。

※この問題はオリジナル作成です(教科書・市販問題集の転載ではありません)。本文は古典原文(著作権の対象外)を用いています。

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