三大集とは、奈良〜鎌倉時代に編まれた三つの代表的な和歌集をいう。『万葉集』は現存最古の歌集で、素朴で力強い歌風をますらをぶり(益荒男振り)と呼ぶ。平安時代の『古今和歌集』は、掛詞・縁語などの技巧を凝らした優美・繊細な歌風で、これをたをやめぶり(手弱女振り)という。鎌倉時代の『新古今和歌集』は、本歌取りや体言止めを駆使し、言葉の奥に深い余情を漂わせる幽玄の美を理想とした。次の和歌を読み、後の問いに答えよ。
本文
① 田子の浦ゆ うち出でて見れば 真白にぞ 富士の高嶺に 雪は降りける(山部赤人『万葉集』)
② 銀も 金も玉も 何せむに まされる宝 子にしかめやも(山上憶良『万葉集』)
③ 東の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月かたぶきぬ(柿本人麻呂『万葉集』)
④ ひさかたの 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ(紀友則『古今和歌集』)
⑤ 人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香に匂ひける(紀貫之『古今和歌集』)
⑥ 思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば 覚めざらましを(小野小町『古今和歌集』)
⑦ 見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦の苫屋の 秋の夕暮れ(藤原定家『新古今和歌集』)
⑧ 心なき 身にもあはれは 知られけり 鴫立つ沢の 秋の夕暮れ(西行法師『新古今和歌集』)
⑨ 春の夜の 夢の浮橋 とだえして 峰にわかるる 横雲の空(藤原定家『新古今和歌集』)
設問
- 和歌①について、次の各問いに答えよ。
- (1) この歌全体を現代語訳せよ。
- (2) この歌は後に『新古今和歌集』や『百人一首』では「田子の浦に うち出でて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ」の形で知られる。『万葉集』の本文(傍線部を含む本問の本文)と比べて、結句が「降りける」「降りつつ」のどちらになっているかを、それぞれ答えよ。
- 和歌②「銀も 金も玉も 何せむに まされる宝 子にしかめやも」を現代語訳せよ。
- 和歌②の作者「山上憶良」が詠んだ、貧しさを主題とする『万葉集』の代表的な長歌の名を答えよ。
- 和歌③「東の 野にかぎろひの 立つ見えて」の「かぎろひ」とは何か。簡潔に説明せよ。
- 和歌④「ひさかたの」は、ある語を導く枕詞である。次の各問いに答えよ。
- (1) 「ひさかたの」が導く語を、本歌中から抜き出せ。
- (2) 枕詞とはどのような表現技法か、簡潔に説明せよ。
- 和歌④「しづ心なく 花の散るらむ」を、「らむ」の意味に注意して現代語訳せよ。
- 和歌⑤「花ぞ昔の 香に匂ひける」には係り結びが用いられている。係りの助詞と、それを受けて結びとなっている語(活用形を含む)を答えよ。
- 和歌⑤「人はいさ 心も知らず」を現代語訳せよ。
- 和歌⑥「思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ」の作者は、六歌仙・三十六歌仙にも数えられる平安前期の女流歌人である。その作者名を答えよ。
- 和歌⑥「夢と知りせば 覚めざらましを」には、「せば…まし」の形の反実仮想が用いられている。この部分を現代語訳せよ。
- 和歌⑦「見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦の苫屋の 秋の夕暮れ」の末尾は、ある修辞で結ばれている。次の各問いに答えよ。
- (1) 体言(名詞)で言い止めて余情を残すこの修辞を何というか、漢字で答えよ。
- (2) この歌のように、結句が「秋の夕暮れ」で結ばれた西行・寂蓮・定家の三首は、まとめて何と呼ばれるか。漢字三字で答えよ。
- 和歌⑧「心なき 身にもあはれは 知られけり」を現代語訳せよ。
- 和歌⑧「鴫立つ沢の 秋の夕暮れ」の句切れを答えよ(初句切れ・二句切れ・三句切れ・四句切れ・句切れなしのいずれか)。また、なぜそう判断できるかを簡潔に記せ。
- 和歌⑨「春の夜の 夢の浮橋 とだえして」の「夢の浮橋」は、ある古典作品の最終巻の巻名を踏まえているとされる。その作品名を答えよ。
- 和歌①〜③は、いずれも同じ歌集に収められている。その歌集の名を漢字で答えよ。
- 和歌④〜⑥が収められている歌集の名を漢字で答えよ。また、この歌集の二人の代表的な編者(撰者)の名を一人挙げよ。
- 和歌⑦〜⑨が収められている歌集の名を漢字で答えよ。
- 『万葉集』の素朴で力強い歌風を表す語を、次から選べ。
- ア たをやめぶり イ ますらをぶり ウ 幽玄
- 『古今和歌集』の優美・繊細で技巧的な歌風を表す語を、漢字仮名交じりで答えよ。
- 『新古今和歌集』が理想とした、言葉の奥に深い余情を感じさせる美的理念を表す語を、次から選べ。
- ア ますらをぶり イ をかし ウ 幽玄
- 『新古今和歌集』に多く用いられた、有名な古歌の語句を取り入れて新たな余情を生み出す表現技法を何というか、漢字で答えよ。
- 次のア〜ウの説明に当てはまる歌集を、それぞれ『万葉集』『古今和歌集』『新古今和歌集』から選んで答えよ。
- ア 現存する最古の和歌集で、天皇から庶民まで幅広い人々の歌を収め、力強く素朴な歌風をもつ。
- イ 紀貫之らが編んだ最初の勅撰和歌集で、仮名序をもち、技巧的で優美な歌風をもつ。
- ウ 後鳥羽院の命で藤原定家らが編んだ勅撰和歌集で、本歌取りや体言止めを駆使し、幽玄・余情を理想とする。
- 三大集を成立した時代の古い順(成立年代順)に並べ替え、歌集名で答えよ。
- 『古今和歌集』の冒頭に置かれた、紀貫之による有名な仮名の序文を何というか、答えよ。
▼ 解答・解説を見る
問1 (1) 訳例=「田子の浦を通って、(眺めの開けた所へ)出て見ると、真っ白に、富士の高い峰に雪が降っていることだなあ。」 (2) 本問の本文(『万葉集』の形)は「降りける」、『新古今』『百人一首』の形は「降りつつ」。(『万葉集』は今まさに降り積もった結果を「降りける」と詠嘆し、後世の形は降り続く様子を「降りつつ」と詠む。)
問2 訳例=「銀も金も宝石も、何になろうか(いや、何にもならない)。(それらに)まさる宝が、子に及ぼうか、いや及びはしない(=子にまさる宝はない)。」(「何せむに」=どうしようか・何になろうか。「しかめやも」=及ぼうか、いや及ばない、の反語。)
問3 「貧窮問答歌」(ひんきゅうもんどうか)。山上憶良が貧者と窮者の問答の形で当時の庶民の苦しい生活を詠んだ長歌。
問4 「かぎろひ」とは、明け方に東の空にさす光(曙光・あけぼのの光)のこと。ここでは夜明けの光が立ちのぼるさまをいう。
問5 (1) 「光」(「ひさかたの」は「光」を導く枕詞。広く「天・空・日・月・光」などにかかる)。 (2) 枕詞とは、特定の語の上に置いて語調を整え、ある一定の語を導き出す、ふつう五音(多くは五音)の修飾的な語句。原則として現代語には訳さない。
問6 訳例=「(こんなにのどかな春の日に、)落ち着いた心もなく、どうして花は散っているのだろう。」(「らむ」は現在の事態の原因・理由を推量する現在推量で、「どうして〜ているのだろう」と訳す。)
問7 係りの助詞=「ぞ」。結び=「ける」(過去・詠嘆の助動詞「けり」の連体形)。係助詞「ぞ」を受けて、文末が連体形「ける」で結ばれている(係り結び)。
問8 訳例=「人は、さあ、(その)心はわからない(=昔のままかどうかわからない)。」(「いさ」=さあ(どうだか)、の意で、下に打消や不確実な表現を伴う。)
問9 小野小町(おののこまち)。六歌仙・三十六歌仙の一人で、『古今和歌集』を代表する女流歌人。
問10 訳例=「夢だと知っていたならば、(そのまま)目を覚まさなかったであろうに。」(「せば…まし」は事実に反することを仮定する反実仮想で、「もし〜だったら…だろうに」と訳す。)
問11 (1) 体言止め(たいげんどめ)。 (2) 三夕の歌(さんせきのうた)。西行「心なき…」・寂蓮「寂しさは…」・定家「見渡せば…」の、結句が「秋の夕暮れ」で結ばれる三首をいう。
問12 訳例=「(出家して)ものの情趣を解さないはずのこの身にも、しみじみとした情趣は自然と感じられることだなあ。」(「心なき身」=風流を解さない(はずの)我が身。出家者である自分をいう。「あはれ」=しみじみとした情趣。)
問13 三句切れ。第三句「知られけり」の「けり」(詠嘆)で意味がいったん切れ、そこで詠嘆が完結しているため。(前半で感動を述べ、後半「鴫立つ沢の秋の夕暮れ」で体言止めにより情景を提示する構成。)
問14 『源氏物語』。最終巻(第五十四帖)の巻名「夢浮橋(ゆめのうきはし)」を踏まえている。
問15 『万葉集』(まんようしゅう)。①山部赤人・②山上憶良・③柿本人麻呂は、いずれも『万葉集』を代表する歌人である。
問16 『古今和歌集』(こきんわかしゅう)。編者は紀貫之・紀友則・凡河内躬恒・壬生忠岑の四人で、このうち一人を挙げればよい(中心人物は紀貫之)。
問17 『新古今和歌集』(しんこきんわかしゅう)。
問18 イ(ますらをぶり)。『万葉集』の男性的で力強く素朴な歌風をいう。江戸時代の国学者賀茂真淵が唱えた語。
問19 たをやめぶり(手弱女振り)。『古今和歌集』以降の、女性的で優美・繊細な歌風をいう。
問20 ウ(幽玄)。『新古今和歌集』の理想とした、言葉に表れない奥深い情趣・余情の美をいう。
問21 本歌取り(ほんかどり)。有名な古歌(本歌)の語句や趣向を意図的に取り入れて作歌し、もとの歌の余情を重ね合わせて新たな情趣を生み出す技法。
問22 ア=『万葉集』 イ=『古今和歌集』 ウ=『新古今和歌集』。
問23 『万葉集』 → 『古今和歌集』 → 『新古今和歌集』(奈良時代 → 平安時代前期 → 鎌倉時代前期の順)。
問24 仮名序(かなじょ)。紀貫之が仮名で書いた『古今和歌集』の序文で、「やまと歌は、人の心を種として…」で始まる。(漢文で書かれた紀淑望の序は「真名序」という。)
※この問題は誰でも古典塾オリジナルです。和歌は古典作品(著作権の対象外)から正確に引用しています。
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