清少納言の機知がきらりと光る章段、それが枕草子『中納言参りたまひて』(通称「くらげの骨」)です。中納言隆家が「見たこともないすばらしい扇の骨だ」と自慢したのに対し、清少納言が「それでは扇の骨ではなく、くらげの骨でございましょう」と切り返す――骨のないくらげを持ち出したしゃれが、この段の山場です。定期テストでは、二方向の敬語(誰から誰への敬意か)、断定「なり」+伝聞推定「なり」の撥音便「ななり」、そして清少納言の返答に込められたおもしろさが頻出します。まずは本文を読んで設問に答え、最後の解答で確認しましょう。くわしい背景は 枕草子『中納言参りたまひて』のやさしい解説 もあわせてどうぞ。
本文(傍線①〜⑮)
中納言①参りたまひて、②御扇奉らせたまふに、「隆家こそ③いみじき骨は④得てはべれ。それを張らせて参らせむとするに、⑤おぼろけの紙は⑥え張るまじければ、求めはべるなり。」と⑦申したまふ。「いかやうにかある。」と⑧問ひきこえさせたまへば、「すべていみじうはべり。『⑨さらにまだ見ぬ骨のさまなり。』⑩となむ人々申す。まことにかばかりのは⑪見えざりつ。」と、言高く⑫のたまへば、「さては、扇のにはあらで、⑬くらげのななり。」と聞こゆれば、「これは隆家が言にしてむ。」とて、笑ひたまふ。
かやうのことこそは、⑭かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、「⑮一つな落としそ。」と言へば、いかがはせむ。
語注 中納言=藤原隆家。中宮定子の兄。 隆家=隆家自身の自称。 おぼろけなり=並一通りだ。 かばかり=これほどのもの。 かたはらいたし=きまりが悪い。 な〜そ=〜するな。
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設問
A 語句の意味
- ③「いみじき」(いみじ)の意味
- ⑤「おぼろけの」(おぼろけなり)の意味
- ⑨「さらにまだ見ぬ」の「さらに」の意味
- ⑭「かたはらいたき」(かたはらいたし)の意味
B 文法
- ④「得てはべれ」について、「こそ」があるため文末が「はべる」でなく「はべれ」になる。このきまりの名を漢字で答えよ
- ④「得てはべれ」の「はべり」の敬語の種類
- ⑥「え張るまじければ」の「え〜まじ」ははたらきは何か
- ⑩「となむ人々申す」の「なむ」の結びにあたる語を、本文中から抜き出せ
- ⑪「見えざりつ」の「ざり」「つ」の意味をそれぞれ答えよ
- ⑬「くらげのななり」の「ななり」を文法的に説明せよ(もとの形・「な」の助動詞名と活用形・下の「なり」の意味)
- ⑮「一つな落としそ」の「な〜そ」はどのような意味を表すか
C 敬語と主語
- ①「参りたまひて」について、「参り」の敬語の種類と誰への敬意か。またこの動作の主語は誰か
- ②「御扇奉らせたまふ」の「奉ら」「せたまふ」について、それぞれ種類と誰から誰への敬意かを答えよ
- ⑦「申したまふ」の「申し」「たまふ」について、それぞれ種類と誰から誰への敬意かを答えよ
- ⑫「のたまへ」(のたまふ)の敬語の種類と、この動作の主語は誰か
- ⑧「問ひきこえさせたまへば」の「きこえ」「させたまへ」について、それぞれ種類と誰から誰への敬意かを答えよ
D 口語訳
- ②「御扇奉らせたまふ」
- ④「得てはべれ」
- ⑤「おぼろけの」紙は⑥「え張るまじければ」
- ⑬「くらげのななり」
E 内容・記述
- ⑬「くらげのななり」で、清少納言が「くらげ」を持ち出したのはなぜか。くらげのからだの特徴と、中納言が自慢した「骨」とを結びつけて、四十字程度で書け。
- 「これは隆家が言にしてむ。」を現代語訳し、そこに表れた中納言の気持ちを簡潔に書け。
- 末尾の一文(かやうのことこそは〜いかがはせむ)を現代語訳せよ。
- この章段のおもしろさはどこにあるか。四十字以内で書け。
F 文学史
- 『枕草子』の(ア)作者名(イ)ジャンル(ウ)成立した時代を答えよ。
- 『枕草子』全体を貫くとされる美的理念を、ひらがな三字で答えよ。
- 『枕草子』とほぼ同じころに成立し、作者がともに一条天皇の后に仕えた長編物語がある。(ア)作品名(イ)作者名(ウ)その物語の美的理念を答えよ。
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解答と解説
▼ 解答・解説を見る
A 語句の意味
問1 はなはだしい。すばらしい
└ 程度が並々でない
問2 並一通りだ。ふつうだ
問3 (打消を伴って)まったく〜ない
└ 呼応の副詞
問4 きまりが悪い。みっともない
B 文法
問5 係り結び
└ 「こそ」+已然形
問6 丁寧語(補助動詞)
└ 〜ております・〜ます
問7 不可能(とても〜できない)
問8 申す
└ 「なむ」+連体形
問9 「ざり」=打消/「つ」=完了
問10 もとの形は「なるなり」。「な」は断定の助動詞「なり」の連体形「なる」が撥音便化して「ん」となり、その「ん」が表記されずに「な」となったもの。下の「なり」は伝聞推定の助動詞
└ 定期テスト最頻出
問11 禁止(〜するな・〜してくれるな)
C 敬語と主語
問12 「参り」=謙譲語、参上する先の中宮定子への敬意(作者→定子)。主語は中納言(藤原隆家)
問13 「奉ら」=謙譲語。作者→中宮定子(扇を受け取る側)。「せたまふ」=二重尊敬(最高敬語)。作者→中納言(差し上げる動作の主体)
問14 「申し」=謙譲語。作者→中宮定子。「たまふ」=尊敬語。作者→中納言
問15 尊敬語(「言ふ」の尊敬)。作者→中納言への敬意。主語は中納言
問16 「きこえ」=謙譲語。作者→中納言(尋ねられる側)。「させたまへ」=二重尊敬。作者→中宮定子(尋ねる動作の主体)
D 口語訳
問17 (中納言が中宮定子に)御扇を差し上げなさる。
問18 隆家はすばらしい骨を手に入れております。
問19 並一通りの紙ではとても張ることができないので
問20 くらげの(骨)でございましょう。
E 内容・記述
問21 くらげには骨がないので、「見たこともない骨」ならくらげの骨だろう、としゃれたから。(三十九字)
問22 訳=「これは隆家が言ったことにしてしまおう。」/うまい切り返しに感心し、自分の手柄にしたいと思うほど面白がる気持ち。
問23 このようなことは、きまりの悪いことの中に入れてしまうべきだけれど、「一つも書き落とすな」と(人が)言うので、どうしようもない。
問24 自慢に対し、骨のないくらげを持ち出して切り返した清少納言の機知。(三十字)
F 文学史
問25 (ア)清少納言(イ)随筆(ウ)平安時代(中期)
問26 をかし
└ 知的で明るい興趣
問27 (ア)源氏物語(イ)紫式部(ウ)もののあはれ
【テスト直前チェック】この三つ
❶二方向の敬語=一つの語の中に「謙譲+尊敬」が同居する。誰の動作かを先に決めると、向きは自動的に決まります。
❷「ななり」=断定「なり」の連体形「なる」→撥音便「なん」→「ん」を書かず「な」。下は伝聞推定。
❸くらげ=骨がない。この一点がしゃれの正体です。
現代語訳(全文)
中納言(隆家)が(中宮定子のもとに)参上なさって、御扇を差し上げなさるときに、「隆家はすばらしい骨を手に入れております。それに紙を張らせて差し上げようと思うのですが、並一通りの紙ではとても張ることができないので、(よい紙を)探しております。」と申し上げなさる。
(中宮定子が)「どのようなものか。」とお尋ね申し上げなさると、「すべてがすばらしゅうございます。『まったくまだ見たことのない骨のようすだ。』と人々が申します。本当にこれほどのものは見たことがありませんでした。」と、声高くおっしゃるので、(私は)「それでは、扇の骨ではなくて、くらげの骨でございましょう。」と申し上げたところ、(中納言は)「これは隆家が言ったことにしてしまおう。」とおっしゃって、お笑いになる。
このようなことは、きまりの悪いことの中に入れてしまうべきだけれど、「一つも書き落とすな。」と(人が)言うので、どうしようもない。
※この問題は誰でも古典塾のオリジナルです。本文は古典(著作権の対象外)から正確に引用しています。
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