清少納言の機知がきらりと光る章段、それが枕草子『中納言参りたまひて』(通称「くらげの骨」)です。中納言隆家が「見たこともないすばらしい扇の骨だ」と自慢したのに対し、清少納言が「それでは扇の骨ではなく、くらげの骨でございましょう」と切り返す――骨のないくらげを持ち出したしゃれが、この段の山場です。定期テストでは、二方向の敬語(誰から誰への敬意か)、断定「なり」+伝聞推定「なり」の撥音便「ななり」、そして清少納言の返答に込められたおもしろさが頻出します。まずは本文を読んで設問に答え、最後の解答で確認しましょう。くわしい背景は 枕草子『中納言参りたまひて』のやさしい解説 もあわせてどうぞ。
本文
中納言参りたまひて〔①〕、御扇奉らせたまふ〔②〕に、「隆家こそいみじき骨は得てはべれ〔③〕。それを張らせて参らせむとするに、おぼろけの紙はえ張るまじければ、求めはべるなり。」と申したまふ〔④〕。「いかやうにかある。」と問ひきこえさせたまへば〔⑤〕、「すべていみじうはべり。『さらにまだ見ぬ骨のさまなり〔⑥〕。』となむ人々申す。まことにかばかりのは見えざりつ。」と、言高くのたまへ〔⑦〕ば、「さては、扇のにはあらで、くらげのななり〔⑧〕。」と聞こゆれば、「これは隆家が言にしてむ。」とて、笑ひたまふ。
かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、「一つな落としそ。」と言へば、いかがはせむ。
設問
- 傍線部(1)「参りたまひて」について、(ア)「参り」の敬語の種類と誰への敬意か、(イ)この動作の主語は誰かを、それぞれ答えなさい。
- 傍線部(2)「御扇奉らせたまふ」を現代語訳しなさい。
- 傍線部(2)「御扇奉らせたまふ」の敬語について、次の小問に答えなさい。
- 「奉ら」の敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)を答えなさい。
- 「奉ら」は誰から誰への敬意か答えなさい。
- 「せたまふ」の敬語の種類を答え、これが誰から誰への敬意かを説明しなさい。
- 本文中の会話「隆家こそいみじき骨は得てはべれ」(傍線部(3))を現代語訳しなさい。「こそ〜はべれ」の結びと「はべり」の意味に注意すること。
- 本文中の係助詞「こそ」(「隆家こそいみじき骨は得てはべれ」)について、これによって文末が「はべる」ではなく「はべれ」になっている。このきまりを何というか、漢字で答えなさい。
- 次の本文中の語の意味を答えなさい。
- 「いみじき」(いみじ)
- 「おぼろけの」(おぼろけなり)
- 「かたはらいたき」(かたはらいたし)
- 本文中の「おぼろけの紙はえ張るまじければ」を現代語訳しなさい。「え〜まじ」のはたらきに注意すること。
- 傍線部(4)「申したまふ」を、敬語の意味がわかるように現代語訳しなさい。
- 傍線部(4)「申したまふ」には二方向の敬語が含まれている。次の小問に答えなさい。
- 「申し」の敬語の種類を答え、誰から誰への敬意かを説明しなさい。
- 「たまふ」の敬語の種類を答え、誰から誰への敬意かを説明しなさい。
- 傍線部(5)「問ひきこえさせたまへば」について、次の小問に答えなさい。
- 「きこえ」の敬語の種類を答え、誰から誰への敬意かを説明しなさい。
- 「させたまへ」の敬語の種類を答え、誰から誰への敬意かを説明しなさい。
- 傍線部(6)「さらにまだ見ぬ骨のさまなり」を現代語訳しなさい。「さらに」の意味に注意すること。
- 本文中の「となむ人々申す」の「なむ」は係助詞である。この「なむ」の結びにあたる語を本文中から抜き出しなさい。
- 傍線部(6)のあとの「まことにかばかりのは見えざりつ」の「ざり」「つ」について、それぞれの助動詞の意味(はたらき)を答えなさい。
- 傍線部(7)「言高くのたまへば」を現代語訳しなさい。「のたまふ」の敬語の意味を反映させること。
- 傍線部(8)「くらげのななり」の「ななり」を文法的に説明しなさい。次の小問に答えること。
- 「ななり」のもとの形(音便が起こる前の形)を答えなさい。
- 「な」のもとになっている助動詞の名称と、その活用形を答えなさい。
- 下の「なり」の助動詞の名称(意味)を答えなさい。
- どのような音便が、どのように表記された結果「ななり」になったのかを説明しなさい。
- 傍線部(8)「くらげのななり」を現代語訳しなさい。
- 清少納言が「くらげのななり」と返したのは、どのような機知(しゃれ)によるものか。中納言の発言を踏まえて、四十字程度で説明しなさい。
- 清少納言が中納言の自慢に対して「くらげ」を持ち出したのはなぜか。くらげのからだの特徴と、中納言が自慢した「骨」とを結びつけて説明しなさい。
- 清少納言の返答を聞いた中納言は「これは隆家が言にしてむ。」と言って笑った。この中納言の言葉を現代語訳し、そこに表れた中納言の気持ちを簡潔に説明しなさい。
- 本文末の一文「かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、『一つな落としそ。』と言へば、いかがはせむ。」を現代語訳しなさい。
- 「一つな落としそ」の「な〜そ」は、どのような意味を表す言い方か答えなさい。
- 【文学史】『枕草子』について、次の小問に答えなさい。
- (ア)作者名を答えなさい。
- (イ)ジャンル(文章の種類)を答えなさい。
- (ウ)成立した時代を答えなさい。
- 【文学史】『枕草子』全体を貫くとされる美的理念を表す語を、ひらがな三字で答えなさい。また、この章段のどのような点にその美的理念がよく表れているかを簡潔に説明しなさい。
- 【文学史】『枕草子』とほぼ同じころに成立し、作者がともに一条天皇の后に仕えた長編物語がある。その(ア)作品名と(イ)作者名を答えなさい。また、その物語に流れる美的理念を表す語を(ウ)答えなさい。
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問1 (ア)「参り」=謙譲語で、参上する先である中宮定子への敬意(作者→定子)。(イ)参上した(伺った)動作の主語は中納言(藤原隆家)です。「たまひ」は尊敬の補助動詞で、その中納言を高めています。
問2 「(中納言が中宮定子に)御扇を差し上げなさる」。「奉る」は「差し上げる」という謙譲の本動詞、「せたまふ」は二重尊敬(最高敬語)です。
問3 (1)「奉ら」=謙譲。(2)扇を受け取る側である中宮定子への敬意で、敬意の主は地の文を書く作者(清少納言)。つまり作者→定子。(3)「せたまふ」=尊敬の助動詞「す」+尊敬の補助動詞「たまふ」で二重尊敬(最高敬語)。扇を差し上げる動作の主体である中納言を高めており、作者→中納言の敬意。※「奉る」は定子へ、「せたまふ」は中納言へと、向きが二つある点に注意。
問4 「隆家はすばらしい骨を手に入れております」。「こそ」の結びで文末が已然形「はべれ」になっています。この「はべり」は丁寧の補助動詞で「〜ております・〜ます」の意。「いみじき」は「すばらしい」。
問5 係り結び(係結び)。係助詞「こそ」があると、文末が已然形(ここでは「はべれ」)で結ばれます。
問6 「いみじ」=はなはだしい・すばらしい(程度が並々でない)。「おぼろけなり」=並一通りだ・ふつうだ。「かたはらいたし」=(見聞きして)きまりが悪い・みっともない。
問7 「並一通りの紙ではとても張ることができないので」。「え〜まじ」で「とても〜できない」という不可能を表します。「おぼろけの」は「並一通りの・ふつうの」の意。
問8 「(中納言が中宮定子に)申し上げなさる」。「申す」は「言ふ」の謙譲語=「申し上げる」、「たまふ」は尊敬の補助動詞=「〜なさる」です。
問9 (1)「申し」=謙譲の本動詞「申す(=申し上げる)」。申し上げる相手の中宮定子への敬意で、作者→定子。(2)「たまふ」=尊敬の補助動詞。「申す」という動作をする中納言への敬意で、作者→中納言。これで「作者→定子(謙譲)」「作者→中納言(尊敬)」の二方向になります。
問10 (1)「きこえ」=謙譲の補助動詞「きこゆ」。「問ふ」相手である中納言への敬意で、作者→中納言。(2)「させたまへ」=尊敬の助動詞「さす」+尊敬の補助動詞「たまふ」で二重尊敬。「問ふ」動作の主体である中宮定子への敬意で、作者→定子。「定子が中納言にお尋ね申し上げなさると」という、定子を高めつつ中納言にも敬意を払う二方向の敬語です。
問11 「まったく今まで見たこともない骨の様子だ」。「さらに」は下に打消の語(ここでは「見ぬ」の「ぬ」)を伴って「まったく(〜ない)」と全部否定を表す呼応(こおう)の副詞です。
問12 結びの語は「申す」。係助詞「なむ」を受けて、文末(連体形)の「申す」で結ばれています。
問13 「ざり」=打消の助動詞「ず」で打消(〜ない)。「つ」=完了(強意)の助動詞。あわせて「(これほどの骨は)見えなかった」という意味になります。
問14 「声高く(大きな声で)おっしゃるので」。「のたまふ」は「言ふ」の尊敬語=「おっしゃる」です。
問15 (1)もとの形は「なるなり」。(2)「な」のもとは断定の助動詞「なり」で、活用形は連体形「なる」。(3)下の「なり」は伝聞・推定の助動詞。(4)「なるなり」の「る」が撥音便で「なんなり」となり、その撥音「ん」が表記されずに「ななり」となりました。
問16 「(それは扇の骨ではなく)くらげの(骨)であるようだ/であるそうだ」。伝聞・推定の「なり」なので「〜のようだ・〜だそうだ」と訳します。
問17 (例) 中納言が「誰も見たことのないほどすばらしい骨だ」と自慢したのを受け、骨のないくらげの骨だと返して、そんな骨はあり得ないとしゃれてみせた点。(四十字程度)
問18 くらげには骨がない。その「骨のないくらげ」をわざと持ち出して、「(見たこともない骨というなら、扇の骨ではなく)くらげの骨でしょう」と返すことで、中納言の大げさな骨自慢を、機知をきかせて軽くかわしたのです。
問19 訳:「これは(私=)隆家が言ったことにしてしまおう。」
気持ち:清少納言の当意即妙のしゃれにすっかり感心し、「うまいことを言うものだ、自分の手柄にしたいくらいだ」と感服している気持ち。だから怒らずに笑っているのです。
問20 (例) 「こういうことは、聞いていてきまりが悪いことの中に入れてしまうべきだけれど、『(自慢話でも)一つも書き落とすな』と(みんなが)言うので、どうしようもない(仕方がない)。」
「べけれ」は当然・適当の助動詞「べし」、「いかがはせむ」は「どうしようか、いやどうしようもない」の反語的な言い方です。
問21 「な〜そ」で「〜してくれるな・〜するな」という禁止(やわらかい禁止)を表します。「一つな落としそ」は「一つも書き落としてくれるな」の意。
問22 (ア)清少納言 (イ)随筆 (ウ)平安時代(中期)。一条天皇の中宮定子に仕えた女房が書いた作品です。
問23 美的理念=をかし。この章段では、中納言の自慢を「くらげの骨」と切り返す清少納言の知的で明るい機知のおもしろさに、「をかし」の美がよく表れています。
問24 (ア)源氏物語 (イ)紫式部 (ウ)あはれ(もののあはれ)。『枕草子』の「をかし」(知的なおもしろさ)と、『源氏物語』の「あはれ」(しみじみとした情趣)は、よく対比されます。
※この問題はオリジナル作成です(教科書・市販問題集の転載ではありません)。本文は古典原文(著作権の対象外)を用いています。
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