「管鮑(かんぽう)の交わり」は、友情を表す故事成語の代表格です。このページでは、確認テストと同じ本文を使って、白文・書き下し文・現代語訳・句法のポイントを10分で復習できます。
1. はじめに ― 「管鮑の交わり」とは
「管鮑の交わり」は、利害や損得を超えた、きわめて深い友情のたとえです。中国春秋時代の管仲(かんちゅう)と鮑叔牙(ほうしゅくが)の固い友情に由来し、出典は『史記』管晏(かんあん)列伝です。本文は、管仲が、不遇の時代も変わらず自分を理解し続けてくれた鮑叔について語る場面です。
2. 白文
管仲曰、
吾始困時、嘗與鮑叔賈。分財利、多自與。鮑叔不以我為貪、知我貧也。
吾嘗為鮑叔謀事、而更窮困。鮑叔不以我為愚、知時有利不利也。
吾嘗三仕、三見逐於君。鮑叔不以我為不肖、知我不遭時也。
生我者父母、知我者鮑子也。
3. 書き下し文
管仲曰はく、
「吾(われ)始め困(こん)せし時、嘗(かつ)て鮑叔(ほうしゅく)と賈(こ)せり。財利を分かつに、多く自ら与(あた)ふ。鮑叔我を以(もっ)て貪(たん)なりと為(な)さざるは、我が貧しきを知(し)ればなり。
吾嘗て鮑叔の為(ため)に事を謀(はか)りて、更(さら)に窮困(きゅうこん)す。鮑叔我を以て愚(ぐ)なりと為さざるは、時に利(り)有り不利(ふり)有るを知ればなり。
吾嘗て三たび仕(つか)へ、三たび君(きみ)に逐(お)はる。鮑叔我を以て不肖(ふしょう)なりと為さざるは、我が時に遭(あ)はざるを知ればなり。
我を生む者は父母、我を知る者は鮑子(ほうし)なり。」と。
4. 現代語訳
管仲は言った。
「私が昔、貧しくて生活に行きづまっていたころ、かつて鮑叔と商売をした。もうけを分けるとき、私は多くを自分の取り分とした。それでも鮑叔は、私を強欲だとは思わなかった。私が貧しいことをよく知っていたからである。
私はかつて鮑叔のために事を計画して、(失敗して)かえってますます行きづまり苦しんだ。それでも鮑叔は、私を愚かだとは思わなかった。時勢には有利な時と不利な時があることを知っていたからである。
私はかつて何度も仕官し、そのたびに主君に退けられて官職を追われた。それでも鮑叔は、私を無能だとは思わなかった。私がよい時機にめぐり合っていないことを知っていたからである。
私を生んでくれたのは父母であるが、私(の本当の値打ち)を理解してくれるのは鮑叔である。」と。
5. 句法・重要語のポイント
テストで狙われる句法
① 「者…也」=「(…する)者は…なり」
「生我者父母、知我者鮑子也」→「我を生む者は父母、我を知る者は鮑子なり」。「A者B也」の形で「AはBである」と、ものごとを取り立てて説明・断定する句法です。この一文は本文いちばんの名句で、書き下し・現代語訳・句法のどの形でも問われます。
② 受身「見〜於…」
「三見逐於君」→「三たび君に逐はる」。「主君に退けられた」という受身を表します。「三」は「三回」ではなく「何度も」の意味である点もあわせて頻出です。
③ 「以A為B」=「AをもってBと為す」
「不以我為貪」→「我を以て貪なりと為さず」=「私を強欲だとは思わなかった」。「AをBだと思う・みなす」の形が三回くり返されるのが、この文章の骨組みです。
覚えておきたい重要語
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 困(こん) | 生活に行きづまり苦しむこと |
| 賈す(こす) | 商売をする |
| 財利(ざいり) | 商売でもうけた利益 |
| 貪(たん) | 欲が深い、強欲なこと |
| 窮困(きゅうこん) | ますます行きづまり困ること |
| 不肖(ふしょう) | 才能がなく、おろかなこと |
| 遭はざる | (よい)時機にめぐり合わないこと |
| 鮑子(ほうし) | 鮑叔牙のこと。「子」は男子への敬称 |
6. 故事の意味と現代での使い方
鮑叔は、管仲の行動を表面だけで判断せず、その背後の事情や本当の値打ちまで察して理解する、心の広い思いやり深い人物として描かれています。だからこそ管仲は「我を生む者は父母、我を知る者は鮑子なり」と、最大級の感謝と信頼を語ったのです。ここから「管鮑の交わり」は、互いに深く理解し合う、きわめて親密な友情を表すようになりました。類義の故事成語に「刎頸(ふんけい)の交わり」があります。
・例文1:彼とは三十年来の管鮑の交わりで、損得抜きで何でも相談できる。
・例文2:あの二人の管鮑の交わりは、周囲がうらやむほどだ。
確認クイズ(3問)
Q1. もうけを多く取った管仲を、鮑叔が「強欲だ」と思わなかったのはなぜですか。
ア 管仲が貧しいことを知っていたから イ 自分のほうが多く取っていたから ウ もうけがごくわずかだったから
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正解:ア 解説:本文に「鮑叔我を以て貪なりと為さざるは、我が貧しきを知ればなり」とあります。事情を察して、相手の立場を思いやったのです。
Q2. 「我を知る者は鮑子なり」の「子」の意味はどれですか。
ア 子ども イ 男子への敬称 ウ 弟子
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正解:イ 解説:「子」は男子への敬称で、「鮑子」は鮑叔牙を敬って呼んだものです。
Q3. 「管鮑の交わり」と最も近い意味の故事成語はどれですか。
ア 漁夫の利 イ 蛇足 ウ 刎頸の交わり
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正解:ウ 解説:「刎頸の交わり」は、相手のためなら首をはねられても悔いないほどの固い友情の意味で、「管鮑の交わり」と同じく深い友情を表します。
まとめ
・「管鮑の交わり」=利害や損得を超えた、きわめて親密な友情。
・出典は『史記』管晏列伝(作者は司馬遷)。
・名句「我を生む者は父母、我を知る者は鮑子なり」と「者…也」の句法が最重要。
・受身「君に逐はる」、「以A為B(〜だと思う)」、「三=何度も」もあわせて押さえる。
・類義語は「刎頸の交わり」。
7. 背景を知るともっとわかる ― 管仲と鮑叔牙の生涯
この文章をより深く味わうには、二人がたどった人生を知っておくと役立ちます。管仲(管夷吾/かんいご)と鮑叔牙は、中国の春秋時代、斉(せい)という国に生きた人物です。若いころの二人は、ともに貧しく、商売をしたり仕事を計画したりして、苦労を重ねながら助け合っていました。本文で管仲が語っているのは、まさにこの「下積み時代」のエピソードです。
やがて斉の国でお家騒動(あとつぎ争い)が起こります。管仲は公子糾(こうしきゅう)に、鮑叔牙は公子小白(こうししょうはく)に、それぞれ別々の主君に仕えました。つまり二人は、敵味方に分かれて戦う立場になってしまったのです。争いに勝ったのは小白で、のちに名君として知られる斉の桓公(かんこう)です。敗れた公子糾は殺され、その家臣だった管仲も、本来なら処刑されるはずでした。
ところがここで鮑叔牙が動きます。鮑叔牙は桓公に「斉の国だけを治めるなら私で十分ですが、天下の覇者(はしゃ)になりたいのなら、どうしても管仲の力が必要です」と進言し、かつての敵であった管仲を宰相(さいしょう=政治のトップ)に推薦したのです。桓公はこれを受け入れ、管仲は大いに腕をふるって斉を強国へと導き、桓公を春秋時代の「覇者」に押し上げました。自分よりも友人の才能を上に置き、地位を譲った鮑叔牙の度量の大きさこそ、「管鮑の交わり」が美談として語り継がれる理由です。
こうした事情を知ると、本文の「我を生む者は父母、我を知る者は鮑子なり」という言葉の重みが、いっそう胸に迫ってきます。命を救われ、活躍の場まで用意してくれた友への、心からの感謝の言葉なのです。
8. 出典『史記』について
この話の出典は『史記(しき)』の「管晏列伝(かんあんれつでん)」です。『史記』は、前漢(ぜんかん)の歴史家司馬遷(しばせん)がまとめた、中国最初の本格的な通史(歴史書)です。伝説上の帝王の時代から司馬遷が生きた前漢の武帝のころまでを記しており、後世のあらゆる歴史書の手本となりました。
『史記』は人物の生き方を中心に歴史を描く「紀伝体(きでんたい)」という形式をとっています。とくに個人の伝記を集めた「列伝(れつでん)」の部分は、人間ドラマとして読んでもおもしろく、「管鮑の交わり」をはじめ、たくさんの故事成語の出どころになっています。古文・漢文の教材でよく目にする「四面楚歌」「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」「鶏口牛後」なども、『史記』に関わりの深い言葉です。出典を問う設問では、書名『史記』・作者司馬遷・体裁は紀伝体の三点をセットで覚えておくと安心です。
9. 文の組み立てをつかむ
この文章は、同じ形のかたまりが三回くり返される、とても整った構成になっています。三つの段落はどれも次の型でできています。
- 管仲の行動・できごと(多く取った/計画が失敗した/官職を追われた)
- 鮑叔はこう思わなかった(貪・愚・不肖だとは思わなかった)
- その理由(〜を知っていたからだ)
この「行動 → 評価しない → 理由」という三段のリズムをつかむと、長く見える本文も、実はシンプルな繰り返しでできていることがわかります。そして最後の一文「我を生む者は父母、我を知る者は鮑子なり」で、三回の繰り返しがすべて一つの結論(鮑叔こそ自分の真の理解者だ)に収れんしていく――この見事なまとめ方が、名文と呼ばれるゆえんです。読解問題で「筆者(管仲)が最も言いたいことはどこか」と問われたら、迷わずこの最後の一文を選びましょう。
10. つまずきやすいポイント
- 「三」を「三回」と訳してしまう…「三仕」「三見逐」の「三」は、具体的な回数ではなく「何度も・たびたび」という意味です。漢文では「三」「九」などの数字が「数が多いこと」を表すことがよくあります。
- 「賈」の読みと意味…ここでは「こ」と読み「商売をする」の意味です。「賈」は人名や「あきなう」など複数の読みがある字なので、文脈で判断します。
- 「不以我為貪」の否定の位置…「不」は「以〜為〜」の全体を打ち消しています。「私を貪だと思わ・なかった」とつなげて訳すのがコツで、「思った」と肯定で訳すと正反対の意味になってしまいます。
- 「窮困」と「困」の違い…どちらも行きづまり苦しむ意味ですが、「更(さら)に窮困す」は「いっそうひどく困った」と程度が強まっていることを訳に出すと、より正確です。
- 主語が省略されている…漢文は主語を省くことが多い言語です。「分財利、多自与」の主語は管仲、「不以我為貪」の主語は鮑叔、と入れ替わるので、誰の動作かを意識しながら読みましょう。
11. 入試・定期テストでの問われ方
この教材で実際に出題されやすいパターンを整理しておきます。出題者の「ねらい」を知っておくと、対策がしやすくなります。
- 書き下し文を答えさせる問題…とくに「生我者父母、知我者鮑子也」の書き下しは定番中の定番です。「者」は「は」と読み、文末の「也」は「なり」と読む点に注意。
- 受身を説明させる問題…「三見逐於君」がなぜ受身になるのかを、「見〜於…」の形から説明できるようにしておきましょう。
- 傍線部の現代語訳…「不以我為貪」など「以A為B」の否定形は、訳のニュアンスを正確に出せるかが採点ポイントです。
- 主題・心情を問う問題…「管仲が鮑叔に対して抱いている気持ちを答えよ」と問われたら、「深い感謝と信頼」が答えの軸になります。
- 故事成語の意味・類義語…「管鮑の交わり」の意味や、類義の「刎頸の交わり」を選ばせる問題もよく出ます。
12. ミニ練習問題(解答つき)
問1 「三見逐於君」を書き下し文にしなさい。
問2 「不以我為愚」を現代語訳しなさい。
問3 本文中で、管仲が「自分の本当の理解者だ」と述べているのは誰か。漢字で答えなさい。
問4 「生我者父母、知我者鮑子也」を現代語訳しなさい。
― 解答 ―
- 問1 三たび君に逐(お)はる。(何度も主君に退けられて、官職を追われた、という受身の意味。)
- 問2 (鮑叔は)私を愚かだとは思わなかった。
- 問3 鮑叔(鮑叔牙/鮑子)。本文末の「我を知る者は鮑子なり」がその根拠です。
- 問4 私を生んでくれたのは父母であるが、私(の本当の値打ち)を理解してくれるのは鮑叔である。
13. よくある質問(Q&A)
Q1.「管鮑」とは具体的に誰のことですか。
「管」は管仲、「鮑」は鮑叔牙を指します。二人の名字の一字ずつをとって「管鮑」と呼んでいます。
Q2.管仲と鮑叔牙は、どちらがえらい人だったのですか。
政治家として大きな業績を残したのは管仲ですが、その管仲を見いだし、自分より上の地位に推薦したのが鮑叔牙です。後世の人々は「管仲のような賢者よりも、それを見抜いて譲った鮑叔牙の人柄こそすばらしい」と評価することも多く、この話は鮑叔牙の度量の大きさをたたえる物語でもあります。
Q3.「管鮑の交わり」と「刎頸の交わり」はどう違うのですか。
どちらも「きわめて深い友情」を表す点では同じです。違いをあえて言えば、「管鮑の交わり」は相手を深く理解し合う友情に重点があり、「刎頸の交わり」は相手のためなら命も惜しまない固い絆に重点があります。出典も異なり、刎頸の交わりは廉頗(れんぱ)と藺相如(りんしょうじょ)の故事です。
Q4.現代の生活でどんなときに使えますか。
損得抜きで付き合える、お互いをよく分かり合った親友について語るときに使います。「彼とは管鮑の交わりだ」と言えば、長年の信頼で結ばれた深い友情を表現できます。


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