漢文「累加・抑揚・詠嘆」をやさしく解説|のみならず・況んや・かな

漢文 累加・抑揚・詠嘆 アイキャッチ 漢文

漢文の句法のなかでも、最後の仕上げにあたるのが累加(るいか)・抑揚(よくよう)・詠嘆(えいたん)の3つです。返読文字や再読文字、使役・受身・否定などの基本をひととおり学んだあとに出てくる、いわば「応用の句法」です。とはいえ難しく考える必要はありません。どれも決まった目印(句形)さえ覚えてしまえば、その場で意味を取れるようになります。共通テストや定期テストでは、書き下し文と現代語訳の両方がセットで問われやすいところなので、ここで一気に整理してしまいましょう。

生徒
生徒累加・抑揚・詠嘆って、名前からして難しそうです…。
先生
先生大丈夫。どれも決まった目印さえ覚えればその場で意味が取れる句法だよ。まずは全体像をつかもう。

ざっくり言うと、累加は「AだけでなくBも」、抑揚は「Aですら…なのだから、ましてBは」、詠嘆は「なんと…だなあ」という意味になります。3つとも、書き手が「言いたいことを強める」ための表現だと押さえておくと、訳がぶれません。まずは下の句法マップで全体像をつかんでください。

累加・抑揚・詠嘆の句法マップ 図解

累加(るいか)――「AだけでなくBも」

累加は、あることがら(A)に、もう一つのことがら(B)を「付け加える」言い方です。「ただAだけではなく、そのうえBも(また)」と、内容を積み増していくイメージで覚えましょう。「累」は「かさねる」、「加」は「くわえる」という字ですから、文字どおり意味を重ねて加える句法だと考えると忘れません。

目印になる句形は次のとおりです。上に「ただ…だけ」を打ち消す形を置き、下に「亦(また)」が呼応して出てくるのが基本の形です。

  • 不唯(ただ)A、亦(また)B … 唯だにAのみならず、亦たB(ただAだけでなく、Bもまた)
  • 非独(ひとり)A、B … 独りAのみに非ず、B(Aだけではない、Bも)
  • 非啻(ただ)A、亦B … 啻だにAのみに非ず、亦たB(ただAだけではなく、Bも)

ポイントは、上の「唯(ただ)…のみ」と、下の「亦」がペアになって「AだけでなくBも」を作ることです。「唯・独・啻」はどれも「ただ〜だけ」を表す字で、それを「不・非」で打ち消し、下の「亦」で別の要素を付け加える――この往復が累加の正体です。

先生
先生コツは、上の「唯・独・啻」を「不・非」で打ち消して、下の「亦」で受ける――この往復を探すこと。例文で確かめよう。
累加 のみならず亦 図解|不唯利己亦利人

例文1:不唯利己、亦利人。
→(書き下し)唯だに己を利するのみならず、亦た人を利す。
→(現代語訳)ただ自分の利益になるだけでなく、他人の利益にもなる。

例文2:非独賢者有是心也。
→(書き下し)独り賢者のみ是の心有るに非ざるなり。
→(現代語訳)賢い人だけがこの心を持っているのではない(誰もが持っているのだ)。
※『孟子』の有名な一節で、このあとに「人皆之を有す(人はみなこれを持っている)」と続きます。

例文3:非啻百倍、亦千倍。
→(書き下し)啻だに百倍のみに非ず、亦た千倍なり。
→(現代語訳)ただ百倍であるだけでなく、千倍でもある。
※「啻(ただ)」も「唯・独」と同じく「ただ〜だけ」を表す字です。読み方が問われやすいので、「啻だに…のみに非ず」の形で覚えておきましょう。

抑揚(よくよう)――「Aですら…、ましてBは」

抑揚は、程度の軽いことがら(A)を先に「ぐっと抑え」て言っておき、そのあとで本当に言いたい重いことがら(B)を「ぐっと揚げて」強調する言い方です。「程度の軽いAでさえこうなのだから、程度の重いBならなおさらだ」と、後ろのBを際立たせるのが目的です。「抑揚」という名前自体が、いったん抑えて(抑)から持ち上げる(揚)この流れを表しています。

目印になる句形は次のとおりです。

  • A 且(か)つ〜、況(いは)んや B をや … Aすら且つ〜、況んやBをや
  • A すら〜、況んや B をや … 「且つ」が省かれる形もある

すら」「況んや」「をや」がそろっていれば抑揚です。とくに文末の「をや」は抑揚の決め手になります。前半(A)はたいてい「軽い・身近な例」、後半(B)が「重い・本題」になっている、という内容上の対比も意識すると見抜きやすくなります。

生徒
生徒文末に「をや」があれば抑揚って覚えればいいんですね!
抑揚 すら況んやをや 図解|死且不畏況余

例文1:死且不畏、況其余乎。
→(書き下し)死すら且つ畏れず、況んや其の余をや。
→(現代語訳)死でさえ恐れないのだ、ましてそれ以外のことなど(恐れるはずがない)。

例文2:庸人尚羞之、況於将相乎。
→(書き下し)庸人すら尚ほ之を羞づ、況んや将相に於いてをや。
→(現代語訳)平凡な人でさえこれを恥じる、まして将軍や宰相ならなおさらだ。
※『史記』廉頗藺相如列伝(刎頸の交わり)に出てくる、抑揚の代表例です。

ここで気をつけたいのが「」です。抑揚の「且」は「〜さえ・すら」という意味で、「且つ(=そして)」と訳すと意味がずれてしまいます。「すら…をや」とセットで覚えるのが安全です。

詠嘆(えいたん)――「なんと…だなあ」

詠嘆は、書き手の感動・驚き・嘆きをそのまま言葉にした言い方です。日本語の「なんと…だなあ」「…ではないか」にあたります。感情がこもる場面で使われるので、訳すときも気持ちを込めると自然な日本語になります。

目印になる句形は次のとおりです。

  • 〜哉(かな) … 〜かな(なんと〜だなあ)
  • 豈(あ)に〜ずや … 豈に〜ずや(なんと〜ではないか)
  • 不亦(また)〜乎 … 亦た〜ずや(なんと〜ではないか)
詠嘆 哉かな 豈ずや 図解|賢哉回也

例文1:賢哉、回也。
→(書き下し)賢なるかな、回や。
→(現代語訳)なんと賢いことだ、顔回は。
※『論語』で孔子が弟子の顔回をほめた言葉です。「哉」が主語「回」より前に飛び出しているのが、強い感動を表すしるしです。

例文2:学而時習之、不亦説乎。
→(書き下し)学びて時に之を習ふ、亦た説(よろこ)ばしからずや。
→(現代語訳)学んでつねに復習する、なんとうれしいことではないか。
※同じく『論語』学而篇の冒頭。「不亦…乎」は詠嘆の定番表現です。

目印と意味(まとめ表)

句法目印
累加のみならず・亦AだけでなくBも
抑揚すら…況んや…をやAですら…、ましてB
詠嘆哉(かな)/豈…乎なんと…だなあ

例文で確認

  • 不唯利己、亦利人 → 唯だ己を利するのみならず、亦た人を利す (自分だけでなく人の利益にもなる)=累加
  • 死且不畏況余 → 死すら且つ畏れず、況んや其の余をや (死さえ恐れない、ましてその他は)=抑揚
  • 賢哉回也 → 賢なるかな、回や (賢いことだなあ、顔回は)=詠嘆

つまずきやすいポイント・入試での問われ方

先生
先生ここがミスの出やすいところ。「亦=再び」「且=かつ」と訳す癖がついていると引っかかるよ。
  • 累加の「亦」を「再び」と訳さない。 累加の「亦」は「〜もまた」の意味です。「もう一度」と取ると誤訳になります。
  • 抑揚の「且」を「かつ(=そして)」と訳さない。 抑揚では「〜さえ・すら」の意味。文末に「をや」があれば抑揚と判断しましょう。
  • 詠嘆の「哉」と疑問・反語を混同しない。 文脈が「感動」なら詠嘆、「問いかけ」なら疑問、「言うまでもなく〜だ」なら反語です。「豈…乎」は詠嘆にも反語にも使われるので、前後の内容で判断します。

テストでは「傍線部を書き下し文に直せ」「現代語訳せよ」「どの句法か答えよ」という形でまとめて問われます。目印(句形)を探す → 句法名を決める → 訳すの順で頭の中を動かすと、ミスが減ります。とくに記述式では、累加なら「だけでなく…も」、抑揚なら「ですら…、まして…は」、詠嘆なら「なんと…だなあ/ではないか」という決まり文句で訳すと、採点者に意図が伝わりやすくなります。

覚え方のポイント

累加抑揚詠嘆の覚え方のポイント 図解
  • 『のみならず…亦』を見たら累加。
  • 『すら』『況んや』『をや』がそろえば抑揚。
  • 『哉(かな)』『豈…ずや』は感動・詠嘆。

3つの句法は「目印の語」がはっきりしているので、その語さえ暗記すれば見分けは一瞬です。逆に言えば、目印を覚えていないとどれも同じに見えてしまいます。声に出して例文を読み、「のみならず…亦=累加」「すら…をや=抑揚」「かな・ずや=詠嘆」とリズムで覚えてしまいましょう。

ミニ練習問題(解答つき)

次の各文がどの句法か答え、現代語訳してみましょう。

  1. 非独賢者有是心也。
  2. 庸人尚羞之、況於将相乎。
  3. 不亦楽乎。
  4. 臣死且不避、卮酒安足辞。

解答:
1 累加。「独り賢者のみ是の心有るに非ざるなり」=賢者だけがこの心を持っているのではない(人はみな持っている)。
2 抑揚。「庸人すら尚ほ之を羞づ、況んや将相に於いてをや」=平凡な人でさえこれを恥じる、まして将軍や宰相ならなおさらだ。
3 詠嘆。「亦た楽しからずや」=なんと楽しいことではないか。
4 抑揚。「臣死すら且つ避けず、卮酒安くんぞ辞するに足らんや」=私は死でさえ避けないのだ、(ましてや)一杯の酒など断る理由がありましょうか。

4つとも「目印を見つける → 句法を決める → 訳す」の手順でスムーズに解けたでしょうか。迷ったら、もう一度上のまとめ表と図解に戻って確認してください。仕上げに、下のドリルで数をこなして定着させましょう。

先生
先生よくできた!目印さえ押さえれば失点しにくい分野だよ。あとは音読で体に入れていこう。

累加・抑揚・詠嘆は、覚える句形の数こそ少ないものの、訳し方に独特のクセがあるため、知らないとその場で固まってしまう句法です。逆に言えば、目印と訳のパターンを先に頭へ入れておけば、初見の文章でも落ち着いて対応できます。基本の句法(否定・使役・受身・疑問・反語)と合わせて学ぶと、漢文の読解スピードが一段上がります。まずは本記事の例文を何度も音読し、書き下し文を自分の手で書けるようにしておきましょう。

よくある質問

Q1:累加と抑揚は、どちらも前後にふたつの内容が出てきます。どう見分ければいいですか?
A:注目するのは文末です。文末(後半)に「をや」があり、前半に「すら・且つ」があれば抑揚です。いっぽう、後半に「亦(また)」が出てきて「〜も」と付け加えていれば累加です。「をや」で終わるか、「亦」で受けるか――この一点で大きく区別できます。

Q2:詠嘆の「豈…乎」と、反語の「豈…乎」はまったく同じ形に見えます。どう区別しますか?
A:形だけでは決まらないので、前後の内容(文脈)で判断します。書き手が感動・嘆きを述べている流れなら詠嘆(なんと〜ではないか)、相手をやりこめたり「そんなはずはない」と否定したい流れなら反語(どうして〜だろうか、いや〜ない)です。直前にある内容がプラスの感情かどうかを手がかりにしましょう。

Q3:これらの句法は、どれくらいの頻度で出ますか?
A:抑揚と詠嘆は、共通テストや国公立二次の漢文で傍線部の訳としてよく問われます。とくに抑揚は「をや」をうまく訳せるかどうかで差がつきます。累加はやや出題は少なめですが、書き下し問題で確実に得点したいところです。どれも目印が決まっているので、覚えてしまえば失点しにくい分野です。

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この記事を書いた人

中本 裕太(現役の古典講師)

国語科の教員免許を持つ現役の古典講師。個別指導塾フィット塾長。「誰でも古典塾」で古文・漢文の解説と約8,000問のドリルを無料公開しています。くわしいプロフィール

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