『無名抄(むみょうしょう)』の「おもて歌」は、高校古典の定期テストで毎年のようにねらわれる章段です。出るところははっきりしていて、①「詣づ」「聞こゆ」「思す」「思ひ給ふる」の敬語の種類と敬意の方向、②「うづら鳴くなり」の「なり」が断定か伝聞・推定かの識別、③かぎかっこが三重に入れ子になった会話文で、どのセリフが誰の言葉かを見分けること――この三つに答案の点数が集まります。
このページは、その三つをまとめて確かめるための問題集です。本文に傍線①〜⑮を引き、語句の意味と読み・文法・主語と敬意の方向・口語訳・記述・文学史の順に全28問。本番と同じ縦書きの問題編PDFと、短いヒントつきの解答編PDFを無料で印刷できます。まず何も見ずに解き、まちがえた設問と同じ番号の傍線を本文で読み直す。これがいちばん速い直し方です。
先に話の流れや現代語訳をつかみたい人は、おもて歌 現代語訳|無名抄の全文訳と重要語句へ。訳を頭に入れてから解くと、記述問題の答えが自分の言葉で書けるようになります。なお、同じ場面の別バージョンとして無名抄『深草の里』確認テスト(俊成自讃歌)もあります。このページが敬語と会話の主語を軸にしているのに対し、そちらは選択肢問題や和歌そのものの解釈を多めにした出題です。二度目の確認に使ってください。
本文(傍線①〜⑮)
俊恵(しゆんゑ)いはく、「五条三位入道(ごでうのさんみのにふだう)のもとに①詣(まう)でたりしついでに、『②御詠(ぎよえい)の中には、いづれをかすぐれたりと③思(おぼ)す。よその人さまざまに定め侍(はべ)れど、それをば用ゐ侍るべからず。まさしく承(うけたまは)らむ』と④聞こえしかば、
『夕されば野辺(のべ)の秋風身にしみて⑤うづら鳴くなり深草の里 これをなむ、身にとりてはおもて歌と⑥思ひ給(たま)ふる』と言はれしを、
俊恵又いはく、『⑦世にあまねく人の申し侍るは、「面影(おもかげ)に花の姿を先立てて幾重(いくへ)越え来(き)ぬ峰の白雲」、これをすぐれたるやうに申し侍るはいかに』と聞こゆ。『⑧いさ、よそにはさもや定め侍るらん。知り給へず。なほみづからは、先の歌には⑨言ひ比ぶべからず』とぞ。」
これを⑩うちうちに申ししは、「かの歌は、『身にしみて』といふ⑪腰(こし)の句いみじう⑫無念(むねん)におぼゆるなり。これほどになりぬる歌は、⑬景気(けいき)を言ひ流して、ただそらに身にしみけむかしと思はせたるこそ、⑭心にくくも優(いう)にも侍れ。いみじく言ひもてゆきて、歌の詮(せん)とすべきふしを、さはと言ひあらはしたれば、⑮むげにこと浅くなりぬる」とぞ。
さて、俊恵が自賛歌(じさんか)は、『み吉野の山かき曇り雪降れば麓(ふもと)の里はうち時雨(しぐれ)つつ これをなむ、かのたぐひにせむと思ひ給ふる。もし世の末に、おぼつかなく言ふ人もあらば、「かくこそ言ひしか」と語り給へ』とぞ。
語注 五条三位入道=藤原俊成(ふじわらのしゅんぜい)。当時の歌壇の第一人者。出家後の呼び名。 俊恵=鴨長明の和歌の師。 おもて歌=その歌人の代表作。人前に出せる看板の歌。 深草の里=京都・伏見のあたり。うづらの鳴く、もの寂しい里として歌によまれた。 面影に花の姿を先立てて…=世間で評判の高かった、俊成のもう一つの歌。 詮=眼目。いちばん肝心なところ。 さは=そうは。そのようにはっきりと。 自賛歌=自分でよい出来だと思っている自慢の歌。 み吉野=奈良県の吉野。雪の名所。 ※「これをうちうちに申しし」の相手は、この話を書きとめた鴨長明である。
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使い方のおすすめ。①まず何も見ずに解く → ②解答で答え合わせ → ③まちがえた設問の番号と同じ傍線を本文で探して読み直す。
設問
A 語句の意味と読み
- ①「詣(まう)でたりし」の「詣づ」は、どの動詞の敬語で、敬語の種類は何か。意味もあわせて書け。
- ②「御詠」の読みを現代仮名遣いで書け。また意味も書け。
- ⑦「世にあまねく」の「あまねし」の意味を書け。
- ⑩「うちうちに」の意味を書け。
- ⑫「無念(むねん)におぼゆるなり」の「無念なり」の意味を書け。
- ⑬「景気(けいき)を言ひ流して」の「言ひ流す」の意味を書け。
- ⑭「心にくくも優(いう)にも侍れ」の「心にくし」と「優なり」の意味をそれぞれ書け。
B 文法
- ③「思(おぼ)す」は、どの動詞の敬語か。敬語の種類と意味も書け。
- ④「聞こえしかば」の「しか」は何の助動詞の何形か。また「ば」が表す意味を書け。
- ⑤「うづら鳴くなり」の「なり」は何の助動詞か。そう判断できる理由も書け。
- ⑥「思ひ給(たま)ふる」の「給ふ」は何行何段活用か。四段の「給ふ」との違いも書け。
- ⑥「思ひ給(たま)ふる」が連体形になっているのはなぜか。理由を書け。
- ⑭「心にくくも優(いう)にも侍れ」の「侍れ」が已然形になっているのはなぜか。
C 主語・指す内容・敬意の方向
- ①「詣(まう)でたりし」の動作をしたのは誰か。また、この敬語は誰に対する敬意か。
- ④「聞こえしかば」の主語は誰か。また、誰から誰への敬意か。
- ⑧「いさ、よそにはさもや定め侍るらん」は誰の言葉か。
- ⑪「腰(こし)の句」とは和歌の第何句か。また、ここでは具体的にどの語句を指すか、本文から抜き出して書け。
D 口語訳
- ⑥を含む「これをなむ、身にとりてはおもて歌と思ひ給(たま)ふる」を口語訳せよ。
- ⑧「いさ、よそにはさもや定め侍るらん」を口語訳せよ。
- ⑬「景気(けいき)を言ひ流して」を口語訳せよ。
- ⑮「むげにこと浅くなりぬる」を口語訳せよ。
E 内容・記述
- ⑨「言ひ比ぶべからず」とあるが、俊成は世間で評判の「面影に…峰の白雲」の歌を、自分のおもて歌とくらべてどう考えているか。三十字以内で書け。
- ⑩「うちうちに」とあるが、俊恵はこの批評を誰に語ったのか。また、それは俊成に面と向かって言ったものか。本文の言葉をふまえて書け。
- ⑬「景気(けいき)を言ひ流して」とあるが、俊恵が自分のおもて歌として挙げた「み吉野の山かき曇り雪降れば麓の里はうち時雨つつ」は、この考えをどのように実現しているか。四十字以内で書け。
- ⑮「むげにこと浅くなりぬる」とあるが、俊恵は、俊成の歌のどの点が原因で趣が浅くなったと言っているか。「身にしみて」の語を使って三十字以内で書け。
F 文学史
- この文章の出典『無名抄』の作者名を書け。また、その人物が書いた有名な随筆の名も書け。
- 『無名抄』はどのような種類の書物か。またおおよその成立時代を書け。
- 本文の「五条三位入道」とはだれのことか。また、その人物が撰者をつとめた勅撰和歌集の名を書け。
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解答と解説
▼ 解答・解説を見る
A 語句の意味と読み
問1 「行く(来)」の謙譲語。参上する・お訪ねする、の意。
└ 目上の俊成のもとへ行く動作を、へりくだって言っている
問2 ぎょえい(本文のルビ「ぎよえい」を現代仮名遣いに直したもの)/(あなたが)お詠みになった歌。相手の歌を敬っていう語。
└ 「御」がついているので、俊成の歌を敬う言い方
問3 広く行き渡っている。すみずみまで及んでいる。(「世にあまねく」の形で「広く世間に」の意になる)
└ 「世にあまねく」で「広く世間に」
問4 内々に。こっそりと。人に知られないように。
└ 表立って言うのではない、という含み
問5 残念だ。もの足りない。心残りだ。
└ 現代語の「くやしい」より「残念だ」に近い
問6 さらりと言ってのける。言い切らずに軽く述べる。
└ 「流す」は、力を入れずさっと通すこと
問7 心にくし=奥ゆかしい。深みがあって上品だ/優なり=優美だ。上品で趣がある。
└ 「心にくし」は現代語の「憎らしい」ではない
B 文法
問8 「思ふ」の尊敬語。お思いになる、の意。
└ 俊恵が、目上である俊成の動作を高めている
問9 過去の助動詞「き」の已然形。已然形+「ば」で、順接の確定条件(〜たところ・〜ので)を表す。
└ 未然形+「ば」(もし〜ならば)との区別が頻出
問10 伝聞・推定の助動詞。終止形「鳴く」に接続し、鳴き声という聴覚が判断の根拠になっているから。断定の「なり」は体言・連体形に接続する。
└ 教科書により「推定」「伝聞推定」と呼び方が異なる。お使いの教科書の呼び方に合わせること
問11 ハ行下二段活用。四段の「給ふ」が尊敬(〜なさる)であるのに対し、下二段の「給ふ」は自分の動作にそえて「…ております」とへりくだる補助動詞である。
└ 敬語の種類は「謙譲」とする教科書と「丁寧」とする教科書がある。お使いの教科書の説明に合わせること
問12 上に係助詞「なむ」があり、その結びになっているから(係り結び)。
└ 「これをなむ…給ふる」で一組
問13 上の係助詞「こそ」を受けた結びだから(こそ→已然形)。
└ 「思はせたるこそ…侍れ」で一組
C 主語・指す内容・敬意の方向
問14 動作主=俊恵。敬意の対象=五条三位入道(藤原俊成)。
└ 謙譲語は、動作の受け手(行き先)を高める
問15 主語=俊恵。話し手である俊恵から、俊成への敬意。
└ 「聞こゆ」=「言ふ」の謙譲語=申し上げる
問16 五条三位入道(藤原俊成)。
└ 直前の俊恵の問いかけに答えている部分
問17 第三句/「身にしみて」。
└ 五・七・五・七・七の三句目
D 口語訳
問18 この歌を、自分にとっては代表歌(おもて歌)と思っております。
└ 「給ふる」は下二段=自分をへりくだる言い方。係助詞「なむ」の結びで連体形
問19 さあ、よそではそのように評しているのでしょうか。
└ 「いさ」=さあ(どうだか)/「や…らん(らむ)」=現在推量の疑問
問20 情景をさらりと言い流して(詠み流して)。
└ 「言ひ流す」=深く言い立てず、さらりと言う
問21 まったく情趣が浅くなってしまった。
└ 「むげに」=まったく・すっかり/「こと浅し」=趣が浅い
E 内容・記述
問22 面影の歌は深草の里の歌に及ばず、比べものにならない。(二十六字)
└ 「なほみづからは」=それでも自分としては、の意
問23 弟子の鴨長明に語った。俊成の面前で言ったのではなく、あとでこっそり語ったものである。
└ 俊成に面と向かって言った批判ではない、という点がよく問われる
問24 感動を言わず、山の雪と麓の時雨の情景だけを並べ、寂しさを言外に感じさせている。(三十九字)
└ 俊成歌の「身にしみて」にあたる直接表現がないことに注目
問25 歌の眼目である感動を「身にしみて」と直接言い表した点。(二十七字)
└ 「歌の詮とすべきふしを、さはと言ひあらはしたれば」が根拠
F 文学史
問26 鴨長明/『方丈記』
└ 本文を聞き書きしているのもこの人物
問27 歌論書(和歌についての評論や逸話を集めた書物)/鎌倉時代のはじめ
└ 歌の善し悪しを論じる本
問28 藤原俊成/『千載和歌集』
└ 子は『新古今和歌集』の撰者の一人、藤原定家
【テスト直前チェック】この三つ
❶「うづら鳴くなり」の「なり」は伝聞・推定。終止形「鳴く」に接続し、鳴き声という耳の証拠がある。体言・連体形につく断定の「なり」と区別する。
❷敬語は三点セット。「詣づ」「聞こゆ」=謙譲(俊恵から俊成へ)、「思す」=尊敬(俊成を高める)、「思ひ給ふる」=下二段で自分をへりくだる。上下がひっくり返らないように。
❸俊恵が批判したのは第三句「身にしみて」だけ。歌全体でも俊成その人でもない。しかも俊成の面前ではなく、あとで長明に内々に語った言葉である。
現代語訳(全文)
俊恵が言うことには、「五条三位入道(藤原俊成)のもとに参上した折に、『あなたがお詠みになった歌の中では、どれがすぐれているとお思いですか。世間の人はいろいろに評しておりますが、それは取り上げるつもりはございません。あなたご自身のお考えを、まさしくうかがいたい』と申し上げたところ、
(俊成は)『夕方になると、野辺を吹く秋風が身にしみて、うずらが鳴いているのが聞こえる、この深草の里では。――この歌を、自分にとっては代表歌(おもて歌)と思っております』とおっしゃったが、
俊恵がさらに言うことには、『世間で広く人が申しておりますのは、「面影に桜の花の姿を先に立てて思いうかべながら、いくつもの峰を越えて来たことだ、その峰の白雲よ」――この歌をすぐれていると申しておりますのは、いかがでしょうか』と(俊成に)申し上げた。(すると俊成は)『さあ、よそではそのように評しているのでしょうか。私は存じません。やはり自分としては、先の(深草の里の)歌とは言い比べることができません』とおっしゃった。」
(俊恵が)これについて、こっそりと(私=長明に)申したことには、「あの歌は、『身にしみて』という第三句が、たいそう残念に思われるのです。これほどまでにすぐれた歌になりますと、情景をさらりと詠み流して、ただそれとなく『身にしみたのだろうなあ』と読み手に思わせてこそ、奥ゆかしくも優美にも感じられるのです。たいへんうまく言い続けてきて、歌の眼目とすべき大事なところを、『それはこうだ』とはっきり言い表してしまったので、まったく情趣が浅くなってしまったのです」と(言った)。
そして、俊恵自身の自慢の歌(おもて歌)は、『吉野の山が一面に曇って雪が降ると、その麓の里では時雨がしきりに降っていることだ。――この歌を、あの(俊成のおもて歌のような)代表歌にしようと思っております。もし後の世に、(私の代表歌について)はっきりしないと言う人がいたら、「(俊恵は)こう言っていた」と語ってください』と、(私=長明に)語ったのである。
※この問題は誰でも古典塾のオリジナルです。本文は古典(著作権の対象外)から正確に引用しています。
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